寺井珠重の対訳ノート(14)
『Plays the Music of Harold Arlen 』 ①Between the Devil and the Deep Blue Sea ②Over the Rainbow ③A Sleepin’ Bee④Ill Wind ⑤Out of This World ⑥One for My Baby ⑦Get Happy ⑧My Shining Hour
⑨Last Night When We Were Young w/ Helen Merrill(vo)
Personell:Tommy Flanagan(p) George Mraz(b) Connie Kay(ds)
Harold Arlen 1905-86
作曲だけでなく歌手、ピアニストだったアーレンは、コットン・クラブのショウからハリウッドに進出した国民的作曲家、”Over the Raibow”を知らないアメリカ人はいないかも・・・
土曜日に一緒に聴いたトミー・フラナガン・トリオのハロルド・アーレン集…昔からずーっと好きなアルバムなのに、新たな感動が生まれるのが、ジャズ講座の不思議なところですね。
寺井尚之は講座のために、このアルバムと対峙していくうち、新たな霊感を得たようで、土曜日の”The Mainstem”のライブに、上の太字の4曲を演奏すると異例の予告。
どれも大好きな曲ですが、今日は、ちょっと風変わりなスプリング・ソング、“A Sleepin’ Bee”のエキゾチックなおとぎ話について書きたくなりました。『眠るミツバチ』って変なタイトルですよね!
<カポーティとアーレンが組んだミュージカル:A House of Flowers>
“A Sleepin’ Bee”は、トルーマン・カポーティの短編、A House of Flowersを基にしたブロードウェイ・ミュージカルの劇中歌なんです。
Truman Capote (1924-84)
トルーマン・カポーティは”ティファニーで朝食を”や”冷血”の作者として有名ですね。後年はおネエ的タレントとしてTVや映画出演したから観た事ある人も多いかも・・・
“ティファニーで朝食を”のホリー・ゴライトリーもそうですが、カポーティの小説に登場する『無垢な娼婦』的ヒロインたちは、ほんとに素敵!このA House of Flowers:花咲く館は、カリブ海の島、ハイチの首都ポルトー・プランスを舞台に、オティリーという愛らしい娼婦が本当の恋人探しをする物語です。
< おはなし>
西インド諸島のハイチの山にある村で、不遇な子供時代を過ごしたオティリーは褐色の肌の美女に成長し、ポルトープランスの町にある売春宿で一番稼ぐナンバー1.、自分は町一番の幸せ者と満足している。お客からは、高価なアクセサリーやドレスが貢がれて、食べ物やお酒にも不自由しない。仲間の娼婦には妹のように可愛がられて楽しく暮らしている。唯一ないものは、姉貴分が話す「恋」という不思議なものだけ。「ひょっとしたら、私のところに贈り物を持って通ってくるアメリカ人が本当の恋人かしら?」と彼女は考えます。だけど、よくわからない。
とうとう思い余って、丘の上のヴードゥー教の祈祷師に相談に行く。すると祈祷師はひょうたんを鳴らし、精霊と会話してからこう言いました。
“野生のミツバチをつかまえて手の中に握ってみるがよい。ハチがお前を刺さなければ、恋を見つけた証拠じゃ!“
祈祷の帰り道、オティリーは、アメリカ人のお客のことを考えながら、スイカズラに群れるハチを捕まえるのだけど、思い切り刺されて痛い思いをしてしまう。
やがて3月のカーニバルで、オティリーは山から闘鶏に降りて来た素足の美青年、ロイヤル・バナパルトと出会う。彼に言われるまま、手に手を取って森の中を散歩しているうち、オティリーは懐かしい山の空気が漂う彼のキスと香りに包まれて、今まで知らなかった気持ちに捉われます。小説のラブ・シーンは詩情に溢れていて本当にロマンチックです。カポーティはコテコテの外見と裏腹に、えげつない描写なしに、色んなものの香りや質感を埋め込んで、行間に官能的な雰囲気を漂わせる天才だ。
丁度、ロイヤルがオティリーの胸の上で眠っている時、一匹のミツバチが現れます。オティリーがそっと捕まえると、祈祷師の予言どおり、彼女の掌の中でハチはじっと眠っていて、オティリーは本当の恋と確信します。
その時にオティリーが歌うのがA Sleepin’ Beeです。
A Sleepin’ Bee
Truman Capote/ Harold Arlen
<ヴァース>
あなたの恋は本物?
迷ったときには、
恋人探しが終わったことを知るための
昔からの言い伝えがあるの。
「ミツバチを捕まえろ。」
捕えたハチに刺されなきゃ、
愛の魔法が始ったしるし。
一生涯の保証つき、
本当の恋人ができたのよ。
<コーラス>
ハチがおまえ手の中で、
すやすや眠るとき、
おまえは魔法に守られて、
愛の世界でずっと暮らせる。
そこはいつでも上天気、
愛の神様の思し召し
いついつまでも幸せに。
お願い、ハチさん、
目を覚まさずに眠っておくれ。
恋人は私のもの!
なんて素敵なことでしょう、
やっと幸せがやって来た。
夢かもしれない、
ハチは金ピカで、
王冠みたいに愛らしい。
眠るハチが教えてくれた
本当の恋を見つけたら、
自分の人生を歩めると。
歌手によって歌詞が微妙に違っていてオリジナルの歌詞は、はっきりしないのですが、ネット上に女性歌手バーブラ・ストライザンドのものがあったのでそこから日本語にしてみました。ジャズ講座にずっとこられている方は、ビル・ヘンダーソン(vo)のVeeJay盤に収録されていますから、よくご存知かも知れません。
ブロードウェイでは、これでデビューを飾ったダイアン・キャロルが、オティリー役で歌いました。トミー・フラナガンも可愛いキャロルが好きなのか、OverSeasで演った時も、MCでそのことを話してくれたっけ。
この曲はカポーティに原作のシーンを朗読してもらって、アーレンが曲を作り、そこに再びカポーティが詞をつけたものだそうです。アーレン作品は曲だけでも素晴らしいけど、歌うと、とっても自然に響きますよね。
ミュージカルはカポーティがハロルド・アーレンと組んで作詞も担当した初ミュージカルとして話題を呼びましたが、ブロードウェイ的なストーリーへと変更を余儀なくされ、大モメにもめた挙句、興行的には不成功に終わったそうです。
余談ですが、数年後オフ・ブロードウェイで再演されたとき、主役を演じたのは、ヴォーカリーズのジャズコーラス・グループ、”ランバート・ヘンドリクス・ベヴァン”のインド系美女、ヨランダ・ベヴァンでした。
苔や花の香り漂うカリブの愛の島、ヴードゥーの不思議なお告げ、褐色の青年と新たな人生を歩みだす無垢な心を持った娼婦…トミー・フラナガンの演奏には、ときめきや未来への確信をしっかり感じることが出来ます。
それから二人はどうなったかって?
きっと土曜日のThe Mainstemの演奏を聴くと判るはずですよ!
もしも判らなかったら私が直接教えてあげますから大丈夫。
CU