後期 ジョン・コルトレーンの最も濃密な演奏、40歳という早すぎる死の8ヶ月前、故郷フィラデルフィアで行ったコンサートの貴重な全貌を捉えた未発表音源、『オファリング(魂の奉納)ライヴ・アット・テンプル大学』の日本盤がリリースされます。(キングインターナショナルより7月21日発売予定)
私が訳したのは、本作のプロデューサーであり、JAZZ歴史家としてNY大学で教鞭をとるジャーナリスト、アシュリー・カーン氏による骨太のライナー・ノートです。
これまで音質の悪い海賊盤しかなく、多くのコルトレーン研究者が血眼で探すそのマスターテープを米国で発掘したトレジャー・ハンターはなんと大阪人!岩波新書「ジャズの殉教者」の著者として、コルトレーン書の金字塔『ザ・ジョン・コルトレーン・リファレンス』の研究チームの一員として多くの受賞歴を持つ藤岡靖洋氏でした。コルトレーン関係の史料を求め、年がら年中、和服で世界を飛び歩き、サンタナやハンコック、TSモンク達と太いパイプを持つ藤岡氏がかっ飛ばした満塁ホームラン。今回、日本語盤の監修にあたり、光栄なことに、ライナー・ノート翻訳のお声をかけていただき感謝。
これは、コルトレーンの実家からほど近くにある、全米有数の名門テンプル大学で学生が主催したカレッジ・コンサート、商業的な興行ではなかったため、PRが行き届かず「空席が多かった」というのが驚きです。地元パーカッション・グループを始め、外部ミュージシャンの飛び入りがあり、コルトレーンがホーンを置いて雄叫びを発するという異例なパフォーマンス、それらを、息子さんのラヴィ・コルトレーンや、共演ミュージシャン、客席に居合わせた人々に詳細な取材をしながら、コルトレーンの「真意」がどこにあったのかを解き明かし、音楽に対する情熱の炎を燃やし続けた巨匠の姿を浮き彫りにしていくドキュメンタリーになっています。
演奏や、時代についての考察も読み応えがありますが、感動的なのは、コルトレーンが若手、無名のミュージシャンにとても優しく接したという証言の数々で、10代のコルトレーンがフィラデルフィアに来たチャーリー・パーカーに、デトロイト時代のトミー・フラナガンがアート・テイタムに励まされたエピソードを彷彿とさせるものでした。ジャズにかぎらず、巨匠として、人間としてのあるべき姿なんですね。また、コルトレーンの崇拝者だった故マイケル・ブレッカーの高校時代、このコンサートを契機にミュージシャン人生を歩もうと決意したという証言も必読です。私の身近にいる寺井尚之も、大学時代に観たエラ・フィッツジェラルド+トミー・フラナガン3のコンサートが天啓となったわけで、とても共感しました。
歴史的発掘音源のお供に、藤岡氏が書き下ろしたエネルギッシュな解説文と併せて、ぜひご一読を。
チラシは藤岡氏のブログより