GW明けの大阪は早朝の雷が”Party Is Over!”と高らかに2発。皆様、ゆっくりお過ごしになりましたか?
今週末のジャズ講座は、トミー・フラナガンとジョージ・ムラーツのファンににとって”JUST MUST”。とうとう『Ballads & Blues』の登場です。
このアルバムが出たときの、関西学生ジャズ・シーンの興奮はいまだ忘れられません。「デュオ」のレコードは売れないという業界の定説があるそうですが、そんなん関係ない!
寺井尚之が30余年じっくり聴きこみ、自分の一部にしたピアノ・デュオの歴史的名盤、録音時の色んな事情など、トミー・フラナガン、ジョージ・ムラーツの二人から直接聞いた逸話や、深い音楽的考察を聴くのが楽しみです。
加えて、フラナガン-ムラーツの名コンビが収録曲をどのようにヴァージョン・アップしていったか、即興演奏家の軌跡を、秘蔵音源と共に一望することが出来るでしょう。
『Ballads & Blues』の残りテイクを収録した『Confirmation』のデュオ、2曲も併せて解説!
初参加でも大丈夫です。 残席僅か、必ずご予約のうえお越しください。
CU
カテゴリー: ジャズ講座 名盤名場面集
ジャズ講座こぼれ話:NYの名所、ジャズ教会&ジャズ牧師の話
土曜日のジャズ講座は、名演、名盤の二本立てで、すごく楽しかったですね!
その夜、皆で楽しんだのは、OverSeasが大好きなドラマー、エディ・ロックさんの『Eddie Locke(ds)&Friends Live at St. Peter’s Church』と、トミー・フラナガン・リーダー作『Tommy Flanagan Trio Plays the Music of Harold Arlen』! 寺井尚之の弁舌は滑らかで一瞬たりとも聞き逃せない面白さ、でも「名古屋のお客様が最終新幹線に乗り遅れはったらどないしょう…」と私はハラハラしてました。
今回はOHP映写機がチューン・アップされていて、構成表や対訳が見やすかったでしょう? 先月は長年酷使した疲れが出たマシンが「マッチ売りの少女」状態、すぐにライトが消えちゃって、皆で氷で冷やしたり、ウチワで扇いだり大変だったんです。土曜日に間に合うように修理してくださったダラーナ氏、ありがとうございました!
<エディ・ロック(ds)が燃えた聖ピーターズ教会>
講座前半のハイライトは、何と言ってもエディ・ロック(ds)の世界遺産的ドラム・ソロ=Caravan!オーディオ・マニアならきっと顔をしかめるほど録音状態が悪いし、ピアノの調律も最悪なのですが、演奏内容は悪条件を吹っ飛ばす!
サー・ローランド・ハナ(p)トリオで、OverSeasが店ごと歓声で揺れた興奮がそのまま甦りました。
自己のブログにこの日のレポートをしてくださっているG先生が、ジャズ史家ダン・モーガンスターンに照会し、解説して下さったように、元々このアルバムは、AFSという非営利文化団体の資金集めのコンサートの録音で、アルバムも会員向けの非売品だったそうです。
講座翌日の日曜日に、当時のNew YorkerやNY Timesのコンサート欄をしらみつぶしに探したのですが、コンサートの宣伝記事は載っていなかったので、本当にプライベートなコンサートだったんですね。因みにこの前日、トミー・フラナガンは、
エラ・フィッツジェラルドの伴奏者として、エイブリー・フィッシャー・ホールに助っ人出演しています。
寺井尚之の迫真の実況解説は、まるで教会のホールのど真ん中で見てきた人みたい!調律の悪いピアノが、フラナガンの神業でうまくサウンドしていく様子も実感できました。(「どんなひどいピアノでも鍵盤のツボを瞬時に見つけて、そこをヒットさせなイカん。」とフラナガンは寺井に言っていたっけ。)
Caravanのドラム・ソロにはダンスがあって詩がある。エディ・ロックという人間の全てが伝わってくるような魂のドラムソロ!師匠のジョー・ジョーンズやロイ・ヘインズなど偉大なドラマーの多くがそうであったように、彼が元ダンサーであったことを強く感じます。クライマックスでは、エディさんのダンスに併せて、ドラムビートを繰り出している感じさえします。丁度、歌舞伎で「附け打ち」と言って拍子木が、役者さんの動きにピタリと併せ、絶妙の間合いでテンポをUPしながら見せ場を作るあの感じ!激しいドラムソロがブレイクする瞬間には私の血が騒ぎ、思わず「日本一!」と掛け声をかけたくなってしまいました!
<ジャズ牧師、ジョン・ゲンセル>
さて、このコンサートの会場となった聖ピーターズ教会は、宗派を超えた「ジャズ教会」として非常に有名なジャズの聖地です。それは、デューク・エリントンからレスター・ヤング、セロニアス・モンクに至るまで多くのジャズ・ミュージシャンの相談役で、ルーテル教会から正式にジャズ・コミュニティを管轄する牧師として認められ、礼拝にジャズを取り入れたNYの名物、ジョン・ガルシア・ゲンセル師のおかげです。
ゲンセル牧師のことで私が一番印象に残っているエピソードは、末期がんで苦しむビリー・ストレイホーンを頻繁に見舞い、彼の最後を看取ったエピソードです。デューク・エリントンも同様で、彼を羊飼いに例えた“Shepherd(羊飼い)”という作品を献上しています。
師は、自分自身の人間としての内側を表現する本当のジャズは、聴くものの内面にしっかりと到達するものであるとして、礼拝に最適な音楽と考えていて、この教会では、フランク・フォスター(ts)などビッグバンドの演奏会が定期的行われていました。
Youtubeでは、ゲンセル師が、教会に出演する歌手ボブ・スチュワートとメル・ルイスOrch.を紹介してからコンサートを中継した映像があるので、エデイ・ロック&フレンズの会場を観ることが出来ますよ。ピアノは若き日のハロルド・ダンコ、ベースはハナさんとも共演していたジョン・バーですね。
チャーリー・パーカー、セロニアス・モンク、パノニカ…数え切れないほど多くのジャズの聖人たちの告別式、結婚式がゲンセル牧師によって行われました。以前ビリー・ストレイホーンの伝記で紹介した告別式の映像にも、壮年時代のゲンセル師が映っています。
トミー・フラナガンが亡くなる前にゲンセル師は他界されましたが、告別式はやはり聖ピーターズ教会で行われ、YAS竹田(b)が大きな献花と共に、寺井尚之の代参をしてくれました。
うちの実家は禅宗で、お坊さんはフリー・ジャズのプロデューサーをしておられるのですが、少し雰囲気が違うかな・・・
次回は、講座のもうひとつのハイライト、トミー・フラナガン3のハロルド・アーレン集からジャズにゆかり深いもう一つの宗教、カリブのヴードゥー教と南国の花の香りが一杯のハロルド・アーレンのラブ・ソング、A Sleepin’ Beeについて紹介したいと思います。
今週末のThe MainstemのライブまでにぜひUPしておきますね。お楽しみに~!
