10月30日のSpecial Selectionの模様です。全編ライブご視聴は、http://ptix.at/Wbu6Qpにお申し込みください。
トミー・フラナガン・トリビュートは11月20日開催。残席わずかです。
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トミー・フラナガン・トリビュートは11月20日開催。残席わずかです。
第38回 トミー・フラナガン・トリビュート・コンサート
演奏:寺井尚之トリオ:寺井尚之-piano, 宮本在浩-bass, 岡部潤也ーdrums
=第一部=
1. Let’s
レッツ:作曲者はフラナガンが天才と読んだコルネット奏者、バンドリーダー、サド・ジョーンズ。フラナガンが自主制作したサド・ジョーンズ曲集(左写真)のタイトル曲。
サド・ジョーンズ作品は難曲が多いために、大多数が演奏するスタンダードは少ない。だがフラナガンは終生彼の作品を掘り下げた。フラナガンはサド・ジョーンズ作品についてこう語っている。- 「サド・ジョーンズ作品の中には、強力なパワーがあり、演奏すると、自然にそのパワーが発散するように作られている。彼の作品を演奏できるなら、演奏者として順調な道を歩んでいる証だ。」
2.Beyond the Blue Bird
ビヨンド・ザ・ブルーバード: “ブルーバード”は、かつて黒人居住区にあったジャズ・クラブ《ブルーバード・イン》のことで、現在はデトロイトの文化史跡として保存されている。青年時代のフラナガンがサド・ジョーンズ(cor.tp)と共に、毎夜、熱い演奏を繰り広げたフラナガンの音楽の故郷だ。店の聴衆には、若手ミュージシャンを応援する気風があり、フラナガンは《OverSeas》の雰囲気と似ていると言ってくれたことがある。
親しみやすいメロディーでありながら転調が多い難曲。また、”返し”と呼ばれる左手のカウンター・メロディーは、デトロイト・バップの特徴でもある。同名アルバムのリリース前、フラナガンから譜面を授かり、演奏を許されたことを、寺井は今も誇りにしている。
3.Rachel’s Rondo
レイチェルのロンド:最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げた作品。フラナガンは『Super Session』(’80)に収録したが、ライヴでは余り演奏することはなかった。
一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』(’94)に収録。冴え渡るピアノのサウンドを活かす気品溢れる秀作。
4. Embraceable You – Quasimodo
メドレー/エンブレイサブル・ユー~カジモド:フラナガン伝説のメドレー。 チャーリー・パーカーは、ガーシュイン作の有名スタンダード・ナンバー〈エンブレイサブル・ユー〉(抱きしめたくなるほど愛らしい君)のコード進行を基に作ったバップ・チューンに、原曲と正反対の醜い「ノートルダムのせむし男」の名前〈カジモド〉を付けた。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたメドレーは、本当の「美」とは何かという問いを投げかけたパーカーに対するフラナガンの答えだ。フラナガンのメドレーはライヴでの最高の聴きどころで、これは数あるメドレーの内でも白眉だった。残念なことに、レギュラー・トリオによるレコーディングは遺されておらず、今はトリビュート・コンサートでその素晴らしさを偲ぶしかない。
5. Sunset & the Mockingbird
サンセット&ザ・モッキンバード:エリントン&ストレイホーンによる作品で、フラナガン67才のバースデイ・コンサートのライヴ盤のタイトルになっている神秘的な美しさを持った曲。エリントン音楽は、フラナガンにとって、”ブラック・ミュージック”の理想形だった。この曲は、エリントンがフロリダ半島をハリー・カーネイ(bs)運転の車で移動中、夕焼けの中で不思議な鳥の鳴き声を聴いて、瞬く間に書き上げたとされている。(エリントン自伝『Music is my mistress』より) 後にエリントンはこの曲を『女王組曲』の中の一曲として自費録音し、一枚だけプレスして英国のエリザベス女王に献上したが、彼の死後リリースされた。その後、NYのFMラジオのジャズ番組のテーマ・ソングとして使われ、フラナガンはそれを聞き覚えてレパートリーに加えた。トリビュート・コンサートでは、フラナガン直伝のピアノタッチの至芸が聴ける。
