6月28日(日)に開催した「寺井尚之ジャズピアノ教室」生徒会主催日曜セミナーは大盛況!
2月に開催した日曜セミナー「ジャズの歴史」は、寺井尚之のワンマンショウでしたが、今回は「インタープリテーション(演奏解釈)」がテーマで、演奏解釈に長年取り組むベテラン生徒達の名レクチュアも聴けました。
プロデュースから発表まで大活躍のあやめ会長&むなぞう副会長、Great Job!
情感のこもるピアノが「むなぞう節」と呼ばれ、発表会で人気を博するむなぞう副会長は、レコーディングの残っていないフラナガンの名演目、“If You Could See Me Now”(Tadd Dameron作詞作曲)を取り上げ、歌詞の理解が演奏解釈にとってどれほど有益かを、雄弁に語ってくれました。
元祖サラ・ヴォーンの歌唱解説から始まり、トミー・フラナガンがお宝音源で聴かせる演奏解釈を、むなぞうくんが日本語にしてみせるバーバルな講義は、ユニークで面白かった~!
発表会で「最優秀賞&努力賞の殿堂入り」を果たすあやめ会長の講義は、後輩諸君に身近なスタンダード曲“Yesterdays”、そして当教室で音楽を学ぶ過程で避けて通れない歌手、ビリー・ホリディの十八番“Goodmorning Heartache”を取り上げ、譜例やスケールを提示しながら、さりげないイントロやエンディング、クリシェ(決まり文句)に引き継がれるジャズの「伝統」というものを判りやすく説明してくれました。
勿論、どこでも聴けないお宝音源は至福の音楽。それだけでなく、後輩ピアニストたちにとって、明日から即使えそうな実用的なアドバイスも講義原稿の中に沢山織り込まれていて、さすがは会長!でした。
セミナーが始まるまでは私と一緒に給食係、牛すじカレーを盛り付けながら、注文がややこしい生徒に渇を入れたり…ケーキを勧めたり大忙しだった真打講師:寺井尚之、おかげでカレーもケーキも完売!
<寺井尚之が指南する「波止場の佇み方」>
お待ちかね真打、寺井尚之のお題は、思い出深いジャズ・スタンダード“I Cover the Waterfront (波止場に佇み)”一本勝負。
まずは譜面を見ながら、キャノンボール・アダレイ(as)w/ストリングスの流麗なスイング感に溢れた演奏を聴いて、これが「楽しい曲」か「哀しい曲」なのかという、原点からスタート。
それから歌詞に帰ります。正調ビリー・エクスタイン(vo)の基本形で、「去ってしまった恋人を、波止場で待ち続ける」という歌の原風景を皆で確認しました。星のない夜空が「待ち続ける」心の闇を象徴して、なんとも切なくやるせない歌です。1933年の同名映画の主題歌だったこの曲は第二次大戦中、徴兵で離れ離れになった恋人たちの心情と相まって、ビリー・ホリディで大ヒットしました。
しっぽりとインディゴ・ブルーな切なさを歌うと右に出る者のないアーニー・アンドリュースの名唱にしんみりしたり、テクニックは有り余るのに、サンバで楽しく演っちゃう北欧のプレイヤーを聴くと「沿岸警備隊」の歌と間違ってるのかしらん?と思ったり・・・ここでは書けない寺井の超シニカルな批評にまた爆笑。
そしてビリー・ホリディの名唱が聴けました。ホリディを語らせておくと、ほっておいたら夜が明ける、というのはトミー・フラナガンも寺井尚之も一緒です。ここではオリジナル音源は敢えて聴かずに、終戦後のカーネギー・ホールの実況版を皆で聴きました。
戦時中は自分自身が「去ってしまった恋人」であった帰還兵が沢山詰め掛ける客席に向かってホリディが歌って聴かせた”I Cover the Waterfront (波止場に佇み)”の情景は、もう「星のない夜」ではなかった。「あなたの恋人は、もう波止場に佇まなくてもいいの。ほんとによかったわねえ…」と、一人一人に話しかけるような祝福のメッセージに変貌していたんです!名歌手ホリデイならではのマジックです。
ひょっとしたら’46年のカーネギー・ホールに変装して紛れ込んでいたんじゃないかしらと思えるような迫真の解説に、参加者は大爆笑!でも「その時」カーネギー・ホールにいて、この歌の変貌を生で体験したような気持ちを皆で共有できました。ビリー・ホリディを聴く皆の瞳はキラキラして楽しそうだったね!
ラストはもちろんトミー・フラナガンの『Sea Changes』を聴いて、フラナガンのインタープリテーションの原点に隠れるアイドル、ビリー・ホリディの残像をはっきり確認。
寺井尚之が使った音源は殆どがOverSeasのCD棚にある日常的な素材ばかり。それでも、演奏解釈の研究はたっぷりできるし、知れば知るほどジャズは楽しいものだと、改めて教えてくれました。
いかに技量の優れた演奏家でも、楽曲に対する深い愛と理解なしには名演は生まれない。自分が感動しなければ、人を感動させることなんて出来ないんだ!日曜セミナーで、色んな演奏や講義を聴いた私は、そんな風に感じました。音楽は”Cookin'”というくらいで、料理にも似ているし、演奏家と楽曲の関係は恋愛と似ているのかも・・・
大好評だった生徒会日曜セミナー!生徒会あやめ&むなぞう両幹部、ほんとにお疲れ様でした。
次回は8月の発表会が終わった9月の日曜を目標に準備するそうですので、生徒以外の皆さんもぜひ覗いてみてください!毎月第二土曜日のジャズ講座にもぜひどうぞ。
CU
月: 2009年6月
トミー・フラナガン公認ファンクラブのこと
蒸し暑い大阪の夜、今週はフラナガン公式ファンクラブ「トミー・フラナガン愛好会」幹部、石井将浩、貴子御夫妻がはるばるOverSeasを訪問してくださいました。
1991年結成の『フラナガン愛好会』の本部は横浜で、トミーはいつも愛好会のことをヨコハマ・ピープルと親しみを込めて呼び、愛好会のユニフォームになっているネイビー・ブルーのウインド・ブレーカーがお気に入りでした。現在夫妻は横浜市役所をアーリー・リタイヤメントして、住み慣れたハマを離れ、富士山麓の山中湖村で絵本館を開設されているのだけど、ダイアナはそんなことお構いなしに今も「ヨコハマ・ピープル」と呼んでいる。
愛好会とOverSeasのお付き合いは’94に寺井尚之がデビュー・アルバム“AnaTommy”をリリースした時からで、以来何度となく寺井尚之のライブに泊りがけで来て下さったり、OverSeasならではのスペシャル・コンサートには必ず足を運んで下さっています。生前のトミー・フラナガンのコンサートも、’96以降は、全部出席してくださっていたから、フラナガンは大阪とヨコハマはすごく近いと思っていたかも・・・週末に来館者が集中する絵本館をオープンしてからはトリビュート・コンサートの日には、絵本館でトリビュートのCDRを一日中かけて下さってます。
今週の火曜日デュオは、菅一平(ds)さんが参加のThe Mainstemが真摯に演奏、水曜日の”Echoes”は私の予想通り爆発し、愛好会を歓迎!
