第26回

=トミー・フラナガンを愛奏曲で偲ぶ

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2019年11月16日
トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月と、逝去した11月に開催する定例コンサートです。
曲目説明
Tamae Terai

本コンサートの3枚組CDをご希望の方はJazz Club OverSeasまでお申し込みください。
Performed by "The Mainstem" TRIO
Hisayuki Terai-piano, Zaikou Miyamoto -bass, Ippei Suga-drums



寺井尚之(p)

The Mainstem Trio :
 
宮本在浩(b)

菅一平 (ds) 


<第35回プログラム>

<1部>

1. Let's (Thad Jones)
2. Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
3. Rachel's Rondo (Tommy Flanagan)
4. Medley: Embraceable You (George Gershwin) - Quasimodo(Charlie Parker)
5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
6. Beats Up (Tommy Flanagan)
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gil Fuller, Dizzy Gillespie)


<2部>

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. Smooth as the Wind (Tadd Dameron)
3. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
4. Eclypso (Tommy Flanagan)
5. Good Morning Heartache (Ierne Higginbotham)
6. Mean Streets (Tommy Flanagan)
7. Easy Lving (Ralph Rainger)
8. Our Delight (Tadd Dameron)


Encore:
1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
2. Ellingtonia: Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
  Passion Flower (Billy Strayhorn)
  Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)
)


曲目解説

「演奏するからには、しっかり準備をして、そこに或る思いを込めたい。」- トミー・フラナガン
トリビュート・コンサートは、トミー・フラナガン物語、寺井尚之メインステムが心をこめて綴ります。

 
1st Set
1. Let's
  オープニング曲〈Let's〉は、トミー・フラナガンがデトロイト時代に大きな影響を受けたコルネット奏者、サド・ジョーンズの作品。初演は1957年の『The Magnificent Thad Jones Vol.3』(Blue Note)で、フラナガンも参加している。'90年代になるとフラナガンは自己トリオで頻繁に演奏するようになった。通常のAABA形式(32小節)に、あっと驚くファンファーレのようなインタールード(16小節)がついており、手に汗握るスリルと楽しさが味わえる。


2.Beyond the Blue Bird
   《Blue Bird》とは、20代のフラナガンが、上の〈Let's〉の作曲者でもあるサド・ジョーンズと共演していたデトロイトの黒人居住地にあったジャズ・クラブ《ブルーバード・イン》。
 そこはフラナガンにとって、ミュージシャンがやりたい音楽を演り、お客も店も応援してくれた夢のようなジャズ・クラブだった。
 少しブルージーで起伏に富んだ豊潤なメロディーは、フラナガンの音楽の旅路への回顧だ。
3.Rachel's Rondo
  フラナガンが長女のレイチェルに捧げた曲、レッド・ミッチェル(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)とのリーダー作『Super Session』(Enja ('80)に録音したが、ライブで余り演奏することはなかった。一方、寺井は、幅広いレンジと、父親譲りの大きな瞳を持つレイチェルの美貌をほうふつとさせる曲想が好きで、長年愛奏している。
4.メドレー: Embraceable You - Quasimodo

  ライブでのトミー・フラナガンは「メドレー」の達人だった。題材のチョイスも、繋ぎ方も、素晴らしく洗練されている。これは、チャーリー・パーカーが、醜いノートルダムの鐘つき男"カシモド"をタイトルにしたバップ・チューンと、"抱きしめたくなるほど素敵なあなた"というガーシュインの原曲という異例の組み合わせ。キーの変化によって、色彩を変幻させながら、パーカー・チューンのタイトル付けに音楽によって謎解きを施した奥深い演奏解釈。
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5. If You Could See Me Now


   この曲は、1946年、若手のホープだったサラ・ヴォーン(vo)のためにダメロンが書き下ろした名バラード。フラナガンはダメロンを愛奏する理由を「オーケストラのサウンドが内蔵されているので弾きやすいので。」と語り、1981年のサラ・ヴォーンとカウント・ベイシー楽団がリメイク録音した際のセカンド・リフを用いて、オーケストラ感をうまく表出している。
 フラナガン自身の録音が残っていないのは、寺井が師匠に先駆けて『Flanagania』にこの曲を収録したためで、現在も悔いが残る。
 