CU
ジャズ講座こぼれ話:Something Borrowed, Something Blue
先週のジャズ講座も楽しかったですね!
裏話の数々や、スタジオ内のミュージシャンたちのプレイ上のやりとりから判る様々な事実・・・身振り手振りもつけながら、寺井尚之が見事に大阪弁に通訳してしまうので、お店の中は大爆笑!ホワイトデーにも拘わらず駆けつけてくださったみなさま、どうもありがとうございました!
<借りものと青いもの は花嫁の父の歌?>
講座発起人で、音楽をすごくよく判っている男、ダラーナ氏から、『サムシングボロウド~はエレピということもあり、あんまり聞かなかったんですが、やはり名盤!(dsは別にしても・・・) また、ジックリ聴きます。』 とメールを頂戴♪ 確かに、今回登場した『Something Borrowed, Something Blue』はトミー・フラナガン・リーダー作のうちで最も売れなかった作品だそうです。原因は、パームツリーのジャケットや、エレクトリック・ピアノでの演奏が2曲入っているのが、正統派ピアニストのイメージにそぐわなかったからかも知れません。アルバムはオリン・キープニュースとエド・マイケルの共同プロデュースなっています。エド・マイケルは同じギャラクシー・レーベルで、スタンリー・カウエルのアルバム“Waiting for the Moment”をプロデュースしていて、やはりピアノだけでなくフェンダー・ローズやシンセサイザーなどをカウエルに弾かせているからエド流なのかも・・・
寺井尚之が解説していたように、エレピで演奏したフラナガンのオリジナル曲、”Something Borrowed, Something Blue”は、後にグローヴァー・ワシントンJr.が『Then and Now』というヒット・アルバムでフラナガンと演奏したおかげで、思いがけない多額の印税をもたらしてくれたそうです。 「借りものに青いもの」とは、英国の格言で花嫁さんが幸せになれるよう、嫁入り道具として持っていくものなんです。
Something old, something new
Something borrowed, something blue
And a silver sixpence in her shoe.
講座のOHPにも使った上の写真は、英国の婚礼用品サイトから拝借しました。欧米では、花嫁さんに、古いものと新しいもの、借りものと、青いもの、そして靴の中に銀貨を入れて嫁入りすると幸せになれる。という言い伝えがあるそうです。つまり、嫁入りしても、実家の歴史や家風を忘れるな(Old)、初心を保ち未来への志を持て(New)、困った時には、人生の先輩達の知恵を借りろ(Borrowed)というわけです。そして、ブルーという色は処女と貞節の象徴、夫に貞節であれ。靴の中の銀貨は、嫁入りしてもお金の苦労をせぬようにという親心ですね。
寺井尚之が推測するように、トミーの娘さんが嫁入りしたときに作曲したのかも知れないし、当時流行のソウルフルな雰囲気を取り入れて作ってみた実験的作品なのかも知れません。講座で、皆と一緒に改めて聴くと、ダラーナ氏の言うとおりフラナガンは、スイッチがどこにあるかも全くチンプンカンプンなフェンダー・ローズでも、ピアノと変わらない歌い上げ方で、心に沁みたなあ・・・
<「偶然の旅人」を産んだPeace>
同アルバムに収録されたバラード、“Peace”では、フラナガンの意図を汲むことが出来なかったジミー・スミス(ds)のおかげで、思わぬ演奏展開になってしまったことが手に取るように判りました。そして2月29日(金)のThe Mainstemのライブでは、その時にフラナガンの意図していたアレンジで演奏したことを種明かしされて、ナルホド!と思ったお客様も多かったのではないでしょうか?
有体に言えばミス・テイクであったはずの“Peace”ですが、このトラックは米国ニューイングランドでは非常にポピュラーなんです。というのも、ボストン地域のラジオ局、WGBHの人気ジャズ番組、“Jazz with Eric in the Evening”という番組のテーマソングとして、1981年から現在に至るまで、ウイークデイの午後8時から毎日放送されているんです。番組のサイトを見ると、様々な企画やゲストのインタビューがあり充実した内容です。ホストのエリック・ジャクソンはニューイングランド地域のジャズコミュニティのボス的存在で、ジャズ・アナウンサーとしても、プロモーターとしても非常に有名な人です。トミー・フラナガンが、ケンブリッジのチャールズ・ホテルにあるレガッタ・バーで頻繁に演奏していたのも、この番組に効用があったのかも知れません。やがて、90年代にケンブリッジに客員教授として滞在していた村上春樹が、そこでトミーのライブを聴き、名作「偶然の旅人」が生まれたんですね!
そういえば、トミーはレガッタ・バーで、必ず“Peace”を演奏していたと、ダイアナも言っていたっけ・・・
今回、トミー・フラナガンの”Peace”をネット検索してみると、ボストン方面の色んなブログに言及されていました。政治経済を主なテーマにしているブログにも、「トミー・フラナガンの演奏するテーマソングは、上質のワインの最初のひとくちのように心地よい」と書かれていて嬉しかった。
決してトミー・フラナガン屈指の名演ではなかった“Peace”ですが、今でもレッドソックスのお膝元で親しまれているのは嬉しいことですね。
トミー・フラナガンの誕生日に心をこめて!