6.Eclypso
エクリプソ:『Overseas』(’57)や同名アルバム『Eclypso』(’75)などに収録されている、最も有名なフラナガンのオリジナル曲。”Eclypso”は「Eclipse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉の遊びが好きで、そんなウィットがプレイにも反映している。
寺井尚之にとっては、フラナガンからNYに招かれて、数週間、様々なことを学んだ最後の夜《ヴィレッジ・ヴァンガードで寺井の名前をコールして演奏してくれた思い出の曲でもある。
7. Dalarna
ダーラナ:『Overseas』に収録された美しいバラードで、印象派的な曲想にビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。”ダーラナ”は、『Overseas』を録音したスウェーデンの風光明媚な観光地の名前だ。
フラナガンは『Overseas』に録音以来、めったに演奏しなかったが、寺井尚之のアルバム『ダラーナ』(’95)の演奏に触発され、そのままのアレンジで『Sea Changes』(’96)に再収録している。
この曲をプレイするときは、生徒会長夫妻のスウェーデン土産、ダーラナホースがピアノの上に鎮座している。
8. Tin Tin Deo
ティン・ティン・デオ:フラナガンは、ビッグバンドの演目を、コンパクトなピアノ・トリオ編成でダイナミックに演奏するのを得意にしていた。この曲は、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したブラック・ミュージックだ。
ディジー・ガレスピー楽団がこの曲を初録音したのはデトロイトで、フラナガンの親友、ケニー・バレル(g)が参加した。フラナガンにはその当時の特別な思い出があったのかもしれない。フラナガンの秀逸なアレンジは寺井尚之がしっかりと受け継いでいる。
左から:寺井尚之-piano, 宮本在浩-bass, 岡部潤也ーdrums
=第二部=
1.That Tired Routine Called Love
ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ:作曲者マット・デニスは弾き語りの名手として、また〈エンジェル・アイズ〉を始めとするフランク・シナトラの数々のヒットソングの作者として有名だ。デニスはナイトクラブに出演する際、一流ジャズメンをゲストに招き共演したが、彼の作品もまたジャズメン好みのものだった。J.J.ジョンソンは’55年、超高級ナイト・クラブ”チ・チ”でデニスのショウにゲスト出演しており、フラナガン参加アルバム《First Place》にこの曲を収録。約30年後、フラナガン自身は名盤《Jazz Poet》(’89)に収録、録音後にもライブで愛奏し、数年後には録音ヴァージョンを遥かに凌ぐアレンジに仕上がっていた、現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏し続けている。寺井は《Anatommy》(’93)に収録。
2. They Say It’s Spring
ゼイ・セイ・イッツ・スプリング: フラナガンが”スプリング・ソングス”と呼び、春に愛奏した演目の一つ。作曲者、ボブ・ヘイムズは人気歌手ディック・ヘイムズの弟で、俳優、歌手、TV番組のホストとして人気を博した。
この曲がヒットしたのは’50年代中盤で、歌っていたのはカリスマ的人気歌手ブロッサム・ディアリーだ。ディアリーは、J.J.ジョンソンのバンド仲間、ボビー・ジャスパー夫人であったことから、フラナガンはディアリーのライブをよく聴きに行き、この曲を覚えたそうだ。’70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に名演を遺している。
3. A Sleepin’ Bee
スリーピン・ビー:これも、フラナガン的スプリング・ソング。A♭ペダルの軽快なヴァンプが春の浮き浮きした気分にぴったりだ。 カリブの愛らしい娼婦の恋と冒険を描いたブロードウェイ・ミュージカル「A House of Flowers」(トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽)で、主演女優ダイアン・キャロルが歌った。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にしたラブ・ソング。フラナガンのバージョンを基に、すっきりと切り詰めた寺井尚之のアレンジをフラナガンは大いに褒めてくれた。トリビュートではそのアレンジで演奏。
