第26回

=トミー・フラナガンを愛奏曲で偲ぶ

2015年3月28日
トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月と、逝去した11月に開催する定例コンサートです。
曲目説明
Tamae Terai

本コンサートの3枚組CDをご希望の方はJazz Club OverSeasまでお申し込みください。
Performed by "The Mainstem" TRIO


寺井尚之(p) 宮本在浩(b) 菅一平 (ds) 

Hisayuki Terai-piano, Zaikou Miyamoto -bass, Ippei Suga-drums
     


<第26回プログラム>


<1部>

1. Let's レッツ (Thad Jones)
2. Beyond the Blue Bird ビヨンド・ザ・ブルーバード (Tommy Flanagan)
3. Mean What You Say ミーン・ホワット・ユー・セイ (Thad Jones)
4. メドレー: Embraceable You エンブレイサブル・ユー (George Gershwin)
   〜 Quassimodoカジモド (Charlie Parker)
5. Sunset and the Mocking Bird サンセット&ザ・モッキンバード (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
6. Raincheck レインチェック(Billy Strayhorn)
7. Dalarna ダラーナ (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo ティン・ティン・デオ (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

<2部>

1. Eclypso エクリプソ (Tommy Flanagan)
2. They Say It's Spring ゼイ・セイ・イッツ・スプリング (Bob Haymes)
3. Rachel's Rondo レイチェルのロンド (Tommy Flanagan)
4. A Sleepin' Bee スリーピン・ビー (Harold Arlen )
5. Passion Flowerパッション・フラワー ( Billy Strayhorn)
6. Mean Streets ミーン・ストリーツ (Tommy Flanagan)
7. I'll Keep Loving You アイル・キープ・ラヴィング・ユー (Bud Powell)
8. Our Delight アワ・デライト (Tadd Dameron)

Encore: With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワーズ・ノン (Tom McIntosh)
      Like Old Times ライク・オールド・タイムズ (Thad Jones)


曲目解説

「演奏するからには、しっかり準備をして、そこに或る思いを込めたい。」とかつてトミー・フラナガンは語りました。
 今夜のトリビュートは、サド・ジョーンズ作品に始まり、サド・ジョーンズ作品で終わるというものでした。
トリビュート・コンサートは、トミー・フラナガン物語、寺井尚之メインステムが心をこめて綴ります。

1st Set
1. Let's

 今夜のトリビュートはフラナガンが自主制作したサド・ジョーンズ曲集(右写真)のオープニングで、スリル一杯の“Let's”から。
 作曲者はコルネット奏者としても、バンドリーダーとしても天才的な手腕を発揮したサド・ジョーンズ。ジョーンズの作品は一筋縄ではいかない難曲が多いために、沢山の演奏者に取り上げられるスタンダードは少ない。だがフラナガンは終生彼の作品を掘り下げた。

 「サド・ジョーンズ作品には強力なパワーを内蔵していて、演奏すると、自然にそのパワーが発散する。彼の作品を演奏できるならば、演奏者として順調な道を歩んでいる証だ。」トミー・フラナガン
 
 
2.Beyond the Blue Bird

 青年時代のフラナガンがサド・ジョーンズ(cor.tp)と共に、毎夜、デトロイトの黒人居住地で熱い演奏を繰り広げた場所《ブルーバード・イン》を偲んで作ったオリジナル。本曲は若き日へのノスタルジーに溢れている。
 生前のフラナガンは、《ブルーバード・イン》と《OverSeas》の雰囲気は、よく似ていると言ってくれた。
 デトロイトのお家芸である左手の“返し”が印象的、親しみやすいメロディでありながら、、転調が多く弾くのは大変むずかしい。寺井尚之はリリース前に、この曲を写譜して、演奏を許されたことを誇りにしている。
3. Mean What You Say

 ゆったりしながら、爽快なスピード感が味わえるサド・ジョーンズ作品で、サド・メルOrch.の十八番でもあった。’Mean what you say(ズバっと、相手に伝わるように言え!)’はジョーンズの口癖らしいが、デトロイト・ハードバップのモットーとも言えるだろう。
4.メドレー: Embraceable You - Quasimodo

