ご無沙汰でした!
秋に病気をして退院してから、てんこもりの雑用をこなしていたら、もうクリスマスが・・・
ここ数年間、翻訳でお世話になっている《レゾナンス・レコード》のゼヴ・フェルドマンさん、別名「世界の発掘男」が、今月初めにNYタイムズにデカデカと載っていたので、リハビリを兼ねて和訳しました。今年リリースされたジャズ・アルバムの傾向と共に、ゼヴさんのユニークな点が余すところなく語られています。
原文はNYタイムス電子版でお読みになれます。
Jazz Recordings With a Sense of History and Discovery
-歴史発見感覚のジャズ・レコーディング-
ニューヨーク・タイムズ電子版 2016 12/5 付 (執筆者 ネイト・チネンデック)
“レゾナンス・レコード”はサラ・ヴォーンによる1978年のライブ盤を発売している。
写真:サラ・ヴォーン(於サンフランシスコ、1970、 撮影Tom Copi)
今年リリースされたジャズの必聴アルバム中の一枚は、半世紀も前の録音、もう一枚は1968年録音、これ以外にも同時期に録音されたアルバムが何枚も出ている。これらは全て、今年の主要トレンドを反映した作品だ。ジャズのレコード業界は、かねてから過去の音源発掘を常としてきたが、今年は従来の規範を超えた歴史的アルバムの大豊作で、多くが大発見の興奮を伴うものだった。
その中には、全曲未発表のエロール・ガーナー演奏集<Ready Take One >、最近発見されたチャーリー・パーカーの録音セッション<Unheard Bird >がある。その一方、ハーレムの《ナショナル・ジャズ・ミュージアム》は、所蔵の歴史的レコーディングから選りすぐりの音源をデジタル・アルバム化してリリースを開始した。<The Savory Collection, Volume 2 — Jumpin’ at the Woodside: The Count Basie Orchestra Featuring Lester Young >はApple MusicとiTunesより金曜日に発売される。
この潮流の中で、最も注目に値するアルバムを数多くリリースしたのは”レゾナンス・レコード”だ。”レゾナンス”は、発掘の使命感に燃える新規レーベルだ。ポストバップの先駆者となったオルガン奏者、ラリー・ヤングの絶頂期である’60年代に焦点を当てた< Larry Young in Paris: The ORTF Recordings >, ピアニスト、ビル・エヴァンスによる1968年の知られざるスタジオ録音盤、また、こじんまりした会場で、リラックスした独壇場のパフォーマンスが楽しめるサラ・ヴォーン(’78)、シャーリー・ホーン(’88)それぞれのライブ盤などをリリースしている。
加えて、”レゾナンス”は、テナー・サックス奏者、スタン・ゲッツのアルバムを2作リリースした。サンフランシスコのクラブ《キーストン・コーナー》でのライブ盤< Moments in Time >は秀逸なカルテットのプレイ、そして、もう一枚はボサノヴァの巨匠、ジョアン・ジルベルトとのリユニオン・セッション<Getz/Gilberto ’76>でジルベルトの気取らないサウンドが輝きを放っている。さらに、このレーベルの年頭を飾ったアルバムは、サド・ジョーンズ-メル・ルイスOrch.創立時のドキュメント< All My Yesterdays: The Debut 1966 Recordings At the Village Vanguard >であった。
“レゾナンス”・レコード総支配人、ゼヴ・フェルドマン:多くの成功作は彼の功績だ。
これらのアルバムには、それぞれ多くの資料が梱包されている。それは、新たに発見された歴史的写真、特別寄稿文、音源に参加した現存ミュージシャンのインタビューといったもので、例えば< Larry Young in Paris >の付録は68ページの豪華ブックレットだ。
”レゾナンス”は、音源の修復からパッケージ・デザインに至るまで、コレクターの理想とする「芸術作品としてのアルバム」制作のために、多額の資金をつぎ込んでいる。このような徹底ぶりは、アルバム関連のオンライン・ヴィデオ・ドキュメンタリー・シリーズの制作にまで至る。しかし、”レゾナンス”のこだわりこそが、一介の悪ノリ新興レーベルから、この分野を牽引するトップ・レーベルの座へと飛躍する原動力となった。
”レゾナンス”の創設者、ジョージ・クラビンはロスアンジェルスのオフィスから、電話インタビューで次のように語った。
