対訳ノート(24) Ev’ry Time We Say Goodbye / Cole Porter

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 節分から大阪も冷えてます。OverSeasは加湿器+ガスコンロでお湯を沸かしてピアノに潤いを与えているのですが、大きなポットのお湯があっという間に減っていきます。こんな時は風邪ひきやすいので皆さんも気を付けてくださいね。
 先週の寺井尚之The Mainstemのライブは、大向こうから絶妙の掛け声も入って大いに盛り上がりました!どうもありがとう!
 The Mainstemが今回一番力を入れた新曲は、ジミー・ヒース(ts,ss,fl)作、知る人ぞ知るオリジナル曲、A Sassy Samba、元々ホーン入りのコンボかビッグバンド用の作品ですが、ピアノ・トリオ用にアレンジ、宮本在浩(b)、菅一平(ds)のパワフルなリズムが炸裂するバッパーのサンバになって、ラスト・チューンにぴったりのかっこよさ!Sassyというのはサラ・ヴォーン(vo)のニックネーム。そのせいで、3rd Setは、サラ・ヴォーンゆかりの曲がズラリ。サラ・ヴォーンの伴奏者であったハナさんがトリビュートしたバラード”Souvenir”も懐かしかったです!
<3rd Set>
1. Tenderly  テンダリー(Walter Gross )
2. Ev’ry Time We Say Goodbye  エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ(Cole Porter)
3. 46th & 8th (by サラ・ヴォーンの元夫Waymon Reed tp. )
4. Souvenir スーヴェニール(Sir Roland Hanna)
5. A Sassy Samba サッシー・サンバ( Jimmy Heath)

afterhours.jpg  ピアノ・タッチの変幻で聴かせた2曲目の”Ev’ry Time We Say Goodbye “は、’50年代のライヴ盤”After Hours”での、まだピチピチしたサラの歌唱が有名ですよね!
 エラ・フィッツジェラルドも歌っていて、この間出た「「トミー・フラナガンの足跡を辿る」第7巻に『Ella In London』での解説と歌詞対訳が載っています。ロンドンのエラは、「この歌は英国でしかウケないから、たまにしか歌わないの。歌詞間違えたら言ってね。」とMCして、(多分わざと)最初の名文句をハズしています。でも、ロンドンっ子は誰も教えてくれないのがご愛敬・・・
 アレック・ワイルダーは名著「American Popular Song」の中で、『最もコール・ポーターらしさのない、端正(Neat)な曲。』と評しています。
 こんな歌詞です。メインステムは歌詞の聴こえる演奏で、「寂しさ」と「楽しさ」のカラーチェンジが秀逸でした!原詩はこちら

Ev’ry Time We Say Goodbye / Cole Porter
エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ

さよならを言うたび
私は少し死んでしまう、
さよならを言うたび、
私はちょっぴり不満、

神さまたちは、
空から何でもお見通し、
なのに気配りしてくれない、
あなたを行かせて知らんぷり。

あなたが近くにいると、
心地よい春風が吹き、
ヒバリの歌声が聞こえてくる。

それは最高のラブソング!
でも、不思議・・・
明るい歌も単調に変わってしまう、
「さようなら」を言うときはいつも。

 「さようなら」の寂しさと、一緒にいる幸せのコントラストを、寺井ならではのニュアンスに富むピアノ・タッチで聴かせてくれました。ラブソングにも関わらず、私は母親のことを想う。実家の母は、年末からうつ病がひどくなり、今年からケア・ハウスと呼ばれる高齢者向けの施設にいる。
 父が亡くなってから、母はずっと不眠症に苦しんでいたのだけど、だだっ広い日本家屋で独り住まいしながら、けっこう明るく暮らしていた。ところが病気入院したのが引き金になり、ひどい鬱になってしまった。今は住みなれないコンクリート建築の一室で、音楽も聴かず、新聞もとらず、歌舞伎も観ず、時の過ぎるのを身を固くして必死に耐えている。
 母は「本物は時が経っても古臭くならない」ことや、「一生懸命料理して、おいしく食べてもらう幸せ」を教えてくれた。料理上手だった母が、今は給食を食べている。それも砂を噛むようにちょっぴりしか食べない。母はすっかり痩せた。見舞いに行って帰る時は、私の手をしっかり握りながら、今まで見たこともない哀しそうな目でいつも言う。「もうそんなに来なくてもええねんよ。じゃあね。」って。
Ev’rytime we say good-bye, I die a little.
 お母さん大丈夫、きっと私が元気にしてあげるからね!
 コール・ポーターに母の姿を思うなんてなあ・・・やっぱりこの曲はコール・ポーター的でないのかも知れないです。
 2月のThe Mainstemは20日(土)と26日(金)の2回出演、弾みをつけて3月27日のトリビュート・コンサートにつなぎます。チケットが出来ましたので、どうぞお早めに!
CU