6.Beats Up
 
  当店の店名の元になったアルバム『Overseas』(Metronome '57)で印象に残るリズム・チェンジのリフ・チューン。この『Overseas』は、トミー・フラナガンがJ.J.ジョンソン・クインテットでのスウェーデン楽旅中、現地で録音したリーダー作だ。ストックホルムの録音スタジオは、浸水被害の後でひどい状態だったとフラナガンは言い、エルヴィン・ジョーンズは、差し入れのビールをたっぷり飲みながらのゴキゲンなセッションだったと回想している。40年後『Sea Changes』('97)に再録。


7. Dalarna

 6同様、この曲もまた『Overseas』に収録した初期のオリジナル。ビリー・ストレイホーンの影響が色濃く出た名曲。Dalarna(ダーラナ)は、森と湖が美しいスウェーデンのダーラナ地方のことだ。
 フラナガンは晩年の傑作アルバム『Sea Changes』で、寺井のアレンジを使い再演している。

 
8. Tin Tin Deo
  ディジー・ガレスピーが開拓したアフロ・キューバン・ジャズの代表曲で、キューバ出身のコンガ奏者、チャノ・ポゾの歌うメロディーを書きうつしたものだという。フラナガンはライブのラストに愛奏した。この曲のように、ビッグバンドの演目を、ピアノ・トリオでさらにダイナミックに表現するのがフラナガン・スタイルだ。

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 2nd Set 
 1.That Tired Routine Called Love

  バッパーの遊び心を刺激する、自然なメロディーと目まぐるしい転調の曲。作曲者マット・デニス(写真)は、ソングライターであり弾き語りの名手。J. J. ジョンソンはデニスのショウで共演した後、この曲をフラナガンとともに《First Place》に収録している。それから30年後、フラナガンは自己トリオで名盤《Jazz Poet》('89)に収録。録音後もライブで愛奏を続け、数年後には録音ヴァージョンを凌ぐアレンジとなる。寺井尚之はそのかたちをしっかり受け継ぎ、トリビュート・コンサートで演奏している
寺井は《Anatommy》('93)に収録。

 
 2. Smooth As the Wind

  後期タッド・ダメロン作品群の代表作。麻薬刑務所で書き下ろし、フラナガン参加のブルー・ミッチェルのリーダー作('61 Riverside 写真)のタイトル曲となった。
 転調とインタールードが絶妙に施され、美しい音の情景が風のように変遷していく。
 フラナガンが寺井にこの曲の弾き方を伝授したのは、台風が襲来した夜だった。「今夜の天気にぴったりな曲だ!」と澄ました顔で教えていたフラナガンの姿が今も心に残る。

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 3. Minor Mishap
   フラナガンが終生愛奏し続けたオリジナル、デトロイト・ハードバップ特有の疾走感が楽しめる。
初演はジョン・コルトレーンやケニー・バレルとの初リーダー作(写真) 『The Cats』(Prestige '57録音)。Minor Mishapは「小さな災難」という意味で、『The Cats』の録り直しがきかない低予算レコーディングでの失敗に由来したタイトルのように思われる。

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 4. Eclypso
   フラナガンのオリジナルの内で最も有名な曲。"Eclypso(エクリプソ)"は「Eclypse(日食、月食)」と「Calypso(カリプソ)」の合成語。フラナガンは『Overseas』('57 Metronome)で初演したが、録音地のスウェーデンに旅立つ直前、北米で月食があったという記録があるから、それが題名の由来かもしれない。
 '88年、フラナガンは寺井をNYに呼び寄せ、さまざまな人たちに紹介し、音楽を聴かせてくれた。数週間が経ち、帰国前夜、ヴィレッジ・ヴァンガードで寺井のために演奏してくれたのがこの曲。
 
 5. Good Morning Heartache (Irene Higginbotham)
  フラナガンのアイドルであり、音楽的に大きな影響をうけた不世出の歌手ビリー・ホリディ(写真)のヒット曲('46)。 トミー・フラナガンの歌心の秘密はここにあり、寺井もフラナガンに事あるごとに、ホリディを聴くように言われていた。それから30年経った寺井の演奏するホリディにも、ロマンチックで哀切な恋のエッセンスが宿る。
 
