トリビュート・コンサートにありがとうございました!

16th_tribute_hisayuki_terai.JPG
 土曜日のトリビュート、お忙しい中、沢山駆けつけてくださってどうもありがとうございました。心よりお礼申し上げます。
 2002年より、フラナガン誕生の3月、逝去の11月と、年2回定期的に開催してきましたが、3月でこれほど寒いトリビュート・コンサートは初めて、帰り道は真冬みたいでした。
 寺井尚之はトリビュートの前になると、修行と言ってもいいほど稽古をします。OverSeasのピアノは寺井が稽古すればするほど、調子がよくなって、調律の川端さんが舌を巻くほど。全体のサウンドが整って、しっとり潤いに満ちた音色を出すようになるんです。その端正さはちょっと怖いくらい。楽器は「生き物」に違いない・・・谷崎潤一郎なら一篇の短編小説が書けるかも知れません。
 The Mainstemのピアノ・トリオとしての演奏も、トリビュート・コンサートの回を増すにつれ充実してきました。宮本在浩(b)、菅一平(ds)はアドリブ・ソロも寺井尚之に負けじとたっぷり仕込みがありましたが、このリズム・チームの秀逸さは、個人技を優先することなく、「フォア・ザ・トリオ」で、曲やメドレー全体の起伏を見据えて、強力なダイナミクスを構築してくれるところ!トミー・フラナガンへのリスペクトがすべての演目に感じられる爽快なプレイだった!コンサートのCDRを作りますのでご希望の方は当店までお問い合わせください。
16th_tribute_mainstem.JPG
 今回の演目はメインステムによるトリビュート初登場の”Con Man”で始まり、”Eclypso”などフラナガンのオハコや名メドレーもたっぷり、春のトリビュートのお楽しみ「スプリング・ソングス」として、ロジャーズ・ハートの”Spring Is Here”、”Sleepin’ Bee”が鮮烈な印象を与えました。
 掛け声も最高!最高のお客様の前で、トミー・フラナガンに捧げるコンサートが出来るって、本当に幸せなことです。
<第16回 トリビュート・トゥ・トミー・フラナガン コンサート曲目>
1. The Con Man (Dizzy Reece)
2. Out of the Past (Benny Golson)
3. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)
4. Embraceable You ~Quasimodo
5. Mean Streets(Tommy Flanagan)
6. Some Other Spring (Arthur Herzog Jr./ Irene Kitchings)
7. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
8. Dalarna (Tommy Flanagan)
9. Eclypso (Tommy Flanagan)

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. They Say It’s Spring (Marty Clark/Bob Haymes)
3. A Sleeping Bee (Truman Capote/ Harold Arlen)
4. Spring Is Here (Richard Rodgers/ Lorenz Hart)
5. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)
6. I’ll Keep Loving You (Bud Powell)
7. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

With Malice Towards None (Tom McIntosh)
Ellingtonia:
A Flower Is Lovesome Thing (Billy Strayhorn)
Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
Passion Flower (Billy Strayhorn)
Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)

 曲説は後日HPにUPいたします。その前にジャズ講座の対訳を作らないといけないのでしばしお時間を。キム・パーカーはヴォーカリーズや、ややこしいオリジナルがあって、ほんまに手ごわいです。ジャズ講座新学期のラインアップもUPしていますので、ご興味があれば覗いてみてください。初受講の方も歓迎です。
CU

Ready to Swing! Tribute to Tommy Flanagan

tuner_kawabata.JPG
 明日のトリビュート・コンサートのために名調律師、川端さんにお願いしてピアノのチューン・アップ。調律だけでなく、サウンドの調整もみっちりやるので、普段は一日仕事になることも・・・でも、トリビュート本番を控えてピアノも気合が入っており、いつもの半分の時間で研ぎ澄まされたサウンドに仕上がりました。たった2時間余り、OverSeas開店以来、記録的最短時間!川端調律師と寺井尚之の満足そうな笑顔と、得意気なピアノのオーラをご覧ください。
 明日は一番気温の低い春のトリビュート・コンサートになりそうですね。桜も思わず満開になるようなプレイが聴けるでしょう。
 明日のおすすめメニューは、寺井尚之特製”黒毛和牛の赤ワイン煮”と、”カリカリ・チキン&菜の花パスタ・サラダ”をお作りしてお待ちしています!
practice.JPG
 どうぞお楽しみに!
CU