対訳ノート(23) Never Let Me Go

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 16日(土)の新春The Mainstemの演奏は楽しかったですね!寒い中沢山お越し下さってどうもありがとうございました!
 この日は、バド・パウエル、サド・ジョーンズ、タッド・ダメロンなど、伝家の宝刀デトロイト・ハードバップに加えて、レナード・バースタイン作“Lonely Town”や、古い佳曲“If I Had You”、など、ホロリとするような情感のこもった名演も聴けて、新春に相応しいライブになりました。
 今月のジャズ講座からは、正調(!)”I Hear a Rhapsody”と、JRモンテローズとのデュオアルバムから”Con Alma”、”Theme for Ernie”、”Never Let Me Go”の4曲が取り上げられて、講座に来ていたお客様はニッコニコ!
And_a_little_pleasure.jpg  その中でも、私が好きだったのは、”ケ・セラ・セラ”など、パラマウント映画のヒット・ソングを沢山書いた黄金コンビ、ジェイ・リヴィングストン&レイ・エヴァンス作品、“Never Let Me Go”
 昭和の歌謡曲みたいな切ない歌詞と、ドラマチックなメロディで一度聴いたら忘れられない歌ですね。でも演奏解釈の懐が深い曲。マロングラッセみたいに、甘くて上品な正調ナット・キング・コールもあれば、この間聴いたJRモンテローズのように、胸をかきむしられるように切ないものまで、プレイヤーの解釈の仕方は千差万別。愛されている人の歌にも聞えるし、かつて愛されていたけど、今は愛されていない人の哀しい歌にも聴こえて、大変間口が広い。

live_at_century_plaza.jpg 私が印象に残っているのは、昔ジャズ講座でカーメン・マクレエをやった時に知った『Live at Century Plaza』、ここでカーメンは、別れ話を切り出された女の歌という風に解釈して歌っています。抑制された歌唱ですが、歌い終わったら相手の男性をピストルでズドンとやっちゃうのでは・・・という位切羽詰まった女の凄味、深くやるせない情感が伝わってきて、強いショックを受けました。
monty_alexander_in_tokyo.jpg  それと対照的な意味で好きなのがモンティ・アレキサンダー(p)トリオの演奏解釈、ジャマイカ出身の巨匠らしく、テーマの歌い方が「ネーバレッミーゴー」っとジャマイカン・イングリッシュでハッピーそのもの!ストリート系のカッコよさと正統派のピアノの素晴らしさでバンザーイしたくなるバージョン、モンティ・アレキサンダーって誰やねん?と思う人はぜひ、『In Tokyo』を聴いてみて欲しい。トミー・フラナガンと自宅に遊びに来てくれた’90代当時、モンティ自身も一番気に入っているアルバムだと言っていたので、ジャケットにサインしてもらいました。今はもっと良いアルバムも沢山あります。
 日本語にするとこんな歌詞。因みにカズオ・イシグロのベストセラー小説「Never Let Me Go」の表題曲とは違いますからね。

Never Let Me Go
ネバー・レット・ミー・ゴー

by Jay Livingston / Ray Evans

私を離さないで、
愛しすぎるほど愛して。
あなたに捨てられたら、
生きている実感はなくなる。
あなたなしでは、どうしようもない。
私の居場所はどこにもなくなる。

私を捨てないで、
あなたがいなくなれば、
途方に暮れる。
一日が千時間にも思えて、
どうしていいか判らなくなるに決まってる。

たった一度の抱擁で、
私の人生はすっかり変わった。
最初から恋の炎が燃え盛り、
もう元には戻れない。

私を捨てたりしないよね。
ボロボロに傷つけたりしないよね。
どうか私を離さないで。

 あなたはハッピーエンド派?それともズドン?寺井尚之The Mainstemはもっちろんロマンチックでハッピーエンドのヴァージョンで魅せました。私は、寺井ヴァージョンやキングコールも好きだけど、ビリー・ホリディに通じるマクレエも捨てがたい・・・でも毎日聴くならハッピーな方がいいですね。マクレエのは怖くて毎日聴けないです。
 次回のThe Mainstemは1月29日(金)、ぜひお越しください!
CU

第15回トリビュート曲説できました。

  皆さん、先日はトリビュート・コンサートで色々お世話になりました。またトリビュート以降、師走のお忙しい中、横浜フラナガン愛好会幹部が相次いでOverSeasに激励に来てくださいました。
 書記長スドー先生、石井ご夫妻、この場を借りて心よりお礼申し上げます!ほんまにおおきに!
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 さて、師走のドタバタの中、やっと先日のトリビュート・コンサートの曲目説明が出来ました。トリビュートの演目というのはかなり限定されているのですが、どれもこれも深い作品なので曲説の種はつきません。
arthur whetsol fredi washington duke ellington black and tan fantasy.jpg“Black and Tan”より。
 今回は、アンコール:『ELLINGTONIA』の大トリ、“Black and Tan Fantasy”の元になった、デューク・エリントン楽団の短編映画<Black & Tan>の映像をネット上で発見、フラナガンが生まれる前の1929年のもので、デューク・エリントンと彼の楽団にとって初の映画出演です。エリントンの相手役をしているライトスキンの美女は、フレディ・ワシントン、エリントン楽団の名トロンボーン奏者、インディアンの血を引いた二枚目、ローレンス・ブラウンの奥さんで、エリントン楽団を有名にした禁酒法時代のハーレムの名店、「コットン・クラブ」の名華といわれたコーラス・ガール。ブラウン夫妻がハーレムを歩くと、余りのカッコよさに皆が注目したそうです。一説には、余りに白人ぽいのでハリウッドでスターダムに上り損ねたとも言われています。映像からは、初期のエリントン・サウンドの魅力やハーレム・ルネサンスの香りが伺えます。
 トリビュート曲説はこちら。http://jazzclub-overseas.com/tribute_tommy_flanagan/tunes2009nov.html
 トリビュート・コンサートは三枚組CDとして、ご希望の方にお分けしています。詳しくはOverSeasまでお問い合わせください。
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 目が充血して真っ赤になっちゃったので、本日はこれまで。
明日の荒崎3で会いましょう!サングラスかけてるかも・・・(?)
CU