 
ガーシュインの有名なバラード(抱きしめたくなるほど愛らしい君)、そのコード進行を基にして作ったバップ・チューンに、チャーリー・パーカーは「カジモド」という醜い「ノートルダムのせむし男」の名前を付けた。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたメドレーには、パーカーの真意を読み解いたフラナガンの深い洞察力が見える。 ライブで、フラナガンのメドレーは最高の聴きどころだったが、これは数あるメドレーの内でも白眉だった。残念なことにレコーディングは遺されておらず、トリビュート・コンサートでその素晴らしさを偲ぶしかない。関連ブログ


5. Sunset & the Mockingbird


  エリントン&ストレイホーン作品、エリントン・ミュージックはフラナガン終生の理想だった。この曲はフラナガン67才のバースデイ・コンサートのライブ盤(右写真)のタイトルになっている。エリントンの自伝『Music is my mistres』によれば、フロリダ半島をハリー・カーネイ(bs)運転の車で移動中、夕焼けの中で耳にした不思議な鳥の鳴き声に霊感を得て、瞬く間に書き上げた曲とある。後にエリントンは、この曲を含めた「女王組曲」を収録し、たった一枚プレスして英国のエリザベス女王に献上品とした。フラナガンは、FMラジオのジャズ番組のテーマ・ソングとして毎週流れるのを聴き覚え(!)レパートリーに加えたと言う。
 トリビュート・コンサートでは息を呑む寺井尚之のピアノタッチの至芸で。
 
6.Raincheck
 ビリー・ストレイホーンが第二次大戦中、カリフォルニアで作ったと言われている作品。雨雲を吹き飛ばすような颯爽とした雰囲気に溢れている。
  フラナガンは、ジョージ・ムラーツ(b)、ケニー・ワシントン(ds)との黄金トリオで、名盤『Jazz Poet』に収録している。スピード感と品格を併せ持つフラナガン流ヴァージョンで。
 
7. Dalarna

 “ダラーナ”は、『Overseas』を録音したスウェーデンの風光明媚な地域の名前を冠した初期のオリジナル。転調の奥義や印象派的な曲想に、心酔していたビリー・ストレイホーンの影響が垣間見える。
 『Overseas』以降、フラナガンが演奏することはほとんどなかったが、寺井尚之のアルバム『ダラーナ』('95)の演奏に触発され、寺井のアレンジを使って『Sea Changes』('96)に再収録した。

 
8. Tin Tin Deo

 フラナガンは、ビッグバンドの演目を、コンパクトなピアノ・トリオ編成でダイナミックに料理するのを得意にしていた。この曲は、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したブラック・ミュージックだ。
 ディジー・ガレスピー楽団がこの曲を初録音したのはデトロイトで、フラナガンの親友、ケニー・バレル(g)が参加した。フラナガンにはその当時の特別な思い出があったのかもしれない。
 現在は寺井尚之The Mainstemがそのアレンジをしっかりと受け継いでいる。
 関連ブログ


 2nd Set 
 1. Eclypso

 
フラナガン作品中、最も有名なのがこの曲かも知れない。『Overseas』('57)や『Eclypso』('75)を始め、フラナガンは繰り返し録音している。、"Eclypso"は「Eclypse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉の遊びが好きで、そんなウィットがプレイにも反映している。
  フラナガンが寺井尚之をNYに呼び寄せ、別れの夜にヴィレッジ・ヴァンガードで寺井のために演奏してくれた思い出の曲。

 
 2. They Say It's Spring

 フラナガンが“スプリング・ソングス”と呼び、春に愛奏した演目の一つ。
 作曲者、ボブ・ヘイムズは人気歌手ディック・ヘイムズの弟で、俳優、歌手、TV番組のホストとして人気を博した。
 この曲がヒットしたのは'50年代中盤で、歌っていたのはカリスマ的人気歌手ブロッサム・ディアリーだった。ディアリーは、J.J.ジョンソンのバンド仲間、ボビー・ジャスパー夫人であったことから、フラナガンはディアリーのライブをよく聴きに行き、この曲を覚えたそうだ。'70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に名演を遺している。 
 