フラナガンの晩年には愛好会でNYツアーを敢行し、ヴィレッジ・ヴァンガードに出演するフラナガンを喜ばせ、現在も山中湖で例会を行っているみたい。「寺井尚之ジャズピアノ教室」のパーティに団体でご参加いただいたこともありました。会員数は良く判りませんが、石井夫妻以外にも錚々たるメンバーが一杯!トミー・フラナガンの膨大なディスコグラフィーを網羅するサイト(ジャズ講座の資料作成の時に、このサイトからしょっちゅうジャケ写真を拝借させていただいてます。)を運営し、文章力に長ける酒豪、和田氏や、オクスフォード大学で法律を学んだプロフェッサー須藤など、来阪されると皆さんOverSeasに立ち寄ってくださってます。
噂によると、近々ジャズ雑誌に「トミー・フラナガン愛好会」が紹介されるということなので、記事を拝見するのを楽しみにしてます。
「森の中の絵本館」では、一日中トミー・フラナガンもしくは寺井尚之のレコードが流れているそうです。私も行ってみたい!夏休みに山中湖方面に避暑に行らっしゃる方はぜひ一度覗いて見てください。
CU
Mainstem: The Way You Sound Tonight (6/20)
本格的な梅雨到来!今夜は夜更けになると大雨が降ってます。季節のレパートリーで聴かせる寺井尚之The Mainstemにとって、低湿度の国で生まれた爽やかな6月の名曲をじめじめの大阪で演るには、それ相当の覚悟と腕が要るらしい…
<The Way You Taste Tonight>
今夜のThe Mainstemには、朝晩肌寒い北海道から爽やかなプレゼントが届きました。摩周湖のジャック・フロスト氏が送って下さったグリーン・アスパラは日本一の味!出来立ての「蒸し豚」と、自家製ナムルに添えると、最高の Mainstemスペシャル・メニューに・・・おかげで演奏もカラっとした爽やかさが一杯!MR.JFご馳走様です!
見た目もアメイジングなアスパラ!自宅で育つ菊菜の新芽でナムルを作ったら、この菊菜の栽培を教えて下さったK氏も1番テーブルに来られ、召し上がってくださいました。
むなぞう副会長&N.Mitamura両氏がディナーを楽しむ4番テーブルで無作法にパチパチ撮影、Sorry, Boys!
<今夜の曲目>
<1st>
1. The Way You Look Tonight 今宵の君は (Jerome Kern/ Dorothy Fields)
2. Out of the Past アウト・オブ・ザ・パスト(Benny Golson)
3. Strictly Confidential ストリクトリー・コンフィデンシャル (Bud Powell)
4. Heaven ヘヴン (Duke Ellington)
5. Pent Up House ペント・アップ・ハウス (Sonny Rollins)
1. Monk’s Dream モンクス・ドリーム (Thelonious Monk)
2. I Had a Craziest Dream アイ・ハッダ・クレイジエスト・ドリーム (Harry Warren/Mack Gordon)
3. Medley: Embraceable You ~Quasimodo
メドレー:エンブレイサブル・ユー(George & Ira Gershwin)~カシモド(Charlie Parker)
4. I Want to Talk About You アイ・ウオント・トゥ・トーク・アバウト・ユー (Billy Eckstine)
5. Lotus Blossom ロータス・ブロッサム (Kenny Dorham)
1. Who Cares? フー・ケアズ?(George & Ira Gershwin)
2. Come Rain or Come Shine 降っても晴れても (Harold Arlen/ Johnny Mercer)
3. Sweet Georgia Brown スイート・ジョージア・ブラウン(Ben Bernie, Maceo Pincard, Kenneth Casey)
4. When Sunny Gets Blue サニーがブルーになった時 (Mervin Fisher/ Jack Segal)
5. Raincheck レインチェック(Billy Strayhorn)
Encore: With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワーズ・ノン (Tom McIntosh)
<そういや講座で聴いたっけ!>
The Mainstemライブは、その月のジャズ講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」解説曲の寺井ヴァージョンが聴けるのもお楽しみのひとつ!
ケニー・バロン(p)とのデュオ・アルバム『Together』で聴いた”今宵の君は”が今宵のオープナーでした。
例の問題作『The Super Jazz Trio』からは<1-5 >Pent Up Houseを選び、The Mainstemならではの鉄壁のユニゾンが凄かった。「どうやっ!」って大見得を切ってくれて胸がスカっとしましたね!
<3-3>は『Together』で聴いたマイルスのバップ・チューン“Dig”の原曲“Sweet Georgia Brown”、寺井が今夜の為に書き下ろしたアレンジが大好評!