寺井尚之より:「トリビュート」御礼

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 トリビュート・コンサートに多数来ていただいて、誠にありがとうございました。
 師匠が亡くなった悲しみが先に立った第一回から、師匠の偉大な業績を讃え、後世に伝えようとがんばってきて、十五回目のトリビュートを演ることができました。
 これも、常に満席になるほどの多くのお客様の応援があるからこそと感謝しています。
 次回、第十六回目のトリビュート・コンサートは2010年3月27日(土)です。万障繰り合わせてご参加ください。
ありがとうございました。
寺井尚之
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速報:第15回トリビュート・コンサート

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 3月と11月にお送りする”Tribute to Tommy Flanagan”を11月28日(土)に開催しました。
 お忙しい中駆けつけてくださった常連様、初めてのお客様、2時間半の長丁場、最後までお付き合い下さってありがとうございます!それに沢山の激励メールや、差し入れ、お供えなどなど、心より感謝しています!
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第15回トリビュート・コンサート曲目

1. Out of This World (Johnny Mercer / Harold Arlen) 
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)
3. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
4. Embraceable You(Ira& George Gershwin)~Quasimodo(Charlie Parker)
5. Easy Living ( Ralph Rainger /Leo Robin)
6. Rachel’s Rondo(Tommy Flanagan)
7. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington)
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie)
曲説
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)
3. Mean What You Say (Thad Jones)
4. Thelonica (Tommy Flanagan) ~Mean Streets (Tommy Flanagan)
5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
6. Eclypso (Tommy Flanagan)
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
8. Our Delight (Tadd Dameron)

Come Sunday (Duke Ellington) ~With Malice Towards None (Tom McIntosh)
Ellingtonia: エリントン・メドレー
 Warm Valley (Duke Ellington)
 ~Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
 ~Passion Flower (Billy Strayhorn)
 ~Black & Tan Fantasy (Duke Ellington)

 トリビュート・コンサートのプログラムは、生前フラナガンがライブで聴かせた名曲、名メドレーを集めた特別なもの。いわば「歌舞伎十八番」!今回もデトロイト・ハード・バップの根幹(Mainstem)を象徴するようなレパートリーが並びました。フラナガン音楽をよく知っている方も、初めてジャズを聴かれる方も、お楽しみいただけたようで、とても嬉しいです。HP掲示板にも沢山メッセージありがとうございました。
teraiP1020916.JPG  コンサートのひと月前から、猛稽古に明け暮れた寺井尚之(p)、その気迫を真正面から受け止めて、同じテンションで、しっかり支えてくれた宮本在浩(b)、菅一平(ds)のThe Mainstemの演奏は、これまでのトリビュート史上、最高だったのではないかな。
 お客様の掛け声も最高!アンコールのメドレーで、「With Malice・・・」や「チェルシー・ブリッジ」が始まると、拍手が湧いて、OverSeasのお客様ってすごいな!と今更ながら誇りに思いました。
 演奏後、寺井尚之は「師匠へのリスペクトがあるからこそ・・・」と言っていた。口で言うのは簡単だけど、人生を賭けて「リスペクト」を貫こうとすると、多くの犠牲を伴う。トミー・フラナガンが亡くなった夜、涙で奏した”Easy Living”は、10年の歳月を経て、いっそう優しく切ない。現在は寺井の人生を象徴するレパートリーになったのかもしれません。
 年2回のトリビュート・コンサートは私にとっても「節目」の行事、想いは一杯ですが、お客様には、「楽しかった!」と思ってもらえれば、すごく幸せです。そして、トリビュートをきっかけにトミー・フラナガンや寺井尚之の演奏に一層興味を持っていただければ、もう最高です。
 次回のトリビュート・コンサートは、来年、3月27日(土)予定。誕生月のトリビュートは、きっと、また違った色合いになるでしょう。
 明日からトリビュート曲目解説に取り掛かりますので、出来上がったらお知らせします。
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BRAVO!
CU

トミー・フラナガンの思い出:「七つの子」

musculine_fingers_tribute.JPG  土曜日はいよいよ15回目のトリビュート・コンサート!
寺井尚之はトリビュート・コンサートに向けてAll Day Longの稽古・・・指先の筋肉が膨れ上がってます。
zaiko_ippei.JPG The Mainstem、ベースのザイコウさんは、今週はOverSeasにフル出場!万全のコンディションを期します。
 ドラムの一平さんは、火曜日に、元トミー・フラナガン3のメンバー、ピーター・ワシントン(b)、ケニー・ワシントン(ds)のコンサート(ベニー・グリーン4)に行き、トリビュートのチラシを見せて二人に「おひかえなすって!」と仁義を切って来ました。