35年ぶりのリユニオン!伝説のドラマー林宏樹+寺井尚之

 公園の桜は三分咲きですが、毎日冷たい雨、ダウンコートとは、なかなか決別できませんね。昨日、傘と荷物を手に本町の銀行に行く途中で、ビルの側道のタイルにツルっと滑って、大相撲で言えば「浴びせたおし」、プロレスならラリアットを食ったレスラーみたいにズッコケ、かっこわる~。痛~!
 谷四にあるドクターKajiゆかりの整形医院に行って先生に「立ち仕事なので、動けなかったら困るんですけど・・・」とコボすと、「立ち仕事でよかったやん!仙骨打撲したら座ってるほうが辛いで~。」だってさ。これもまたMinor Mishap・・・
 腰痛は私みたいなドジでなくても、ミュージシャンにはつきもの。特にドラマーは椎間板ヘルニアになる人が多いそうで、今月のジャズ講座に登場した名ドラマー、エド・シグペンも足に痺れがあり、ベースドラムやハイハットのペダルを特注し、超微力で自由自在にコントロールしていたのだそうです。
<伝説的ドラマー 林宏樹>
hiroki_hayashi.JPG
 私や寺井尚之ジャズピアノ教室の奈都ちゃんが卒業した、大阪堺市の泉陽高校は与謝野晶子の母校で、伝統が重んじられております。が、地元では「牧場」と呼ばれ、善しにつけ悪しきにつけ、のびのびとしている校風で知られてます。試験の時はシュンとしているけど、文化活動は盛んで、私の在学時にもジャズのビッグバンドがあり、パチンコ屋でなく、ジャズ喫茶で教室にいるべき時間をすごした文化的な生徒も・・・アロージャズOrch.で活躍する宮哲之(ts)さんや、演歌歌手の瀬川瑛子さんと結婚したドラマー、清水武さんなどなど、沢口靖子さんだけでなく、音楽界にも出身生が多いです。
 ずっと昔、私の入学時すでに、林宏樹(ds)さんは卒業されていましたが、「物凄いドラマー!いずれプロで有名になる!」と、その名前は学校中に響き渡っていたものです。
 やがて私が関大軽音楽部に入学した時にも、やはり名ドラマー林宏樹の名前は響き渡っていました。私の入学前、当時関西トップと呼ばれたトランペッター、藤井雅之さんをフロントに据えたカルテットで寺井尚之と共演し、ケニー・ド-ハムの”Lotus Blossom”などをオハコに、ミナミのジャズスポット”Duke”など、関西ジャズシーンでブイブイ言っていたそうです。ペーペーの新入部員にとって、四回生の林さんは、おいそれと口もきけない天上の方でしたが、全然エラそうにしないかっこいい先輩でした。
 卒業後、林さんは愛知県に就職し、当地を本拠にビッグバンドやコンボでジャズを続け、ことあるごとに東京、福岡など日本全国でライブ活動している理想のアマチュア・ジャズ・ミュージシャンになっているという噂は聞いていました。
 そんな伝説的ドラマー、林宏樹が、30余年ぶりに、Jazz Club OverSeasで寺井尚之とピアノ・トリオでリユニオンいたします。ベースは宮本在浩(b)、しっかりビートを支えます。
 「堺のバディ・リッチ」と言われていた伝説のドラマー!そのプレイは写真みたいに渋くなっているのかしら?生で聴けるのが、私も楽しみです! ご予約はお早めにどうぞ!
REUNION SESSION!
寺井尚之3

 featuring
林宏樹(ds)
and 宮本在浩(b)
日時:4月24日(土) 
7pm-/8pm-/9pm- (入替なし)
Live Charge :2,625yen