4.When Lights Are Low
灯りが暗くなった時:フラナガンが子供の頃から親しんだベニー・カーター(as.tp.tb. comp.arr)のヒット作。’80年代終盤、ジャズの人間国宝的存在となったカーターが、カーネギー・ホールに於ける特別コンサートに指名しピアニストがフラナガンだった。尊敬するカーターに選ばれたことを意気に感じたフラナガンは、自己トリオでこの曲を愛奏し、今夜のように<ボタンとリボン>を引用して楽しさを盛り上げた。
5.Passion Flower
パッション・フラワー: 作者ビリー・ストレイホーン自身も愛奏した作品(’44作)。フラナガン・トリオ時代のジョージ・ムラーツの十八番。トリビュートでは宮本在浩(b)が素晴らしい弓の妙技を聴かせてくれる。パッション・フラワーは日本語でトケイソウと呼ばれ、一風変わった幾何学的な形は、欧米で磔刑のキリストに例えられる。黒人でありゲイであった自分自身を、この花に例えたのかもしれない。
ムラーツは独立した後もこの曲を愛奏、リーダー作 My Foolish Heart(’95)にも収録している。
6. Mean Streets
ミーンストリーツ:初期のオリジナル。元々『Overseas』(’57)に”Verdandi”という題名で収録された曲。そこではドラムのエルヴィン・ジョーンズをフィーチャーしている。その20年後、レギュラー・ドラマーに抜擢したケニー・ワシントン(ds)のフィーチュア・ナンバーとして、ケニーのニックネームだった”ミーンストリーツ”と改題、ライヴで愛奏し『Jazz Poet』にも収録した。トリビュート・コンサートでは岡部潤也のドラムソロに会場が沸いた。
8.I’ll Keep Loving You
アイル・キープ・ラヴィング・ユー: バド・パウエルが友人の歌手のために書いた曲と言われている静謐な硬派のバラード。
トミー・フラナガンがパウエル作品を演奏すると、曲の持ち味を失うことなく、一層洗練された美しさが醸し出される。トリビュート・コンサートでは、寺井のフラナガンに対する変わらぬ想いが滲み出る。
9.Our Delight
アワ・デライト:ビバップの立役者の一人、ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロンの代表作。フラナガンはダメロン作品には「オーケストラの要素が内蔵されているので非常に演りやすい。」と言い、ライヴを最高に盛り上げるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。
=アンコール=
1. Like Old Times
ライク・オールド・タイムズ: フラナガンがアンコールで頻繁に演奏した作品。ご機嫌なときはポケットの中から小さなホイッスルをこっそり取り出して、ここぞのタイミングで、ピューッと吹いて会場を多いに湧かせた。サド・ジョーンズ名義の『Motor City Scene』(’59)に収録されている。
今夜のコンサートでは、やはり寺井も隠し持っていたホイッスルを鳴らし大喝采。トミー・フラナガンが元気だった「昔のように」楽しい空気が満ち溢れた。
フラナガン・トリオの演奏は『Nights at the Vanguard』(Uptown)に収録されている。
2 With Malice Towards None
ウィズ・マリス・トワーズ・ノン: フラナガンが、真の「ブラック・ミュージック」として愛奏したトム・マッキントッシュ(トロンボーン奏者)の作品。
「誰にも悪意を向けずに」という題名は、エイブラハム・リンカーンの名言、メロディーは賛美歌が基になっている。
かつてマッキントッシュとフラナガンはアップタウンの近所同士で、この曲の創作過程には、フラナガンが立ち合い、自分のアイデアを隅々に盛り込んだとマッキントッシュは証言している。他にも多彩な編成で多くの録音ヴァージョンがあるが、フラナガンのスピリチュアルな演奏解釈は傑出している。
トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:3枚組CDがあります。
OverSeasまでお問い合わせ下さい
演奏:寺井尚之ピアノ・トリオ 宮本在浩-bass、岡部潤也-drums