CU
パノニカに夢中「三つの願い」を読みながら(その3)
写真順:
セロニアス・モンク:2枚連続~
アート・ブレイキー2枚連続
~ベティー・カーター(vo)
~ジョン・コルトレーン(ts)
~ニカのミンクを着たチャーリー・ラウズ(ts)とソニー・クラーク(p)
~英国の盲目のピアニスト、エディ・トンプソン(p)
~猫と戯れるトミー・フラナガン
~レックス・ハンフリーズ(ds)
~ジョン・ヘンドリクス(vo, lyricist)
~メアリー・ルー・ウィリアムズ(p)
~デューク&マーサー・エリントン親子
~ロイ・ヘインズ(ds)とチャーリー・ミンガス(b)
~チャーリー・ミンガス(b)
~バド・パウエル(p)
~レイ・ブライアント(p)
~ソニー・ロリンズ2枚連続
~ホレス・シルバー(p)
~エロール・ガーナー(p)
~マイルス・デイヴィス(tp)2枚連続
~ラストは愛猫たちとレコードに囲まれたパノニカ。
皆さん、お元気ですか?先週は「ジャズの歴史」「ジャズ講座」二大イベントで、靴が脱げちゃうほど店の中を走り回ってました。
今回は、パノニカ男爵夫人が遺した「三つの願い」の完結編、本には300人近いジャズメンの「三つの願い」が収められていますが、Interludeの読者の皆さんに身近なごく少数のアーティストが何を願っていたかを紹介したいと思います。
パノニカ夫人が、「三つの願いプロジェクト」を開始したのは’60年代前半、ベトナム戦争が社会に影を落とし、ビートルズが世界を席巻していたジャズの「真冬」であったことを心に止めておく必要があります。フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)の”Money, Money, Money”という答えは決して強欲なものではなく、多くのジャズメンは、当時本当に”食い詰めて”いたんです。
トミー・フラナガンがエラ・フィッツジェラルドの伴奏者になったのも、丁度この頃です。
優れたジャズメンが経済的に不遇であったからこそ、パノニカはこんな問いを投げかけてパトロンとしての自分に出来ることを探っていたのかもしれません。
冒頭には、「三つの願い」に対する、セロニアス・モンクのいかにもモンク的な反応が記されていました。
<ニカの遺稿から:>
私はまず最初に”3つの願い”をモンクに訊くことにした。
「3つの願いが何でも叶えられるとしたら、あなたは何を願う?」
モンクは、黙って部屋の中を歩き回った。やがて彼は窓のところで立ち止まり、しばらくハドソン川の向こうの摩天楼を眺めてから、おもむろに答えた。
① 音楽的に成功すること。
② 幸福な家庭
③ 君みたいにクレージーな友人を持つこと。
私は言った。「あらセロニアス、別に願わなくたって、もうすでに持っているものばかりじゃない!」
すると、彼は静かに微笑み、再び部屋を歩き回った。
<巨匠たちの願い>
先日の勉強会で、皆で聴いたビバップ以前の巨匠達は当時不惑の年齢、音楽さながらに、答えにも各巨匠の「スタイル」を感じます。ルイ・アームストロングがステージで隠す知的な顔を見せているのが、私には特に印象的でした。
ルイ・アームストロング
①一年間演奏を休み、今まで蒐集したテープを聴き直し、それらを整理する。そうしたら、何か新しいものが書けるだろう。充電すると自分の為に成ると思う。
②休養後にカムバックして、もう一度ファンの皆の前で演奏を聴かせたい。
③100歳まで生きたい。自分の音楽を追求しながら、次の世代がどんなことを演っているのか聴くんだ。
ロイ・エルドリッジ(tp)
① ラジオ・TV技師の学校を卒業すること。そうすりゃ、もうペットをブロウしなくてもよくなるから。
(エルドリッジは唇を損傷し、往年のハイノートが吹けなくなっていたんです。)
② 自分のクラブを開店できるくらいの資金。
③ せめて10年間戦争がないように。そうすりゃ僕は60歳だから、それまでに金を貯めて隠居できる。
デューク・エリントン
「私の願いは非常にシンプルだ。常に最高のものしか望まない。」
ビリー・ストレイホーン
「僕の望みは、音楽が今よりも、ずっと美しいものになること、僕はそれらを聴き、自分も永遠に音楽を書き続けたい。」
ジョー・ジョーンズ (ds)
「俺の願いは一つだけ、後10年演奏することだ。」
<ビバップのサムライ達 >
パノニカを魅了した往年のビバッパーたちの多くが、ヨーロッパに新天地を求めてNYを離れていった頃です。バド・パウエルやA.Tの願いは、本当に切ない。
ディジー・ガレスピー(tp)
① 金のために演奏しなくてもよくなること。
② 世界恒久平和
③ パスポート不要の世界。
ケニー・クラーク(ds)
① ブリジッド・バルドー② ブリジッド・バルドー③ ブリジッド・バルドー
(1a) いや、今のは冗談だ。一番目の願いは、ディジー・ガレスピー(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、レイ・ブラウン(b)、ハンク・ジョーンズ(p)で、僕のドリーム・クインテットを結成することだ。
(2a) 次の願い?判らないよ、ニカ、しいて言えば僕の息子をこっち(パリ)に呼んで、音楽をさせることかな…
(3a)三番目の願いは、この土地、パリに学校を作って、若者たちに正しい音楽の道を教えることだな。それが出来れば僕は充分幸せだ。金儲けより、何か意義有ることをするほうがいいな。
タッド・ダメロン(arr.p)
「自分自身でいること」
アーサー・テイラー(ds)
① チャーリー・パーカーが今でも生きていますように。
② バド・パウエルが今もNYで、昔みたいにバリバリ弾いているように。いや、とにかく弾いていればいい。
③ 金
バド・パウエル(p)
① 医者や病院に通わなくてもよくなりますように。
② 日本に行きたい。
③ レコードを作りたい。
バド・パウエルが日本に来てくれたら、バド・パウエルのスタジオ・レコーディングがもっとあれば、どんなに素晴らしいことだったでしょう!’60年代初来日したアート・ブレイキー(ds)とジャズ・メッセンジャーズが、日本人のジャズに対する愛と理解に心底感動したそうで、ジミー・ラッシング(vo)や、ダグ・ワトキンス(b)も「日本」が願いの中に入っていました。彼らが現在の日本に来ても同じように思ったでしょうか?
<うまくなりたい!>
音楽的な成功を願うジャズメンが多いのは当然ですが、テクニックのある人ほど、技術的な向上を願うのは、オズの魔法使いに出てくる、勇気を欲しがる「ライオン」や知性を欲しがる案山子たちを連想しました。
J.J.ジョンソン(tb)
「思いのままに演奏できるようになること。」
ハンク・ジョーンズ(p)
「自分の楽器で、世界一になること。」
オスカー・ピーターソン(p)
① 思いのままにピアノを演奏できるようになること。
② 皆が、どんな芸術形式に対しても、本質的に理解してくれること。
③ 世界中の人に愛が溢れること。
<意外な人の意外な願い…>
最後に、Interludeを愛読してくださる皆さんが、最も身近に感じるミュージシャン達の望みをピックアップしておきます。新しい大統領になった現在でも有色人種をサル扱いする社会(私たちアジア系も決して例外ではありません。)に対する憤怒、公民権運動の時代の香り、クラブ・ギグの悲哀、色々感じられるのではないでしょうか?