クラビン:「うちのアルバムは、それぞれが小さな展覧会のようなものなんです。美術館の回顧展に行けば、展示室にそのアーティストの作品が所狭しと並んでいますよね。我々は、同じことをレコーディングで行っているんですよ。」
現在のクラビン氏の立場には、ちょっとした偶然が絡んでいる。彼は長らくレコーディング・エンジニアの仕事に従事していた。コロンビア大学在学中には、サド・メルOrch.を録音していて、新人アーティストを支援し、彼らの作品を市場で流通させてやりたいという思いから、非営利団体”Rising Jazz Stars Foundation”を創設した。つまり”レゾナンス”は、この団体の一部門として、新人支援の規範の下に発足したのだ。
1968年のビル・エヴァンス:”レゾナンス”は、同年のスタジオ録音をアルバム・リリースしている。撮影:German Hasenfratz,(via Andreas Brunner-Schwer)
しかし、ベテラン・レコード・プロデューサーであり、モザイク・レコードの総帥として、ジャズ復刻盤の金字塔を打ち立てたマイケル・カスクーナが持ち込んだ、巨匠ギタリスト、ウエス・モンゴメリーの初期のテープにより、状況は一変する。このテープを2012年にアルバム<Echoes of Indiana Avenue>として発表したことを契機に、< Bill Evans — Live at Art D’Lugoff’s Top of the Gate >や、サックス、フルート奏者、チャールズ・ロイドの初期の音源を2枚のアルバムとして相次いでリリースすることになる。
組織内の音源修復とマスタリング部門を統括するクラビン氏と並ぶ “レゾナンス”成功の仕掛け人が、総支配人ゼヴ・フェルドマンだ。根っからのジャズ・マニアであり、ポリグラムやコンコードといった大手レコード会社の営業部門に勤務してきた彼は、クラビン氏に要請されるまで、よもや自分がアルバムのプロデュースを担当するとは思わなかった。
今年の夏、フェルドマン氏はグリニッジ・ヴィレッジでコーヒーを飲みながら、以下のように語った。
「往々にして、私の情熱は、自分のキャリアの妨げとなってきました。昇進ができなかったり、就職を断られたこともあります。私のエネルギーと熱弁に、相手が怖気づいてドン引きしちゃうんですよ。」
逆に “レゾナンス”では、この性癖が功を奏した。彼に課せられた重要任務は、権利関係や使用許諾といった「交渉」であったからだ。
左から:スティーブン・ウィリアムス、シャーリー・ホーン、チャールズ・エイブルズ:ホーン、このメンバーによる1988年のライブ盤も今年の新譜。
写真:米国議会図書館蔵
マイケル・カスクーナは感嘆をこめて彼を語る。
「ゼヴは闘犬みたいな奴だ。これまで、我々の多くが骨折り損だと思い手を付けなかった案件を、持ち前のエネルギーのせいか、非常に合理的な根拠のせいか、とにかく彼は、どんどん話をまとめて、次から次へと奇跡を起こしてみせるんだよ。」
レーベルの新作には、ピアニスト、ジーン・ハリス率いるソウル系ジャズ・トリオ、”スリー・サウンズ”、”ファンク・ブラザーズ”のギタリストとして有名な、デニス・コフィーのライブ盤もある。(両作品は”ブラック・フライデー”にLP限定で発売され、来年1月13日にはCDとして幅広く販売される。)
“レゾナンス”の新年発売予定ラインナップ中、最大の注目作は、エレクトリック・ベースの巨匠、ジャコ・パストリアス率いるビッグバンドのアルバム< Truth, Liberty & Soul — Live in NYC: The Complete 1982 NPR Jazz Alive! Recording >で、4月の「レコード・ストア・デイ」にリリースが予定されている。これらを含め全新譜のアルバム作りがレーベルのポリシーに沿ったものであることは言うまでもない。
クラビン氏は「毎回、ここまで手間暇かけて制作するのは本当に難しい。」と、自らの経営モデルを語るが、笑いながら次のように付け加えた。
「誰かが同じような事をやりたいと思っても、やめといた方がいいと説得された挙句、尻尾を巻いて退散するのがオチだろうね。」
氏はさらに語る。「私たちの仕事は、まさに社会奉仕なんだ。これらの素晴らしいレコーディングを、このようなかたちで発表して、天から贈られた音楽の贈り物をこの世に復活させている。皆さんに楽しんでほしいという願いを込めてね。」
訳:寺井珠重