2020年11月21日 於:Jazz Club OverSeas
唯一の弟子としてフラナガン音楽を守ることに人生を捧げる寺井尚之。今回は絶対的パートナー、宮本在浩(b)に加え、新メンバー、岡部潤也(ds)を迎え9月に結成した寺井尚之(p)新トリオによる初めてのトリビュート・コンサートは、37回というトリビュートの楽歴に新たな章の幕開けを告げる節目になりました。コロナ禍の中駆けつけてくださったフラナガンの音楽を愛し、OverSeasを贔屓にしてくださるお客様の歓声が、この日のサウンドとともに、今も心の中に熱く響いています。寺井珠重
1.Beats Up (Tommy Flanagan)
トミー・フラナガン初期のオリジナル。リズム・チェンジの軽快なリフ・チューンで、1957年、『OVERSEAS』に収録された。フラナガンによれば、レコーディングが行われたスウェーデン、ストックホルムのメトロノーム・スタジオは、浸水被害の直後でひどい状態だったが、差し入れのビールをたっぷり飲みながらのゴキゲンなセッションだったそうだ。フラナガンはそれから40年後、『Sea Changes』(’97)に再録音している。
トリビュート・コンサートのオープニングにふさわしい心躍るスイング感を新トリオが再現。
2. Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
1.と対照的に、これはフラナガン晩年のオリジナル曲。デトロイト時代のフラナガンが若い頃に切磋琢磨した地元の名クラブ 《ブルーバード・イン》に因んだ名曲。自己トリオに、同郷デトロイトの幼馴染、ケニー・バレル(g)をフィーチュアしたアルバム(’90)のタイトル曲で、デトロイトで送った青春時代へのノスタルジーが感じられる。
寺井は、このアルバムのリリース前にNYでフラナガンにこの譜面の写譜を許され、帰国後すぐに自分のレパートリーに加えた。さりげないけれど目まぐるしく続く転調によって品格と奥行きを醸し出す作風はフラナガン・ミュージックの特徴だ。《ブルーバード・イン》関連ブログ
3. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)
フラナガンが長女レイチェルに捧げたオリジナル曲。レイチェルの写真はフラナガンのアパートに飾られていて、明るい躍動感に溢れる曲想は、彼女の美しさに相応しい。トミー・フラナガンの録音はレッド・ミッチェル(b)エルヴィン・ジョーンズ(ds)とのアルバム『Super Session』だけだ。現在この曲を愛奏するのは寺井尚之だけかもしれないが、OverSeasではとても親しまれているナンバー。
4. Medley: Embraceable You (George Gershwin) – Quasimodo (Charlie Parker)
〈Ellingtonia(エリントン・メドレー)〉や〈モンク・メドレー〉など、ライブで盛んにメドレーを演奏したフラナガンの音楽スタイルは、メドレーなしに語ることは出来ない。しかし、楽曲の版権コストがかさむことから、録音リリースされているメドレーはとても少ない。
これはガーシュインの名バラードと、その進行を基にしたチャーリー・パーカー(写真)のオリジナルを併せたメドレー。ビバップ作品+その元になるスタンダード・ナンバーの組み合わせは異例中の異例だ。フラナガンは、敢えてそうすることによってパーカーの芸術的真意を伝えたのだろう。
ライブでしか聴くことの出来なかった屈指のメドレーをトリビュートで再現する。
*関連ブログ
5. If You Could See Me Now (Tadd Damaeron)
ジャズ・ヴォーカルを代表する名シンガー、サラ・ヴォーンのために、タッド・ダメロンが書きおろした感動的なバラード。フラナガンは’90年代初めに盛んに演奏していた。
6. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
ハードバップ・チューン。名盤『Overseas』の録音直前、初リーダー作としてレコーディングした『Cats』(’57)に収録した初期のオリジナル曲。”minor mishap”は、「ちょっとしたアクシデント」という意味。名前の由来は『Cats』のレコーディングのほろ苦い顛末に隠されている。以降、〈Eclypso〉と並び、フラナガンが最も長期間愛奏したオリジナル作品だ。
*関連ブログ