エミル・ヴィクリッキー氏訪日祝賀会開催のお知らせ

EmilViklicky_concert.jpg Photo: Martin Zeman
 巷は三連休でいいですね。バッパーに休日はない!私の横では寺井尚之(p)、宮本在浩(b)、菅一平(ds) The Mainstemがトリビュート・コンサートのリハーサル中!ピアノの鳴りもトリビュート・コンサート前は物凄いものがあります。いい仕上がりで27日(土)の本番に臨めそう!
 さて、この間紹介したチェコの至宝ピアニスト、エミル・ヴィクリツキーさんのJazz Club OverSeas訪問が正式に決まりました。
 日時:5月15日(土)
第一部 7pm- (開場6pm)
第二部 8:45pm-(開場8:15pm)
参会費: 前売 チケット:4,000 yen 当日 5,000yen (入替制)

 演奏は各セット共にソロおよびトリオでの演奏になります。トリオでお付き合いさせていただくのはOverSeasで皆様に愛されるThe Mainstemのリズム・チーム宮本在浩(b)、菅一平(ds)!チェコのエミル・ヴィクリツキーさんにトリビュート・コンサートのCDを送ったら、「この二人となら一緒に演りたい。」と二つ返事、チェコのトップ・ピアニストと初お手合わせするザイコウ=イッペイ・チーム、ノー・カウントならぬノー・テライのプレイも絶対にチェックしておきたいですね。
 ヨーロッパ・ジャズを愛好される方なら、Emil Viklickyさんの名前はすでにおなじみと思いますが、まだご存知ない方は、以前のエントリーをご覧ください。
 なお、今回のイベントは、チェコ外務省の外郭団体である「チェコセンター 東京」のご協賛により実現しました。チェコセンターの皆様に心よりお礼申し上げます。当日は、日本文化のエクスパートとして有名なチェコセンター所長のペトル・ホリー氏が同行される予定。歌舞伎や永井荷風の研究者として有名な方なので、お目にかかれるのが楽しみ!大阪にもチェコセンター作ってくれたらチェコ語講座に参加するのに・・・。
 寺井尚之は同じピアニストとして、Emil Viklickyさんを非常に高く評価しています。サー・ローランド・ハナの鮮やかでクリスタルなサウンドや、スタンリー・カウエルの新主流派スタイルを連想させるんだって!
 前売りチケットはトリビュート・コンサートまでに作っておきますので、お早めにお買い求めください。
 HPのコンサート・ページもご覧ください。
CU

あなたの中のビリー・ホリディ(1)

