翻訳ノート:ジョン・コルトレーン 『オファリング(魂の奉納)ライヴ・アット・テンプル大学』

33526.jpg  後期 ジョン・コルトレーンの最も濃密な演奏、40歳という早すぎる死の8ヶ月前、故郷フィラデルフィアで行ったコンサートの貴重な全貌を捉えた未発表音源、『オファリング(魂の奉納)ライヴ・アット・テンプル大学』の日本盤がリリースされます。(キングインターナショナルより7月21日発売予定)

 私が訳したのは、本作のプロデューサーであり、JAZZ歴史家としてNY大学で教鞭をとるジャーナリスト、アシュリー・カーン氏による骨太のライナー・ノートです。

 これまで音質の悪い海賊盤しかなく、多くのコルトレーン研究者が血眼で探すそのマスターテープを米国で発掘したトレジャー・ハンターはなんと大阪人!岩波新書「ジャズの殉教者」の著者として、コルトレーン書の金字塔『ザ・ジョン・コルトレーン・リファレンス』の研究チームの一員として多くの受賞歴を持つ藤岡靖洋氏でした。コルトレーン関係の史料を求め、年がら年中、和服で世界を飛び歩き、サンタナやハンコック、TSモンク達と太いパイプを持つ藤岡氏がかっ飛ばした満塁ホームラン。今回、日本語盤の監修にあたり、光栄なことに、ライナー・ノート翻訳のお声をかけていただき感謝。 

 これは、コルトレーンの実家からほど近くにある、全米有数の名門テンプル大学で学生が主催したカレッジ・コンサート、商業的な興行ではなかったため、PRが行き届かず「空席が多かった」というのが驚きです。地元パーカッション・グループを始め、外部ミュージシャンの飛び入りがあり、コルトレーンがホーンを置いて雄叫びを発するという異例なパフォーマンス、それらを、息子さんのラヴィ・コルトレーンや、共演ミュージシャン、客席に居合わせた人々に詳細な取材をしながら、コルトレーンの「真意」がどこにあったのかを解き明かし、音楽に対する情熱の炎を燃やし続けた巨匠の姿を浮き彫りにしていくドキュメンタリーになっています。 

  演奏や、時代についての考察も読み応えがありますが、感動的なのは、コルトレーンが若手、無名のミュージシャンにとても優しく接したという証言の数々で、10代のコルトレーンがフィラデルフィアに来たチャーリー・パーカーに、デトロイト時代のトミー・フラナガンがアート・テイタムに励まされたエピソードを彷彿とさせるものでした。ジャズにかぎらず、巨匠として、人間としてのあるべき姿なんですね。また、コルトレーンの崇拝者だった故マイケル・ブレッカーの高校時代、このコンサートを契機にミュージシャン人生を歩もうと決意したという証言も必読です。私の身近にいる寺井尚之も、大学時代に観たエラ・フィッツジェラルド+トミー・フラナガン3のコンサートが天啓となったわけで、とても共感しました。

 歴史的発掘音源のお供に、藤岡氏が書き下ろしたエネルギッシュな解説文と併せて、ぜひご一読を。

88a2efab.jpgチラシは藤岡氏のブログより

 

 

 

 

NYアンダーグラウンド・レジェンド、東出(あずま いづる)さんの思い出

 OverSeas創立35周年、ここまで支えて来て下さった新旧のお客様、本当にありがとうございます。思い起こせば、数えきれない出会いと別れがありました。

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旧店舗にて、東出(as)ピアノは寺井尚之(念のため)

 かつてインターネットもない時代、OverSeasに、東出(あずま いづる)さんというアルト奏者が出演していました。NYと日本を往来しながら活躍していたバッパーで、日米共通のあだ名は”Del /デル”さん。でも私たちは尊敬を込めて東さんと呼んでいた。目にも耳にも、正真正銘のバッパー!1958年頃の生まれだったと思います。現在OverSeasに出演しているアルト奏者、岩田江さんは一世代下の後輩で、20年以上前、OverSeasで東-岩田コンビを聴いたこともあります。岩田さんもすごいプレイヤーになったなあ!