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
『Overseas』を録音したスウエーデンのリゾート地をタイトルにした初期の代表作で、彼が心酔したビリー・ストレイホーンの影響が色濃く感じられる。厳しい転調をさりげなく用いることによって洗練された美しさを生み出すフラナガン独特の感覚がよく出た作品だ。
『Overseas』以降、フラナガン自身が愛奏することはなかったが、寺井尚之のCD『ダラーナ』(’95)に触発され、『Sea Changes』(’96)には、寺井のアレンジを使って再録した。演奏する寺井尚之の胸中には、「ダラーナを録音したぞ!」と電話で伝えてきたフラナガンの弾んだ声が響いている。
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)
第一部のクロージングは、ディジー・ガレスピー(写真)が牽引したアフロキューバン・ジャズの代表曲、フラナガンがライブのラストに好んでプレイしたナンバーだ。
フラナガンのアレンジには、キューバのリズムと哀愁を帯びたメロディの土臭い魅力を残しながら、洗練された気品が漂う。
同時に、ビッグバンドの演目を、ピアノ・トリオでさらにダイナミックにやってのけるフラナガンの演奏スタイルをよく表す演目だ。
作曲者のチャノ・ポゾはキューバ、ハバナのスラム街に生まれ、少年院で音楽を習得した天才パーカッション奏者。大戦後渡米し、ディジー・ガレスピーOrch.に参加、アフロ・キューバン・ジャズの発展に寄与した。チャノ・ポゾは、ハーレムの酒場で買ったマリワナの質が粗悪だったことから売人と喧嘩になり33歳の若さで殺害されている。
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
作曲者マット・デニスは〈エンジェル・アイズ〉など、フランク・シナトラのヒットソングの作者であり、自らも粋な弾き語りの名手として定評があった。デニスがクラブ出演するときには、好んで一流ジャズメンをゲストに招き共演した。J. J. ジョンソンは’55年、NYセレブ御用達の超高級ナイト・クラブ”チ・チ”でデニスのショウにゲスト出演した後、フラナガン参加アルバム《First Place》にこの曲を収録している。約30年後、フラナガンは名盤《Jazz Poet》(’89)に収録、録音後にもライブで愛奏し、数年後には録音から大きくヴァージョン・アップしたアレンジに進化、寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏し続けている。
寺井は《Anatommy》(’93)に収録。
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)
チャーリー・パーカー&ディジー・ガレスピーと並ぶビバップ運動の推進者、タッド・ダメロン(ピアニスト、作編曲家)が麻薬更生施設に服役中、ブルー・ミッチェル(tp)のアルバムのタイトル曲として書き下ろした。このアルバムにもフラナガンが参加している。
爽やかなオープニングのモチーフから、吹き去る風のようなエンディングまで、さまざまな色合いに変化して、文字通りそよ風のような名曲だ。
フラナガンはダメロンの耽美的な作風を愛し、「ダメロンの作品には、オーケストラが内包されているから、とても弾きやすい。」と言い、さまざまな編成で愛奏している。
3. Mean What You Say (Thad Jones)
フラナガンがデューク・エリントンに匹敵する天才と評価するサド・ジョーンズによる、デトロイト・ハードバップの魅力いっぱいの作品。タイトルはサド・ジョーンズの口癖で「本音をズバリ言え。」という意味だが、プレイの信条とも解釈することができる。ゆったりとしたテンポでありながら颯爽としたスピード感があり、ドラムをフィーチャーするフラナガンのアレンジが、サド・ジョーンズ的な”粋”の世界を楽しく聴かせてくれる。
フラナガンはLet’s (’93)に収録。寺井尚之は『ECHOES of OverSeas』(’02)に収録。
4. Eclypso (Tommy Flanagan)
恐らく最も有名なフラナガン作品。”Eclypso”は「Eclypse(日食、月食)と「Calypso(カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンはこんな言葉遊びが好きだった。寺井尚之がフラナガンの招きで長期NY滞在した最後の夜、ヴィレッジ・ヴァンガードで、フラナガンが「ヒサユキのために」とスピーチして演奏してくれた思い出の曲でもある。