gardenia.jpg
 例えばもしも、恋人の心変わりに気づいたとき、あなたなら、別れようと言われる前に潔く身を引く事ができるだろうか?夫のワイシャツに口紅がついていても「言い訳しないで」と赦すことができるだろうか?帰って来ない恋人を人気のない夜の港で待ち続けることができるだろうか?
 先週のジャズ講座で聴いたリリアン・テリー(vo)+トミー・フラナガン3の“You’ve Changed”、主役の座をさらうトミー・フラナガンの間奏に、ビリー・ホリディの精髄を感じて、今までなかなか書けなかったレディ・デイのことを少し書いてみたくなりました。
Image-BillieHoliday.jpgBillie Holiday (1915-’59)
 トミー・フラナガンの青春時代のアイドル且つ音楽的ルーツ、それだけでなく器楽奏者であるバッパー達がこぞって崇拝する歌手、ビリー・ホリディ。一般的には、ヘロイン中毒、男性遍歴、レズビアン・・・などスキャンダラスなタグラインか、「奇妙な果実」が象徴する社会派のイメージが強調され、チャーリー・パーカー同様、破滅型の天才ということになっていますよね。でもバッパーを虜にするのは、レディ・デイの音楽表現の素晴らしさ。器楽奏者にこれほど影響を与えた歌い手は、ビリー・ホリディの他にはちょっと思いつきません。彼女が譜面を読めない音楽家であったことを考えると、とても興味深いのですが、それは次のお楽しみとして、今日は、ジャズ講座対訳係りの立場からお話してみます。
<レディ・ディ:虚像と実像の間で>
billie_holliday_and_her_dog_mr_down.jpg
 対訳を作る時、歌詞解釈がちゃんと出来ている歌唱は訳も作りやすい。だって何を言いたいのかはっきりしているから、そこを日本語にすればいいのです。この間のリリアン・テリーの対訳もAt Easeでした。“Lover Man”“You’ve Changed”でも32小節ドラマのシナリオと絵コンテをリリアンが作っていて、それを実現できるようにフラナガンが「伴奏」というより、むしろリードしたという印象です。
 ホリデイは完全な女優型歌手、聴き手にとって、歌い手と歌の主人公の区切りが判らなくなるような歌手です。ですからエラ・フィッツジェラルドのように男性の歌、”Lady, Be Good”をそのまま歌うタイプではありません。ホリデイのブレーン達は、ホリデイの私生活スキャンダルと、歌唱の個性をうまく使って、“Good Morning Heartache”“Don’t Explain”など、ホリデイ自身を想起させるシグネーチュア・ソングを次々とヒットさせたんですね。日本の歌手にも、私生活を想起させる歌でヒットを飛ばした歌手は沢山いますが、死後50年以上経っても「私だけに歌いかけてくる」ような錯覚を与えるほどのリアリティはあるのかな?ビリー・ホリディの歌う歌はどれを聴いても、私宛ての親展メッセージのようで、不思議に心を捉えます。寺井尚之は、「そんな状況やったら、わしが何とかしたるやないか!」と一肌脱ぎたくなるらしい。
<レディ・ディ菩薩:赦しの美学>
 そして、ビリー・ホリディの歌唱の稀有なところは、歌を聴いているだけで、自分の過ちが「赦された」ような気持ちになれること。
 例えば、前述の“Don’t Explain”は、夫のワイシャツについた口紅で浮気に気づいた妻の歌、普通ならワイシャツだけでなく、旦那の顔までズタズタになってしまうかも知れないところですが、歌の主人公は「言い訳しなくてもいいの」と言う。極めつけはこのライン〝Right or wrong don’t matter when you’re with me, Sweet〟(善悪なんてどうでもいい、愛するあなたが一緒なら)これは、正義と真実が最優先のアメリカでは、ほとんど反社会的かも知れない。〝Right or wrong don’t matter〟タイガー・ウッズやビル・クリントンでなくても、人はWrongなことをしでかすのもの、レディ・デイは菩薩のように、許しと癒しを与えます。
Hinton_Billie_Holiday.jpgLady In Satinの 録音に参加したベーシスト、ミルト・ヒントンは、プレイバックを聴いて声の衰えを痛感する悲痛な表情をカメラで捉えた。
 先週リリアン・テリーで聴いた“You’ve Changed”はホリディ晩年のLP『Lady in Satin』に収録されています。当時のホリデイには往年の輝く声は失われているけれど、逆に歌詞表現のニュアンスは声を補って余りあるほど甘くて苦い。聴くたびに感動してしまいます。ホリデイの崇拝者、カーメン・マクレエは生前このレコードを絶賛していて「LPが擦り切れるから、予備に何枚も持っている。」と言ってたっけ。彼氏の心変わりを嘆きながら、最後の節でこう歌う。〝あなたは変わった、もう私が知ってた天使じゃない。今更別れようと言う必要なんてない。終わったのよね。〟別れにつきもののゴタゴタもなく、向こうの方から終結宣言してくれる。だからと言って、彼女のところに舞い戻ったとしても、「言い訳なしで」元の鞘に戻れそう。
 きっと”You’ve Changed”の主人公は、別れた後、この後で”落ち葉を焼く煙の臭い”や”船の汽笛”に彼を思い出しながら”These Foolish Things”を歌うんだろうな!
 Right or Wrong doesn’t matter・・・恋に落ちること自体、善悪や理屈とは関係のないものかも知れない・・・
 昨年秋のトリビュート・コンサートで聴けた“Easy Living”も、勿論ホリデイ的「赦し」の歌です。傍目には男に利用されているとしか見えない女性が主人公、彼女は愚かな自分と恋した相手を同時に赦す。「あなたの為に生きることこそ気楽な人生(Easy Living)…惚れた人のために苦労しても構わない。愛する人に尽くすと生きることが楽になるから…」
 どんな過ちを犯しても、観音さまとビリー・ホリディは赦してくれる。レディ・デイの唄を聴いていると、そんな気持ちになります。とはいえ、私生活の彼女は、必ずしもそうではなかったようですが、ザッツ・アナザー・ストーリー。
 トミー・フラナガンがこよなく愛し、大きく影響されたビリー・ホリディ、トリビュート・コンサートでも、ホリデイゆかりのレパートリーが聴けるでしょう。
 トリビュート・コンサートは残席わずかですので、お早めに!
明日は末宗俊郎(g)トリオ!そしてあさって土曜日は久々のSFT。KG&イマキーが寺井尚之と共にフレッシュなプレイをお聴かせいたします。
CU

