今週のご案内:「トミー・フラナガンの足跡を辿る」4/12(土)に

『Good Old Broadway/ Coleman Hawkins』足跡講座で解説。

4/7(月)寺井尚之ジャズピアノ&理論教室

4/8(火)寺井尚之(p)+倉橋幸久(b)デュオ  Live Charge 2200 *Music 7pm-/ 8pm- /Closed 9pm(入替なし)

4/9(水)寺井尚之(p)+東ともみ(b)デュオ Live Charge 2200 Music 7pm-/8pm- /Closed 9pm(入替なし)

4/10(木)寺井尚之ジャズピアノ&理論教室

4/11(金)荒崎英一郎(ts)トリオ w/寺井尚之(p)、橋本洋佑(b) Live Charge 2530 *Music 7pm-/ 8pm-/ 9pm-(入替なし)

4/12(土)「トミー・フラナガンの足跡を辿る」6:30pm開講 参加料2750
解説アルバム: 『Good Old Broadway / Coleman Hawkins』『Ray Brown All Star Big Band』他

第46回Tribute to Tommy FlanaganのCDができました。

先日開催した第46回トミー・フラナガン追悼コンサートのCDができました。

 演奏:寺井尚之(p)+宮本在浩(b)デュオ

CD3枚組は当店までお申し込みください。

収録曲はこちら

曲目解説はこちら

第46回Tribute to Tommy Flanagan 曲目解説

English Program Note is here

コンサート風景 演奏:寺井尚之(p)、宮本在浩(b)

トミー・フラナガン没後24年、OverSeasで誕生月と逝去月に開催する46回目のトリビュート・コンサートを3月15日に開催しました。
 フラナガンの名演目を選りすぐってお聴きいただくトリビュート・コンサート、今回はフラナガンが生涯愛奏しつづけ、自費で『Let’s (Play the Music of Thad Jones)』という作品集を録音しているサド・ジョーンズの作品にスポットを当てたコンサートになりました。
 演奏は、おなじみフラナガン唯一の弟子、寺井尚之(p)と25年来のパートナー、宮本在浩(b)とのデュオ。

 今回も各地から駆けつけた満員のフラナガン・ファンの皆様とトリビュート・コンサートを楽しむことができました。


1st Set

1. 50-21 (Thad Jones)

Thad Jones(1923-86)

 オープニングは、フラナガンが大きな影響を受けたコルネット奏者、作編曲家、サド・ジョーンズ(写真左)のオリジナル。デトロイト・ハードバップ誕生の地であるデトロイトの黒人居住地にあったジャズクラブ《ブルーバード・イン》に因んだ曲。50-21はクラブの番地(5021 Tireman Ave. Detroit)だ。フラナガンとジョーンズは、このクラブのハウスバンドとして活動(1953~54年)、その時期に演奏した多くのサド・ジョーンズ作品は、フラナガン終生の愛奏曲になる。コンサートの客席には、愛車ナンバーが“5021”の常連様が2名もおられるのが誇らしい。
 フラナガンはアルバム《Comfirmation》 (Enja ’77) 、《Beyond the Blue Bird》 (Timeless, ’90) 、寺井尚之は《Fragrant Times》 (Flanagania ’97)に収録。

Beyond the bluebird

2, Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
ビヨンド・ザ・ブルーバード:フラナガンが《ブルーバード・イン》へのノスタルジーを込めて作った作品で、同じくデトロイトの盟友ギタリスト、ケニー・バレルをゲストに迎えたリーダー作(’90)のタイトル曲とした。
 アルバムのリリース前、フラナガンはNYで寺井尚之にこの譜面を写譜させ、彼に演奏することを許した。めまぐるしい転調によって曲に品格と深みを出す典型的なフラナガン・ミュージックだ。

3. Medley: Embraceable You (George Gershwin) – Quasimodo (Charlie Parker) 

Charlie Parker(1920-55)

メドレー エンブレイサブル・ユー~カジモド:生前のフラナガンはライヴで数多くのメドレーを演奏したが、録音が残っているのはごく一部だ。これは、ガーシュインの「抱きしめたいほど愛らしいあなた」という意味のバラードと、その進行を基にチャーリー・パーカーが作曲し、醜い“ノートルダムの背むし男(カジモド)”の名を付けたビバップ曲の組み合わせだ。フラナガンはこの2曲を組み合わせることによって「魂の“美”は、表面的な美醜や肌の色とは無関係だ」というチャーリー・パーカーの芸術的真意を伝えた。寺井も同じ信念で演奏を続けている。