5. Lament (J. J. Johnson)
フラナガンが’50年代後半にクインテットの一員を務めたトロンボーンの神様、J.J.ジョンソンの代表曲。 フラナガンのJ.J.ジョンソン評は「とにかくミスをしない。先の読めるクールな人」であった。
ラメントは『嘆きの曲』でありながら、ウエットになりすぎず品格をがある。それがフラナガンの好みだったのか、〈ラメント〉を聴くと《Bradley’s》で演奏するフラナガンを思い出すというNYのファンがいるほど愛奏した。’89年に、名盤《Jazz Poet》に収録しているが、本コンサートでは、《Jazz Poet》以降にフラナガンが創作したセカンド・リフ入りの進化ヴァージョンで演奏している。
6. Mean Streets (Tommy Flanagan)
もともと、この曲は『Overseas』(’57)に〈Verdandi(ヴァーダンディ)〉というタイトルで収録、エルヴィン・ジョーンズ(ds)のブラッシュ・ワークが鮮烈な印象を残す。それから30年後、トミー・フラナガンが自己トリオにケニー・ワシントンを抜擢した際、彼のニックネームである〈ミーン・ストリーツ〉に改題し、ワシントンのフィーチュア・ナンバーとした。トリビュートの夜は岡部潤也(ds)の秀逸なドラム・ソロが客席を大いに沸かせ、新メンバーを歓迎する拍手と歓声が溢れた。
7. Easy Living (Ralph Rainger)
「恋に溺れて、生きることが楽になる。私の人生はあなただけ」…〈イージー・リヴィング〉はビリー・ホリディ(写真)の名唱で知られる切ない愛の歌。フラナガンは自他ともに認めるホリディの崇拝者で、彼女の歌い方を自らの演奏に取り入れ、寺井にもビリー・ホリディを聴くよう強く勧めた。フラナガンが亡くなった夜に、寺井尚之が涙で演奏したのが忘れられない。
8. Our Delight (Tadd Dameron)
ビバップ全盛期’40年代半ば、ディジー・ガレスピー楽団でヒットしたタッド・ダメロンの作品。ビッグバンドのダイナミズムを、ピアノ・トリオでやってのけるフラナガン独特の演奏スタイルで、ピアノとベース、ドラムが入れ替わり立ち代りフィーチュアされたピアノ・トリオの醍醐味が味わえる。この夜の寺井トリオによる三位一体となったスイング感も素晴らしかった。
「ビバップはビートルズ以前の音楽、そしてビートルズ以後の音楽である!」というのがダメロンを演奏するときのフラナガンの決まり文句だった。
1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
フラナガンージョージ・ムラーツのデュオの名盤、『バラッズ&ブルース』収録。寺井尚之の十八番としても知られている。
この作品は、フラナガンの友人であるトロンボーン奏者、トム・マッキントッシュ(tb)の処女作。作曲当時、二人は住まいが近所で親しく行き来しており、フラナガンはこの曲の創作過程に立ち会い、自分のアイデアをふんだんに盛り込んだ。フラナガンは、マッキントッシュの作品を数多く演奏しているが、この曲は極めつけの名演目となっている。
スピリチュアルなメロディーは讃美歌「主イエス我を愛す」が元で、「誰にも悪意を向けずに」という曲名は、エイブラハム・リンカーンが南北戦争後の、演説で口にした名言だ。
美しく強いメッセージを感じるたびに、生前のフラナガンの感動的なステージを思い出す。
2.Ellingtonia (デューク・エリントン・メドレー)
Chelsea Bridge(’41)
〈チェルシーの橋〉はフラナガンが敬愛したエリントンの共作者、ビリー・ストレイホーンの傑作で、フラナガンは『Overseas』(’57)、『Tokyo Ricital』(’75)と繰り返し録音し、ライヴでも愛奏した。晩年のフラナガンは「ビリー・ストレイホーン集」の録音プロジェクトを進めていたが、実現を待たずに亡くなってしまったことが残念だ。
Passion Flower(’44)
〈パッション・フラワー〉もビリー・ストレイホーン作品、日本ではトケイソウと呼ばれているが、欧米では磔刑のキリストに例えられている。フラナガンのライブではジョージ・ムラーツのフィーチャー・ナンバーだった。トリビュートでは宮本在浩が弓の妙技で聴かせる演目で、この夜も端正な弓の妙技が客席を魅了した。 ストレイホーン関連ブログ