旬の曲の合間にさりげなく挟んだ、エリントンの“Heaven”では宮本在浩(b)のベースラインが光ってました。
<あの名台詞も!>
季節に因んだ名曲はディナーも終わってリラックスした2部から聴くことが出来ました。
まずは3曲目の”カシモド”メドレーから。「えー、なんで??」と不思議に思う方がいらっしゃるかも知れません。かつてジョージ・ムラーツ(b)時代のトミー・フラナガン3を今頃の季節、NYで聴いたときのことでした。アドリブでフラナガンがバートン・レインの“How About You”の一節を不意に引用しました。
「I Like New York in June, How About You? 僕は6月のNYが好きさ、君はどう?」って。
そうしたら、ムラーツがすかさず後の句を最高の音程と抑揚で切り返したんです。
「I Like a Gershwin tune, How About You? 僕はガーシュインの曲が好きだよ、君は?」ってね。だって“エンブレイサブル・ユー”はガーシュイン作なんだもの!
なんて粋なんでしょう!演った本人はすぐ忘れていたかも知れないけれど、この名台詞は寺井尚之の心の中にずっと残っていて、”カシモド”メドレーの中で欠かせないフレーズになっているんです。
続く “I Want to Talk About You”も旬な曲。バップ・バラードの白眉といえるこの作品は甘いマスクとバリトン・ボイスで、黒人初の2枚目シンガーとなったMr.Bことビリー・エクスタイン(vo.vlb tb.tp)の作品。アイドル歌手として稼いだ資金でパーカー、ガレスピー、アート・ブレイキー、ケニー・ド-ハムなど最高のバッパーを集めた夢のようなビバップ・ビッグバンドを結成したBop史の最重要人物で、サラ・ヴォーンの師匠でもあります。
寺井尚之はバップのアクセントで歌うビリー・エクスタインが大のお気に入り!このバラードは当時タッド・ダメロンがビッグ・バンド用にアレンジしてヒットしました。
二部のラストは、旬のハード・バップの白眉!エクスタインのバンドで腕を磨いたKDことケニー・ド-ハム(tp)の『蓮の花』!6拍子から4ビートへとギアを目まぐるしく入れ替え、ジェット・コースターみたいにスイングするThe Mainstemは最高!演奏全体を見据えながら寺井と一体になってダイナミクスを劇的に変化させる菅一平(ds)の新境地を見せつけられました。若きピアニストたちは、この曲演りたい!と口々に言っていたけど、難しいらしい・・・
<”Pitter Patter”もしくは”しとしとぴっちゃん”・・・>
三部では「雨」の色んな情景が聴こえてきました。<3-2>「降っても晴れても」は明るい雨の景色、
キングコールで有名な<3-4>は哀しいけれど、可愛い雨。
明るいサニーがブルーになると、
瞳はグレイの曇り空。
ピタパタ、しとしと
雨が降りだす。
恋に破れて、どうにもならぬ、
私の優しいあの人は、
もう私のところにやっては来ない。
・・・
心の傷はそのうち癒える、
新しい夢も芽生えるさ、
新しい恋よ、恋人よ、
急いで急いでやって来い。
クロージングは、最高に軽快な雨、” Raincheck “、『レインチェック』はスポーツの試合などが雨で出来なくなったとき、代替に渡すチケットのことで「雨天順延」の意味でも使う言葉。NYヤンキースタジアムは今年は異例にレインチェックが多いらしい。フラナガンの名演目ですからトリビュート・コンサートでもお馴染み!湿気を吹っ飛ばすThe Mainstemのプレイに大きな拍手が!
アンコールもOverSeas的大スタンダード!The Other Sideなミュージシャン達にも悪意を向けてはならぬという寺井尚之の自戒の弁だったのかも…
とはいえ、高松から1年半ぶりに来て下さったSさんの大好きな曲で「ラッキー!」と喜んで下さっていてよかった!With Maliceは文字通り、「聴いてくださる全ての方への愛の曲」です!
次のThe Mainstemの出演は26日、今週金曜日!
私は次回も清涼感のある料理を作ってお待ちしてます。
CU
寺井珠重の対訳ノート(16)/ There Will Never Be Another You
こんにちは!
先週の「トミー・フラナガンの足跡を辿る」問題作編:には沢山ご参加いただきありがとうございました!ジャズ講座は来月から新学期、寺井尚之がリアルタイムで聴いたアーティスト達の’79以降の録音群ですから、解説がますます楽しみですね。
今日は、レッスンや、明日の末宗俊郎(g)3などで日常的に聴くスタンダード曲、“There Will Never Be Another You”について書いてみようと思います。
<歌のお里は北国アイスランド>
ハリー・ウォーレン&マック・ゴードンコンビ&彼らのヒット曲の演奏者達。
右端のバンドリーダー、サミー・ケイは映画Icelandに出演してAnother Youを演奏している。
『あなたなしでは』という邦題のついている“There Will Never Be Another You”は、日本の国が「欲しがりません勝つまでは」と戦争一色だった頃(’42)の作品です。作曲ハリー・ウォーレン、作詞マック・ゴードン、このコンビは、”You’ll Never Know”やグレン・ミラー楽団のおハコ”Chattanooga Choo-Choo (チャタヌガ・チュー・チュー)”など沢山のヒット曲を作りました。このコンビのヒット曲は殆どが映画畑の作品で、“There Will Never Be Another You”のお里も、『アイスランド』という日本未公開映画の挿入歌、フィギア・スケートで何度も金メダルを取り、銀盤の女王からハリウッド・スターに転進したブロンド美人、ソニア・ヘニー主演の恋愛ミュージカルでした。
<Iceland>
映画を観た事はありませんが、いかにも苦労知らずのアメリカ的戦中映画、面白いかどうかわからないけど、一応あらすじを書いておきます。
大戦中、アメリカ海兵隊が北大西洋の国、アイスランドに上陸。女たらしの大尉、ジェームズは早速ガールハントに精を出す。アイスランドの風習を知らないジェームズは、スケート・チャンピオンのカティナ(ソニア・ヘニー)を気軽に口説いてしまう。だが、厳格な文化を持つアイスランドはアメリカとは違い、ナンパは結婚の申し込みと同じだったのだ。困ったジェームズは何とかして、カティナとその家族が婚約を破棄したくなるように、海兵隊の仲間に頼んで色々画策するのだが、最後には本当にカティナを愛してしまうのだった…
ほんまにノー天気なストーリーですね!“There Will Never Be Another You”はジェームズがカティナに向かって歌う別れの曲だったり、ナイトクラブのシーンでバンドが演奏したりするようです。
<シンプルで柔軟な歌詞>
“There Will Never Be Another You”は寺井尚之ジャズピアノ教室で基礎トレーニングを終えることの出来た生徒達が初めて自分のソロを考えながら稽古する曲なのですが、“カシモド”みたいに原作を研究しなくても、色々イメージを作れる題材だということは判ったかも。
歌詞を日本語にするとこんな感じ。オリジナル判についているヴァースもつけておきました。原歌詞はこちら。
“There Will Never Be Another You”
<あなたなしでは>
曲:Harry Warren 詞:Mack Gordon
=ヴァース=
これが共に踊るラスト・ダンス
今夜のことも、すぐに昔話。
お別れに、
判って欲しいことがあるんだ。
=コーラス=
こんな素敵な夜だって
これから沢山あるだろう。
他の誰かと肩寄せ合って、
ここに来る日もきっとある。
口づさむ唄は、
他にも沢山あるさ。
心地よい春や秋、
季節は必ずめぐり来る。
でも、あなたに代わる恋人を、
決して見つけることはない。
他の誰かとキスしても、
あなたがくれたときめきを、
味わうことは二度とない。
色んな夢を見ることも、
きっとあるかも知れないが、
あなたの代わりがいないなら、
夢など叶いはしないんだ。
Youtubeを覗いたら、歌詞に沿うダイナミクスや息継ぎが完璧な歌手、ナット・キング・コールや、ビリー・テイラー(p)3にラッセル・マローン(g)がゲストで入る、いい感じの演奏がありました。ビリー・テイラーはトミー・フラナガンとの圧巻のデュオ映像でご存知の方も多いかも…「かぶりもの」 に関係なく巨匠です!マローンのピックアップに親しみを感じるでしょう!!
