Sir Roland Hanna サー・ローランド・ハナ piano 1932年生まれ。 トミー・フラナガン同様、デトロイトが生んだジャズの巨人の一人。 ジョージ・ムラーツとの名コンビやサド・メル・オーケストラ、 またソロピアノの名盤でも人気を博す。 卓抜したテクニックと強烈なスイング感、 デトロイト派ならではの気品は、 現在<ジャズ界最高の巨匠>の名にふさわしい。 |
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青森善雄(b) |
青森英明(as, ss, cl) |
クリス・ロゼリ(ds) |
曲目 2部 |
昨年の1月にはポール・ウエスト、エディ・ロックとのトリオで、また11月には中山英二(b)とのDUOと圧倒的なソロピアノでOverSeasに強烈な印象を残したハナさん。今回はクイーンズカレッジでの教え子、NY在住のベーシスト青森善雄&弱冠19歳のマルチリード奏者、青森英明(as ss cl)の父子と、ドラマーのクリス・ロゼリを伴ってのカルテットでした。OverSeasにとって、トミー・フラナガンがお父さんならハナさんは叔父さんも同然。当HP人気連載中、TAKAKOちゃんのNYレポートでも常にハナさんの活動をカヴァーしているように、高潔で気取らない人柄も手伝って、当店の常連さん達は皆ハナさんを敬愛し身内のように思っています。そんなアットホームな雰囲気が演奏にどういう影響を及ぼすかが興味深いところでもありました。 今回の青森親子とのグループの誕生のきっかけは、10数年前に渡米し、NYクイーンズカレッジでクラシック学部の首席ベース奏者を務めていた青森善雄さんに、ハナさんが白羽の矢を立て、ジャズの学部に呼び寄せて自ら指導、最初はクリス・ロゼリとトリオで1996年位から活動し、1997年に初来日しましたが、その後カレッジのコンサートで演奏していた息子の英明君の並々ならぬ才能にハナさんが耳を止めてスカウトし、カルテットになったという事で、1999年以降は毎年カルテットで来日しています。ハナさんは今年から来年にかけて更に数枚のレコーディングをこのメンバーで予定しているとのことです。
さて、1部1曲目はチャーリー・パーカーのバップチューン、「オーニソロジー」から。まずは青森英明君がテーマを取ります。ハナさんも卒業した名門ジュリアード音楽院に在学中で、数々の賞を総ナメにしている英明君のアルトサックスはきしみのない澄み切った明るい音です。初めて生で聴く青森善雄さんのベースは、電気っぽくないスモ―キーな音色、前回のハナさんの共演者でアクの強いベーシスト中山英二さんとは対極の第一印象でした。 プログラムはハナさんのオリジナルが続きます。もとはハナさんが青森善雄さんの為に書いたクラシック曲"Chant for Bass"のジャズヴァージョンとして善雄さんが編曲した作品『フォークソング』では、ベースのアルコがテーマを取るどこか懐かしいメロディに、英明君のクラリネットが絡みます。続いて、"Sonnet"。これもクラリネットで英明君がテーマを取ります。クリス・ロゼリは終始脇役に徹して出しゃばらず、手堅いサポートを見せます。そして"Echoes"とカルテットが快調に続いたところで英明君がバンドスタンドから離れました。 客席に「すわ!ソロか」と緊張が高まります。しんと静まり返った会場にクラシックの曲が流れ出しました。繰り返されるパターンは、チャイコフスキーの『白鳥の湖』かと思いましたが、終演後のハナさんによると、グリーグのペールギュント組曲からの「山の魔王の宮殿にて」であるとの事で、後から、デューク・エリントン楽団のヴァージョンを聴き直してみましたが、ハナさんはメロディをフェイクしていたようです。ここで、当店でのハナさんのコンサートではおなじみの“超常現象”が起きました。ピアノがみるみる1mほど伸びて、音がツーンと響き渡っています。会場全体が清涼感に満たされ、頭がすっきり冴え渡るような音です。