4. Minor Mishap (Tommy Flanagan)

Cats (Prestige)

マイナー・ミスハップ:フラナガンが終生愛奏した自作のハードバップ・チューンで、初リーダー作『Cats』 (’57)に収録。” minor mishap”は、「ちょっとしたアクシデント」という意味。名前の由来は『Cats』のレコーディングのほろ苦い顛末に由来する。。
 フラナガンは昔気質のジャズ・ミュージシャンで、演奏するとき譜面を用いない流儀だったが、初めての共演者では、そうもいかず譜面が必要になる。そこで、来日時に、寺井の採譜した譜面をコピーして持ち帰っていた。フラナガンのサイン入りのMinor Mishapの譜面は当店の壁に飾られている。

5. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)

女王陛下とエリントン

サンセット&ザ・モッキンバード:デューク・エリントンがフロリダ半島で聴いたモッキンバードの鳴き声に触発され瞬く間に書き上げ、エリザベス女王への献上品として、自費で1枚だけプレスしたアルバム『女王組曲』に収録した曲。
 フラナガンならではのピアノ・タッチの妙技が堪能でき、フラナガン67才の『バースデー・コンサート』 (’97 Blue Note) のタイトル曲となっている。
6. Beats Up (Tommy Flanagan)

ビーツ・アップ:1957年『OVERSEAS』と、ほぼ40年後のリメイク盤『Sea Changes』 (’96 Alfa Jazz)に再録したリズム・チェンジのリフ・チューン。 
 元来、トリオ仕様の曲ながら、寺井尚之と宮本在浩とのデュオは、トリオに負けないダイナミックなプレイを聴かせる。


7. Dalarna (Tommy Flanagan)

スウェーデン、ダーラナ県

ダーラナ:『OVERSEAS』に収録されたフラナガン初期の美しい作品、彼が少年期に没頭した印象派音楽や、ビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。
 『OVERSEAS』は、1957年、J.J.ジョンソンとの数か月にわたるスウェーデン・ツアーの合間に録音された。スウェーデン文化省の主催で、国の津々浦々まで演奏旅行を行ったJ.J.クインテットの音楽は、後のスウェーデン・ジャズに大きな影響を及ぼし、その縁で、寺井尚之はスウェーデンのジャズ・ミュージシャンと親交が厚い。
 『Overseas』以降、長年演奏しなかったフラナガンだが、寺井尚之のCD『Dalarna』に触発され、寺井のアレンジを用いて『Sea Changes』(’96)に再録。演奏する寺井尚之の胸中には、「ダーラナを録音したぞ!」とNYから電話をかけてきたフラナガンの弾んだ声が響いている。


8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

チャノ・ポゾ&ディジー・ガレスピー

ティン・ティン・デオ:第一部のクロージングは、フラナガン屈指の名演目、ディジー・ガレスピーが牽引したアフロキューバン・ジャズの代表曲だ。 
 読み書きのできない天才的なキューバ人コンガ奏者、チャノ・ポゾが口ずさんだメロディとリズムをガレスピー達が採譜し、ビッグバンド用の曲に仕上げた。フラナガンは、曲独特の土臭さと哀愁を保ちながら、ビッグバンドに負けないダイナミクスに、持ち前の気品を加えたヴァージョンを創造した。
 トリビュートでは、さらに切り詰めたデュオ編成で、寺井尚之と宮本在浩が、フラナガン的ダイナミズムを再現してみせる。

NYのフラナガンのアパートで。 (’89)


2nd Set

1.That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)

Matt

 ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ:フランク・シナトラのヒットソングを数多く作曲したマット・デニス(左写真)は、弾き語りの名手としてTVやラジオでも活躍した。彼はクラブ出演する際、一流ジャズメンをゲストに招くのを好み、それがきっかけで、彼の楽曲はジャズ界に伝承された。J.J.ジョンソンも’55年、高級ナイト・クラブでデニスのショウに出演後、フラナガン参加のアルバム『First Place』 (Columbia, ’57)にこの曲を収録。後にフラナガンはリーダー作《Jazz Poet》 (Timeless/Alfa Jazz, ’89 )に収録し、ライヴでも愛奏、数年後には録音ヴァージョンを凌ぐアレンジが完成した。現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏している。

2. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
 ウィズ・マリス・トワーズ・ノン: フラナガンージョージ・ムラーツ・デ

Tom McIntosh(1927-2017)

ュオよる名盤『Ballads&Blues』(Enja ’78)に収録されたスピリチュアルな名作。作曲者のトム・マッキントッシュ(tb)はフラナガンの友人で、この作品の創作過程には、フラナガンのアドバイスが大きく取り入れられた。
 「誰にも悪意を向けず」というタイトルは、エイブラハム・リンカーンが、多くの犠牲者を出した南北戦争後の演説の名言だが、今の世界が必要とする言葉かもしれない。

3. A Sleepin’ Bee (Harold Arlen)
スリーピン・ビー:フラナガンが“スプリング・ソング”と呼び、春になると愛奏した演目の一つ。カリブを舞台にしたミュージカル「A House of Flowers」(トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽)の挿入歌。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にしたラブ・ソングだ。フラナガン・ヴァージョンを基に、すっきりと切り詰めた寺井尚之のアレンジをフラナガンは大いに褒めてくれたことがある。

4. They Say It’s Spring (Bob Haymes)
ゼイ・セイ・イッツ・スプリング

Bobby Jaspar & Blossom Dearie

 これもフラナガンが愛奏した“スプリング・ソング”で、浮き浮きした春の恋の歌。もともとJ.J.ジョンソン時代のバンド仲間、ボビー・ジャスパーの妻だった歌手、ブロッサム・ディアリーのヒット曲で、フラナガンは彼女のライヴで聞き覚えたという。’70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に収録している。  

5. Passion Flower (Billy Strayhorn)

OverSeasでプレイするムラーツ(’84)

パッション・フラワー:フラナガンが尊敬したビリー・ストレイホーンの作品(’44)で、フラナガン・トリオでは、ベーシスト、ジョージ・ムラーツをフィーチャーする名演目だった。トリビュートでは宮本在浩(b)が年季の入った弓の妙技を聴かせる。パッション・フラワーは日本でトケイソウと呼ばれ、その一風変わった形は、磔刑のキリストに例えられる。ストレイホーンは、黒人のゲイであり、マイノリティとして、常にエリントンの影武者に甘んじた苦悩を、この花に例えたのかもしれない。
 ムラーツは独立後もこの曲を愛奏し、リーダー作『My Foolish Heart(’95)』に収録した。  

6. Eclypso (Tommy Flanagan)

Eclypso

エクリプソ:フラナガンのオリジナル中、最も人気のあるカリプソ・ムードの作品。寺井尚之がフラナガンの招きで長期NY滞在した最後の夜、《ヴィレッジ・ヴァンガード》で、フラナガンが「ヒサユキのために」とスピーチして演奏してくれた思い出の曲。

7. Easy Living (Ralph Ranger)

Billie Holiday (1915-59)

「恋に溺れれば、生きることが楽になる。私の人生はあなただけ」…フラナガンのアイドル、ビリー・ホリディの十八番で、多くのバッパーが演奏した。
 フラナガンが亡くなった夜、寺井尚之が涙で鍵盤を濡らしながら演奏した曲だった。24年経った今の寺井のピアノの響きからは、悲しみを越え、音楽の喜びさえ感じられる。

8. Our Delight (Tadd Dameron)

アワー・デライト:ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロン(写真)の作品で、ライヴを盛り上げるラスト・チューンとしてフラナガンが愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井と宮本在浩しかいない。


Encore:

Thad Jones

1. To You (Thad Jones)

トミー・フラナガン『Let's』

トゥ・ユー:フラナガンのサド・ジョーンズ曲集『Let’s』に収録された美しいバラード、初録音はカウント・ベイシーとデューク・エリントンの二大ビッグバンド唯一の共演盤『First Time! 』(1962)だが、『Let’s』の他の全収録曲がフラナガンがデトロイト時代にジョーンズと演奏したものであることを考えると、おそらくこの作品も同時期の創作と推測される。月の満ち欠けのように位相が変化するサウンドと、余白を生かした独特のリズムが、無駄な装飾を省いた墨絵を思わせるような品格を生み出す。フラナガン譲りのピアノタッチを駆使し、寺井が最近開拓したレパートリーのひとつ。

