年の瀬雑感:2013年 

New-Year-Ahead-.gif OverSeasは今年のライブ日程も残すところ後2日、皆様はいかがお過ごしですか?海外や温泉でゆっくり?それとも帰省の準備?私はまだまだ・・・ドタバタのうちに新年の営業が始まりそうです。

 今年を振り返り一番思うのは、自分がオバンになったこと。目が悪くなって、深夜にバリバリ書く、という事ができなくなりました。悲しいね・・・それを別にすれば、嬉しい事も多かった!
<寺井尚之メインステム>
 まず、寺井尚之がピアニストとしてますます良くなったこと。2008年、寺井が、当時まだ新人だった宮本在浩(b)と菅一平(ds)と結成した”メインステム”が、5年の歳月を経てメインステムだけのトリオとしての「かたち」になってきた。11月のトリビュート・コンサートを節目に、ザイコウ&イッペイ・リズム・チームの出し入れで生まれる「走塁野球」的な小気味よさと、ピアノ・タッチの美しさを褒めてくださるお客様が増えたことが大収穫!寺井の持つトリオ演奏のイメージに応える共演者はすごく大変です。その苦労は拍手で癒されるのではないでしょうか?私も調理場でせっせと仕込みしてズクズクになっても、「美味しい」の笑顔で、一発エナジー・チャージ!
 
 Youtubeの動画は、メインステムの初期のスタイルを残す貴重な資料ですが、来年は動画だけでなくCDも作れればいいなあ・・・
 
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 <ピアノ教室、ジャズ理論教室>

 ライブと併設の「寺井尚之ジャズピアノ教室、ジャズ理論教室」も、今年は飛躍の年でした。ピアノ教室の吉沢瞳さんが、練習の成果をライブとして披露し大成功!理論教室ではジャズ・ハーモニカの指導を受ける伊藤加奈さんが、ドイツで4年毎に開催する「国際ハーモニカ・フェスティバル」オープン・カテゴリーでタッド・ダメロンの”Our Delight”で入賞しました。快挙!
 ジャズを「簡単にゲットできるツール」ですよと銘打つ音楽スクールの時流に逆行するかたちで、本当にピアノをサウンドさせて、アドリブ語法もきっちり勉強してきた生徒さんの成果が出たことに「やった!」っていう思いです。
 来年もピアノにかぎらず、ジャズを志す様々なミュージシャンに、指導していければいいなあ・・・
訳したり、書いたり・・・>
 
 
 本ブログの「対訳ノート」は、長年続く「トミー・フラナガンの足跡を辿る」の副産物ですが、今年は映像解説の「楽しいジャズ講座」で字幕なしの輸入盤ドキュメンタリーのテキスト翻訳も楽しんでいただけました。
 ジャズでも、それ以外の分野でも、今年は様々な英訳、和訳のチャンスをいただけました。根がおっちょこちょいで、なんでもかんでもやりたがり、どの仕事も楽しくて仕方ない。声をかけてくださった様々な分野の先生方には感謝の一言です。来年もよろしくです。
 偶然が偶然を生み、あろうことか大学の比較文学比較文化研究室に和訳が紹介され、それがきっかけで、「音楽とことば」の秘密の関係を解き明かしてくれる比較言語学にとても興味を持ちました。大学時代は選択科目にあった言語学、教授がコワいという噂からスルーした自分はバカだったなあ・・・
 
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 まあ、結局のところ、今年も大変な一年でした。震災以降、OverSeasはお正月を迎えることができるのだろうか?と思い悩んだ瀬戸際族、凹んで心が折れそうになったとき、OverSeasのドアから、誰かがやって来て、笑顔で励ましてくれたり、救いの手を差し伸べて下さった。御恩は一生忘れません!
 こんなオバンになっても、「楽しかった」「ごちそうさま」、素敵な言葉をいただけて、お金もいただけるのだから、本当に自分は恵まれていると感じる一年でした。
 常連様や初めてのお客様、数十年ぶりに来てくださったお客様、今年OverSeasにご来店いただいた方々、一人、一人に改めてお礼を申し上げます。
 そして、このブログを読んで下さった皆様、お一人、お一人に、ありがとうございます。
 みなさま、どうぞいお年を!