サー・ローランド・ハナ(p)
① 第一に、自分の能力が全開できるよう、音楽の勉強が出来るような経済的余裕が欲しかった。
② 二番目は、全ての人間が平等かつ個性を持って生まれてくること。
③ 三番目は… 今でも母が生きていてくれること。
ジミー・ヒース(ts,as,fl)
① 「君は社会に対して責務を果たした。」という一項が、真実になるよう願ってる。つまり、刑務所で服役し出所して、これで終わったという気分になっても実際はそうじゃない。一旦犯罪を犯したものには、前科が付いてまわる。
(信じられないでしょうが、ジミーは麻薬のトラブルで刑務所で服役していたことがあるんです。)
② 世界をもう一度作りなおすなら、人間の肌の色を全員一緒にする。人間は誰でも、その人の実力、個人の長所で判断されるようになるんだ。
③ 3番目の願いをする権利は、僕の妻に譲るよ。
コールマン・ホーキンス(ts)
① 完璧な健康。
② 音楽に於ける大成功。
③ 大金持ちになること。
ジョン・コルトレーン(ts)
① いつまでも、音楽が新鮮であること。今僕はちょっとスランプなんだ。
② 全ての疾病への免疫
③ 現在の3倍の性的パワー、それにもうひとつ、他人へのさりげない愛情、これはほかの二つのどっちかにくっつけといてくれてもいいよ。
トム・マッキントッシュ(tb, comp, arr.)
「我々の創造主である神の望むようにいられること。万事それでよし。」
クラーク・テリー(tp, flg)
① 健康が保障されれば、幸福と長寿が手に入るよね。
② 金のことをあれこれ心配しないでいいくらいの財産。
③ 人種差別をやめるきっかけになるような出来事が皆に起こること。
ディック・カッツ(p)
① どのクラブにもスタインウエイがありますように。
② ドラマー達が、今みたいにうるさく叩きませんように。
③ 3番目の願いを考える時間をください。
ビル・エヴァンス
「子供のときに、同じことを質問された!一番目の望みは、何でも願いを叶えてくれる指輪を手に入れること。そうすりゃ、願いは一つだけですむ!」
バリー・ハリス(p)
① 世界平和
② スタインウエイと、ちゃんとしたレコード・プレイヤー、それさえあれば、バド・パウエルやチャーリー・パーカーのレコードをずっと聴いていられるから。
③ ”ソウル””ファンク””ロックンロール・ジャズ”の滅亡。
トミー・フラナガン(p)
「僕はずっと健康で生きていたい。そして、一人でちょっと楽しめるような秘密の隠れ家が欲しい!」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
今日ダイアナ・フラナガンに電話したとき、パノニカのことを訊いて見ました。ダイアナは勿論ウィーホーケンのお家にも行った事があるそうです。
パノニカには独特のすごいオーラがあって、自分の知る限りでは、皆がちゃんと「パノニカ」と呼んでいた。面と向かって「ニカ」なんて呼べる人はいなかったわ。とっても複雑な女性だから、ひとことで彼女を「どんな人」なんて言えない。
とにかく、ジャズとジャズ・ミュージシャンに対してリスペクトがあったの。そうそう、お家には猫が沢山いてね…猫嫌いなら気持ちが悪かったかも知れないけど、トミーは小さな生き物は何でも大好きだったからねえ。
お金の援助?そうね、具体的に誰がいくらもらったなんて私は知らない。でも、そんなことがあったって、ちっとも不思議じゃないわ。彼女は、いつでも親身になってミュージシャンに接していたもの。
皆さんがパノニカに「3つの願い」を訊かれたら何と答えますか?
ニカの孫娘、ナディーヌの序文の結びには、彼女の最後の願いが書かれてありました。
私が死んだら、遺体は火葬にして骨はハドソン川に蒔いて下さい。真夜中ごろ(Round Midnight ) に…
CU
速報:祝日勉強会「ジャズの歴史を知っておこう」
昨日、寺井尚之ジャズピアノ教室生徒会プロデュースで寺井尚之が語る「ジャズの歴史」講座を開催しました。
OHPプロジェクターの横でメモを取るのは、どんなややこしい講義資料もばっちりオン・タイムで映写してくれるプロジェクターの巨匠、むなぞう副会長です。
初心者を対象にしたジャズ講座でしたが、生徒だけでなく、ジャズをすでによくご存知の常連様などビジターも来られて会場はぎゅうぎゅう超満員!
アメリカ社会史、文化史、黒人学、そして音楽史、いろんな側面から、寺井尚之の師匠をトミー・フラナガンを生んだ背景について、選りすぐりの音源を聴きながら、判りやすく勉強してもらえたみたいでよかったー!
ディック・カッツさんにいただいたテディ・ウイルソンの自伝を掲げてフラナガンのアイドルだったウィルソンの人となりについて語る寺井尚之は、なんかうれしそう。
お昼の講座だったので、寺井尚之は講演前には調理場に入って、カレーをサーブしてコーヒーもたてて大忙し、注文をさっさと言わない生徒には、「バッパーは何でもはよ決断せなイカン!」と、眼光のレーザーで一喝!生徒達は「来た、来た、来た~!」と震えてたけど、笑ってた。
皆の熱心な瞳と、反応の良いお客様のおかげで寺井尚之の弁舌はどうしようもなく冴え渡り、講座か高座かわかんないくらいギャグも連発!ああなったら、もう誰にも止められない!高度な楽曲解説、NHK教養番組にまけない公民権運動の解説から、レスター・ヤング(ts)の下着の柄まで幅広く解説!
一番嬉しかったことは、若きミュージシャンたちが、ジャズの歴史に興味を持ち、ジャズを演奏する時の取り組み方のヒントを掴んでくれたこと。 うちの教室では、日常ピアノならではのサウンドを出すために、ひとりひとりに合った姿勢を指導しているけれど、今日は「心の姿勢」について考えてもらえたのが嬉しかったです!
閉会挨拶は新任あやめ会長、ビシバシ後輩を鍛えぬく予定。
鶴橋のお肉屋さんで分けてもらった極上の牛すじで作った寺珠カレーも好評でさらに嬉しかったです!
