OverSeasは今年のライブ日程も残すところ後2日、皆様はいかがお過ごしですか?海外や温泉でゆっくり?それとも帰省の準備?私はまだまだ・・・ドタバタのうちに新年の営業が始まりそうです。
月: 2013年12月
寺井珠重の対訳ノート(40)ザ・クリスマス・ソング
あっという間に年の瀬です。Time waits for no oneと言いますが、この季節は、特に時間が速く過ぎ去るように感じます。子供のときは、大人達が「お寒うございますね。」なんて挨拶しているのが不思議で、楽しいだけの季節だったのに。”The Christmas Song”はそんな子供の心の歌。先月の「楽しいジャズ講座」では、1991年のコンコード・ジャズフェスティバルで作曲者メル・トーメが日本のファンの前で披露した素敵なヴァージョンを楽しみました。
<宗教のないクリスマス>
Mel Tormé (1925-1999) ”White Christmas”と共に、クリスマス・ソングの決定版と言える”The Christmas Song”、作曲は白人ジャズ・ヴォーカルの最高峰といえるメル・トーメ、当時作曲家としてのトーメとコンビを組み、後にTVプロデューサーとして大成功したロバート・ウエルズ。”ホワイト・クリスマス”のアービング・バーリンがそうであったように、二人ともユダヤ系アメリカ人の非クリスチャン、当然、この歌にはキリストも教会も出てこない。それが功を奏し、ナット・キング・コールの初演を皮切りに、日本を含め、世界中でヒットしました。メル・トーメ&ロバート・”ボブ”・ウエルズのコンビは200曲以上の作品がありますが、ジャズ・ファンの間で最も有名な曲に”Born to Be Blue”かな?
<それは暑さの憂さ晴らし>
”ザ・クリスマス・ソング”のトリビアとして最もよく知られているのは、この歌が真夏に作られたということです。「私の人生は、自分の声のように滑らかなではなかった・・・」という、メル・トーメの自伝『It Wasn’t ALL Velvet』は、私の知るジャズメンの生活とはあまりにもかけ離れた華やかなスターの告白という趣きですが、ここに”ザ・クリスマス・ソング”の誕生が詳しく書かれています。
しばらくするとウエルズがテニス用の短パンにTシャツ姿で、暑い、暑いと戻ってきた。
ウエルズが歌詞を紡ぎ、トーメがピアノで歌いながらメロディを付け、僅か45分で出来上がったのがこの曲。
冒頭フレーズの”Chestnuts…”のくだりは、殆どの訳詞で「暖炉で栗を焼く情景」になっているのですが、庶民の私の目に浮かんだのは、大阪、難波で売ってる天津甘栗屋。われながらお里が知れるなあ・・・と笑ったものの、 正解はウエルズが子供時代を過ごしたボストンの冬、クリスマス時分の街角に出る焼き栗の屋台のことだった・・・当たらずとも遠からず!
Robert Wells /Mel Torme (1946) |
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Chestnuts roasting on an open fire,
Jack Frost nipping at your nose. Yuletide carols being sung by a choir And folks dressed up like Eskimos. Everybody knows a turkey and some mistletoe Help to make the season bright. Tiny tots with their eyes all aglow Will find it hard to sleep tonight. They know that Santa’s on his way; He’s loaded lots of toys and goodies on his sleigh. And every mother’s child is gonna spy To see if reindeer really know how to fly. And so I’m offering this simple phrase To kids from one to ninety-two. Although it’s been said many times, many ways, “Merry Christmas to you.” |
火の上で焼き栗がパチパチ、 合唱隊が聖歌を歌う、 行き交う人はエスキモーみたいな格好だ。
みんな知ってる、 七面鳥とヤドリギが、この季節の彩り。 ちびっこ達の瞳が輝く、 今夜は眠れないよね。 だってサンタがやってくる! 子供たちは気合充分、 トナカイが本当に空を飛ぶのか 確かめてやるんだと。 だからここは、ごく簡単にご挨拶、 1才から92才までの、 子どもの心を持つ皆さんに。 |
<名手ナット・キング・コール、エイゴにつまづく!>
メル・トーメのマネージャー、カルロス・ガステルは、ペギー・リーやナット・キング・コールを抱える腕利きでした。出来上がった曲をガステルとナット・キング・コールに聞かせるとたちまち気に入った。翌1946年、真夏の8月にキング・コール・トリオで録音。Capitol Recordsはジャズのレコードとして企画したのですが、キング・コール側はこの出来が気に入らず、この歌にはストリングスが絶対に必要!絃を入れて最録音したいと強く主張、スッタモンダの末に、会社側が折れる形で、ヴァイオリン4本の小規模なストリングスで再レコーディングした。これがキング・コールにとって、初のw/ストリングスとなりました。これが大当たり!
キング・コールはピアニストとしてトミー・フラナガンに大きな影響を与えた名手ですが、その声は弦楽器とのブレンドで最高の魅力を発揮しますよね!たった45分で書いた曲はトーメとウエルズに莫大な印税をもたらすことに・・・。
さて、上の歌詞をご覧になって不思議に思われる方の注意力は凄い!サビの最後に出てくる「トナカイ=reindeer」は、サンタのソリを引くのだから4頭くらいは居るはずなのに単数形になっている。トナカイは英語の意味カテゴリーで「動物の群れ」であり、中学で習った「単複同形」。トナカイの個性は英語では認めてもらえないんだ・・・SheepやFish、それに我々Japaneseもこのカテゴリーに入ってるのがムカっとします(怒)。
というわけで、使い古された挨拶ではございますが、私も皆様にメリー・クリスマス!
寺井尚之トリオ、The Mainstem(宮本在浩、菅一平)のライブに、お祭り騒ぎはないけれど、心に残る季節の曲を聴かせてくれます。ぜひJazz Club OverSeasに!
第23回トリビュートCDできました。
毎年 Jazz Club OverSeasはトリビュートが終わって瞬きすると師走です。
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第23回トリビュート・コンサート曲目解説
11月16日に開催した「第23回 Tribute to Tommy Flanagan」コンサート、ご参加のお客様、たくさんの拍手、掛け声、笑顔、激励メール、差し入れ、お供え、ほんとうにたくさんの皆様にご協力をいただき、ありがとうございました。もうすぐ、コンサートの3枚組みCDが出来る予定ですので、OverSeasまでお申込みください。
私自身、今回のメインステムはかなりすごくて、長いOverSeasの片隅生活の中でも、思い出に残る演奏になりました。
寺井尚之は師匠のことですから、まあ当たり前ですが、宮本在浩(b)、菅一平(ds)の化けっぷりにぶっ飛んだ感じです。ジャズの歴史を色々調べていると、巨匠と呼ばれるミュージシャン達の芸術的な岐路というものは、何かを「得た」ときと同じくらい、何か大きなものを「失った」ときに訪れるのだということが判ります。
いずれにせよ、メインステムには、このレギュラー・トリオでしか出せないという強烈なメインステム・サウンド目指して化け続けて欲しいです。
トミー・フラナガンの名演目を演奏するトリビュート・コンサート、23回目を数え、毎回HPに曲説をUPしているのですが、回を重ねる毎に曲についての新しい事実も判明し、今回の曲説も限られたスペースですが、かなり改訂を加えました。
もしご興味があればぜひ読んでみてくださいね。
<第23回トリビュート・コンサート曲目説明>http://jazzclub-overseas.com/tribute_tommy_flanagan/tunes2013nov.html