あくまでバランスの取れた響き!ピアニッシモでも、一音一音の鮮明さは決して失われません。全く奇跡です。真後ろで鑑賞中の寺井尚之は、またまた手すりから落ちそうになっています。ピアノの後方1番テーブルの川端さんも思わず立ち上がってハナさんをうっとりと見つめています。いつのまにかグリーグのパターンは転調されてジョニー・マンデルの「いそしぎ」へと変っていました。トミー・フラナガン、ジョージ・シアリングにしても、ハナさんにしても、クラシックの素材を厭味なく、ごく自然にジャズに取り込んでしまいます。これはクラシックへのコンプレックスからは全く自由な、真のジャズミュージシャンだから出来る技でしょう。あっという間に終ってしまったハナさんのソロに感嘆のため息が客席から漏れ、カルテットで「チェロキー」を演って1部はゲームセット。 いつもどおり、お客さんがアンコールの拍手を始めると、奥に引っ込んだ青森さんが、「実はチェロキーがアンコール曲のつもりだったんですよねー」と申し訳なさそうに・・・。MC担当の寺井尚之が会場にそう説明すると、会場は大爆笑!まあ、シカタナイ。ハナさんも苦笑いでした。でも公演時間は1時間を廻っていました。 さて、満員御礼の今夜の客層の特徴はピアノ教室の生徒達が多いことと、入替制なのに何と約半数のお客様が、1部・2部通しで聴いてくれる事でした。休憩時間にハナさんが座席表を自らチェック、予想以上に通し客とピアノの生徒が多かったのに絶句。サインや記念写真を求めるファンや生徒さんに、疲れた顔も見せずに優しく応対していました。面白かったのはハナさんが、サインを求める女性全員に“君はヒサユキの生徒かね?”と尋ねていたことです。
さて、カウンターから10番テーブルまでぎっしりお客様で埋まったところで、定刻より5分遅れていよいよ2部が始まりました。私はいつも通り、一番奥のキッチン前からピアノの真後ろに移動。休憩時間に生徒の河原さんが、ハナさんに流暢な英語で質問していたのを受けて、演奏の前にハナさんからお客さん達へのレクチュアがあったのは異例でした。ジャズの巨人サー・ローランド・ハナのジャズ講座とはスゴイ!出来れば字幕を出したかったですが、講義の内容はざっと以下の通りです。 ハナさんは「皆さんにはおわかりにならないかも知れませんが、この寺井尚之が長年OverSeasを守り、音楽の為にしてきた努力がどんなに大変なものかを申し上げておきたいと思います」とまずはホロリとする褒め言葉を寺井に捧げてくれてから、「先ほど即興演奏についての質問を、若い女性から受けたので…」と始めました。「即興演奏とは、コミュニュケーションの手段であり、言葉を話す事と似ています。しかし、サウンドを使った『フィーリング』のコミニュケーションでは、言葉は不必要です。むしろ言葉では不可能な表現もサウンドによって可能になります。デューク・エリントンは3000曲の作品を残し、彼と同時代の人々の印象を描写した作品を多く作っています。エリントンは自分が見たり聞いたりした事から、素晴らしい作品を数多く作曲しました。つまり話す如く、音によってフィーリングを伝えるのが即興演奏です。次のはその好例です。」とピアノに向かい、単音でゆっくり"I'll Remember April"のメロディを弾きました。「この曲は皆さんもご存知でしょう?これを私がこんな風に変えたいなと思う、そんなフィーリングが即興演奏になる・・・それが曲になると、今度は何か名前をつけなければならない・・・それで私はこの曲に“Forget About April”と名付けました・・・」 こうして素晴らしいセカンドセットは"I'll Remember April"のコード進行を使った曲、"Forget About April"でスタートしました。アルトの英明君は近くで聴いても、本当にバランスの良い音色で、今の若手ジャズメンが多用する“手癖フレーズ”が皆無です。基礎テクニックがしっかりしているし、これからが本当に楽しみなマルチリード奏者です。