<告別式でのAnother You>
“Another You”は、ある特定のミュージシャンの「おハコ」というのがなく、実に沢山の人が演奏している分、自由に解釈できる素材。ヴァースを入れなければ、失恋の歌、求愛の歌どちらにも解釈できるし、その場にいない相手に歌いかけているとも解釈できます。
トミー・フラナガンの告別式では、ジョージ・ムラーツが「掛け替えのない音楽パートナーを失った悲しみ」を表す曲として演奏しました。「あなたがくれたときめき」は、二人の音楽的高揚感ですね! 歌詞を読むほどに、ムラーツ兄さんの気持ちの深さを感じます。
個人的には、無知な軽音のガキ部員だった頃、バド・パウエル(p)の『Strictly Powell』でのAnother Youで、「ピアノも歌手と同じ息遣いが出来るんだ!」とすごい衝撃を受けました。
○ ○ ○ ○ ○
今回は、四季を問わず楽しめるスタンダード曲について書いてみましたが、土曜日は季節の懐石The Mainstem trio! 宮本在浩さんは稽古に勤しみ、菅一平さんは映画のエスメラルダに恋をして、ドラミングのイメージを飛躍的に高めているみたい。ぜひ聴きに来て下さい!
最後にGood News! 「問題作講座」が講座本として出版される日を楽しみにする摩周湖の寺井ファン、ジャック・フロスト氏が、「皆さんで召し上がってください。」と、隣町の小清水町で取れた日本一のグリーン・アスパラをチルド便で差し入れしてくださいました。甘くてしっかりしていて、つまみ食いを我慢するのが大変です!土曜日のスペシャル、「蒸し豚」のサイドディッシュにいたしますので、ダイナマイトな風味をお楽しみください!Thank you Jack!
CU
「問題作」登場!6月13日(土)ジャズ講座
皆さん、お元気ですか?
前回ご紹介した生徒会セミナー、おかげさまで残席がかなり少なくなってきました。参加ご希望の方は早めにJazz Club OverSeasまでご連絡ください。
今週の土曜日は、寺井尚之のジャズ講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」開講です。
今回は、トミー・フラナガンディスコグラフィー中「問題作」とされる、The Super Jazz Trioの作品群の内、二作が登場します。
ベースはジョン・コルトレーンとの共演が有名なレジー・ワークマン、何年か前、ジミー・ヒース(ts)のバンドが京都で公演したときお会いしたことがありますが、初対面でもうちとけた笑顔の素敵な紳士でした。ドラムは、ジョー・チェンバース、フレディ・ハバード(tp)やウエイン・ショーター(ts,ss)との共演作で有名なチェンバースは、以前スタンリー・カウエル(p)がNY市立大のリーマン・カレッジで教鞭を取っていた時、スタンリーの研究室で助手をやっていました。二人とも、現在はジャズ教育者として定評のある人たちです。
トミー・フラナガンが、OverSeasでコンサートを行った時、このアルバムが原因で大騒ぎになったことがあります。詳しいことはどうぞ本番のジャズ講座でお聞きください。
ジャズ・ミュージシャンたちは、相容れない共演者のことを、「あっち: the Other Side」、同じヴァイブレーションで演奏する味方を「こっち: This Side」と、仲間内で呼ぶことがあります。今回登場する『The Super Jazz Trio』、そして、アート・ファーマーに同じトリオを組み合わせた『Something Tasty』を講座で聴くと、きっとその言葉の意味がよく判って、気分はYeah, Man! ジャズメン!になるかも…
そして、もう一枚は、ケニー・バロン(p)とのピアノ・デュオ、『Together』、現在は押しも押されもしないピアノの巨匠ケニー・バロンですけれど、「トミー・フラナガンの背中を見て育ったピアニスト」という言い方をされていた時代の録音で、現在のバロンのプレイとはずいぶん違った印象を受けるかもしれませんね。
今回も秘蔵音源を併せてお聴きかせしながら、寺井尚之が、トミー・フラナガン独立直後の秘話や、プレイから判る色んな状況を、楽しく解説する講座になるでしょう!
講座のお奨め料理は、男の料理by 寺井尚之:「黒毛和牛の赤ワイン煮込み」、私が鶴橋市場に行って、冷凍していない最高のお肉を仕入れてきました。(重たかった~!)今回のお肉は特に上物です。こちらも乞うご期待!