 ケニーとピーターは、現在ジャズ界最高のリズム・チーム、二人とも若い時から物凄い勉強家でした。今は押しも押されもしない巨匠ですね!
 トリビュート・コンサートは、大変込み合っていますが、現在少しだけ残席があります。来ようかなと思って下さったらまずお電話で残席をお確かめください。(OverSeas TEL 06-6262-3940)
 お薦めメニューは、「黒毛和牛の赤ワイン煮」と、冬の限定メニュー、「ポーク・ビーンズ」、黒豚と北海道の大きくておいしい白花豆を柔らかく煮込んだアメリカの家庭料理です。演奏を聴きながら、ぜひご賞味ください。
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<私が観たフラナガンの稽古>
 トミー・フラナガンは、インタビューで「私はもう稽古(practice)はしていない。」と語っていました。でもそれは、「指を動かす」プラクティスなのでは?例えば、「指慣らしに、バルトークのミクロコスモスを弾く。」と言ったりするのは「粋じゃない」と思っていたからでしょう。
 自宅の居間にあるスタインウエイと、その周りにも「稽古三昧」の状況証拠が一杯あった。寺井尚之には、「稽古は『頭』でするもんや。」と常々言ってましたし、先輩のハンク・ジョーンズさえ、ツアーに折りたたみ式のキーボードを携行し、ホテルの部屋で稽古していると言っていたのを覚えています。
 フラナガンが「頭」でやるという稽古がどういうものなのか?今日は、滅多に見れないその姿についてお話したいと思います。
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 それは ’97年、10人のピアニストが集まる楽しいコンサート「100Gold Fingers」のツアー中、ラッキーなことに、オフ日を大阪公演の前日に設定してもらい、OverSeasでトミーのソロ・コンサートをした夜のことでした。
 その日、トミーは寺井にこんな相談をしました。
 “今回の「Gold Fingers」では、出演者が順番で、何か日本の曲を一曲演奏する企画になっていて、明日が私の番なんだ。「五木の子守唄」を演ったらどうかと言われているんだが、日本の曲はよく知らない。ヒサユキ、譜面を書いてくれないか・・・”
 寺井は即座に言いました。
 “師匠、五木の子守唄もええけど、ヘレン・メリルがもう歌ってるし、マイナー・チューンやし、大阪の土地柄に合わんのちゃいますか?師匠が演るならジャズで先例がなく、しかも、皆が知ってる曲がええわ。そうや!”七つの子”はどやろ?絶対、お客さんは大喜びですわ!」
 OverSeasコンサートの終演後、トミーは晩御飯を食べながら、ヒサユキの書いた「七つの子」の譜面を見て、山に残した可愛い子供を想って鳴くカラスの歌詞の意味を頭に入れています。元グリークラブのG先生がボーイソプラノ(?)で「カ~ラ~ス、なぜ鳴くの~♪」歌うと、目を丸くしてたっけ・・・
photo6.jpg そしてデザートを楽しんで一段落してから、トミーは譜面と共に、ピアノに向いました。初めて弾く「七つの子」に寺井尚之も興味津々!
 フラナガンはまずイントロから弾き始めました。子供がいる山に戻ろうとするカラスの大きな羽ばたきを思わせるオーケストラ的な前奏です。テーマに入ると、何人ものストリングスに負けない左手の分厚いパターン、初めて弾いてみる曲なんて信じられません。トミー・フラナガンの頭の中には、画家のデッサンのようなものが、すでに何パターンも出来ていたんです!虹色に変幻するヴォイシングは、ブルージーになったり、印象派的になったり、・・・色んなヴァージョンの「七つの子」が、あっという間に出来上がっていきました。途中で、”バイバイ・ブラックバード”を入れてみたりして、「七つの子」と遊ぶトミーの顔つきは「芸術家の産みの苦しみ」なんてどこ吹く風のポーカーフェイス。ただ、たくさんのヴァージョンを作るだけでなく、どの演奏解釈にも、大きな夕空や、鳥の羽ばたき、家族や故郷への憧憬が色んな形で表現されているのが、何よりすごいことでした。
 深夜、ホテルまでの車中、ゴキゲンで鼻歌を歌ってる巨匠に、私は思わず言いました。「トミー、さっき私は『神の御業(The works of God)』を観ました。あなたは天才です!」
 トミーは少し鼻を膨らませてから、いつもと変わらない淡々とした口調でつぶやいたのを覚えてます。「わたしは常にそうあるよう努力してる。」って。
 さて、翌日の大阪公演はシンフォニー・ホール、寺井が楽屋見舞に行くと、トミーはピアノ付きの一番大きい楽屋で「七つの子」を練習中、傍らにはジュニア・マンスがいました。ピアノの上に何があったと思います?森永のチョコボールが、譜面の上に、ちょこんと置いてあったんですって!
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では、トリビュート・コンサートでCU!

北国からの贈り物:Super Potato!

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 トリビュート・コンサートが近くなり、寺井尚之は稽古、稽古の毎日です。The Mainstemの宮本在浩(b)さんは一層スリムに、菅一平(ds)さんは禁酒して稽古に励んでいるようです。
 私だけ何にも切磋琢磨してなくて申し訳ないなあ・・・そんな中、摩周湖のフラナガン・ファン、寺井ファン、ジャック・フロスト氏から大きな段ボールが届きました。
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 昨年、私のジャガイモ観が一変した黄金色のじゃがいもがどっさり!
Mr.ジャック・フロスト、北国のハーベストのお供えをありがとうございます!トミーの写真にも、ジャガイモを見せてあげました。
 今週(土)のジャズ講座には、このジャガイモを揚げたり蒸したりして、おいしさを閉じ込めて、スぺシャル・メニューを作ろう!地鶏と合わせて、できるだけシンプルな味付けにしよう!おいしい料理を作ろう!
bonne_femme-2.JPG  で、週末のジャズ講座のお薦めにはフランスの田舎料理、「ボン・ファム」(”おばちゃん”という意味です。)を作ることにしました。
 今日はポテト・サラダにしてみたけど、水分が多いからあっと言う間に茹であがってクリーミー、甘くて最高!
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 今週の講座は、トリビュート・コンサートを聴くと思いだすデトロイトのクラブ”ブルーバード・イン“でレギュラー共演していたテナー奏者、ビリー・ミッチェルとのリユニオン・アルバム『De Lawd’s Blues』(Xanadu)、同じく”ブルーバード・イン”時代から、『Overseas』を経て公私ともに、フラナガンが大好きだったドラマー、エルヴィン・ジョーンズ、リチャード・デイヴィス(b)との超ヘヴィー級アルバム、数か月前に再発された『Heart to Heart』(Denon)など、スーパー・ポテトに相応しいラインナップです。
 ジャズ講座は、11月14日(土)6:30pm開講、受講料2,500yen ご予約はOverSeasまで。(tel 06-6262-3940)
CU