明後日、バレンタインデーは通常のジャズ講座!偶然にもチョコレートをジャケットにしたトミー・フラナガン-ハンク・ジョーンズのピアノ・デュオの名盤が2枚登場!チョコレートみたいに甘くて苦味もあるすごいインタープレイです。
CU
祝日勉強会 「これだけは知っておきたいジャズの歴史」
寺井尚之ジャズピアノ教室生徒会が主催するジャズ講座を、休日の明後日のお昼に開催することになりました。
講師はもちろん井尚之、テーマは建国記念の日になんとなく相応しいテーマ:「ジャズの歴史」です。と、いうのも、現代のジャズ初心者は、トミー・フラナガンはおろか、オスカー・ピーターソンもルイ・アームストロングもデューク・エリントンも知らないコがいるからです。とはいえ、それを「最近の若いもんは…」と言っても始まらない。昭和の昔なら、セロニアス・モンクやデューク・エリントン、カウント・ベイシー、ナット・キング・コール、ルイ・アームストロング・・・皆日本のTV番組にゲスト出演していたし、ジャズ喫茶に行けば、一日中色んなジャズのアルバムを聴いていられたけれど、今はそんなわけにいかない。ネット上に情報は溢れているけど、何を聴いていいのかも判らない。
ゆとり教育、あるいは受験体制のせいなのか、「禁酒法」も「公民権運動」も教えてもらっていないらしい。(漏れ聞くところでは、今の義務教育じゃ、ガリレオやエジソンもなし、台形の面積も習わないらしい・・・)
よしっ、そんなら話したろ、見せたろ、聴かせたろ。
アフリカで拉致され奴隷船でアメリカに運ばれて来た人達、彼らが安息日にニューオリンズのコンゴ広場でのみ許された打楽器やダンスの話に始まって、売春宿やジェリー・ロール・モートンの話、禁酒法や世界大戦が変えた演奏形態、白人が熱狂したジャズエイジ・・・ビッグ・バンド時代は何故終焉したのか?
ジャズはどのようにして広まったのか?どのように変化したのか?ビバップを生んだ背景は何なのか?デトロイト・バップは?トミー・フラナガンは?
18世紀から21世紀まで、戦争や人種問題、様々な側面から、アメリカ社会史、文化史を、寺井尚之が臨場感溢れる弁舌で、まるで見てきたように、判りやすく話してきかせます。勿論、寺井尚之(p)ですから、音楽もしっかり専門的に解説しますよ!
当日の用務員、給食係りは不肖私がひとりで担当させていただきます。たったひとりなので、サービスはきっと至らないと思いますが、どうかお許しください。
でも、明日、いつもはプライベートな来客時にしか出さない特製カレーを仕込でおきますから、おなかが減ったらどうぞ召し上がれ!トロトロになった和牛の牛スジがたんまりはいってます。デザートには、自宅近所のパティスリー「桃の木」の焼きたてロールケーキも用意しておりますからね~。
現在ほぼ満席ですが、お越しになりたい方は2月9日中にTEL 06-6262-3940かメールでお知らせください。(一般受講料 2,500円)
CU
フラナガンの隠し味:ジャイブ音楽
新春ジャズ講座の前日に、ジャイブ音楽とエディ・ロックさんについて書いたのですが、エントリーを修正しようと思ったら、ドジを踏んで大部分を消してしまい、ほんとのジャイブになっちゃった・・・、皆さん、どうもすいません。
十日戎の昨日のジャズ講座、ほんとに楽しかったですね!サザン・オールスターズの名付け親という、ポップス界のVIPまで参加してくださって、お客様の盛り上がりも「繁盛亭」か「鈴本演芸場」かというくらい…新春にふさわしく、笑う角には福来る!
楽しい余韻が残っているうちに修正版を書いておこう。
右から:Jivin’ With the Refugees From Hastings Street, Alone Too Long:ジャケットだけでも水と油、一見無関係に見えるけど・・・
昨日は、トミー・フラナガンの、硬派のソロ・ピアノ作品2枚、『アローン・トゥー・ロング』と>『ディグニファイド・アペアランス』、ドラマー、エディ・ロックさんのお笑い系アルバム、『ジャイヴィン・ウイズ・ザ・リフュジーズ・フロム・ヘイスティングス・ストリート』他一枚が登場!
私は専ら、ロックさんのアルバムのジャイブな対訳に専念していて、ソロ・ピアノのレコードは、ほんとに久々に、昨夜皆さんと一緒に聴きました。実は、ひょんなことから、あの2枚のソロ・アルバムを制作した方から数年前にお話を伺ったことがありますが、企画自体にさほど長い打ち合わせはなかったそうです。でも、あの2枚のアルバムは、それまでのフラナガンの音楽人生を振り返るような壮大な内容であったんですね。制作者の方は、そのことはご存じなかったようです。昨日の解説で、「そうか!」と大納得しました。あの2枚はアート・テイタム(p)やビリー・ホリディ(vo)、コールマン・ホーキンス(ts)・・・、フラナガンの心に生きる偉人達の肖像画が並ぶ美術館のような作品だったこと、そして、フラナガンのプレイは、「偉大な人たちのレパートリーを上手にカバーしました」というレベルを遥かに超えたものだった・・・ダ・ビンチ・コードみたい!芸術家が作品に秘めた凄い秘密を知り、興奮しました。
中でも、印象的だったのが、アート・テイタムへのオマージュ、”Like a Butterfly”。フラナガンが生まれる前にヒットしたポップ・チューン(’27)で、テイタムのおハコです。本当のタイトルは”Lust Like a Buttterfly that’s Caught in the Rain” (雨中をさ迷う蝶のように)
これをフラナガンは、(テイタムみたいに華麗に弾こうと思えば弾けるのに)音数を絞り込み、見事に表現しています。ひらひらとさ迷う蝶の羽の鮮やかな色彩、雨粒がしっとり落ちる様子、そして雨が呼ぶ埃の匂い・・・羽が濡れると飛べなくなり、命もなくなる...そんな蝶のはかなさ、美しさが、ピアノの音色やフレーズに凝縮されています。質感、色彩、香りから、哲学的な死生観までを、簡潔な表現の中に凝縮する・・・それって俳句でしょ!日本文化でしょ!美しくはかない蝶を描き出すトミーのピアノに感動しながら、「日本人でよかった」と何故か思う・・・
昨日のアルバムは、シリアスな作品なんだけど、決して「芸術祭参加」みたいに四角四面にならないのがトミー・フラナガン。それは何故?その答えが次のジャイブ・アルバムの中にあった!
<ヘイスティングス通りからの避難民とジャイブろう!>
“Jivin’ With the Refugees From Hastings Street “はLPしかないので、お聴きになった方はほんの僅かと思います。歌手(!)エディ・ロック(ds)さんを盛り上げるのは、若い頃コンビを組んでいた、オリヴァー・ジャクソン(ds)と、コールマン・ホーキンス・カルテットの盟友たち、やはり美声の持ち主メジャー・ホリー(b)と、フラナガン(p)で全員がデトロイト出身!加えて、ジャズ史家、ダン・モーガンスターンさんがサイレンを鳴らす係で出演!