寺井尚之のジャズ講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」
6月13日(土)6pm開場 6:30開講 (要予約)
受講料:2,625 円 (税込)
CU
生徒会主催:日曜セミナーは6月28日です!
来たる6月28日(日)、稽古熱心、勉強熱心で定評のある「寺井尚之ジャズピアノ教室」生徒会がセミナーを開催いたします。
日時:2009年6月28日(日)正午~3pm(開場11:30am)
場所:Jazz Club OverSeas
受講料:2,500円
講座の趣旨は、自分の演奏を構築する際に悩む生徒達を対象にしたものですが、一般のお客様も大歓迎!レッスンはともかく、発表会やセミナーは常にオープンハウス! 前回の生徒会講座「ジャズの歴史について」は満員札止めになりました。
<今回のテーマは今晩のおかずにも使える!>
今回のテーマは『インタープリテーション』と片仮名になっております。Interpretationは「通訳、解釈、演出…」と色んな意味がございますが、ジャズの世界では『演奏解釈』のこと・・・と言えどそれなんやねん!?と思われる方は多いかも…
とはいえ、どんな芸術表現にも『インタープリテーション』はある。ジャズなら、プレイヤーが「曲」という素材に対峙して、そこから何を表現すればいいのか?というテーマ。ジャズに限らず、クラシックから演歌に至るまで、映画演劇、歌舞伎、書や絵画、グラビア・ヌード…どんな芸術、娯楽表現にも『インタープリテーション』は存在します。演奏者や、役者、監督の『インタープリテーション』のさじ加減ひとつで、同一素材でも、出来上がりの味は全く変わってきます。
OverSeasの調理場でメニューを考えたり、今晩のおかずを作るときだって「このアスパラや、あのえんどう豆のどういうところをおいしく食べさせたいのか?」と思い悩む私。『インタープリテーション』は、音楽を演奏しない人にも、ごく身近なテーマなので、ぜひ一般の皆さんもお誘いしたいと思っています。
<意味がなければスイングしない。>
寺井尚之のジャズ講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」に出ていると、強烈にスイングしてシビれさせる一流プレイヤーには、必ず「狙い」があることが、よく判りますよね。例え、録音当日に、レコード会社に指示された曲であっても、ブレない演奏解釈をするのが一流の仕事。ジャズの醍醐味「即興演奏」を突き詰めて、わざとサイドメンに曲想を伝えないマイルスやコルトレーンの実験的演奏にも、それなりに『インタープリテーション』や「狙い」がある。楽器のテクニックがあっても、『インタープリテーション』がないと、「感心はするけど感動しない」という結果になってしまうんです。ハートのある音楽は、『インタープリテーション』なしにはあり得ないし、『インタープリテーション』がよくないと、どんな名曲でも、イケてない印象を与えてしまうんだ…
私が歌詞対訳に熱中したのも、名歌手それぞれの『インタープリテーション』をどうにかして皆さんに伝えたかったからでした。例えば、”Don’t Explain”という愛する男の浮気に気づく女の歌を知っていますか? 本家、ビリー・ホリディなら「全てを赦すから、どうぞ私を捨てないで」という切なく哀しい女の歌になり、カーメン・マクレエが歌うと、同じ歌詞でも、後ろ手に45口径のピストルを隠し持っているような切羽詰った情景が浮かぶ…これも『インタープリテーション』の醍醐味です。
<前半はベテラン生徒が>
前回の歴史講座は寺井尚之のワンマン・ショウでしたが、今回は、当教室で10年以上『インタープリテーション』を研究する二人のベテラン生徒たちが前半のレクチュアを担当いたします。
むなぞう副会長
一番バッターは、生徒会副会長むなぞうくん、あやめ会長と同期でジャズピアノ教室開設以来、寺井尚之に師事していますから、教室11年生。学生時代からOverSeasコンサートの送迎担当として、トミー・フラナガンやサー・ローランド・ハナとも親交を持ち、巨匠達から直接音楽論も語ってもらった人です。余談ですが大歌手のマリーナ・ショウにひどく気に入られ、娘の婿になって欲しいと言われたことも…
彼がレクチュアする題材は、むなぞう副会長自身のレパートリーで、タッド・ダメロンの屈指の名バラード、“If You Could See Me Now”、トミー・フラナガンもライブで一時期盛んに演奏していましたが、寺井尚之が自分のレパートリーに取り込んでしまったせいかレコーディングが残っていない曰くつきの作品!今回は特別に、他所では決して聴けない超秘蔵音源も公開しながら解説してくれます。
あやめ会長
二番バッターは、OverSeasでのライブ回数も生徒会最多となった師範代あやめ会長、ジャズ講座本のテープ起しを担当する教室きっての学究派、あやめさんが、潤沢な知識と情報を駆使して流暢に解説してくれるのは、スタンダード2曲、ジェローム・カーンのYesterdaysと、ビリー・ホリディの名演目Goodmorning Heartache、極めて多数のレパートリーを手中にするあやめ会長が、11年賭けて編み出した自己ヴァージョンの組み立ての秘法など、名演の数々と共に、ピアニストたち垂涎の話を聞かせてくれるでしょう!
二人は、寺井尚之が密かに所蔵するプレミア焼酎のようなマル秘音源をたっぷりと講演に盛り込むつもりにしているようなので、ぜひお楽しみに!
<後半は真打の「波止場に佇み」で!>
セミナー後半は、真打寺井尚之登場!解説するのは、生徒会側のたっての希望で“I Cover the Waterfront(波止場に佇み)”一本勝負。寺井尚之の十八番でもある“波止場に佇み”は、後期トミー・フラナガン3の名盤、『Sea Changes」に収録されています。今回は、そのフラナガンの名ヴァージョンと共に、数々のアーティスト達の名演奏や、日本男児、寺井尚之ならではの“波止場に佇み”を聴きながら、様々な『インタープリテーション』が、実に多彩な「波止場の情景」を描き出せることを、爆笑の談話と共に、実感していただけることでしょう。
不肖「給食係」の私は、生徒会講座名物、BeBopの香り高い「特製牛すじカレー」を作ってお待ちしています。
今回の生徒会講座は、「寺井尚之ジャズピアノ教室」で、皆がどんなことを学んでいるかも実感できる楽しいセミナーになりそうですね!