トリビュート・コンサートの前に、スプリング・ソングスの話をしよう!

対訳ノート(26):Spring Is Here
sumire-ic2.jpg
 春の兆しはあるけれど、今週は雪や雨や雷、それに強風!先日、雨宿りにデパートに寄ったら、ホワイトデーのプレゼントを買う為に並ぶ紳士の行列があちこちに…なんとランジェリー売場にも男性が・・・皆さま、いかがお過ごしですか?
 春のトリビュート・コンサートが近づくと、ウィークデーのOverSeasに沢山のスプリング・ソングが響き、外は寒くても、ウキウキ気分になります。でも、今日はふきのとうみたいに、少しほろ苦いスプリング・ソングを。
Spring Is Here>
 ともすればエバンス派のオハコと思いがちな<スプリング・イズ・ヒア>も、デトロイト・ハードバップ・ロマン派の寺井尚之(p)が演奏すると、一味違う。”The Mainstem”が聴かせるヴァージョンは、冒頭の混合ディミニッシュ・コードの響きだけで、美しくも哀しい歌詞の内容が一瞥できる。かつてトミー・フラナガン3がNYのジャズクラブ「スイートベイジル」で、4月にスプリング・ソングとして演奏したヴァージョンを基にしているのだとか。あの有機的なハーモニーは、紛れもなくデューク・エリントン!エリントン的なるものはトミー・フラナガンや寺井尚之ミュージックの至る所に隠れていますね。
<歌のお里>
 <スプリング・イズ・ヒア>のお里は、1938年のブロードウェイ・ミュージカル『I Married an Angel 私は天使と結婚した』、プレイボーイの銀行家が婚約解消の際に「天使としか結婚しない」と宣言したら、ほんとに美人の天使がやって来て結婚したのはいいけれど…というコメディーです。数年後に映画化されていますが、その際に歌われる<スプリング・イズ・ヒア>は曲想も歌詞も春爛漫のハッピーな歌曲に替わっていて、ちょっとがっかり・・・
Rodgers_and_Hart_NYWTS.jpg 作曲:リチャード・ロジャーズ(左)、作詞:ロレンツ・ハート(右):リチャード・ロジャーズがロレンツ・ハートと出合ったのは16歳の時、そのままコンビでソングライターの世界に入り、25年間の永きに渡って共作を続けましたが、やがて戦争が始まり、ハートの洒落た作風は軟弱と見なされ、時流から外れて行きます。ハート自身もアルコールに溺れて仕事に支障をきたすようになり、42年にコンビ解消、ロジャーズはオスカー・ハマーシュタインⅡ世と『オクラホマ』や『サウンド・オブ・ミュージック』など、健全な名作をどんどん創り、新たな局面に邁進。一方ハートは’43年に48歳の若さで失意のうちに亡くなりました。My Funny ValentineThe Lady Is a Tramp, Blue Moon, Bewitched etc…二人が生み出した名曲は数知れず…どれも甘くてほろ苦い味わいの粋な歌曲ばかりです。ポピュラー音楽の中ではこのコンビが、私の一番のお気に入りかも知れません。
 “春が来たのに私の胸は躍らない、それは誰にも愛されないからかも。“ 寂しい心を歌うラインに、一番インパクトの強いせり上がるメロディをつけている辺りが、ロジャーズ+ハートの凄さかな。原歌詞はこちら。