これだけ書けば、「ハハーン、単なる珍盤か!色もんやな・・・」とソッポを向く人が多いでしょう。おまけに、「ルート66」など、キング・コールやファッツ・ウォーラーなどの往年のヒット曲が一杯・・・最後にトミー・フラナガンはエレクトリック・ピアノを弾いていると来れば、殆ど聴かずにパスするかも・・・
左からフラナガン、コールマン・ホーキンス、メジャー・ホリー(b)、エディ・ロック(ds)
加えて、我々日本人ファンが更に敬遠するのはタイトルが長いこと!ジャケットは可愛いのですが、タイトルが長い!日本語にするならば、“ヘイスティングス・ストリートからの難民とジャイブを!”、「それなんやねん?」て感じだもんね。だけど、このタイトルは怖い怖いブラック・ユーモアです。 ヘイスティング・ストリートというのは、フラナガン達が育ったデトロイトの歓楽街にある通りの名前。モータウン・レコードの総帥、ベリー・ゴーディも、若いときこの辺りのジャズクラブを本拠としていました。その反面、ヘイスティングス・ストリートはアメリカ史の人種抗争のマイル・ストーンです。自動車産業の街、昔のデトロイトは非常に激しい人種隔離政策で知られる土地でした。 ’43年に、白人労働者がブラック・ワーカーの急激な増加に猛反発して起こしたヘイト・ストライキがきっかけで、大規模な人種暴動が起こり、商店が略奪され、街は破壊され、多数の死傷者を出したことがあります。暴動を鎮圧するはずの警察は、黒人たちを滅多打ちにし、多数の死傷者を出しました。中でも、最も沢山の人が亡くなったのが、「ヘイスティングス・ストリート」だったんです。余談ですが、ダン・モーガンスターンさんはホロコーストからの避難民です。
デトロイター達が繰り広げる愉快なジャイブ音楽、ジャイブはただの冗談音楽じゃなくってブラック・ミュージックのエッセンスが一杯!そして裏には、黒人の「負」の遺産が隠れていることをタイトルで表している。これがほんまのブラック・ユーモア!
聴いてみると、今は超一流のモダン・ジャズのプレイヤーに成長したミュージシャンたちが、若い頃親しんだ音楽を、最高のグルーヴで楽しく演っている。すごくきっちりした演奏で、ユルいところが全くない!遊び心一杯で粋なんです!!
’43のデトロイト人種暴動で街は破壊された
<エディ・ロックさんのジャイブ人生>
OverSeasでエディさんと言えば、サー・ローランド・ハナ3でのCaravanのドラムソロが伝説ですね!NYのジャズ・ミュージシャンの間ではエディさんの「キャラヴァン」は極めて有名で、知らない人はいないんじゃないかしら?なのに、批評界では過小評価もいいところ。頑固な職人気質が原因なのかも知れません。
エディさんはその昔、デトロイト、ミラー高校の後輩ドラマー、オリヴァー・ジャクソン(ds)と、ボードヴィルのコンビを結成して、唄って踊ってドラムを叩くショウで人気を博しました。トントン拍子にNYのアポロ劇場に進出したまではよかったんですが、丁度ロック&ロールが台頭。ボードビルは流行遅れとなり、二人は落ち目に。NYで宿代が払えなくなり、あわやホームレスになりかかります。
その二人を救ったのがドラムの神様、ジョー・ジョーンズ、二人を自分の常宿に居候させてくれた。エディさんは、靴磨きなどをしながら、ジョー・ジョーンズの内弟子として、師匠のカバン持ち、荷物運びをしながら修業した苦労人なんです。大劇場のスターだったエディさんが靴磨きするには、相当の苦渋を飲んだことでしょう。それを、「株で人を騙して儲けた金も、靴磨きで稼いだ金も、金に違いはない。それで飯を食うのが先決だ。」と師匠パパ・ジョーに諭されて、目からうろこが取れたとか。だからエディさんの芸には、なんともいえない味わいがあるんですね!
おかげで、ロイ・エルドリッジ(tp)に気に入られて、エディさんはドラマーとして超多忙になり、コールマン・ホーキンスのコンボでフラナガンたちとチームを組むのですが、ザッツ・アナザー・ストーリー。講座本第5巻の付録を読んでみてください。
エディさんの修行生活が、ドラムに味わいを与えるように、このアルバムで、最高のブギウギ・ソロや、爆笑もののホイッスルを入れるトミー・フラナガンのジャイブ・スピリットは、シリアスな作品をやっても、決して退屈になったり尊大にならないフラナガン音楽の隠し味だったんですね!
CU
今週のジャズ講座予告編: エラ+フラナガンのクライマックス・シリーズ
土曜日はジャズ講座!エラ&フラナガン・コラボ・シリーズ最終回とあり、沢山のお客様にご予約頂いてます。
私は下準備に必死のパッチ!(註:バッパー好みの韻を踏む、このヒップな大阪弁は「なりふり構わず作業中」の意味です・・・)
今回登場するアルバムはのべ4枚、ぜーんぶがアメイジング!
①ビバップ・ファン垂涎の的、一対のオムニバス・アルバム、『I Remember Bebop』 『They All Played Bebop』は、アル・ヘイグ、デューク・ジョーダンなど8人のピアニストによる作曲家別ビバップ作品集。
こに収録された5トラックは、トミー・フラナガン(p)がキーター・ベッツ(b)とデュオで聴かせるバド・パウエル作品集です。本家パウエルよりもまろやかで、作品の持つ凛とした気品が香る屈指の名演!ジャズが好きなら、ピアノが好きなら、一度は聴いてみてほしい! 収録曲全てをおハコにする寺井尚之の解説がとっても楽しみ!(今回の講座は早めにすっきり終わると言っていたけど、ほんまやろか?甚だ疑問??)
②今年5月に講座で取り上げた『Buck Clayton Jam Session Vol.2』の未収録トラック2曲。リハーサル中のやり取りも全部日本語化しました。 そうすると、この『Jam Session』は、そこらのジャム・セッションと全く違うのが良く判る。ヘッドアレンジだけでもリアル・プロはこうなんだ!個性豊かな名手の色んな楽器のヴォイスが聴こえて来て、華やかで楽しいアルバムです!
先月のInterludeに、この録音メンバーが多数参加しているドキュメンタリー「Born to Swing」を紹介したので、併せて観ると面白い。
③ 今回の目玉は、なんと言っても『Ella and Tommy Flanagan trio at Montreux ’77』!