ご予約は14日(土)までに、メールかお電話(TEL 06-6262-3940)でOverSeasまで、どうぞ!
CU
「皆さんどうもありがとう!」 寺井尚之:6/6(土)
6月6日はオーメンの日、楽器の日、同時に寺井尚之の誕生日!今年で57歳!!WOW!!
寺井尚之にはずっと内緒で生徒会が企画し、知っていた少数の常連様も参加してくださって、ワインやスイーツでお祝いしました!
前日にお祝いに来て下さった山口マダムや、お仕事で先に帰られたクニさん、記念写真に写っていませんが、ほんとに皆さんありがとうございました!
余り沢山のお客様がサプライズ・パーティに来てくださったので、寺井尚之(p)-倉橋幸久(b)-菅一平(ds)の第一土曜トリオにとっても文字通りサプライズ!
生徒会の美女たちにお花や好物のお酒をプレゼントしてもらって、寺井尚之はヤバそうな表情でした。プレゼンターは、パーティの召集令状にバッパーらしく即座にヒップな返事をしてくれたヒロちゃん&師匠のファンクラブ会長を目指すみゆきちゃんの生徒会シスターズ。因みにヒロちゃんが同行したお嬢ちゃんは、菅一平(ds)のファンクラブ会長を目指しています。
OverSeasに楽しいひとときを運んでくれた皆様が天使の歌声で歌ってくれたバースデイ・ソングは、休学中児玉エコーズ会長のサックス演奏と共に文字通りコダマして、最高でした!
“And the Angels Sing”
みなさん、どうもありがとうございました!!
作曲者の気持ち:”Tenderly(テンダリー)”
先週のThe Mainstemライブ、楽しかったですね!
The Mainstemの演奏プログラムは「季節感溢れる懐石料理」と宣言する寺井尚之が、あの夜「先付け」=オープニングに選んだのがTenderlyでした。
Tenderlyはサラ・ヴォーン(vo)ファンにとっても極めつけの名演目、在りし日のサラのコンサートは、私も毎年必ず見に行っていました。サラはコカインを常用しているという噂で、ものすごい汗かき、バスタオルでも首に巻いとけばいいのに、ピアノの中にクリネックスの箱を置いて「スポットライトが熱すぎる」とかブーブー文句を言いながら、汗をぬぐったティッシュを丸めて、ピアノの中にポイポイ…でも、Tenderlyを歌いだすと、見た目と裏腹に、魔法のそよ風が吹いてきた。
整形して美人歌手として売り出した「ミュージックラフト」時代のサラ・ヴォーン
作曲ウォルター・グロス、作詞ジャック・ローレンス、いわゆる「歌モノ」と呼ばれるスタンダードの出所は、大部分が映画やミュージカルですが、Tenderlyは最初からポップ・ソング、初演したのが芳紀22歳のサラ・ヴォーン、この歌が彼女の初ヒットとなりました。
The Mainstemのライブの後、深夜にWebで作詞者ジャック・ローレンスのサイトを発見、そこでTenderlyにまつわる秘話も発見、作詞家自身が書いた逸話から、「曲」が「歌」に変わるとき、作曲家は複雑な心境になるんだと知って面白かった。要約するとこんなことが書いてありました。
ジャック・ローレンス(1912-2001)はロシア系ユダヤ人、長期にわたって活躍した作詞家、”Tenderly”の他、”All or Nothing at All”や、映画のタイトルにもなった“Beyond the Sea“も彼の詞、本業のほかブロードウェイのプロデューサー、劇場主としても手腕を発揮した。
○ ○ ○ ○ ○
1946年のある日、私(Jack Lawrence)は、NYの音楽出版社でハリウッド時代の旧友、歌手のマーガレット・ホワイティング、マギーと久しぶりに再会した。
ひとしきり昔話をした後で、マギーは「ウォルター・グロスを知ってる?」と私に尋ねた。個人的には知らないが、優れたピアニストだという噂は聞いていた。彼はミュージクラフト”という小さなレコード会社の音楽監督としても仕事をしていた。
「ウォルターが物凄く良い曲を書いたのだけど、良い歌詞に恵まれなくて困ってるのよ。あなたならきっと書けると思うの。」そう言うなり、彼女はウォルターに電話をして、私を彼のオフィスに同行した。
マーガレット・ホワイティングの父は作曲家のリチャード・ホワイティング、天才歌手としてこどもの時から芸能界で活躍しており、アート・テイタムなど知己多し。
”ミュージクラフト”の事務所は歩いて行ける場所だった。マギーはウォルターに、例のメロディをピアノで弾いてと言い、私はたちまちその曲に惚れ込んでしまった。「歌詞を書くから譜面が欲しい」と頼むと、ウォルターは、しぶしぶといった様子で走り書きした五線紙を私にくれた。その時の彼の顔といったら、まるで体の一番大切な部分ををもぎ取られるようだったよ。
そのメロディは私の頭にこびりついて離れなかった。滅多にそんなことはないのだが、自分の中で歌詞が勝手に出来上がって行くような感じだった。私はたった2-3日で、Tenderlyという題名も歌詞も一気に仕上げた。それで非常に興奮していたが、ウォルター・グロスに報告するのは、しばらく我慢することにした。何故なら、すぐに出来たと言えば、きっと”やっつけ仕事”だと思われ、断られるに決まっているからだ。
ウォルター・グロス(1909-67) ピアニストとしても有名、変人作曲家アレック・ワイルダーのお気に入りだ。
結局、10日間我慢した後、私はおもむろにグロスに電話した。そして今までの興奮をありったけ声に込めて言ったんだ。
「ウォルター、出来たよ!」
しばらく沈黙があり、彼は尋ねた。「題名は?」
「”Tenderly”だよ!」テンダリー♪ 私はあのメロディを受話器で口ずさんだ。
すると、さっきより長い沈黙が流れ、ウォルターは吐き捨てるようにこう言った。
「“Tenderly”?!そんなの歌の題名じゃないよ!“Tenderly”なんて、譜面の上のほうに書く注釈じゃないか!”Play tenderly (優しく情感豊かに演奏せよ)”ってな。 」 明らかに、私の歌詞は、その時点でボツにされたのだ。郵送するから、歌詞を読んでもう一度考えて欲しいと頼んで、その時は電話を切った。