2. Like Old Times (Thad Jones) 

Motor City Scene/Thad Jones

ライク・オールド・タイムズ:これもフラナガンとサド・ジョーンズがデトロイト時代に演奏した作品。ジョーンズ名義の『Motor City Scene』 (’59 United Artist)に収録。後年フラナガンはアンコールに愛奏した。彼がご機嫌なときは、ポケットの中から小さなホイッスルをこっそり取り出し、絶妙なタイミングで、ピューッと吹いて会場を多いに湧かせた。この夜も、寺井が隠し技のホイッスルを鳴らすと、フラナガンが元気だった「昔のように」楽しい空気が満ち溢れた。         

 

 フラナガンが亡くなった直後は、これほど長らくトリビュート・コンサートを続け、多くの方々にフラナガン・ミュージックを楽しんでいただく機会になるとは、想像もしていませんでした。次回のトリビュートは2025年11月15日(土)を予定しています。次回も皆様のお越しをお待ちしています。
 今回のコンサート開催にあたり、多くの方々に賜ったご支援に改めて感謝申し上げます。
最後に、これまでチイママとして言葉にできないほど応援してくださったあきちゃんに心からの感謝と祈りを捧げます。

Text by 寺井珠重(てらい たまえ)

寺井尚之-piano, 宮本在浩-bass

The 46th Tribute to Tommy Flanagan Concert 今夜の曲目

=1st Set=

1. 50-21 (Thad Jones)
2, Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
3. Medley: Embraceable You (George Gershwin) – Quasimodo (Charlie Parker) 
4. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
5. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
6. Beats Up (Tommy Flanagan)
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

=2nd Set=

1.That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
3. A Sleepin’ Bee (Harold Arlen)
4. They Say It’s Spring (Bob Haymes)
5. Passion Flower (Billy Strayhorn)
6. Eclypso (Tommy Flanagan)
7. Easy Living (Ralph Ranger)
8. Our Delight (Tadd Dameron)

Encore
1. To You (Thad Jones)
2. Like Old Times (Thad Jones)

第46回トミー・フラナガン・トリビュート 3/15(土)開催

チケットは当店のみの販売です。お早めにお求めください。

3月恒例のトミー・フラナガン・トリビュートは、フラナガンの誕生日前日に開催します。(*English below)
前売りチケットは当店のみで販売中です。お早めにお求めください。

演奏:寺井尚之-piano, 宮本在浩-bass

日時:2025年3月15日(土) 7pm-/8:20pm(開場6pm 入替なし)
前売りチケット¥3850(税込 座席指定)
 席数が限られています。お早めにお求めください。

=Annual Concert tribute to Tommy Flanagan in March 2025=
This year of 2025, pianist and owner of Jazz Club OverSeas, Hisayuki Terai with Zaiko Miyamoto on bass will hold his special tribute concert to his mentor, Tommy Flanagan.

Date and Time:
Saturday, March 15, 2025
7:00 PM / 8:20 PM (Doors open at 6:00 PM, no seat changes between shows)

Advance Ticket Price: ¥3,850 (tax included, reserved seating)
Seats are limited, so please purchase your tickets as soon as possible.

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今週のご案内:12/14(土)「トミー・フラナガンの足跡を辿る」

Swing Along with Charlie Shavers
(土)足跡講座で解説。隠れた名演です。

12/9(月)寺井尚之ジャズピアノ教室

12/10(火) 寺井尚之(p)+倉橋幸久(b)デュオ  Live Charge 2200 Music 7pm-/ 8pm-/Close 9p

12/11(水)寺井尚之(p)+東ともみ(b)デュオ  Live Charge 2200 Music 7pm-/ 8pm-/Close 9pm

12/12(木)寺井尚之ジャズピアノ&理論教室

12/13(金)  荒崎英一郎(ts) トリオ w/ 寺井尚之(p)、橋本洋佑(b) Live Charge 2530 Music 7pm-/ 8pm-/ 9pm-

