第11回Tribute to Tommy Flanagan

<ENCORE>

これぞフラナガン・ミュージックだ!

Like Old Times ライク・オールド・タイムズ/ Thad Jones
  「昔のように」ちょっとノスタルジックな名前のサド・ジョーンズの作品、ジョーンズがデトロイト時代のアフターアワーズの熱い夜を思い出しながら作った曲なのだろうか?

 トミー・フラナガンのライブでは、最後のセットのアンコールとしてよく演奏された。フラナガンは、スペインで見つけたという細長いホイッスルをいつもポケットに忍ばせ、絶妙のタイミングで「ピューッ」と一声吹いてから、澄ました顔で強烈にスイングし続け、会場を喝采と笑いの渦に巻き込んだのが懐かしい。

 今夜寺井尚之も、同じホイッスルの一撃を放ち喝采を受けた。往年のフラナガンを知る人たちには、 これぞ正に、ライク・オールド・タイムズ!
 フラナガンは《Motor City Scenes》('59)サド・ジョーンズ名義に収録。寺井は《Flanaganiay》('94))に収録。

Ellingtonia エリントン・メドレー

 1984年、OverSeasに於けるフラナガン・トリオ(アーサー・テイラー(ds)ジョージ・ムラーツ(b))の初コンサートで、寺井は初めてセロニアス・モンクとエリントンに捧げた2つのメドレーを聴き大きな衝撃を受ける。それは単に同じ作曲家の作品を順番に演奏するのでなく、作曲家達と作品に対する深い造詣と愛情、そしてそれを表現するテクニックを持つ者だけが創造できる壮大なスケールを持つ音楽作品だった。音楽史上燦然と輝くエリントン作品のメドレー、エリントニアは成熟したフラナガニアトリオが、皆さんに贈る大きな贈り物だ。

左から:デューク・エリントン、ビリー・ストレイホーン

Come Sunday カムサンディ/Duke Ellington

 ブラック・ミュージックの真髄、魂の奥からふりしぼるような叫びや涙を、美しく結晶させた宝石のような名曲。聴くたびに深く心を打たれる。トリビュートの夜には一層ふさわしい。

 デューク・エリントンの1943年の作品で、後に組曲“ブラック・ブラウン&ベージュ”の中の一曲となった。「神の加護によって人生の苦難に乗り切り、神に召される安息の日を待ち望む。」と言う黒人霊歌で、マヘリア・ジャクソンの名唱によって有名になった

 フラナガンは《Moodsville9》('60)《100 Gold Fingers vol.2》('90)に収録。


デューク・エリントン
Passion Flower パッション・フラワー/Billy Strayhorn

 内面に激しさを感じさせる神秘的なバラード、エリントンの片腕と呼ばれるビリー・ストレイホーンの作品には“花”に因んだものが多い。
 それは幼い頃に遊んだ祖母の家の美しい庭の記憶に起因していると伝えられる。
 
 パッション・フラワー('44作)は日本語ではトケイソウと言われ、一風変わった幾何学的な形から、欧米では磔刑のキリストに例えられる。ストレイホーン自身が最も愛奏した作品で、この花に自分自身の姿を見ていたのかもしれない。

 フラナガン・トリオではジョージ・ムラーツ在籍時代、弓の妙技を披露するナンバーとして毎夜必ず演奏された。ムラーツ自身、リーダーとしてMy Foolish Heart('95)に収録し、先月10月24日のOverSeasのライブでも、名演を聴かせた。
フラナガンは《Positive Intensity》('75)に収録。

ジョージ・ムラーツ(b)
2007 年10月24日於OverSeas

Black & Tan Fantasy 黒と茶の幻想/Duke Ellington

 エリントン初期の作品でフラナガニアトリオの極めつけの演目。

 晩年のフラナガンは、ビバップ以前のナンバーを独自の演奏解釈で盛んに取り上げ、新境地を開拓中であった。これはその代表的なもので、プリミティブでブラックな魅力に溢れている。'27年作で'29年に短編映画化され大ヒットした。

 密かに心臓大動脈瘤を抱え、ステージで発作に襲われながら演奏した事もあるフラナガンがエンディングの葬送行進曲に入るの聴くと、いつも自分を引き合いに出しては笑い飛ばしていたトミー一流のブラックユーモアを痛いほど感じた。

 生前最後にフラナガンが寺井尚之の演奏を聴きに来てくれた2000年5月に、エリントン楽団のアレンジをフラナガンよりも多く取り入れた独自のヴァージョンを披露すると、滅多に褒めない師匠が、珍しくその出来を褒めてくれた。その半年後サー・ローランド・ハナも寺井のこの演奏を絶賛してくれたが、ハナさんもまたフラナガンの死後丸一年2002年に、癌の為にこの世を去った。

予告:第12回Tribute to Tommy Flanagan
2008年3月
In Memory of Tommy Flanagan

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