 東さんは、いつもきれいに髪を撫で付け、細身の体にビシっと上等のスーツ姿でバンドスタンドに現れました。カットタイムで足カウントを取りながら、濃密で艶のある音色、疾走感いっぱいプレイは、バップの魔力が一杯で、Now’s the Time、Mama Duke、Donna Leeで激しくスイングするかと思えば、”アダルト・タイム~”なんて言ってからBody and Soulで泣かせた。スーツでプレイしていたのは、NYの長老ジャズマンに「バッパーはギグのときはネクタイしてきっちりした格好やないといかん!」と言われたからだそうです。

azumaSCN_0051.jpg 寺井尚之も東さんが大好き!だってバッパーだから!バップの言葉で音楽の会話ができるから。いつも共演するのを楽しみにしていました。その頃はバブル時代で東出(as)さんの出演日はいつも満員!

 日本でのホームグラウンドの京都では、市川修(p)さんと盛んに共演、数々の武勇伝が大阪まで聞こえてきて、とにかく伝説の多い人だった。

 高校中退でNYに飛び出したストリート・スマート、師匠は、”チャーリー・パーカーとオーネット・コールマンの接点”と言われたポスト・バップのアルト奏者、クラレンス”C”シャープ(Cシャープ)。その師匠は「セントラルパークに住んであるねん!」と言っていた。つまりホームレス。一流なのに、おそらくはクスリの問題もあって、アンダーグラウンドの伝説的ミュージシャンだった人。NYでは、フランク・ガント(ds)やフレディ・レッド(p)、ギル・コギンズ(p)、ジャズ通ならあっと驚くような渋いミュージシャンと共演してた。アート・ブレイキーの長女でヴォーカリストのイブリン・ブレイキーが来日公演中、わざわざ東さんを訪ねてOverSeasにやって来たこともあります。

 当然東さんはバイリンガルでしたが、「八百屋」を「野菜屋」と言ったり、日本語のほうが少したどたどしかった。でも噂によれば、お父さんは立派な学者さんらしい。とはいえ、気取ったところはなく、腰が低く、後輩に優しい。ちなみに、お兄さんは京都のTボーン・ウォーカーと言われる伝説のブルーズ・ギタリスト、ますます不思議な人だった。 7月にOverSeasにやって来る名ドラマー、田井中福司さんのNY仲間でもあります。

 どんなに貧乏していても良い音楽さえ出来れば幸せ!そんな彼にとって、日本のジャズ・シーンは少々窮屈なものだったのかも知れない。かぐや姫みたいに、長く日本にいると、元気がなくなるように見え、そうすつとNYに旅だった。そんな事が何度かあって、とうとう阪神淡路大震災の前日、東さんは家族を残しNYに・・・それっきり20年が経ちました。

 東さんのことを懐かしく思うのは私たちだけではなく、実際にNYまで探しに行った人がいた!

1619215_317237571734394_2314342218057315847_n.jpg左:東出さん、中央:写真提供感謝!DJ有田弘慶氏、右:unknown 

 
 関西でDJとして活躍している有田弘慶さんは何度か渡米して、二年越しで東さんを発見!東さんは、あれからずっとNYのディープな場所でセッションし、ストリートで演奏を続けていた!これまでの人生で、今が一番最高の音を出せるようになったと充実しているらしい。

その間に、私も東さんの近況をよく知る方と出会い、とても不思議なめぐり合わせを感じました。

 有田さんがFBにこの写真をアップした数日後、こんどは東さんの奥さんとお会いした!彼女はとても素敵なお顔で、素晴らしい人だった。なんかすごく懐かしく、親戚に出会えた気分になりました!あの頃幼子だった息子さんは、一流大学を卒業後、現在は大きな会社に勤務されていて、何度もNYで家族の再会をしていると伺い嬉しかった!

 この出会いをお膳立てしてくれたのが、東さんのお弟子さんのアルト奏者で時計修理のエキスパート。腕時計と心の時計を同時に修理してもらって感謝するのみです。

 東さんゆかりの方々は、彼がもうすぐ帰ってきそうな予感がすると言います。東さんがインターネットでこの記事を見ることはないでしょうが、もしも帰ってきたらまたOverSeasで寺井と一緒に共演してくれる日が来ますように!

*6/12 更新記録:東さんのご家族に頂いた情報を元に、フリガナ表記(あずま いずる いづる)など若干修正を加えました。東出さんのジャズライフについては、今後も書いていきたいと思います。

速報: 7/29(火) 田井中福司(ds) vs 寺井尚之(p)夢の共演!

lou-donaldson_10.pngGood News!