土壇場で必死のパッチなのは、この対訳OHP作りのせいだった… 日本語化作業はとっくに出来ていたのですが、講師寺井が「アレンジ」と「歌詞」との切っても切れない深~い関係を、「判りやすく見せなあか~ん!」と、土壇場にOHP作成の注文が山盛り。
エラは’50年代、「私の進む道はバップしかない」と思っていた。寺井尚之もそうですが、ビバップにルーツを持つ音楽家にとって、転調はお手のもの! しかし、このアルバムでエラとバックのトリオが繰り広げるキーの移り変わりは、ジャズ・ヴォーカル史上例を見ないケタ違いの深さがあります。
ご存知の用にモータウンなどのブラック・ミュージックも、転調がお家芸で、私も大好きなのですが、モントルーでエラ+トミーが聴かせる転調は「モノが違う」、シンジラレナイ、凄すぎる…
まあ土曜日は寄ってらっしゃい、聴いてらっしゃい!ジャズ講座で転調の種明かしが聞けます。
御代は見てのお帰りだ。
今、私の周りは紙、紙くず、鉛筆、赤ペンが散乱する恐ろしい光景...とてもお見せできませーん・・・
ジャズ講座は12月13日(土) 6:30pm- Jazz Club OverSeasにて。
お越し下さる方はOverSeasまでご予約ください!
CU
「トミー・フラナガンの足跡を辿る」第6巻できました!
ジャズ講座は、毎月第二土曜日のお楽しみ。師匠トミー・フラナガンの音楽について、ミュージシャンの視点から語り尽くす講演会は、いつのまにか寺井尚之のライフワークになっちゃった。
年齢職業国籍学歴性別…そんな浮世のしがらみは全く関係なく、ジャズが好き、トミー・フラナガンが好きという接点で、楽しい仲間が集って、飲んだり食べたり、時には爆笑しながら、真面目に鑑賞するのがツボ。聴いて下さる皆さんが楽しいので、寺井尚之の上方(かみがた)マシンガン・トークも自然に炸裂!
そんな講座をそのまま本にした「トミー・フラナガンの足跡を辿る」の新刊、第6巻が出来上がりました。
第6巻に登場する名盤をほんの一部挙げておきます。詳しくは講座本のページをどうぞ。は、Interludeで村上春樹の「偶然の旅人」と共に紹介したペッパー・アダムス(bs)の名盤、『Encounter! 』、“ソリッド”という形容詞そのままのハードバップが聴ける『Jazz’n’Samba/ Milt Jackson』、テナーの巨人デクスター・ゴードンの名盤『The Panther』などなど、ライブで見た巨匠達の勇姿と共に、精彩な音楽的観察で名盤の実像が浮き彫りになり、、寺井尚之の「足跡」ジャズ講座ならではの臨場感が味わえる。
<エラ・フィッツジェラルドとの黄金時代(その1)>
副題のとおり、第6巻で一番多く登場するのはエラ・フィッツジェラルド。南仏『Ella at Juan Les Pins』(’64)からハンガリー『Ella in Budapest』(’70)まで、エラとフラナガンの音楽的関係が、「卓越した伴奏」から「稀有なコラボ=共同作業」へと録音順に変貌して行く様子は、有機的で凄い!
エラ以外の作品も含め、第6巻掲載の歌詞対訳は70曲以上。講座の対訳は不肖私が担当させていただいてます。
エラ・フィッツジェラルドの対訳はすごく楽しい仕事だった。発音は英会話番組より明瞭だし、万人に伝わる明確な歌詞解釈がある。だから、ディクテーションして日本語を当てはめる作業はアット・イーズ!
逆に、書店やネット上にあるジャズ詞の最大公約数的な翻訳作業は、どれほど大変だろうと察します。ニュートラルにすればするほど、歌詞の面白さは、訳語の間から滑り落ちていく…
私がエラの対訳で学んだことは、「名唱には明確な歌詞解釈がある。」という法則。
ラブ・ソングでも恋のかたちは10人10色、その歌ではエラさんはどんな女?処女?人妻?貞淑?ミーハー女?山の手?下町? お相手はセレブ?庶民?サギ師?ヤクザ者?その彼の唇は薄いのかはたまたタラコか?下着の色はピンクか黒か?輪郭から細部まで、しっかりイメージを作って唄っているから、ほんと日本語にしやすい!
エラはまた歌詞を間違えることで有名だった。でも、それは決して器楽的なアプローチで、歌詞をなおざりにしたからではない。ライブ当時のポップソングを唄うときも、よーく考えて歌作りをしたことが対訳の面からも判ります。エラがよく歌詞を逆にしたり、中抜きしてしまうのは、音楽表現する脳の部位が余りに速く稼働しているからかも知れない。インテリに扮したウディ・アレンや、BBC放送のPolitics Showに出演する高名な評論家が、ドモったり噛むのとなんとなく共通している。
(楽しかったエラさんの日本語化作業も来週ジャズ講座の『Ella at Montreux ’77』で遂におわりです。お名残惜しい…)
寺井尚之は対訳を道具にして、トミー&エラにしかできない自由自在な転調もメドレーの妙味も、歌詞に沿った音楽的必然性があることを証明していきます。フラナガン・ファンだけでなく、ジャズ・ヴォーカルやジャズの即興演奏を志す若きミュージシャンにはぜひ読んで欲しい。
読み所聴き所、笑い所も泣き所が一杯!ジャズってほんとに楽しいな!トミー・フラナガンってほんとに素晴らしい!が良く判るジャズ講座の本、「トミー・フラナガンの足跡を辿る:VOL.6」は限定版ゆえ、ぜひお早めにお求めください。
購入方法は以下の3種類。
①OverSeasでライブや講座を聴くついでに…
②OverSeasのHPから通信販売で…
③堂山町の「ミムラ」さん、梅田第一ビル地下一階の「ワルティ堂島」さんで購入する。
CU
トリビュート・コンサートの前に:トミー&ダイアナ・フラナガンのレア映像
民主党オバマさんが第44代合衆国大統領に! 日本のTVなのに開票速報が順次報道され「ここはどこの国?」と思うくらいアメリカの選挙一色、直後に届いたNYタイムス速報メールの見出しが印象的でした。
Obama Elected President as Racial Barrier Falls
「人種の壁崩壊、オバマ、大統領に!」
トミー・フラナガン未亡人ダイアナは、根っからのリベラル、民主党支持者…米国のジャズ界で共和党支持の人を私は知らない。さぞ浮かれているだろうと思って電話してみたら、意外にも風邪をひいて大人しくしていた。
ところで、ジャズ講座の資料準備で、Youtube検索していたら、思いがけずトミーとダイアナ・フラナガン夫妻、1972年の貴重な映像に遭遇!必要は発見の母? それともトミーの思し召しか??