何ヶ月経っても、ウォルター・グロスからは何の連絡もなかった。やがて、あの曲に挑戦した作詞家が大勢いたこと、全ての歌詞がボツにされたこともわかった。
きっとあの曲は、ウォルターにとって「一番可愛いこども」だったんだ。どんな作詞家とも「こども」を共有したくないんだ…私はそう思った。
だがその頃、私の書いた”Linda”という曲が大ヒットしていたので、Tenderlyを売り込む機会に恵まれていた。ある大手出版社の社長が、「これはいい!」と気に入ってくれて、すったもんだの末に出版することになったのだ。
サラ・ヴォーンの初レコーディングをきっかけに、じわじわと曲の人気が上がり、Tenderlyは沢山のミュージシャンが取り上げるジャズ・スタンダードになっていった。
思い出すのは、ウォルター・グロスがピアノで出演していたイーストサイドのクラブに立ち寄った夜のことだ。店は超満員でウォルターが登場すると、お客が口々に”Tenderlyを演ってくれ!”と声をかけた。ウォルターがリクエストに対して一礼した時、私はバーから手を振った。だが、彼は見ないふりをして、無視したよ。ヒットしても、彼の一番好きなメロディを他人と分け合うのが余程いやだったのだろう。…
○ ○ ○ ○ ○
結局、ローレンスとグロスにとっては、マイナーレーベルのサラ・ヴォーンのささやかなヒットよりも、大スター、ローズマリー・クルーニー(今では「オーシャンズ12」のジョージ・クルーニーの叔母さんとしての方が有名?)が、メジャー・レーベル、コロンビアレコードから飛ばしたミリオン・セラーの方がずっと大きな意味があったのでしょうが、私にとっては、The Mainstemの軽快な演奏解釈や、まるで和音のように響くサラ・ヴォーンの歌が無比なんです。以前の生徒会講座でも、サー・ローランド・ハナがバックで聴かせるアルバム、『Soft and Sassy』の名唱を聴きましたよね。
最愛のメロディに渋々歌詞を受け容れたウォルター・グロス、箱入り娘を嫁にやる心境だったのかな? でも、彼の作品のうちで、現在もスタンダード曲として演奏されているのはTenderlyだけ、曲の運命というのはわからないものですね。
Tenderly
Jack Lawrence/ Walter Gross
The evening breeze
Caressed the trees
Tenderly.
The trembling trees
Embraced the breeze
Tenderly.
Then you and I
Came wandering by
And lost in a sigh
Were we.
The shore was kissed
By sea and mist
Tenderly.
I can’t forget
How two hearts met
Breathlessly.
Your arms opened wide
And closed me inside-
You took my lips,
You took my love
So tenderly.
夕暮れのそよ風は、
木々を撫でた、
優しくね。
そよぐ木立は
そよ風にキスをした、
優しくね。
ちょうどそこに、
あなたと私が通りがかり、
ため息の中
夢中で我を忘れたの。
砂浜は
大波小波にキスされた、
優しくね。
二人の心が触れ合って
息が止まりそうだったあのときを、
どうしても忘れられないの。
あなたは腕を大きく開き、
私を包み込んでくれた、
そして私のくちびるも、
私の愛も奪ったの、
とても優しくね。
明日は色んなスタンダード曲が楽しめる鉄人デュオ!ピアノは寺井尚之、ベースは中嶋明彦(b)でお送りします。
私は、おいしいチキン・ローストやトマトソースを仕込んで待ってます!
CU
Oh Lawd, I’m on My Way , 田中裕太ラスト・セッション 5/30
プレイと裏腹な寺井尚之の愛想なさと、若手ジャズメンの豊かな表情で人気を博した、スーパー・フレッシュ・トリオ(SFT)は、銀太君こと、田中裕太(b)がNY修業に旅立つため、今回をもってしばらくお休みです。
思えば、銀太君とOverSeaの出会いは、寺井の優秀なお弟子さんだった、きんだいご君(現在、東京在住)が、関学時代にジャズ研の後輩としてライブに連れてきたのがきっかけでした。誰にでもあだ名を付けたがる寺井尚之が、その日から、「金の後輩やから、おまえは銀太、きんさん、ぎんさんや」と勝手に名前をつけたのだった。 当時の関学ジャズ研の人たちは、それ以外にも、寺井尚之に、銅三、スズ、アル美、トタンなど、色んな名前をつけられた人たちがいるけど、今でもジャズをやっているのかな?
卒業してサラリーマンになった銀ちゃんに、「会社を辞めてプロのミュージシャンになりたい。」と相談されたときは、一生懸命止めたけど、昔の寺井尚之と同じように、やっぱりジャズの道に突っ走っちゃった。
NYに行った所でNobodyで終わる人は沢山いるし、インフルエンザや女難、クスリ難など、あらゆる苦難や誘惑に打ち克って、多くのものを得て欲しい・・・と、おばちゃんは余計な心配ばかりしているけど、That’s Life! がんばって勉強してください!
一方、この夜もフラナガニアトリオで観た技の盗みっぷりを披露したドラマー、今北有俊くんは、素晴らしい師を持ったことでメキメキ腕を上げてます。そういえば、TVに良く出ている脳科学者が「上達の一番の秘訣はメンター(師)を持つこと。」と言ってたっけ。今北君は、今後もOverSeasに出演しますので、皆様どうぞ声援をお願いします。
銀太君のポストを引き継ぐよう、皆に期待されてます!kgことベーシスト坂田慶二に応援よろしく!
これから寺井尚之(p)-坂田慶治(b)ー今北有俊(ds)でじっくりトリオを組み、6月27日(土)に出演いたします。
銀太君、I’ll Be Seeing You!
OverSeasのヤングライオンズを今後ともどうぞよろしく!