 来る7/29(火)、長年、NYのジャズ・シーンで傑出したバップ・ドラマーとして存在感を示す田井中福司と、寺井尚之(p)の共演が実現します。カミソリのように切れの良いドラムと、ソフトタッチで疾走する寺井が四つに組んだ強烈なハードバップ・セッション!これは絶対聴き逃せません。

 田井中福司さんは1954年滋賀県出身の関西人、1980年以降、しっかりNYジャズシーンに根を下ろし、チャーリー・パーカー直系の巨匠アルト、ルー・ドナルドソンから最も信頼されるレギュラー・ドラマーとして、「日本人ジャズマン」のラベルを超越し、長年に渡り米国、ヨーロッパ、日本と国際的に活躍しています。

<Musician’s Musician>

lou-tainaka.jpg 国内外のバップ系ミュージシャンが絶賛する田井中さんのドラミングは、大吟醸みたいにスッキリした味わいで、凄みだけでなく、思わずニンマリするユーモアもあります。寺井尚之の芸風と似ていますよね!

 メインステムのリズム・チーム、宮本在浩(b)、菅一平(ds)、ふたりとも田井中さんの大ファンで、ライブがあると必ず聴きに行って、勉強を重ねていました。2人の今があるのも、田井中さんから色々盗ませてもらったおかげと言えるかも知れません。

実は、今回のライブが実現したのも、宮本在浩の尽力のおかげなんです。

 前々から、メインステムの菅一平(ds)は、事あるごとに、「田井中さん、いっぺん聴いてみ。人生変わるで!」と啓蒙して回ってる。音楽を演っている人たちが田井中さんの良さを一番良く知ってる- いわゆるMusician’s Musician!

 私が評判に聞く田井中さんのドラムに初めて接したのは1991年、ルー・ドナルドソン4がOverSeasに来演した時です。勿論見た目は日本人なのに、出てくる音は紛れもなく洗練された黒いビートだったので、「こんな人がいるんや・・・」と、ただただ驚くばかりでした。その後、盲目の名ピアニスト、ハーマン・フォスター(p)3など、何度が来演してもらって、寺井も長年惚れ込んで、ずっと一緒にやりたかった人、今回の共演をとても楽しみにしています。

 これまで、日本でも沢山の一流ミュージシャンと様々なフォーマットで楽歴を重ねて来た田井中さんですが、OverSeasでは、寺井尚之(p)、宮本在浩(b)とピアノ・トリオでセッションを繰り広げます。

 絶対お聴き逃しなく!ご予約はお早めに。

私もすごく楽しみです! 

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  【寺井尚之(p)トリオ featuring 田井中福司(ds) Live at OverSeas】

日時:7/29 (火) 開場6pm Music 7pm-/ 8pm-/ 9pm (入れ替えなし:要予約)

Live Charge : 3,000yen (税抜)

 

GW35周年記念LIVEレポート

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 ゴールデン・ウィークはリラックス?静養?それともお仕事?皆様、いかがお過ごしでしたか?
 Jazz Club OverSeasは創立35周年を記念し、色々な趣向でライブ3連投、オフィス街の路地裏に、全国から新旧のお客様が演奏を聴きに来てくださいました。

 第一夜は、寺井尚之(p)メインステム・トリオ(宮本在浩 bass, 菅一平 drums)のスタンダード集!
 ”二人でお茶を“や”スターダスト“、寺井が超ブラックに魅せる圧巻”モーニン”など、通常のデトロイト・ハードバップとはガラリと違うスタンダード・オンリーのプログラム!美しいピアノ・タッチと、ザイコウ&イッペイ阿吽の呼吸のトリオ・プレイで、ひと味も二味も違ったスタンダードの夕べになりました。

 
 アンコールは当ブログで予告していたように、“As Time Goes By”に乗せて、ナット・キング・コールに始まり、ビリー・エクスタイン、若きビリー・ホリディ、晩年のホリディ、微妙なフレージングのアニタ・オディ、朗々たるトニー・ベネット、トミー・フラナガンとコラボしたエラ・フィッツジェラルドまで、ピアノで聴かせる声帯模写に、会場大爆笑!
 