対訳ノート(22):Polka Dots and Moonbeams

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 先週のThe Mainstemには、遠くから近くから、沢山のお客様が駆けつけてくださって、改めてお礼申し上げます。あの晩は、驚くほど黄色く明るい月の夜、月を愛でながら思わずお酒を飲みすぎてしまいました。あの月は十三夜の「栗名月」、前の月の十五夜に対して「後の月」と呼ばれる特別な月だったんです。確かに色も形も「栗」みたい!英語だったら、十三夜は「Waxing Gibbous Moon (背むしのような形で満ちる月)」と情緒なさすぎ!日本人でよかった~!名月に因んで作った「お月見ストロガノフ」は、沢山のお客様に「おいしかった!」と言っていただけて、調理場も大喜びでした!
 この日の2nd セットは、10月のメインステムPart 1と対を成す「お月さまづくし」!中でも素敵だったのは〝Polka Dots and Moonbeams”!前回の“Moonlight Becomes You”と同じJimmy Van Heusen(曲)、Johnny Burke(詞)コンビの1940年作品、元々はトミー・ドーシー楽団の歌手としてデビューしたフランク・シナトラの初ヒット曲でした。
 〝Polka Dots and Moonbeams(水玉模様と月光)”・・・私自身は高校時代に衝撃的だった『インクレディブル・ジャズ・ギター』/ウエス・モンゴメリー(g)で聴いたのが最初です。まもなく誰でもが演る超スタンダードと知りました。緊張感なく演っていて、いつのまにかよく似た〝My One & Only Love〝になっちゃった迷場面に何度か遭遇したこともあります。ヴォーカルでは余り聴く機会がなかったのですが、昨年、ジャズ講座のためにエラ・フィッツジェラルドの歌詞対訳を作って、驚くほど「可愛い」歌詞だったことを知りました。
<20世紀のお伽噺>
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水玉模様のこの人は往年の美人女優、マーナ・ロイ
 この歌の舞台はNYみたいに洗練された都会でなく、アメリカのどこかの田舎町、豪華なジャズバンドやシャンパンもなく、町内会バンドで踊るカントリーダンスのパーティ、ビールにバーベキューやホットドッグの香りが漂ってきます。そんなザワザワしたところで、「僕」は恋をする。相手はパグ・ノーズ(pug-nosed):例えばメグ・ライアンみたいな可愛い女の子、上向きの鼻は日本じゃブサイクみたいだけど、あちらではチャーミングな条件で、ファッション・モデルのプロフィールにも「pug-nose」ってよく書いてあります。その娘のドレスは水玉模様、僕は、彼女の顔と、「お月様」が舞うような水玉模様と、月の光がスパークした一瞬に恋に落ちる。ディズニー的魔法の世界は、12月になったらきっと聴ける「コートにスミレを」と共通していて、デトロイト・ハードバップ・ロマン派を標榜する寺井尚之に打ってつけの素材でした。
 この歌がヒットしたのは真珠湾攻撃の前年ですから、戦争の不安が世の中に影を落とし始めた頃です。戦地に行かずに、愛する人とこのまま幸せに暮らせればどんなにいいだろう・・・そんな人々の想いが、お伽噺のように可愛いバラードを生んだのでしょうか?
 対訳にはヴァースもつけておきました。原歌詞はこちら

<ポルカドッツ&ムーンビームズ:水玉模様と月光>
作詞 Johnny Burke/ 作曲 Jimmy Van Heusen

=Verse=
あり得ないと思うかも知れないけど、
不思議な話を聞いてくれるかい?
こんな映画のシーンを見たら
「ウソに決まってる」と言われるだろうね・・・

=Refrain=
近所の庭でカントリー・ダンスパーティがあったんだ、
不意に誰かがぶつかって、
「まあ、ごめんなさい」と声がした。
突然目に入ったのは、
水玉模様と月光、
照らし出された君は
ツンと上を向いた鼻の女の子、
僕は夢かと思った。

音楽が始まり、
ちょっとまごついたけど、
僕は思い切って、君を誘った、
「次に踊っていただけますか?」
緊張でこわばる僕の腕の中で、
水玉模様と月光が、
君のツンとした鼻先に輝く。

ダンスする他の人達は、
不思議そうな顔で
滑るように踊る僕達を眺める。
皆にとっては疑問でも、
僕は答えを知ってたし、
多分、それ以上のことも判ってたんだ。

今は君と一緒、
ライラックが咲き、笑い溢れる小さな家で、
「ずっと幸せに暮らしましたとさ」、
そんなおとぎ話の文句を実感してる。
これからもずうっと、
水玉と月光が見えるだろうな、
夢みたいに素敵な人
ツンとした鼻の君に
キスするときはいつも。