寺井珠重の対訳ノート(40)ザ・クリスマス・ソング

 11282693-vector-christmas-background-with-sprig-of-european-holly--ilex-aquifolium-and-white-mistletoe.jpg あっという間に年の瀬です。Time waits for no oneと言いますが、この季節は、特に時間が速く過ぎ去るように感じます。子供のときは、大人達が「お寒うございますね。」なんて挨拶しているのが不思議で、楽しいだけの季節だったのに。”The Christmas Song”はそんな子供の心の歌。先月の「楽しいジャズ講座」では、1991年のコンコード・ジャズフェスティバルで作曲者メル・トーメが日本のファンの前で披露した素敵なヴァージョンを楽しみました。

 

<宗教のないクリスマス>

Mel-Torme-08.jpgMel Tormé (1925-1999) ”White Christmas”と共に、クリスマス・ソングの決定版と言える”The Christmas Song”、作曲は白人ジャズ・ヴォーカルの最高峰といえるメル・トーメ、当時作曲家としてのトーメとコンビを組み、後にTVプロデューサーとして大成功したロバート・ウエルズ。”ホワイト・クリスマス”のアービング・バーリンがそうであったように、二人ともユダヤ系アメリカ人の非クリスチャン、当然、この歌にはキリストも教会も出てこない。それが功を奏し、ナット・キング・コールの初演を皮切りに、日本を含め、世界中でヒットしました。メル・トーメ&ロバート・”ボブ”・ウエルズのコンビは200曲以上の作品がありますが、ジャズ・ファンの間で最も有名な曲に”Born to Be Blue”かな?
 

<それは暑さの憂さ晴らし>

not_all_velvet.jpg ”ザ・クリスマス・ソング”のトリビアとして最もよく知られているのは、この歌が真夏に作られたということです。「私の人生は、自分の声のように滑らかなではなかった・・・」という、メル・トーメの自伝『It Wasn’t ALL Velvet』は、私の知るジャズメンの生活とはあまりにもかけ離れた華やかなスターの告白という趣きですが、ここに”ザ・クリスマス・ソング”の誕生が詳しく書かれています。

 戦争が終わり平和が戻った1945年のハリウッド、トーメとウエルズは、ジョニー・バーク+ジミー・ヴァン・ヒューゼン名コンビのアシスト的な役割で、映画音楽の制作に携わっていました。LAの暑い7月の或る日、トーメは歌作りの仕事でウエルズの自宅を訪ねます。ウエルズの住むサンフェルナンド・ヴァレーは盆地で、LAの街より5゜Cは気温が高い。エアコンなんてない時代、正に酷暑でした。ウエルズ家に着くと留守で、ドアの鍵は開いている。まだアメリカの治安は良かったんですね。家に入ってピアノのところに行くと、そこには鉛筆で走り書きした4行の詞があった。それは真冬の情景、ジャック・フロストやエスキモー・・・これ何だ?ありえないお伽話みたいだけど、心惹かれる詞だなあ・・・
 
 しばらくするとウエルズがテニス用の短パンにTシャツ姿で、暑い、暑いと戻ってきた。
「ボブ、この歌詞は何?」
「いやあ、あまりにも暑くて堪らんから、涼しいことを考えてみただけさ。」
「これいいんじゃない?曲にしようよ!」

 ウエルズが歌詞を紡ぎ、トーメがピアノで歌いながらメロディを付け、僅か45分で出来上がったのがこの曲。 

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冒頭フレーズの”Chestnuts…”のくだりは、殆どの訳詞で「暖炉で栗を焼く情景」になっているのですが、庶民の私の目に浮かんだのは、大阪、難波で売ってる天津甘栗屋。われながらお里が知れるなあ・・・と笑ったものの、 正解はウエルズが子供時代を過ごしたボストンの冬、クリスマス時分の街角に出る焼き栗の屋台のことだった・・・当たらずとも遠からず! 


The Christmas Song

Robert Wells /Mel Torme (1946) 

Chestnuts roasting on an open fire,

Jack Frost nipping at your nose.

Yuletide carols being sung by a choir

And folks dressed up like Eskimos.

Everybody knows a turkey and some mistletoe

Help to make the season bright.

Tiny tots with their eyes all aglow

Will find it hard to sleep tonight.

They know that Santa’s on his way;

He’s loaded lots of toys and goodies on his sleigh.

And every mother’s child is gonna spy

To see if reindeer really know how to fly.