6. Mean Streets
  『Overseas』('57)で初演したときは、録音したスウェーデン・ツアーのスポンサー名だった"Verdandi"を曲名にし、エルヴィン・ジョーンズ(ds)をフィーチャー、そして'80年代終盤に、若くしてレギュラー抜擢されたケニー・ワシントン(ds)のフィーチュア・ナンバーとして改題され、名盤『Jazz Poet』(Timeless '89)に録音。

 トリビュートでは菅一平(ds)をフィーチャー。ダイナミックなドラム・ソロにキレの良さが増し強烈な印象を残した。
7. Easy Lving

  "恋に溺れると、生きてることが楽になる。私の人生はあなただけ…" ビリー・ホリディの名唱は、フラナガンを含めたジャズメンたちに大きな共感を呼んだ。
 2001年、フラナガンの訃報が届いた夜、寺井は涙でピアノの鍵盤を濡らしながらこの曲を弾いた。あれから18年、その哀しみは美しいピアノの響きに昇華されている。
 
8.Our Delight
 
 ダメロンがビバップ全盛時('40年代中盤)、ディジー・ガレスピー楽団用に作編曲した作品。フラナガンは、ピアノ、ベース、ドラムを交互にフィーチュアする秀逸なアレンジで、ビッグバンドに負けないダイナミズムを表出した。
 ビッグバンドの楽曲をピアノ・トリオでやってのけるというフラナガン・スタイルの典型で、ライブのラスト・チューンとして盛んに演奏していた。
 
 Encore
これがフラナガン的ブラック・ミュージックだ!
1. With Malice Towards None
  フラナガン&寺井に共通の十八番として、OverSeasで最も人気のある曲で、ジョージ・ムラーツとのデュオ名盤『バラッズ&ブルース』で初演。「With Malice Towards None(誰にも悪意を向けず)」というタイトルはエイブラハム・リンカーンの名言の引用で、メロディーは、讃美歌「主イエス我を愛す」を元にしている。
 作曲者トム・マッキントッシュは、フラナガンのアドバイスが盛り込まれていると語っている。そのせいか、マッキントッシュ自身やミルト・ジャクソンなど、多く残された録音の中でも、フラナガンのヴァージョンは、品格と感動を与えるという点で群を抜いている。
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2. Medley:Ellingtonia
  
 
  〈エリントニア〉は、デューク・エリントンとエリントン楽団の演目を意味する言葉。
 フラナガンがライブで演奏する〈エリントニア>メドレーは今も伝説となっている。
 そして、フラナガンが初めて《Overseas》でコンサートを行なった時('84)に演奏した長尺の〈エリントニア〉は、寺井の心に刻み込まれている。
 
 Chelsea Bridge 
  デューク・エリントンのパートナー、ビリー・ストレイホーンによる名曲であり、フラナガンは『Overseas』('57)、『Tokyo Ricital』('75)などに繰り返し録音した。晩年のフラナガンは「ビリー・ストレイホーン集」の録音企画を進めていたが、道半ばで亡くなってしまったことが残念でならない。
 
 Passion Flower 
 
   デューク・エリントンのパートナー、ビリー・ストレイホーンによる名曲。
 フラナガンは『Overseas』('57)、『Tokyo Ricital』('75)他に繰り返し録音した。
 そして、晩年「ビリー・ストレイホーン集」の録音企画を進めていた。道半ばで亡くなってしまったことが残念でならない。


 
  Black & Tan Fantasy 黒と茶の幻想/Duke Ellington
   晩年のフラナガンは、BeBop以前の楽曲を精力的に開拓していた。ひょっとしたら、自分のブラック・ミュージックの道筋を逆に辿ってみようと思っていたのかもしれない。その意味で、禁酒法時代、エリントン楽団初期の代表曲「ブラック&タン・ファンタジー」は非常に重要なナンバーだ。
 晩年のフラナガンがOverSeasを来訪したときに、寺井の演奏する「Black & Tan Fantasy」を聴いて絶賛してくれた思い出深い演目。 
 

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