 私の母は大阪、天満の”こいさん”として生まれた。その頃は何人も女中さんがいたらしい。しかし、戦争で家業は廃業となり、大阪大空襲で実家は全焼した。焼け出された一家は、十代で病死した姉の療養に使っていた浜寺の海辺の別荘に移り住み、母はその町のダンスパーティで父と出会い恋におち、両親の猛反対を押し切って結婚した。”こいさん”から平均的サラリーマン家庭の主婦になり、自分の両親宅の家事まで引き受けていた母の新婚生活がライラックの咲き乱れるものであったかどうかは判らない。でも、The Mainstemの「ポルカドッツ」を聴くと、座敷でビング・クロスビーをかけながらダンスしていた若かりし両親の楽しそうな姿がふと蘇りました。
 21世紀の現在、この歌をそのまま歌っても、当時の共感を客席から得ることは難しいかもしれないけれど、「お伽噺」と同じように、忘れかけている大切なものを思いださせてくれます。
 明日は鉄人デュオ!明日もスタンダード曲に新しい息吹を感じさせてくれることでしょう!一緒に聴こうね!
 水玉バラードと月夜に乾杯!
CU

ほのめかしの美学 < It’s All Right with Me > 対訳ノート(21)

 日ごとに秋が深まって、夜空もきれいです。オリオン座のスターダストは見えましたか?音楽と文学の秋、今日は先日のジャズ講座や、寺井尚之3”The Mainstem”で楽しんだコール・ポーター作品、< It’s All Right with Me >について書こうかな。
<コール・ポーター的世界>
cole-porter.jpg  コール・ポーター(1891ー 1964)
ファッション界の大御所フォトグラファー、リチャード・アヴェドンが撮影したコール・ポーターは「都会的洗練」が上等のスーツを着て煙草をくゆらせているみたい。

 < It’s All Right with Me >の作者コール・ポーターは、作詞作曲の両方をやってのける数少ない音楽家。高校時代、すでに「歌詞と曲は分かち難く一体でなくてはならない。」という信念を持っていたといいます。
 ポーター作品の特徴は、都会的で垢ぬけていて、ビタースイートなところ。そして、歌詞については、「ほのめかし( insinuation)」「 ダブル・ミーニング(double-entendre)」の妙です。都会的でビタースイートな作詞家なら、他にMy Funny Valentineなどを書いたロレンツ・ハートがいるけれど、ポーターの書く詞は、もっときらびやかで甘さは控え目です。
 米国中西部インディアナ州ペルー出身、スコットランドに祖先を持つコール・ポーターは、お母さまに溺愛された甘やかされっ子。母方の祖父は、一代で財を成した街一番の富豪、ポーターの養育費、学費などを援助しました。厳格な祖父は孫が将来法律家になり、家督を相続して欲しいと願っていたのですが、母の助けで祖父を欺きながらエール大やハーバード大時代から作曲に勤しみ、卒業後すぐブロードウェイで活躍します。第一次大戦中の1917年に渡仏、パリ社交界で、政界財界のセレブ達とパーティ三昧の享楽的生活を送りながら、表向きは、フランスの外人部隊に参加していた戦争の勇者と偽っていました。
 28歳のとき、ポーターはパリで知り合った、アメリカ人の富豪リンダと結婚します。でもそれは、業界の「公然の秘密」であった彼のホモセクシュアリティを承知の上の、ちょっと変わった結婚であったそうです。まだアメリカでは、多くの州で同性愛が犯罪行為とされていた時代のこと、その辺りは、「五線紙のラブレター」(2004)というコール・ポーターの伝記映画でハリウッド的に美化されて描かれています。コール・ポーターの愛人の男性たちは、振付師、建築家など職業も色々ですが、皆大柄で逞しい男性であったそうで、ポーター作品の版権は全て最後の愛人とその遺族に帰属しています。
 フランス帰りのトップ・ソングライター、見た目も中身も徹底的に洗練された「粋」の権化、コール・ポーターの悲劇は46歳の時に起こります。’37年、落馬事故で両足骨折し、34回の手術の挙句、片足を切断、死ぬまで激痛と闘いながら創作活動を続けました。誰よりも「ルックス」にこだわっていたポーターの辛さはどれほどだったでしょう。その苦しみが、享楽の「報い」と思えることがあっても、不思議ではないかも知れない。でも、享楽も苦しみも、誰も知らない悲しみも、溢れる想いは、いつも「ほのめかし」と「ダブル・ミーニング」に隠されていて、野暮天には一生分からないようになっている。
<危険なラブ・ソングに隠されるコード>
 とりあえず<It’s All Right with Me>の歌詞を読んでみましょうか。元歌詞はこちら。
 元々はパリ生まれのお色気たっぷりのレビュー、フレンチ・カン・カンを題材にしたミュージカル”Can Can”の挿入曲、映画ではフランク・シナトラが歌いヒットしました。
 私が聴きなれているエラ・フィッツジェラルドの歌は、「Montreux ’75」と、「Jazz At The Santa Monica Civic 」に収録されています。道ならぬ恋の歌だけど、いやらしくなくて、粋で色っぽい歌詞が、エラの明るさとマッチして、強烈なスイング感と共に独特な魅力を発散し、グッと来ます。コール・ポーター自身もエラが歌う自作品を非常に気に入っていたそうです。 年末に発行予定の「トミー・フラナガンの足跡を辿る」第7巻には、他にも、エラ・フィッツジェラルドの歌うコール・ポーターがたくさん載っているのでぜひ読みながら聴いてみてくださいね。