続いてハナさんのソロが爆発!歌舞伎役者が花道を闊歩し、大見得を切るような、ハナさん節が続出して、私は思わず小躍り。青森善雄さんのスモーキーなベースは千両役者ハナさんの大技に寄り添うようにウォーキングし、ハナさんの指が鍵盤を竜巻のように旋回し、手品の様に鍵盤にない筈の音まで繰り出して見せると、英明君がかすかに微笑み、指でそっとフレーズをなぞる仕草をしていたのが、可愛かったです。 2曲目は寺井尚之の愛奏曲であることから、OverSeasではスタンダードナンバーとなっている名曲、"This Time It's Real"。ハナさんの友人で、恋多き女性フレンチホルン奏者が、新しい恋をした時に言った言葉を題名にしたという事ですが、歌詞がないのに、ことばが伝わって来る大変美しい曲です。英明君はクラリネットでテーマを取りましたが、"This Time It's Real(今度こそ本物の恋)"なんて歌うにはちょっと若すぎるかな?ハナさんのソロが余りにも切なく美しかったので、うっとりして拍手さえ忘れる程でした。 続く"Let Me Try"は前回のハナさんの共演者、中山英二氏が1987年にプロデュースしたリチャード・デイヴィス名義のアルバム、<ペルジア、マイ・ディア>(DIW)に収録されているオリジナル。ハナさんはハッとするようなきらびやかなイントロを繰り出し、英明君がソプラノに持ち替えてテーマを取りました。曲名の由来は、余りに難曲でNGばかり出してしまうので、「もう一回演らせて!(Let Me Try)」になったとのことですが、ここではテーマも難なくクリア。ハナさんのソロになるとスケール倍増で、これぞ即興演奏!とばかりに『言葉では不可能な表現』が満載されていました。パワーアップする圧倒的なピアノプレイに呆然とし、ふと見上げれば手すりにつかまりハナさんの指を覗き込む寺井尚之の鼻の穴が興奮の為全開となっておりました。 聴衆の興奮のほてりを冷ますかの様に、次の曲はクラシックの人気作曲家エリック・サティの作品、「ジムノペディNo.2」(青森善雄さんによると、“ジムノペディ”とは、古代ギリシャの祝祭で行われた、裸の若者達による合唱付きのダンスでだそうです。そういう絵の壷を見てサティが書いた曲だそうな)。ハナさんはカルテット用にアレンジしたスコアを見るために、眼鏡のレンズをタオルで丹念に拭いてから演奏。ベースとクラリネットの親子アンサンブルが美しい。ハナさん直系の弟子としてクラシック、ジャズ両方に精通する青森善雄さんのアルコがフィーチュアされ、程よくクールな仕上がりになりました。 最後はカルテットで青森善雄さんのリーダーアルバムのタイトル曲、"I Love Bebop"、クラシックからジャズの世界に入った青森親子のスローガンで大いに気勢が上がり、会場は総立ちで、カルテットの健闘と巨匠ハナさんへの敬愛を表す大きな拍手と歓声の渦となっています。 長年ハナさんを応援して来た、ANNさんや、ダラーナさん、児玉さん達、また比較的新しいけれど、強くハナさんにのめり込んでしまった管理人やピアノ教室の生徒さん達、素晴らしい演奏に触れた美しい顔、顔、顔に、疲れたハナさんも、再びアンコールを決意。曲は4曲目と同じエリック・サティの「ジムノペディNo.1」、サティの曲では一番ポピュラーな曲で、ジョージ・シアリングもあの羽の様なタッチでイントロ等にさりげなく使っていますが、ハナさんが「2001年のフィーリングで」とコールしたこのアンコール曲、実はカルテットで演奏したのは全く初めてだったそうです。どうりで青森善雄さんがベースの弓で英明さんをつついて指示していた訳です。なんとなく微笑ましかったあの光景も即興演奏のスリルでしょう。 終了後も皆さん非常になごやかで、お客さん達のエールにすっかりハッピーな様子。青森善雄さんの青年のような爽やかさと、ジュリアードのエリート学生にも拘らぬ英明君の控えめな態度、クリス・ロゼリさんの話し上手に私も感動しました。ハナさんも疲れているのに、マエストロとして、いかに上手なプレイヤーでも、個性を音楽に出す事がいかに難しいことかという、音楽の真髄をつく面白い話を色々してくれ、吉田シェフが用意したメインコース3種類を、全てご所望、すっかり平らげてからホテルに引き上げましたが、その後もメンバー達との楽しい会話が弾みました。 |