12/14(土)「トミー・フラナガンの足跡を辿る」6:30pm開講 参加料2750

第45回トミー・フラナガン・トリビュート 曲目解説

寺井尚之の師、トミー・フラナガン(1930-2001) の命日、11/16に開催しました。

*English version is here

演奏:寺井尚之-piano、宮本在浩-bass演奏

寺井尚之(p)、宮本在浩(b)
長年のレギュラー・デュオにしかできないプレイを聴かせました。
コンサートにご参加いただいたお客様に感謝。

曲目解説

<1st>

1. Bitty Ditty (Thad Jones)

Thad Jones
Thad Jones (1923-86)

 〈ビッティ・ディッティ〉トミー・フラナガンが生涯愛奏したサド・ジョーンズ作品。Bitty Dittyは「ささやかな小曲」という意味で、親しみやすく軽快な曲だが、演奏者にとっては、複雑な変則小節で転調を繰り返す難曲。この逆説的なネーミングが、フラナガンが惚れ込んだサド・ジョーンズの音楽性と、デトロイト・ハードバップの「粋」の証だ。

『Beyond the Blue Bird』

2. Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
 〈ビヨンド・ザ・ブルーバード〉1950年代前半、20代のフラナガンが、サド・ジョーンズ達とデトロイト・ハードバップを開花させた場所は、デトロイトの黒人居住区にあった伝説的ジャズクラブ《ブルーバード・イン》だ。後年フラナガンがノスタルジーを込めて作った曲で、1991年にリリースしたアルバムのタイトル曲とした。《ブルーバード》の客層は、自動車産業に従事する黒人労働者で、ジャズを愛し、若手ミュージシャンを応援するアット・ホームな店だったと語ってくれたことがある。
 シンプルで親しみやすいメロディの裏にある綿密な転調と、”返し”と呼ばれる左手のカウンター・メロディが、デトロイト・ハードバップの特徴。寺井はアルバム(左上写真)のリリース前、フラナガンから譜面を授かり演奏を許された。 

3. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)  

『Super Session』

〈レイチェルのロンド〉:フラナガンと最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げたオリジナル曲。フラナガンは『Super Session』(’80:左写真)に収録したが、ライヴで余り演奏することはなかった。
 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』(’94)に収録。冴え渡るピアノのサウンドを活かす気品溢れる秀作で、OverSeasの人気曲。

4. Medley: Embraceable You(Ira& George Gershwin)
   ~Quasimodo(Charlie Parker)
 

Bird
Charlie Parker (1920-55)

〈メドレー: エンブレイサブル・ユー~カジモド〉
 フラナガンはライヴでメドレーを盛んにプレイしたが、大半は録音されておらず、このメドレーも、レギュラー・トリオによる録音はない。
 チャーリー・パーカーは、ガーシュイン作〈エンブレイサブル・ユー(抱きしめたくなるほど愛らしい君)〉のコード進行を基にバップ・チューンを作り、原曲と正反対の、醜い「ノートルダムのせむし男」(カジモド)の名を付けた。そこには、白人社会の価値観に対する反骨精神が見え隠れする。
 フラナガンは、この2曲を絶妙な転調で結び、パーカーへのアンサー・ソングとしたのではないだろうか。

5. Lament (J. J. Johnson) 

J. J. Johnson (192402001)

〈ラメント〉フラナガンが’50代後半にレギュラーを務め、『Dial J J5』など多くの共演盤を遺したトロンボーンの神様、J.J.ジョンソンの作品。〈ラメント〉は「嘆きの歌」という意味、曲の品格がフラナガン好みだったのか、ライヴで盛んに演奏したので〈Lament〉を聴くと、フラナガンがよく出演していたグリニッジ・ヴィレッジの《Bradley’s》を思い出すというファンがいるほどだ。フラナガン名義の録音は『Jazz Poet』 (Timeless ’89)のみだが、録音以降も演奏し続け、どんどん編曲がアップデートしていった。
 本コンサートで用いたセカンド・リフは『Jazz Poet』以降の進化型だ。