<イッツ・オーライト・ウィズ・ミー:sung by エラ・フィッツジェラルド>
Cole Porter (’53作)
A-1
いけない時間に、いけない場所で会った人、
あなたの顔は魅力的、でも、いけない顔ね。
彼の顔ではないけれど、あんまり素敵な顔だから、
私は別にかまわない。
A-2
いけない歌だし、歌い方もいけないわ。
あなたの微笑は素敵だけど、それはいけない笑顔でしょ。
彼の微笑じゃないけれど、ほんとに素敵な笑顔だから、
私は別にかまわない。
B
出会えて私がどれほど幸せか、あなたは分からないでしょ。
不思議にあなたに魅かれてる。
私には忘れたい人がいるんだけど、
実はあなたもそうじゃない?
A-3
いけないゲームに、いけないものを賭けている。
いけないことと知りながら、あなたの唇にうっとりしてる。
彼とは違うけど、うっとりするようなキスだから、
もしも特別な夜にあなたが自由なら、
ねえ、私は別にかまわないのよ。

 詞だけ読んでいるとかなりヤバい、いやらしいなあ・・・ところが、あの軽快なメロディと一緒だと、不思議にサラリとして、粋になるのが、メロディと詞を合体させてやっと味が出るというコール・ポーターらしさですね!
<ほのめかしはどこに?>
 エラの歌も映画のシナトラ・ヴァージョンも、道ならぬ恋に、どうしようもなく堕ちていく歌ですが、本当のところ、コール・ポーターがこの歌詞に託したのは、自分が住む男同士の恋の世界に思えて仕方ありません。
 上のエラの歌詞は女性だから彼女 に変えているけど、A-1部分の元々の歌詞はこうなっている。
It’s the wrong time, and the wrong place,
Though your face is charming, it’s the wrong face,
It’s not her face, but such a charming face
That it’s all right with me・・.

 「いけない時間といけない場所」というのが、パリ時代にコール・ポーターがよく開いたという男だけのゲイ・パーティを暗示しているとしたら、チャーミングな顔やどうしようもなく魅力的な笑顔も、唇も、それらが「いけない」わけは、「同性のものだから」ではないのかな?
 その証拠が3行目にほのめかされている。
It’s not her face, but such a charming face that it’s all right with me・・.
 つまり、「それは女性の顔じゃないけど、あんまりチャーミングだから、(男でも)僕は構わない。」と読めてしまうんです。
 ではB節の「忘れたい誰かさん」とはコール・ポーターにとって誰なんでしょう?別居中だった奥さんのリンダなのか?ゲイに否定的だった当時のアメリカの教会や司法なのかしら?私には、厳格な祖父、OJ・ポーターの顔が見えます。
 ゲイの世界には全然縁がないけれど、<イッツ・オーライト・ウィズ・ミー>には、コール・ポーター的な「ほのめかし」と「ダブル・ミーニング」がたくさんあって、わくわくします。
 それにしても、快楽的なこの歌が、片足を失い辛い痛みと闘っていた人が書いたものとは、とても思えません。苦しみや悲しみはすべて、上等なスーツの内ポケットに隠していたんですね。壮絶なるええかっこしい・・・極限のダンディと言えるかもしれない。
 コール・ポーター的「ほのめかし」のウィットをよく理解するトミー・フラナガンだからこそ、『The Standard』に敢えてこの曲を収録したのかな?歌詞の聴こえるプレイが身上のピアニストですから、歌詞を観ながら演奏を聴けば、フラナガンの「ほのめかし」と「ダブル・ミーニング」がお分かりになるかも・・・分からなければ、講座本「トミー・フラナガンの足跡を辿る」にそのうち載りますよ!
CU

秋深し Moonlight Becomes “メインステム”

ms_10_17_09.JPGサウンドも引き締まってきました!寺井尚之(p)、宮本在浩(b)、菅一平(ds)

  土曜日の寺井尚之トリオ”The Mainstem”、沢山お越しくださってどうもありがとうございました。トリビュート・コンサート(11/28)が近づき、日本の美徳「折り目正しさ」を身上とするトリオのサウンドが、さらに引き締まってきた感がします。
 この夜は、お月見の10月に倣い、「月」に因んだ名曲がすらりと2nd Setに並びました。オープニング Setではレッド・ミッチェル(b)のオリジナルなど今月のジャズ講座で強い印象を受けた曲を、ラスト・セットはバップの芳香がOverSeasに充満して大満足!
  「月」は、昔から人や動物を操り、「クレイジー」にする魔力を持っているとされています。下手するとヴァンパイヤに変身することも・・・月に因んだ美しい名曲の後に、「きちがい音楽」と揶揄されたBeBopが来るのは理に叶っているのかも!
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<1>
1. You’re Me ユー・アー・ミー (Red Mitchell)
2. All the Things You Are  オール・ザ・シングス・ユー・アー (Jerome Kern)
3. Whisper Not ウィスパー・ノット (Benny Golson)
4. When I Have You  ホエン・アイ・ハヴ・ユー (Red Mitchell)
5. It’s All Right with Me イッツ・オーライト・ウィズ・ミー  (Cole Porter)

