秋深し Moonlight Becomes “メインステム”

ms_10_17_09.JPGサウンドも引き締まってきました!寺井尚之(p)、宮本在浩(b)、菅一平(ds)

  土曜日の寺井尚之トリオ”The Mainstem”、沢山お越しくださってどうもありがとうございました。トリビュート・コンサート(11/28)が近づき、日本の美徳「折り目正しさ」を身上とするトリオのサウンドが、さらに引き締まってきた感がします。
 この夜は、お月見の10月に倣い、「月」に因んだ名曲がすらりと2nd Setに並びました。オープニング Setではレッド・ミッチェル(b)のオリジナルなど今月のジャズ講座で強い印象を受けた曲を、ラスト・セットはバップの芳香がOverSeasに充満して大満足!
  「月」は、昔から人や動物を操り、「クレイジー」にする魔力を持っているとされています。下手するとヴァンパイヤに変身することも・・・月に因んだ美しい名曲の後に、「きちがい音楽」と揶揄されたBeBopが来るのは理に叶っているのかも!
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<1>
1. You’re Me ユー・アー・ミー (Red Mitchell)
2. All the Things You Are  オール・ザ・シングス・ユー・アー (Jerome Kern)
3. Whisper Not ウィスパー・ノット (Benny Golson)
4. When I Have You  ホエン・アイ・ハヴ・ユー (Red Mitchell)
5. It’s All Right with Me イッツ・オーライト・ウィズ・ミー  (Cole Porter)

<2>
1. Fly Me to the Moon  フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン (Bart Howard)
2. (East of the Sun,) and West of the Moon 太陽の東、月の西  (Brooks Bowman)
3. How High the Moon ハウ・ハイ・ザ・ムーン  (Morgan Lewis)
4. Moonlight Becomes You ムーンライト・ビカムズ・ユー  (Jimmy Van Heusen)
5. Old Devil Moon オールド・デヴィル・ムーン (Burton Lane)

1. Ladybird レディバード (Tadd Dameron)
2. The Scene Is Clean  ザ・シーン・イズ・クリーン (Tadd Dameron)
3. Sid’s Delight シッズ・デライト  (Tadd Dameron)
4. Soultrane  ソウルトレーン(Tadd Dameron)
5. La Ronde Suite ラ・ロンド・スイート (John Lewis)
Encore: Stardust スターダスト (Hoagy Carmichael )

   一部で聴けたレッド・ミッチェルのオリジナル、”You’re Me”は平日もしばしば聴けますが、バラードの“When I Have You”は久しぶりに聴けました。愛する人と過ごす満ち足りた時間が、そのままプレイのタイムになった極上のプレイ、まだ聞いたことのない歌詞が聴こえてくるように思えました。その前に演った“Whisper Not”は、トリオの息がひとつになってギア・チェンジして、ハードバップの「けじめ」みたいなものを感じさせる爽快なプレイに、客席も気持ちよさそう!
 ラストのコール・ポーター、弾丸スピードの” It’s Alright with Me”は、問題作スーパー・ジャズ・トリオ「The Standard」に収録された奥深い演奏(いろんな意味で)を講座で聴いたので、次回の「対訳ノート」に書こうと思ってます。
 OverSeasならではのお月見が楽しめた二部のオープニングは“Fly Me to the Moon”、先月の「枯葉」もそうでしたが、The Mainstemのスタンダードは、いつも垢抜けていますね。
east_o_the_sun.jpg      ビリー・ホリディのおハコでもある2曲目は、寺井尚之が「ウエスト・オブ・ザ・ムーン」と曲目紹介して、客席をにんまりさせました。元来「East of the Sun, and West of the Moon / 太陽の東、月の西」はノルウエイ民話の名前。魔法で白熊に変えられ、魔女と結婚させられそうになる恋人の王子を探し求め、果敢に北の国を冒険する娘の物語です。愛する王子様が幽閉されている場所の唯一の手がかりが「太陽の東、月の西」というわけなんです。
 うっとりするほどロマンティックなバラード“Moonlight Becomes You”「月光は君に似合うね」という意味です。
“月光に照らされる君の美しさは息をのむほど。
月明かりが君にすごく似合うから、
僕はどうしようもなくロマンティックな気分。
もしも僕が今愛を告白したとしても、
それは月のせいじゃない。
月明かりが、あんまり君に似合うから。”

 いいなあ!・・・作詞はジョニー・バーク、とろけるように甘いロマンティックな歌詞なら右に出るものなし!この歌は、But Beautufulなどと同様、ビング・クロスビー、ボブ・ホープ主演の「珍道中シリーズ」の挿入歌で、これはモロッコでのドタバタ・コメディー『the Road to Morocco』の中でクロスビーがソフトな声でハーレムのバルコニーの奥にいる美女に歌いかけます。
 三部はバップ・チューンで真っ向勝負、日本広しと言えど、「タッド・ダメロンが聴けるのはOverSeasだけ」と言われるだけあって、タイトなサウンドを堪能させてくれます。その中で、ダメロンがジョン・コルトレーンに捧げたという“Soultrane “は「バップ・バラードとは、こういうもんや!」という気迫がビシビシ伝わってきました。
 ラストの“La Ronde Suite”はリズムと色合いの変化でジェットコースターに乗っているような心躍る曲、ジョン・ルイス(p)作曲、モダン・ジャズ・カルテットやディジー・ガレスピーOrch.の名演が心に残ります。このトリオがNew Trioという名前でスタートした当時から、寺井が最強のピアノ・トリオ・ヴァージョンに編曲して愛奏していました。在浩さんのベースライン、一平さんのフィル・イン、全てしっくりまとまって、ここぞという時に爆発するダイナミクスが最高でした!いつかレコーディングしてほしいと願います。
 そしてアンコール!再び夜空に戻って“Stardust”の聴きなれたメロディにバップ魂の星屑が舞い散りました。
 1st Setの”Whisper Not”を作曲したベニー・ゴルソン(ts)が、ドキュメンタリー映画、『A Great Day in Harlem 』で、こんな事を話していたのを思い出しました。
benny_golson7.jpg “僕は良い曲を書きたいといつも思っていてね。ある夜、夢の中で素晴らしいメロディが聴こえてきた。目が覚めた時、僕はすぐに起き上がって、必死で五線紙にメロディを書き留めたよ。すると夢に観た曲は、なんと“Stardust”だったのさ!(笑)”

 スタンダードからバップ・チューンまで、The Mainstemの守備範囲はますますボーダーレスなものになってきました。名曲であっても名演じゃないと面白くない。スタンダードでも手垢のついたものは聴きたくない。それなら、ぜひ寺井尚之The Mainstemを聴きに来てください。バップの魂とサムライの折り目正しさを持つ、気持ちの良いピアノ・トリオです。
 次回は10月30日(金)、ぜひお待ちしています!
CU

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