And so I’m offering this simple phrase

To kids from one to ninety-two.

Although it’s been said many times, many ways,

“Merry Christmas to you.”

火の上で焼き栗がパチパチ、
霜の妖精に鼻をつままれ凍えるね、

合唱隊が聖歌を歌う、

行き交う人はエスキモーみたいな格好だ。

 

みんな知ってる、

面鳥とヤドリギが、この季節の彩り。

ちびっこ達の瞳が輝く、

今夜は眠れないよね。

だってサンタがやってくる!
玩具やお菓子でソリは一杯!

子供たちは気合充分、

トナカイが本当に空を飛ぶのか

確かめてやるんだと。

だからここは、ごく簡単にご挨拶、

1才から92才までの、

子どもの心を持つ皆さんに。
使い古された言葉だけれど
あなたにメリー・クリスマスを!” 

 

<名手ナット・キング・コール、エイゴにつまづく!>

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  メル・トーメのマネージャー、カルロス・ガステルは、ペギー・リーやナット・キング・コールを抱える腕利きでした。出来上がった曲をガステルとナット・キング・コールに聞かせるとたちまち気に入った。翌1946年、真夏の8月にキング・コール・トリオで録音。Capitol Recordsはジャズのレコードとして企画したのですが、キング・コール側はこの出来が気に入らず、この歌にはストリングスが絶対に必要!絃を入れて最録音したいと強く主張、スッタモンダの末に、会社側が折れる形で、ヴァイオリン4本の小規模なストリングスで再レコーディングした。これがキング・コールにとって、初のw/ストリングスとなりました。これが大当たり! 

 キング・コールはピアニストとしてトミー・フラナガンに大きな影響を与えた名手ですが、その声は弦楽器とのブレンドで最高の魅力を発揮しますよね!たった45分で書いた曲はトーメとウエルズに莫大な印税をもたらすことに・・・。

 さて、上の歌詞をご覧になって不思議に思われる方の注意力は凄い!サビの最後に出てくる「トナカイ=reindeer」は、サンタのソリを引くのだから4頭くらいは居るはずなのに単数形になっている。トナカイは英語の意味カテゴリーで「動物の群れ」であり、中学で習った「単複同形」。トナカイの個性は英語では認めてもらえないんだ・・・SheepやFish、それに我々Japaneseもこのカテゴリーに入ってるのがムカっとします(怒)。

 ところがキング・コールは1946年に録音したトリオとストリングス入りの両方のヴァージョンで、このトナカイを”reindeers”と複数形にして歌ってしまった。
 ヒットしたのだし、動物愛好家みたいでええやんか!と思うのですが、キング・コールは完璧な発音を誇るアーティストであると同時に、自他ともに認める完璧主義者。これじゃ嫌だ!耐えられない!というわけで、1953年にネルソン・リドルのアレンジで改訂版を録音、完璧な「reindeer」の発音は
“どんなもんじゃい!”ッと聞こえてきます。繊細なストリングスとともに、何段階もレベルアップした歌唱は最高です。
 
 「トナカイたち」と歌った初版のレコードはコレクターズ・アイテムとして、高値で取引きされているとか・・・初期のトリオでのヴァージョンから、歌詞違いのもの、訂正版、後のネルソン・リドルとの豪華ストリングスまで聴き比べると、キング・コールの歌唱の洗練度がよく判るし、職人魂が感じられてとても楽しくなります。 

 というわけで、使い古された挨拶ではございますが、私も皆様にメリー・クリスマス!

 寺井尚之トリオ、The Mainstem(宮本在浩、菅一平)のライブに、お祭り騒ぎはないけれど、心に残る季節の曲を聴かせてくれます。ぜひJazz Club OverSeasに!