<2>
1. Fly Me to the Moon  フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン (Bart Howard)
2. (East of the Sun,) and West of the Moon 太陽の東、月の西  (Brooks Bowman)
3. How High the Moon ハウ・ハイ・ザ・ムーン  (Morgan Lewis)
4. Moonlight Becomes You ムーンライト・ビカムズ・ユー  (Jimmy Van Heusen)
5. Old Devil Moon オールド・デヴィル・ムーン (Burton Lane)

1. Ladybird レディバード (Tadd Dameron)
2. The Scene Is Clean  ザ・シーン・イズ・クリーン (Tadd Dameron)
3. Sid’s Delight シッズ・デライト  (Tadd Dameron)
4. Soultrane  ソウルトレーン(Tadd Dameron)
5. La Ronde Suite ラ・ロンド・スイート (John Lewis)
Encore: Stardust スターダスト (Hoagy Carmichael )

   一部で聴けたレッド・ミッチェルのオリジナル、”You’re Me”は平日もしばしば聴けますが、バラードの“When I Have You”は久しぶりに聴けました。愛する人と過ごす満ち足りた時間が、そのままプレイのタイムになった極上のプレイ、まだ聞いたことのない歌詞が聴こえてくるように思えました。その前に演った“Whisper Not”は、トリオの息がひとつになってギア・チェンジして、ハードバップの「けじめ」みたいなものを感じさせる爽快なプレイに、客席も気持ちよさそう!
 ラストのコール・ポーター、弾丸スピードの” It’s Alright with Me”は、問題作スーパー・ジャズ・トリオ「The Standard」に収録された奥深い演奏(いろんな意味で)を講座で聴いたので、次回の「対訳ノート」に書こうと思ってます。
 OverSeasならではのお月見が楽しめた二部のオープニングは“Fly Me to the Moon”、先月の「枯葉」もそうでしたが、The Mainstemのスタンダードは、いつも垢抜けていますね。
east_o_the_sun.jpg      ビリー・ホリディのおハコでもある2曲目は、寺井尚之が「ウエスト・オブ・ザ・ムーン」と曲目紹介して、客席をにんまりさせました。元来「East of the Sun, and West of the Moon / 太陽の東、月の西」はノルウエイ民話の名前。魔法で白熊に変えられ、魔女と結婚させられそうになる恋人の王子を探し求め、果敢に北の国を冒険する娘の物語です。愛する王子様が幽閉されている場所の唯一の手がかりが「太陽の東、月の西」というわけなんです。
 うっとりするほどロマンティックなバラード“Moonlight Becomes You”「月光は君に似合うね」という意味です。
“月光に照らされる君の美しさは息をのむほど。
月明かりが君にすごく似合うから、
僕はどうしようもなくロマンティックな気分。
もしも僕が今愛を告白したとしても、
それは月のせいじゃない。
月明かりが、あんまり君に似合うから。”

 いいなあ!・・・作詞はジョニー・バーク、とろけるように甘いロマンティックな歌詞なら右に出るものなし!この歌は、But Beautufulなどと同様、ビング・クロスビー、ボブ・ホープ主演の「珍道中シリーズ」の挿入歌で、これはモロッコでのドタバタ・コメディー『the Road to Morocco』の中でクロスビーがソフトな声でハーレムのバルコニーの奥にいる美女に歌いかけます。
 三部はバップ・チューンで真っ向勝負、日本広しと言えど、「タッド・ダメロンが聴けるのはOverSeasだけ」と言われるだけあって、タイトなサウンドを堪能させてくれます。その中で、ダメロンがジョン・コルトレーンに捧げたという“Soultrane “は「バップ・バラードとは、こういうもんや!」という気迫がビシビシ伝わってきました。
 ラストの“La Ronde Suite”はリズムと色合いの変化でジェットコースターに乗っているような心躍る曲、ジョン・ルイス(p)作曲、モダン・ジャズ・カルテットやディジー・ガレスピーOrch.の名演が心に残ります。このトリオがNew Trioという名前でスタートした当時から、寺井が最強のピアノ・トリオ・ヴァージョンに編曲して愛奏していました。在浩さんのベースライン、一平さんのフィル・イン、全てしっくりまとまって、ここぞという時に爆発するダイナミクスが最高でした!いつかレコーディングしてほしいと願います。
 そしてアンコール!再び夜空に戻って“Stardust”の聴きなれたメロディにバップ魂の星屑が舞い散りました。
 1st Setの”Whisper Not”を作曲したベニー・ゴルソン(ts)が、ドキュメンタリー映画、『A Great Day in Harlem 』で、こんな事を話していたのを思い出しました。
benny_golson7.jpg “僕は良い曲を書きたいといつも思っていてね。ある夜、夢の中で素晴らしいメロディが聴こえてきた。目が覚めた時、僕はすぐに起き上がって、必死で五線紙にメロディを書き留めたよ。すると夢に観た曲は、なんと“Stardust”だったのさ!(笑)”

 スタンダードからバップ・チューンまで、The Mainstemの守備範囲はますますボーダーレスなものになってきました。名曲であっても名演じゃないと面白くない。スタンダードでも手垢のついたものは聴きたくない。それなら、ぜひ寺井尚之The Mainstemを聴きに来てください。バップの魂とサムライの折り目正しさを持つ、気持ちの良いピアノ・トリオです。
 次回は10月30日(金)、ぜひお待ちしています!
CU