CU
耳もお腹もTasty! The Mainstem 5/29(金)
五月後編のThe Mainstemトリオは、先週バックスクリーンに満塁ホームランをかっ飛ばしたフラナガニアトリオに続く打順、でもプレッシャーでボテボテのショート・ゴロを打ったりしなかった。レギュラー・トリオでしか聴けない手堅いファインプレーでしっかり魅せました。
懐石料理を目指すメイントリオに相応しく、グルメな彩りを添えてくれたのが、お客様が差し入れてくださった旬の食材!
遥か摩周湖のホテルで、トミー・フラナガンや寺井尚之を楽しむジャック・フロスト氏からは、北の大地で育ったドーンと逞しいグリーン・アスパラガス、箕面のピアニスト、マチルダ農場からは有機栽培のえんどう豆とスナップえんどう!野菜ってこんなに甘かったんだ!
アスパラガスやビーンズの写真を撮ろうと思っていたのに、キッチンに入ると料理に熱中してすっかり忘れてました…
最高の食材は名曲と同じ、「こんな風に食べてね」と、材料が料理の仕方を教えてくれます。鶴橋市場のお肉屋さんで、最高の国産ポーク・ロースの塊を花びらみたいに薄~くスライスしてもらってパスタにアンサンブルしたら、それぞれの甘みが組み合わさって自然においしくなりました!最高の差し入れには、いくら感謝しても足りません!
The Mainstem Trio: 寺井尚之(p)、宮本在浩(b)、菅一平(ds)
The Mainstemライブは、旬の食材と共に、この時期、この季節に聴きたい曲がずらりと並びました。
今夜の曲目
1.テンダリー (Walter Gross/ Jack Lawrence)
2.時さえ忘れて (Richard Rodgers/ Lorenz Hart)
3.レイズ・アイデア (Ray Brown)
4.エリントンの迷い牛 (Jimmy Heath)
5.バウンシング・ウィズ・バド (Bud Powell)
<2nd>
1. ザ・タッド・ウォーク (Tadd Dameron)
2. ソー・ビーツ・マイ・ハート・フォー・ユー (Pat Ballard)
3. グリーン・ワイン (Benny Carter)
4. 恋の気分で (Dorothy Fields, Jimmy McHugh)
5. ストロード・ロード (Sonny Rollins)
<3rd>
1. レッツ (Thad Jones)
2. グランド・ストリート (Sonny Rollins)
3. スターアイズ (Gene DePaul/ Don Raye)
4. ブルース・フォー・サルカ (George Mraz)
5. スクラップル・フロム・ジ・アップル (Charlie Parker)
Encore; ウィステリア (George Mraz)
オープニングのTenderlyは丁度この季節にぴったり、サラ・ヴォーンのおハコでした。夕暮れ時のそよ風を、恋人の優しい愛撫に例えた愛らしい歌詞をサラが歌うと何とも言えず官能的。今夜は風のように爽やかにスイング。
I Didn’t Know What Time It Was(時さえ忘れて)も旬の曲、『触れ合う君の手、そのぬくもりは、五月の季節…』という一節を覚えていますか? 5月16日はバラードで、今回はイントロにTime after Timeをさりげなくあしらい、ミディアムテンポで料理しました。
レイ・ブラウン(b)の代表曲、Ray’s Ideaでは宮本在浩(b)のモダンなボトムラインに、久々に聴けたジミー・ヒース(ts.fl)の名曲、Ellington’s Strayhornでは、菅一平(ds)の柔軟なドラミングに唸りました。
セカンド・セットは、ベニー・カーター(as,comp,arr,)の作品Green Wineが今夜のパスタにぴったりで、ソムリエみたいな選曲だった!名盤、The Kingのフラナガンのソロも忘れられないけど、今夜も快演!現在のワイン道で”グリーン・ワイン”と言えば、オーガニック・ワインのことらしいですが、この曲が出来た頃は、ポルトガル産のヴィーニョ・ヴェルデ(緑のワイン)のように、熟成させない若いワインのことだったみたい。ビバリー・ヒルズに住んでいた王様ベニー・カーターはワイン通だったのかも…
ラスト・セットには、今月のジャズ講座で感動した『Ballads & Blues』から3曲(3-3,4,5)が立て続けに演奏されて、客席も大喜び。どれも寺井尚之の日常的愛奏曲、OverSeasの大スタンダードですから、レギュラーならではのこなれたプレイが一層光ります!
旬の選曲に絡まるハード・バップは、前回のThe Con Manに続き、今回はLet’sなど、ワインに例えればキリリと冷えたシャブリかな?超辛口の厳しい曲ばかり。寺井尚之が自分自身に対して上げたハードルの高さは凄まじいものがありました。それにしっかり応えたザイコウ&一平のリズム・チームはさすがですね!
そして、私が一番聴きたかった五月の曲、Wisteria(藤)がアンコールに聴けました。
寺井尚之は「徹底的に緻密に考え抜いたすごい曲や!ジョージ・ムラーツは天才や!!」と言います。壁に飾ってあるムラーツ兄さん直筆の譜面を寺井に持ってきてくれたのは、確か’87だったと思います。
神秘的な藤の花は、日本だけではなく欧米にもあって、藤棚もあるみたい。私の実家にも小さな藤棚があり、今頃の季節になると、白や紫の花が咲きこぼれました。お転婆だった子供の頃、木登りして観察すると、花の陰のツルになぜか目がついていて、私と視線が合っちゃった・・・実は白っぽい蛇が巻き付いていたんです・・・それ以来、私にとって藤は、美しさと怖さが共存する魔性の花。この曲の艶やかさと幽玄さ、和音の膨らみはスラブ的、ドボルザーク的でありながら、どこか懐かしい東洋的なメロディに魅了されます。
五月の後半のThe Mainstemは、心にも舌にも嬉しいグルメなライブになりました。来て下さったお客様、それにジャック・フロストさま、マチルダさま、どうもありがとうございました。
6月の寺井尚之The Mainstem trioは、20日(土)と26日(金)、その時分はしとしと梅雨? それともゲリラ豪雨? 皆様のお越しをお待ちしています!
CU