6. Elusive (Thad Jones) 

Thad Jones and Tommy Flanagan
Thad Jones and T.Flanagan

〈イルーシヴ〉は「雲をつかむように捉えどころがない、表現しにくい」という意味で、その名のごとく、サド・ジョーンズらしい悪魔的なスリルに溢れた曲。’50年代のデトロイトで、20代のフラナガンはジョーンズと共に、この難曲を、いとも容易く演奏していたという。

7. Dalarna (Tommy Flanagan)

Overseas Tommy Flanagan Trio

 〈ダーラナ〉『Overseas』を録音したスウエーデンが誇る名リゾート地の名を冠した初期の代表作。
 尊敬するビリー・ストレイホーンの影響が感じられると同時に、厳しい転調をさりげなく用いて洗練された美しさを生み出す独特の作風が光る。
 フラナガンは『Overseas』に録音後、長年演奏することがなかったが、寺井尚之のCD『Dalarna』に触発され、寺井のアレンジを用いて『Sea Changes』(’96)に再録。その直後、フラナガンは寺井に「ダーラナを録音したぞ!」と電話で伝えてきた。その弾んだ声が、今も寺井の胸に響く。

Dalarna, Sweden
Darlana 地方


8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller Dizzy Gillespie)

Chano Pozo and Gillespie

〈ティン・ティン・デオ〉は、キューバ人コンガ奏者、チャノ・ポゾが口ずさむメロディとリズムを基にしたディジー・ガレスピー楽団の演目で、戦後、大流行したアフロ・キューバン・ジャズの代表曲。
 フラナガンは、ビッグバンドのマテリアルを、コンパクトなピアノ・トリオ編成で表現する達人だった。哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したアレンジが素晴らしい。

たくさんのお供えをありがとうございます。写真はスウェーデンのベーシスト、ハンス・バッケンロスより

<2nd>
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis) 

マット・デニス

 〈ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ〉 作曲者マット・デニスは弾き語りの名手であり、〈エンジェル・アイズ〉を始め、フランク・シナトラの数々のヒットソングの作者。デニスはナイト・クラブに出演する際、一流ジャズメンをゲストに招いて共演するのを好み、それにつれ彼の楽曲はジャズメンに愛奏されるようになった。J.J.ジョンソンはフラナガン参加アルバム、《First Place》(Columbia, ’57)にこの曲を収録。その32年後、フラナガンはリーダー作《Jazz Poet》に収録し、ライヴで愛奏を続け、アレンジを進化させた。現在は寺井が進化型のアレンジを引き継いでいる。

2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)

Smooth As the Wind (Riverside)

 〈スムーズ・アズ・ザ・ウィンド〉フラナガンが愛奏したもう一人の作曲家、タッド・ダメロンの作品。力強く優美な「美バップ」の黄金比率を持ち、美しい花が次々と開花していくようなハーモニーの華麗さに目を見張る。
 この曲は、麻薬刑務所服役中のダメロンがブルー・ミッチェル(tp)の同名アルバム(Riverside, ’61)の為に書き下ろしたもので、録音にはフラナガンも参加している。
 一編の詩のような曲の展開、吹き去る風のように余韻を残すエンディングまで、完成度の高いアレンジがフラナガンのレガシーだ。

3. Medley: Thelonica (Tommy Flanagan)~Minor Mishap (Tommy Flanagan) 

寺井尚之
HIsayuki Terai

〈セロニカ~マイナー・ミスハップ〉トミー・フラナガンのオリジナル・メドレー、 “セロニカ”はセロニアス・モンクとパノニカ夫人の友情に捧げた作品、極上の日本酒のようにすっきりとした味わいが二人の間柄をよく表現している。ジャズのオリジナルの中では五指に入る難曲だ。
 “Minor Mishap” (ささやかな不幸)は、’58年、ジョン・コルトレーン(ts)、イドリース・スーレマン(tp)、ケニー・バレル(g)達とのアルバム『The Cats』で初演以来、フラナガンは何度もレコーディングしている。

4. If You Could See Me Now (Tadd Dameron) 

Sara Vaughan with C. Basie Orch

〈イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ〉1946年、当時、新進スターだったサラ・ヴォーン(vo)のためにダメロンが書き下ろした名バラード。フラナガンはダメロンを愛奏する理由として「オーケストラのサウンドが内蔵されているので弾きやすい。」と語っている。フラナガンのヴァージョンは、サラ・ヴォーンとカウント・ベイシー楽団による、81年の録音で使われたセカンド・リフを用い、オーケストラ感をうまく表出している。