Black and Tan Fantasy(’27)
ラスト・チューン〈黒と茶の幻想〉は、エリントン初期に遡る。晩年のフラナガンは、BeBop以前のこういった楽曲を精力的に開拓し、自分のルーツを辿ろうとしていた。その意味でも、エリントン楽団初期の代表曲「ブラック&タン・ファンタジー」は非常に重要なナンバーだ。
フラナガンがOverSeasを来訪したとき、寺井が「Black & Tan Fantasy」を演奏すると、フラナガンが珍しく絶賛してくれた思い出の曲でもある。
11/16 (月)寺井尚之ジャズピアノ教室
11/17 (火) 寺井尚之(p)+倉橋幸久(b)デュオ: Music Charge 1500
11/18(水) 寺井尚之(p)+宮本在浩(b):Music Charge 2000
11/19(木)寺井尚之ジャズピアノ&理論教室
11/20(金) 末宗俊郎(g) カルテット with 寺井尚之(p)+坂田慶治(b) and ゲスト: 河原達人(ds):Music Charge 2000
11/21 (土) 第37回 トミー・フラナガン・トリビュート・コンサート
★演奏時間 19:00- / 20:30- (入替なし)
演奏:寺井尚之(p)、宮本在浩(b)、岡部潤也(ds)
前売りチケット 3000
当日 3500 (いずれも税抜、座席指定)
演奏:寺井尚之(p)、宮本在浩(b)
新型肺炎のために、36回のトリビュート・コンサートの内で最もこじんまりとした催しになりましたが、
立派に誇れる内容になりました。ご参加いただいた皆様、応援してくださった皆様に
心よりお礼申し上げます。
<1st>
1. Bitty Ditty(Thad Jones)
2. Out of the Past (Benny Golson)
3. Beyond the BlueBird (Tommy Flanagan)
4. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)
5.メドレー: Embraceable You(Ira& George Gershwin)
~Quasimodo(Charlie Parker)
6. Sunset and the Mockingbird (Dule Ellington, Billy Strayhorn)
7. Beats Up (Tommy Flanagan)
8. Dalarna (Tommy Flanagan)
9. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller Dizzy Gillespie)
<2nd>
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)
3. They Say It’s Spring (Bob Haymes)
4. A Sleepin’ Bee (Harold Arlen)
5. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
6. Passion Flower (Billy Strayhorn)
7. Eclypso (Tommy Flanagan)
8. But Beautiful (Jimmy Van Heusen)
9. Our Delight (Tadd Dameron)
Encore: With Malice Toward None (Tom McIntosh)
Like Old Times (Thad Jones)
3/16(月) 寺井尚之ジャズピアノ教室
3/17(火) 寺井尚之(p)+ 今井健太(b)デュオ: Live Charge 1500
3/18(水)寺井尚之(p)+ 宮本在浩(b)デュオ: Live Charge 2000
3/19(木)寺井尚之ジャズピアノ&理論教室
3/20 (金)末宗俊郎(g)トリオ:寺井尚之(p)+倉橋幸久(b): Live Charge 2000
3/21 (土) 第36回 トミー・フラナガン・トリビュート 演奏:寺井尚之(p)+ 宮本在浩(b)
前売チケット 3000、当日3500 演奏時間:19:00- / 20:30-
*LIVE 演奏時間(21トリビュート以外):19:00-/20:00- / 21:00- (入れ替えはありません)*料金はライブ・チャージにご飲食代をプラスしたものになります。(表示は税抜です)
*学割:チャージ半額