第9回Tribute to Tommy Flanagan

<ENCORE>

これぞデトロイト・バップのブラック・ミュージックだ!

With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワード・ノン/ Tom McIntosh
 フラナガンが愛奏する作曲家、トム・マッキントッシュ(tb)の作品で、OverSeasでは最も人気のあるナンバー。賛美歌の「主イエス我を愛す」のメロディを基にした作品で、「誰にも悪意を向けず」と言う題名はエイブラハム・リンカーンの大統領就任演説の一節として、ワシントンDCにあるリンカーン記念館の壁面にレリーフ彫刻されている。
 OverSeasだけでなく、他の大阪の演奏地で、フラナガンがこの曲をコールすると、OverSeasの常連達から大歓声が巻き起こった。するとフラナガンは、少しだけ鼻を膨らませて、魂を揺さぶるような名演奏を披露したものだ。
 フラナガンは《Ballads & Blues》('75)はデュオで、《The Birthday Concert》('98)ではトリオ、フランク・モーガン名義の《You Must Believe In Spring》('92)にはソロで,参加盤として《Dusty Blue / Howard McGhee》《Vibrations/Milt Jackson》('60)(Mallets Towards Noneというタイトルで) に収録。寺井は《AnaTommy》('93)に収録。


Ellingtonia
エリントン・メドレー

1984年、OverSeasに於けるフラナガン・トリオ(アーサー・テイラー(ds)ジョージ・ムラーツ(b))の初コンサートで、寺井は初めてセロニアス・モンクとエリントンに捧げた2つのメドレーを聴き大きな衝撃を受ける。それは単に同じ作曲家の作品を順番に演奏するのでなく、作曲家達と作品に対する深い造詣と愛情、そしてそれを表現するテクニックを持つ者だけが創造できる壮大なスケールを持つ音楽作品だった。音楽史上燦然と輝くエリントン作品のメドレー、エリントニアは成熟したフラナガニアトリオが、皆さんに贈る大きな贈り物だ。

左から:デューク・エリントン、ビリー・ストレイホーン
All Too Soon オール・トゥ・スーン/Duke Ellington, Carl Sigman
 '40年にエリントン作品、愛する人との余りにも早い別れを惜しむ歌詞が付いた。
 生前フラナガンがズート・シムズ等、先立った親友の葬儀で、追悼演奏に選んだのがこの作品である。淡々としながら、抑えた哀しみがひしひしと伝わって来る傑作である。
 フラナガンは、ヤマハ自動ピアノ用ソフトのソロにメドレーで収録《Like Someone in Love》('90)
 

Chelsea Bridge チェルシーの橋/Billy Strayhorn
 フラナガンが《Overseas》('57)や、《Tokyo Ricital》('75)に録音している極めつけの名演目。ストレイホーンがホイッスラーの絵画に霊感を受け作曲したと言われている。ホイッスラーはヨーロッパ文化の影響を強く受けた世紀末の画家で、印象派的な作風はストレイホーンの音楽性と通じる。ロンドンのチェルシー地区とバターシー地区を繋ぐ「バターシー・ブリッジ」を描いた幻想的な作品が霊感の源であったのではないだろうか?橋下のテームズ河の流れと夜空、風の移り変わりを感じるサウンドは絵画同様、深く神秘的だ。
フラナガン参加の他名義のアルバムには《The Master》Pepper Adams('80)《Bennie Wallace》Bennie Wallace('98)があり、それ以外に上記のAll Too Soon同様、ヤマハの自動ピアノ用に録音したデューク・エリントンメドレーにも含まれている。


ホイッスラー筆(1872-77作)
「ノクターン:ブルー&ゴールド オールド・バターシーブリッジ」
Passion Flower パッション・フラワー/Billy Strayhorn
 内面に激しさを感じさせる神秘的なバラード、ストレイホーン作品には“花”に因んだものが多い。それは幼い頃に遊んだ祖母の家の美しい庭の記憶に起因していると伝えられる。パッション・フラワー('44作)は日本語ではトケイソウと言われ、一風変わった幾何学的な形から、欧米では磔刑のキリストに例えられる。ストレイホーン自身が最も愛奏した作品で、この花に自分自身の姿を見ていたのかもしれない。フラナガン・トリオではジョージ・ムラーツ在籍時代、弓の妙技を披露するナンバーとして毎夜必ず演奏された。ムラーツ自身、リーダーとしてMy Foolish Heart('95)に収録し、今年6月のOverSeasのライブでも、名演を聴かせた。
フラナガンは《Positive Intensity》('75)に収録。


2006年6月7日於OverSeas

Black & Tan Fantasy 黒と茶の幻想/Duke Ellington
 エリントン初期の作品でフラナガニアトリオの極めつけの演目。晩年のフラナガンは、ビバップ以前のナンバーを独自の演奏解釈で盛んに取り上げ、新境地を開拓中であった。これはその代表的なもので、プリミティブでブラックな魅力に溢れている。'27年作で'29年に短編映画化され大ヒットした。密かに心臓に動脈瘤を抱え、ステージで発作に襲われながら演奏した事もあるフラナガンがエンディングの葬送行進曲に入るの聴くと、いつも自分を引き合いに出しては笑い飛ばしていたトミー一流のブラックユーモアを痛いほど感じた。
 生前最後にフラナガンがOverSeasに演奏を聴きに来てくれた2000年5月に、寺井がエリントン楽団のアレンジをより多く取り入れた独自のヴァージョンを披露すると、滅多に褒めない師匠が、珍しくその出来を褒めてくれた。その半年後サー・ローランド・ハナも寺井のこの演奏を絶賛してくれたが、ハナさんもまたフラナガンの死後丸一年2002年に、癌の為にこの世を去った。

予告:第10回Tribute to Tommy Flanagan
2007年3月24日(土)
In Memory of Tommy Flanagan

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