5. Eclypso (Tommy Flanagan)

Eclypso
Eclypso (Enja 1975)

 〈エクリプソ〉フラナガンのオリジナル中、最も人気のある、カリプソ・ムードの軽快な作品。寺井尚之がフラナガンの招きで長期NY滞在した最後の夜、フラナガンは《ヴィレッジ・ヴァンガード》で、「ヒサユキのために」とスピーチして演奏してくれた思い出の曲。

6. But Beautiful (Jimmy Van Heusen)

Terai and Flanagan at Flanagan’s apartment in NY

〈バット・ビューティフル〉「恋は色々、おかしくも、哀しくもある。秘めた恋、狂おしい恋もある…」シンプルな形容詞で様々な恋模様を綴る名バラード。寺井尚之+宮本在浩デュオは、オール・2コーラスの切り詰めた構成で、歌詞の聴こえてくるようなプレイが深い余韻を残した。
 フラナガンが’90年代にこの曲を愛奏するようになったが、そのきっかけは寺井だ。ある昼下がり、フラナガンが寺井とOverSeasでくつろいでいるとき、偶然フランク・ウエス・カルテットによる『Moodsville8』(Prestige, 1960)の〈But Beautiful〉が店内に流れた。すると寺井は「師匠のこのイントロは、ジャズ史上最高のイントロです!なぜなら…」と演説を始めた。フラナガンはふーんと鼻を膨らますだけだったが、その直後、デンマーク、コペンハーゲンでおこなわれたジャズパー賞を受賞記念コンサート『Flanagan’s Shenanigans(右写真下)』(’93)でも名演を遺した。


7. Our Delight (Tadd Dameron) 

Tadd Dameron (1917-65)

〈アワー・デライト〉これもタッド・ダメロンの作品、フラナガンはライヴのクライマックスとなるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されていないのが残念だ。現在、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井だけだ。ドラムレスであることを感じさせない、気迫のこもった演奏に喝采がやまない。

Encore:
 With Malice Toward None (Tom McIntosh)
 

Tom McIntosh (1927-2017)

〈ウィズ・マリス・トワーズ・ノン〉「フラナガン流スピリチュアル」と言える名曲で、当店の大スタンダード曲でもある。
 フラナガンージョージ・ムラーツ・デュオによる『バラッズ&ブルース』に収録され、今は寺井尚之の十八番として、お客様のリクエストが多い。メロディは、讃美歌「主イエス我を愛す」を基にし、エイブラハム・リンカーンの名言(誰にも悪意を向けずに)を曲名とした、トロンボーン奏者、トム・マッキントッシュの作品だが、フラナガンのアイデアがたくさん盛り込まれている。

Ellingtonia

Duke Ellington (1899-1974)

フラナガンが初めてOverSeasでコンサートを行ったのは’84年12月。それはフラナガン・トリオによる日本初のクラブ出演だった。
 そのときに演奏した長尺のデューク・エリントン・メドレーは寺井の原点となっている。
(下:当時の演奏写真)

Tommy Flanagan at OverSeas Club 1984

Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)

Overseas

〈チェルシー・ブリッジ〉デューク・エリントンの共作者、ビリー・ストレイホーンの作品。1957年、ストレイホーンに心酔していたフラナガンはNYの街で偶然彼に出会った。「もうすぐJ.J.ジョンソンとスウェーデンにツアーして、トリオであなたの曲を録音する予定です。」そう挨拶すると、ストレイホーンは彼を自分の音楽出版社に同行し、自作曲の譜面をありったけ与えてくれたという。〈チェルシー・ブリッジ〉もその中の一曲で、初期の名盤『Overseas』に収録された渾身のプレイは、今も私たちを楽しませてくれている。

 Passion Flower (Billy Strayhorn)