第23回トリビュートCDできました。

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毎年 Jazz Club OverSeasはトリビュートが終わって瞬きすると師走です。

 トリビュート・コンサートのCDがうまく出来ましたので、お知らせします。
 23回のコンサート史上、ピアノのサウンドが最も輝き、宮本在浩(b)、菅一平(ds)の出し入れの効いたプレイで、とても良いバランスに仕上がりました。巨匠フラナガンがレギュラー・トリオとともに培った名演目、寺井尚之率いるメインステムも、ザイコウ、イッペイが「最強の二遊間」という感じのフィールディングで魅せる、強力トリオの録音となりました。

 お客様の掛け声や拍手もトリビュートならではの楽しさ!コンサートにご参加いただいたお客様にも、お越しになれなかったお客様にも、トミー・フラナガンをみんなで想う、OverSeasの空間を共に感じていただける三枚組CDになっています。
 録音からCD製作まで、毎回ボランティアでお世話くださる福西You-non+あやめ夫妻に感謝。
お申込みはメールか、ご来店の際にお願い致します。すでにご予約いただいているお客様には、来週早々、改めてご連絡いたしますので、どうぞよろしく!
 =収録曲=

<Disk 1> 曲説へ

1. Bitty Ditty ビッティ・ディッティ(Thad Jones)
2. Beyound the Blue Bird ビヨンド・ザ・ブルーバード (Tommy Flanagan)
3. Minor Mishap マイナー・ミスハップ (Tommy Flanagan)
4. Medley: Embraceable You エンブレイサブル・ユー(George Gershwin)- Quasimodo カジモド(Charlie Parker)
5. Lament  ラメント(J.J. Johnson)
6. Eclypso エクリプソ  (Tommy Flanagan)
7. Dalarna ダラーナ (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo  ティン・ティン・デオ (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

<Disk 2>   曲説へ

1. Let’s レッツ (Thad Jones)
2. That Tired Routine Called Love ザッツ・タイアード・ルーティーン・コールド・ラブ (Matt Dennis)
3. Thelonious Monk Medley
  Ruby, My Dear ルビー・マイ・ディア
     Pannnica パノニカ
     Thelonica セロニカ(Tommy Flanagan)
    Epistrophy エピストロフィー
    Off Minor オフ・マイナー
4. If You Could See Me Now イフ・クッド・シーシーミー・ナウ (Tadd Dameron)
5. Mean Streets ミーン・ストリーツ (Tommy Flanagan)
6. I’ll Keep Loving you アイル・キープ・ラヴィング・ユー (Bud Powell )
7. Our Delight  アワー・デライト  (Tadd Dameron)


<Disk 3>  曲説へ

1.With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワーズ・ノン (Tom McIntosh)
2.Medley: Ellingtonia 
  Chelsea Bridge チェルシーの橋(Billy Strayhorn)
  Passion Flower パッション・フラワー (Billy Strayhorn)
  Black and Tan Fantasy 黒と茶の幻想 (Duke Ellington)
 
春、秋、恒例、トミー・フラナガン・トリビュート、応援いつもありがとうございます!次回はフラナガン・バースデー前日、2013年3月15日(土)開催!どうぞよろしく!

第23回トリビュート・コンサート曲目解説

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  11月16日に開催した「第23回 Tribute to Tommy Flanagan」コンサート、ご参加のお客様、たくさんの拍手、掛け声、笑顔、激励メール、差し入れ、お供え、ほんとうにたくさんの皆様にご協力をいただき、ありがとうございました。もうすぐ、コンサートの3枚組みCDが出来る予定ですので、OverSeasまでお申込みください。

 私自身、今回のメインステムはかなりすごくて、長いOverSeasの片隅生活の中でも、思い出に残る演奏になりました。

 寺井尚之は師匠のことですから、まあ当たり前ですが、宮本在浩(b)、菅一平(ds)の化けっぷりにぶっ飛んだ感じです。ジャズの歴史を色々調べていると、巨匠と呼ばれるミュージシャン達の芸術的な岐路というものは、何かを「得た」ときと同じくらい、何か大きなものを「失った」ときに訪れるのだということが判ります。

 いずれにせよ、メインステムには、このレギュラー・トリオでしか出せないという強烈なメインステム・サウンド目指して化け続けて欲しいです。


 トミー・フラナガンの名演目を演奏するトリビュート・コンサート、23回目を数え、毎回HPに曲説をUPしているのですが、回を重ねる毎に曲についての新しい事実も判明し、今回の曲説も限られたスペースですが、かなり改訂を加えました。

 もしご興味があればぜひ読んでみてくださいね。

<第23回トリビュート・コンサート曲目説明>http://jazzclub-overseas.com/tribute_tommy_flanagan/tunes2013nov.html

 

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 なお、演奏写真は、全てジャズ評論家、後藤誠先生のご提供です。後藤先生、ありがとうございました。