明日は<サー・ローランド・ハナ愛好会全体集会>です。 今夜はみなさん、しっかりハナさんのアルバムを聴いて(私は新譜の"Dream"よりも、つい"Round Midnight"やら"24 Preludes"に手が延びてしまうんですが・・・。寺井師匠から聞かされていた通り、T島Y国氏絶賛のヴィーナスの録音に品が無いのが気になります)、さらに下記のURLをクリックして復習&予習をしてください。 ↓昨年のハナさんのライブの模様はここをクリック
そういうわけで、下記のURLに今日の写真を一挙公開します。明日の熊本のライブを見に行かれる方で、ノートPCをお持ちの方は、よろしかったらハナさん達にこのページを見せてあげてもらえないでしょうか? ここ↓をクリックしてね。 先日のJAZZ講座でハナさんにひと耳ぼれ、きのうのLIVEでひとめぼれしました。ちょっと早めにお店に到着したら、リハーサルの最中。なんか得した気分です。リハを終えて後方のテーブルに戻ってこられるハナさんと目があうと「ハロゥ」(^^)。本番までキョロキョロしているときにも目があって、うんうんと満面の笑顔! ハナさんの手元はそんなに激しく動いているようには見えないのに、どうしてあんなにたくさん音が聞こえてくるんだろう...と素朴な疑問。ソロでの聴きなれたメロディーは Swan Lake?こんな風に変身してしまうんだなあとJAZZのおもしろさに感心。背後霊状態の寺井師匠のお姿も脳裏にやきついています。 1部終了後、思いきってハナさんのところへ。「ずっとあそこに座ってたの?」カウンター席もなかなかよいものですね!でっかいハナさんの手の感触を胸に、帰途につきました。おしまい。 PS.管理人さん、「ええもん」ホントにありがとうございました! 本日の演奏曲目 2nd Set 昨夜は、熊本のお客様の反応の薄さを批判するような書き込みをしてしまいましたが、最前列に陣取った私以外の、3人のおっそろしくストリートファッションの似合わない二十歳位のにいちゃん達は、拍手をするタイミングなど それから、青森さんは本当に素晴らしい人でした。休憩時間に色んなお話やアドバイスを頂きました。体調が悪く終演後すぐに失礼したのですが、できればまだ色んなお話を聴きたかったなぁ。 ハナさんとてもお疲れのようでした。熊本でツアーは最終日ということなので、無理せず疲れをとってまたいい演奏を聴かせて欲しいと思います。 それは、エリントンに限らないのだと思います。先日から掲示板で賑わいを見せているサー・ローランド・ハナさんも例外ではなく、ハナさんの人柄や演奏に触れ、ますます音楽はジャンル分けでは語られない壮大なものだと感じました。ジャズでもクラシックでも演歌でも、素晴らしい音楽は、どんな形式であれ人々を感動させるのではないか?と思うのですが、如何なものでしょうか? 95年ということはきっと、相当久しぶりのコンビ復活だったんでしょうが、やはり2人の息はぴったり、もうこの2人のデュオを生で聴くことはできないのでしょうか? >ジェブ・パットンはサイラス・チェストナットみたいな大デブではありません。 なんでも青森さんはジェブ・パットンととても仲が良いらしく、「おまけにジェブは独身だから余計びっくりしてさあ」とのことでした。竹田さんが見られたのは恋人ではないかと思われるのですが・・・。あとはお2人で解決してください。一度そちらで会われたら面白いと思います。 青森さん、今日送ったメールはもう見てくれましたか? |
本邦初公開 終演後、演奏者に食べてもらうディナーに付けるメニューカード (寺井珠重作) |