 余りにウケたので、「ベースは宮本在浩、ドラムは菅一平、そしてピアノは桜井長一郎でした。」なんて自己紹介して超ゴキゲンでした。あれっ?桜井長一郎って知らない?若い皆さんは無理ないですよね。昭和の偉大なモノマネ芸人で、長谷川一夫や美空ひばりさんのモノマネを得意としていたレジェンドです。

 第二夜は、浪速のケニー・バレルという異名を持つバップ・ギタリスト、末宗俊郎とメインステムが繰り広げる最高にブルージーなジャズの世界。
ギタリストのお客様が沢山詰めかけて、末宗俊郎さんの持ち味であるスイング感のブルース・フィーリングが全開!
 ホスト役のメインステムと、寺井尚之の爆笑MCで、超絶技巧のギター・プレイが一層冴えました。

 セカンド・セットは”Four on Six” ”Road Song” ”Unit Seven”と、ウェス・モンゴメリーの名演目がズラリ!OverSeasは歓声に溢れました。ウェスの曲は下手に演ると目も当てられないほどダサいのですが、この夜のプレイの輝きは天からジャズの神様が微笑んでくれたみたい!

 あんまり楽しかったので、今も鼻歌でロード・ソングを歌いながら台所に立ってます。

 アンコールは、サド・ジョーンズの”Like Old Times”、学生時代から気心知れた寺井と末宗俊郎!やっぱデトロイト・ハードバップすきやねん!とばかりの名演になりました。(末宗俊郎さんと宮本在浩さんの演奏写真は、お客様のカツミ・イワタ氏撮影)

 第三夜は、本格派ビバップ・アルト奏者として寺井尚之が惚れこむ岩田江の出番。”Parker’s Mood”や”Begin the Biguine”といったバードゆかりの名曲が一杯!艷やかな岩田さんの音色で翼を得た感じ!関東から来てくれた若いミュージシャン達も真剣に耳を傾けてくれました。

 35周年のライブでは、懐かしい方々と思いがけない再会も多かった!旧店舗のおとなりにあった牛乳屋さんで家庭教師をしていた学生さんが、なんと30年ぶりに、ご家族で来てくださった!また以前は学割でよく聴きに来てくれた学生君たちが、立派な紳士になった今もジャズを愛し、お互い名刺交換していたり・・・

 長年経ってもジャズを楽しんでくださる姿を見ていると、オバンになるって、そんなに悪いことじゃないな・・・という気持ちになりました。
 
 お祝いのお花を下さったNさんご夫妻、3日通しの常連様、大学時代(!)のクラスメート、GWライブに来てくださった全ての皆様のおかげで沢山元気をいただくことができました!
 
 これからも、OverSeasが続けられますように、どうぞ応援宜しくお願い申し上げます。

 ありがとうございました!

 

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ピアノで奏でるジャズ・ヴォーカリスト達!

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皆様、大型連休いかがお過ごしですか?行楽地からのお便りや、E-mailの結びが《Happy Golden Week!》だったり、How Nice! OverSeasは5日まで毎日ライブ営業しますので、ぜひ遊びに来てください。
 連休中のライブ・スケジュールはこちらです。

 5月3日(土)は”The Mainstem Plays Standards”、昨日リハーサルを何気なく聞いていたら、寺井尚之(p)がどえらい事を演っていた!

 映画『カサブランカ』の主題歌、“As Time Goes By”で、名歌手達の声帯模写をピアノでやっちゃうんです。どうやら、先日TVで懐かしい大エンタテイナー、サミー・ディヴィスJr.が、伝家の宝刀、ジェリー・ルイスやキングコールの物真似やってるのが気に入って、密かに稽古したみたい・・・

 寺井のアイドルたち、ビリー・エクスタイン、ナット・キング・コール、トニー・ベネット、メル・トーメ、女性歌手ではカーメン・マクレエ、アニタ・オディ、ビリー・ホリディ、それにエラ・フィッツジェラルド・・・強烈なキャラクターをピアノで再現!繊細なタッチと「息」や「間」の取り方、フレージングで「あ~っ、似てる~!!」と爆笑!そんな芸を、私の知らないうちにいつの間にか会得していた・・・

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 以前、桂南光師匠が「ジャズ講座」を「文化漫談」と評してくださったことがありましたが、これも立派な「ピアノ演芸」だ!

 寺井尚之The Mainstem究極の声帯模写、乞うご期待!

5/3(土) 寺井尚之メインステム Plays Standard 7pm-/ 8pm- / 9pm- : Live Charge 2,500yen