映画のタイトルは「Born to Swing:The Movie About the Alumni of the Count Basie Band of 1943」。
Born to Swingは、日本語なら『生まれながらのスイング野郎たち』という感じでしょうか? 『1943年のカウント・ベイシー楽団員の現在』という副題がついている。’73年作品、英国のTV用ドキュメンタリー映画で、ヴィデオでも販売されていたようなのですが、現在は入手不可。
ダイアナに聞いたら、「そうそう!エキストラでセッションに行ったけど、出来たフィルムは全く観たことがない。」らしい。撮影は、二人が結婚したしばらく後の’72年、トミーはNY滞在中で番組に参加したそうで、ダイアナが映っている唯一の動画だと言っていた。
ラッキーなことにYoutubeに、番組を11のパーツに分割しアップロードしてくれた親切な人がいた!ありがとう!!
勿論、番組には字幕がないし、残念なことには、ストーリーと直接無関係なトミー・フラナガンのソロがカットされている。だけど、ジョー・ジョーンズを初めとする巨匠達の神業がアンビリーバブル!それだけでなく、’70年代の文化に興味があれば、とっても面白いのでお暇なときに見てみてください。下の映像は、11に分けられたパーツのうちの<Part10>です。
詳しいパーソネル&サウンドトラックのデータは、imdbでなくアメリカ国会図書館にありました。
どんな内容かというと、スイングジャズの黄金期に活躍したカウント・ベイシーのメンバー達の’70年代の姿にスポットを当てた『あの人は今』風の番組。人間国宝級のアーティストにアメリカは優しくなかったということがよーく判ります。故にこの番組もUK製作でUSAじゃない。
トランペット教室の講師が黒鉄ヒロシそっくりなジョー・ニューマン(tp)で、授業参観がバック・クレイトン(tp)だったり、ジョー・ジョーンズ(ds)の神業が拝めたり、テキサス・テナーの大御所、バディ・テイトの「ハーレム・ノクターン」が聴けたり、ジャズ講座や講座本に登場する偉人が沢山拝める。私は、深夜、一気に見てしまいました。
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★勿体無いので各パートをごく簡単に説明しておこう。
Part1 プロローグ、黄金期、1943年当時のベイシー楽団の映像。
Part2 カンザスシティ の巻き:ベイシー楽団のルーツ、カンザス・シティやダンス・ホールと結びついたスイング・ジャズについて、当時のもう一人の名バンマス、アンディ・カーク達が、ダンス音楽として発祥したスイング・ジャズの歴史を、当時の貴重映像と共に語る。
Part3: スイング時代の白人スタードラマー、ジーン・クルーパ(ds)と、ベイシー・サウンドに魅了され、彼らをスターダムにのし上げたプロデューサー、ジョン・ハモンドが、当時の状況をベイシー・サウンドに乗せて語る。最後のダンスシーンの関取みたいな人は、かの有名なブルース歌手、ジミー・ラッシングです。
Part4: 引き続き、ジョン・ハモンドが当時のベイシー楽団のメンバーが非常に読譜力があり、同時にアドリブの能力があったかを語り、’72年現在のメンバー達のリハーサルへとシーン・チェンジズ!最初のテナーが、バディ・テイト!左に座るアルトが、来月の講座に登場するアール・ウォーレン! メインストリーム誌(英ジャズ誌)の編集長、アルバート・マッカーシーは、スイング時代の名手が現在では、必ずしもアメリカで厚遇されていないと語る。凄いインパクトの赤シャツのベーシストはジーン・ラミー(b)。2:35あたりに、トミー・フラナガンのアップが!
Part 5 ディッキー・ウエルズ(tb)の巻 :英国では高い評価のミュート・トロンボーンの名手、ウエルズも今は、現在はハーレムの小さなアパート暮らし、なんとウォール街のメッセンジャー・ボーイとして生計を立てていた。なんちゅうこっちゃ…現在の日本の不景気な状況下では、配達の封筒にスタンプを押すウエルズの姿が一層身につまされる。
Part 6 バディ・テイトの巻: ’72現在、現役として活動するテイトが、自分の一部のようなブルースや、奥さんとのなれそめなどを語る。ソロで吹くハーレム・ノクターンやトミー・フラナガン参加のリハーサル・シーンが最高、Bテイトの後ろでスイングしているのがダイアナ・フラナガンです。
Part7: トランペッター:バック・クレイトン&ジョー・ニューマンの巻 スイング時代に最高の美男とビリー・ホリディが絶賛した大スター、バック・クレイトン(tp)は体調を崩し引退を余儀なくされた。演奏できない辛さを酒で紛らわせたと語るクレイトン、そして、ジャズモービル(NYの夏のジャズ風物詩でした)のトランペット・セミナーで、演奏技術を後進に伝えるジョー・ニューマン先生の姿が!勉強になります。傍らで見守るクレイトンの表情は何とも言えないほど深い。
Part8 :圧巻!ジョー・ジョーンズ(ds)の巻き!!全モダン・ドラマーの祖父と呼ばれる、ジョー・ジョーンズ(ds)も現役だが、現在ドラムショップの共同経営者で、お客さんにインストラクターをしている。
指導シーンも、Jニューマン、トミー・フラナガンとトリオでのLizaのプレイも、全てが圧倒的!!メインステムのドラマー、菅一平さんは、実家が経営していたすし屋の花板さんのイメージが重なったそうです。にこやかに接客しながら、注文を間違わずに、さっさとすしを握る仕事ぶりと似ていると、言っておられました。
Part9:コンマス アール・ウォーレン(as)の巻 43年当時楽団のスターアルト奏者、アール・ウォーレンは、家族が病気になり収入を確保するため、現在はブロードウェイなど商業音楽の世界で暮らしているが、音楽への情熱は失ってはいない。リハ・シーンでコンサート・マスターの腕をいかんなく発揮。一流ビッグバンドのリハを観るチャンスはなかなかないので勉強になる!
Part10:リユニオン・バンドの巻 レコーディング・セッションで往年のメンバー達が、今の自分たちのサウンドでスイングする。もちろんピアノはトミー・フラナガン!「Blues for J.Jones」 最高!壁際に座ってたダイアナに聞いたところでは、「あれは完全な即興よ、その場のヘッドアレンジだけでささっと演っちゃったの!」と言ってました。
<Part11>エピローグ
このヴィデオは、龍谷大学の図書館にあるようなので、心ある龍大の方、どなたかコピーしてくださったらダイアナに送ってあげられるのですが・・・OverSeasは学割チャージ半額ですよ!
とにかく今の私より若いダイアナやトミーの姿、叩き上げの名手達の姿を観て、とっても元気が出ました。
土曜日はジャズ講座で、トミー・フラナガン3 at Montreux ’77を皆で聴こう!北海道のジャック・フロスト・フラナガン氏が届けてくださった、おいしいジャガイモと地鶏で、おいしい料理を作ります。皆来てね!
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