  関連ブログ
 
 3. Rachel's Rondo

 最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げた作品。フラナガンは
『Super Session』('80)に収録したが、ライブでは余り演奏することはなかった。
 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』('94)に収録している。
 冴え渡るピアノのサウンドで、気品溢れる秀作。

 
 4. A Sleepin' Bee
 これも、春にNYでフラナガンがよく演奏したスプリング・ソング。Aペダルの軽快なヴァンプが春の浮き浮きした気分にぴったりだ。
 トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽のブロードウェイ・ミュージカル「A House of Flowers」で、主演女優ダイアン・キャロルが歌った。
「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にした可愛らしいラブ・ソング。 

関連ブログ
 
 
5.Passion Flower
 
フラナガンがジョージ・ムラーツ(b)の弓の妙技をフィーチュアして盛んに演奏したビリー・ストレイホーンの名曲。ムラーツはフラナガン・トリオを離れてからも、自分のグループで愛奏し続けている。
 パッション・フラワーはトケイソウのこと。ビリー・ストレイホーンは花を題材にした作品を好んで作っているが、その中でも、この曲を最も愛奏している。
 今夜は、宮本在浩が秀逸な演奏で大きな存在感を示した。
 
6. Mean Streets

  元々“Verdandi”という曲名で、エルヴィン・ジョーンズのドラムソロをフィーチュアし『Overseas』('57)に収録、20年後、レギュラー・ドラマーに抜擢したケニー・ワシントン(ds)のフィーチュア・ナンバーとして盛んにライブで演奏し、ケニーのニックネーム、“ミーンストリーツ”と改題し『Jazz Poet』に収録。
 トリビュートでは、菅一平(ds)が細部まで神経の行き届くダイナミックなドラムソロで、大きな成長ぶりを見せつけた。
 
 7. I'll Keep Loving You

   バド・パウエルが歌手の女友達の持ち歌に書き下ろしたとされる作品で、凛とした美しさがみなぎる硬派のバラード。フラナガンは、ビバップのアンソロジー集、『I Remember Bebop』('77)に収録。フラナガンを愛し続ける寺井尚之の心が溢れる名演となった。
 
  9.Our Delight
 
 ビバップの立役者の一人、ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロンの代表作。フラナガンはダメロン作品には「オーケストラの要素が内蔵されているので非常に演りやすい。」と言い、ライブを最高に盛り上げるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。
 
 
   
 Encore

1. With Malice Towards None

  フラナガンが、真の「ブラック・ミュージック」として愛奏したトム・マッキントッシュ初期の作品。
 「誰にも悪意を向けずに」という題名は、エイブラハム・リンカーンの名言で、メロディは賛美歌を基にしたスピリチュアルな曲。
 この曲が生まれた頃、マッキントッシュとフラナガンは住まいが近所で親しく行き来しており、フラナガンはこの曲の創作過程に立ち会って、自分のアイデアを盛り込んだ。そのせいか、様々な編成で多くの録音があるものの、フラナガンのスピリチュアルな演奏解釈が傑出している。その中でも最も心を打たれるのは、フランク・モーガン名義のアルバム『You Must Believw in Spring』に収められたソロピアノの演奏だ。
 
関連ブログ
 
2. Like Old Times 
 
 
フラナガンがアンコールで頻繁に演奏した作品。サド・ジョーンズ名義の『Motor City Scene』('59)に収録されている。「昔のように」は、デトロイトの《ブルーバード》のアフターアワーズの楽しさを指すのかもしれない。
 今夜のコンサートでは、昔のフラナガンのように、寺井が隠し持っていたホイッスルを、絶妙のタイミングで吹き鳴らし大喝采を浴び、文字通り「昔のように」楽しいアンコールになった。
 
 

トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:3枚組CDがあります。
OverSeasまでお問い合わせ下さい。

 Tribute to Tommy Flanaganのページへ戻る
TOPへ