“スプリング・イズ・ヒア”
Richard Rodgers and Lorenz Hart
VERSE
あなたや私がそうだったように
世界中が詩を紡いだ頃、
たしか「春」ってあったよね。
小さなテーブルで差し向かい
二人で春の甘いお酒を飲めば、
男も女も若者は皆高らかに歌ったよね。
4月、5月、6月・・・時が経つにつれ、
寂しい調子に変わる。
人生が、幸せの風船に針をつき刺した。

CHORUS
春が来たよ!
なのに心は躍らないのは何故?
春が来たよ!
ワルツが素敵に思えないのは何故?
欲しいもの、したいこと、
私には何もない。
誰にも必要とされていないせいかな。

春が来たよ!
なのにそよ風が嬉しくないのは何故?
星がまたたき始める、
何故に夜は心を誘わない?
多分誰も愛してくれないせいだよね。

春が来た・・・らしいね!

 アレック・ワイルダーの著書American Popular Songを読むとこんな風に書いてありました。(p.209)「歌詞もハートらしさが出た秀作、特にクロージング・ライン”Spring is here, I hear!( 春が来た・・・らしいね)”は、彼自身の考え方が、皮肉っぽく凝縮されている。」
 <スプリング・イズ・ヒア>はロジャーズ+ハート共作期終盤の作品、ロレンツ・ハートが亡くなる5年前に書かれたものだそうです。戦争が影を落とす世の中に、調子を合わせることが出来ないハートの苦しみが見え隠れして、一層この曲が身近に感じられます。
 第16回トリビュート・コンサートは3月27日(土)、その時分にはもっと春めいているかしら?
 13日(土)のジャズ講座は、リリアン・テリー&トミー・フラナガンの名盤、『A Dream Comes True』登場!ビリー・ストレイホーンの名曲など対訳どっさり作りました。リリアン・テリーはイタリア人だけど、ちゃんと歌詞解釈があるのがエライです!
A_dream_comes_true_1-thumb.jpg
 当日はビーフストロガノフを作ってお待ちしています!
CU