Mrazの記念碑
ムラーツ記念プレート除幕式
下の大きな花は寺井寄贈。

 〈パッション・フラワー〉ベーシスト、ジョージ・ムラーツがフラナガン・トリオに在籍中は、彼の弓の妙技をフィーチャーしたナンバーとして、ほとんど毎夜演奏された曲。トリビュートでは宮本在浩(b)のベースが素晴らしい。ムラーツは独立後もこの曲を愛奏し、リーダー作『My Foolish Heart(’95)』に収録した。寺井にとって兄貴のような存在だったムラーツも3年前に他界し、今年になってようやく故郷チェコのプラハに記念碑が設けられた。

 Black & Tan Fantasy (Duke Ellington) 

Black & Tan 短編映画

〈ブラック&タン・ファンタジー〉トリビュート・コンサートのフィナーレは、フラナガン晩年の名演目で、いまからおよそ100年前の禁酒法時代、コットンクラブで人気を博したデューク・エリントン楽団初期のヒット曲だ。
 フラナガンが最後にOverSeasを訪問したとき、寺井がこの曲を演奏すると、珍しく絶賛してくれた思い出の曲でもある。

 寺井尚之がフラナガンに弟子入り志願したのは1975年、正式に弟子として認められたのは9年後、1984年のことです。以降、NYのフラナガンに演奏テープを送り続け、「NYに来なさい!」と命令されたのが1989年、フラナガン師匠は、寺井を色々な音楽の場に同行し、色々な巨匠に紹介し、演奏チャンスを与え、自分の演奏も間近でたっぷり聴く機会を与えました。それからはフラナガンが亡くなるまで、何でも教えてくれたそうです。今年で寺井は72才になり、フラナガンの享年を追い越してしまいましたが、師匠の音楽を伝えようとする熱意は今が一番強いのかもしれません。
 次回のトミー・フラナガン・トリビュートは来年の3月15日(土)に開催予定です。

 どうぞこれからも応援宜しくお願い申し上げます。(text by 寺井珠重)

11/16 第45回トミー・フラナガン・トリビュート曲目

 トミー・フラナガンの命日、満員のお客様に、今年一番の大きな拍手をいただいたトリビュート・コンサート、寺井尚之(p)+宮本在浩(b)によるフラナガンの名演目。じっくり培ったレギュラーならではの奥深いプレイが聴けました。

=演奏曲目=

<1st>
1. Bitty Ditty (Thad Jones) 
2. Beyond the Blue Bird  (Tommy Flanagan)
3. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan) 
4. Medley: Embraceable You (George Gershwin)
   ~Quasimodo(Charlie Parker)
5. Lament (J. J. Johnson) 
6. Elusive (Thad Jones)
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

<2nd>
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis) 
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)
3. Medley: Thelonica(Tommy Flanagan)~Minor Mishap (Tommy Flanagan)
4. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
5. Eclypso (Tommy Flanagan)
6. But Beautiful (Jimmy Van Heusen)
7. Our Delight (Tadd Dameron)

Encore: With Malice Toward None (Tom McIntosh)

Ellingtonia:
Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)

 Passion Flower (Billy Strayhorn)

 Black & Tan Fantasy (Duke Ellington)

今週のご案内

Tommy Flanagan (1030-2001) 11/16のトリビュート・コンサートは完売しました。

11/11(月)寺井尚之ジャズピアノ教室

11/12(火) 寺井尚之(p)+橋本洋佑(b)デュオ  Live Charge 2200 Music 7pm-/ 8pm- (入替なし)閉店9pm

11/13(水) 寺井尚之(p)+宮本在浩(b)デュオ  Live Charge 2530 Music 7pm-/ 8pm-/ 9pm- (入替なし)

11/14(木)寺井尚之ジャズピアノ教室

11/15(金)末宗俊郎(g) カルテット / 寺井尚之(p)、坂田慶治(b)、河原達人(ds)
Live Charge 2530 Music 7pm-/ 8pm-/ 9pm-  

11/16(土)第45回 Tribute to Tommy Flanagan 演奏:寺井尚之(p)+宮本在浩(b)デュオ (完売)

*料金はライブ・チャージにご飲食代をプラスしたものになります。  
*学割:チャージ半額

11/16 第45回 Tribute to Tommy Flanagan コンサートは残席僅かです。

11/16(土)のトミー・フラナガン・トリビュート・コンサート、残席がごくわずかになりました。

 早めにチケットをご購入ください。
 チケットは当店のみで販売しています。TEL 06-6262-3940

 Jazz Club OverSeas