ジョージ・ムラーツの盟友、エミル・ヴィクリツキーさん(p)のこと

emil_viklicky-4.jpg
 地震や津波も怖い季節の変わり目ですが、皆さんいかがお過ごしですか?OverSeasではスプリング・ソングもチラホラ聴こえて、27日(土)のトリビュート・コンサートが待ち遠しいな!
 NYのジョージ・ムラーツ兄さんも、何とか寒い冬を乗り切って元気にしているようです。先月末には、NYのチェコセンターで、リッチ・ペリー(ts)、ジョーイ・バロン(ds)と組んだ自己トリオで特別コンサートを開催した模様。もうすぐ発売される同メンバーでの新譜とDVDが楽しみ!春にはハンク・ジョーンズとアルゼンチンに旅した後、ヨーロッパ各地を色んなフォーマットでツアーします。
<チェコのスター・ピアニスト>
 ところで、最近、ムラーツ兄さんをWEB検索していたら、うちのHPに行きあたったと、チェコからEメールが来ました。丁寧な英文で友人のジョージ・ムラーツや、尊敬するトミー・フラナガンの写真が色々載っていて楽しかったと書いてあります。
 送信者のお名前にはEmil Viklicky(エミル・ヴィクリツキー)とあり、なんとムラーツ兄さんが、チェコ大統領主催プラハ城コンサートや、チェコのスター・ミュージシャン、イヴァ・ヴィトヴァと組んだアルバム、『モラヴィアン・ジェムズ』などで頻繁に共演している、チェコの第一人者でした!上のポートレートはMartin Zeman撮影、バロック的な陰影があって、いかにもヨーロッパのピアニストという雰囲気ですね!ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵画みたい!
Viklicky_Mraz_Hart_SpertusMuseum.jpgシカゴにて:ヴィクリツキー(p)、ムラーツ(b)、ビリー・ハート(ds)
 エミル・ヴィクリツキーさんは、1948年、チェコのモラヴィア地方の生まれのピアニスト、作編曲家。ヴィクリッキーと表記されることも多いですが、ご本人に確認したらヴィクリツキーの方が近いそうです。ムラーツ兄さんより4歳年下、寺井尚之より4歳年上です。ヨーロッパ各国のジャズのコンペを総ナメし、共産党支配が強化される直前の’77年に米バークリー音楽院に奨学生として入学、ビロード革命後はチェコ・ジャズ界のリーダーとして活躍を続けるトップ・ミュージシャンです。クリアな音色とオスカー・ピーターソンばりのダイナミックなプレイは、寺井尚之を唸らせる紛れもない正統派、一方、モラヴィア地方の民謡をジャズとして演奏するなど、チェコのアイデンティティを失わない音楽性から、ヨーロッパでは『1Q84』(村上春樹)のずっと以前から、「ジャズのヤナーチェク」と呼ばれているそうです。
emil_viklicky-2.jpg
<友達の友達はともだち!>
 ジョージ・ムラーツとエミル・ヴィクリツキーさんとの出会いは、’76年、ユーゴスラビアのジャズフェスティバルだったそうです。以来、アメリカのトップ・ベーシストとなったムラーツがチェコにお里帰りする際に共演するピアニストは、本国のトップであるヴィクリツキー!ということになっているみたい。普段は、ベース: Frantisek Uhlir (フランティセック・ウーリール)とドラムス:Laco Tropp (ラコ・トロップ)という長年のレギュラー・トリオで活動しているようです。特に、ベースのウーリールは、ムラーツばりのテク二シャンで、Youtubeを観てびっくりしました。ヴィクリツキーさんによれば、彼はチェコのナンバー1ベーシストで、特に弓の技量はずば抜けてすごいらしい・・・
sinfonietta.jpg 昨年、ジョージ・ムラーツ、ルイス・ナッシュ(ds)との最強メンバーで日本制作のリーダー・アルバム 『シンフォニエッタ/エミル・ヴィクリッキー・トリオ』をリリースしており、日本での人気も高まるかも知れませんね。
viklijapantrio.jpgなぜか別府温泉でポーズを取るレギュラー・トリオ:左からヴィクリツキー、ウーリール(b)、トロップ(ds)
  ヴィクリツキーさんは、今までにも政府から派遣され、愛知万博などで演奏していて、日本のジャズファンの前で演奏したくて堪らないそうです。息子さんは腎臓移植の権威ですが、やはり親日家で日本語に堪能とのこと!5月に中国に飛び、上海万博で演奏予定があるのですが、その際、寄り道をして、ぜひジョージ・ムラーツと懇意なJazz Club OverSeasで演奏したいと切望しています。プラハの宮殿と余りにも違うヴェニューだけど、いいのかしら・・・
 チェコを代表する巨匠ピアニストのプレイが、間近で聴けそうな予感がします!
 詳細は近々お知らせいたしますのでご期待下さい。
 明日は鉄人デュオ!スタンダード・ナンバーをベテランの懐の深さでさりげなく料理するのが聴きどころ!私も鼻歌でハッシャ・バイでも歌いながら、シーフード・グラタンでも作ろうかな・・・
CU