寺井珠重の対訳ノート(16)/ There Will Never Be Another You

 こんにちは!
 先週の「トミー・フラナガンの足跡を辿る」問題作編:には沢山ご参加いただきありがとうございました!ジャズ講座は来月から新学期、寺井尚之がリアルタイムで聴いたアーティスト達の’79以降の録音群ですから、解説がますます楽しみですね。
 今日は、レッスンや、明日の末宗俊郎(g)3などで日常的に聴くスタンダード曲、“There Will Never Be Another You”について書いてみようと思います。
<歌のお里は北国アイスランド>
Harry_Warren_Mack_Gordon.jpg
ハリー・ウォーレン&マック・ゴードンコンビ&彼らのヒット曲の演奏者達。
右端のバンドリーダー、サミー・ケイは映画Icelandに出演してAnother Youを演奏している。

 『あなたなしでは』という邦題のついている“There Will Never Be Another You”は、日本の国が「欲しがりません勝つまでは」と戦争一色だった頃(’42)の作品です。作曲ハリー・ウォーレン、作詞マック・ゴードン、このコンビは、”You’ll Never Know”やグレン・ミラー楽団のおハコ”Chattanooga Choo-Choo (チャタヌガ・チュー・チュー)”など沢山のヒット曲を作りました。このコンビのヒット曲は殆どが映画畑の作品で、“There Will Never Be Another You”のお里も、『アイスランド』という日本未公開映画の挿入歌、フィギア・スケートで何度も金メダルを取り、銀盤の女王からハリウッド・スターに転進したブロンド美人、ソニア・ヘニー主演の恋愛ミュージカルでした。
iceland.jpg <Iceland>
 映画を観た事はありませんが、いかにも苦労知らずのアメリカ的戦中映画、面白いかどうかわからないけど、一応あらすじを書いておきます。
  大戦中、アメリカ海兵隊が北大西洋の国、アイスランドに上陸。女たらしの大尉、ジェームズは早速ガールハントに精を出す。アイスランドの風習を知らないジェームズは、スケート・チャンピオンのカティナ(ソニア・ヘニー)を気軽に口説いてしまう。だが、厳格な文化を持つアイスランドはアメリカとは違い、ナンパは結婚の申し込みと同じだったのだ。困ったジェームズは何とかして、カティナとその家族が婚約を破棄したくなるように、海兵隊の仲間に頼んで色々画策するのだが、最後には本当にカティナを愛してしまうのだった…
 ほんまにノー天気なストーリーですね!“There Will Never Be Another You”はジェームズがカティナに向かって歌う別れの曲だったり、ナイトクラブのシーンでバンドが演奏したりするようです。
<シンプルで柔軟な歌詞>
 “There Will Never Be Another You”は寺井尚之ジャズピアノ教室で基礎トレーニングを終えることの出来た生徒達が初めて自分のソロを考えながら稽古する曲なのですが、“カシモド”みたいに原作を研究しなくても、色々イメージを作れる題材だということは判ったかも。
 歌詞を日本語にするとこんな感じ。オリジナル判についているヴァースもつけておきました。原歌詞はこちら。

“There Will Never Be Another You”
<あなたなしでは>
曲:Harry Warren 詞:Mack Gordon

=ヴァース=
これが共に踊るラスト・ダンス
今夜のことも、すぐに昔話。
お別れに、
判って欲しいことがあるんだ。
=コーラス=
こんな素敵な夜だって
これから沢山あるだろう。
他の誰かと肩寄せ合って、
ここに来る日もきっとある。
口づさむ唄は、
他にも沢山あるさ。
心地よい春や秋、
季節は必ずめぐり来る。
でも、あなたに代わる恋人を、
決して見つけることはない。
他の誰かとキスしても、
あなたがくれたときめきを、
味わうことは二度とない。
色んな夢を見ることも、
きっとあるかも知れないが、
あなたの代わりがいないなら、
夢など叶いはしないんだ。

 Youtubeを覗いたら、歌詞に沿うダイナミクスや息継ぎが完璧な歌手、ナット・キング・コールや、ビリー・テイラー(p)3にラッセル・マローン(g)がゲストで入る、いい感じの演奏がありました。ビリー・テイラーはトミー・フラナガンとの圧巻のデュオ映像でご存知の方も多いかも…「かぶりもの」 に関係なく巨匠です!マローンのピックアップに親しみを感じるでしょう!!
<告別式でのAnother You>
 “Another You”は、ある特定のミュージシャンの「おハコ」というのがなく、実に沢山の人が演奏している分、自由に解釈できる素材。ヴァースを入れなければ、失恋の歌、求愛の歌どちらにも解釈できるし、その場にいない相手に歌いかけているとも解釈できます。
 トミー・フラナガンの告別式では、ジョージ・ムラーツが「掛け替えのない音楽パートナーを失った悲しみ」を表す曲として演奏しました。「あなたがくれたときめき」は、二人の音楽的高揚感ですね! 歌詞を読むほどに、ムラーツ兄さんの気持ちの深さを感じます。
 個人的には、無知な軽音のガキ部員だった頃、バド・パウエル(p)の『Strictly Powell』でのAnother Youで、「ピアノも歌手と同じ息遣いが出来るんだ!」とすごい衝撃を受けました。
○ ○ ○ ○ ○
 今回は、四季を問わず楽しめるスタンダード曲について書いてみましたが、土曜日は季節の懐石The Mainstem trio! 宮本在浩さんは稽古に勤しみ、菅一平さんは映画のエスメラルダに恋をして、ドラミングのイメージを飛躍的に高めているみたい。ぜひ聴きに来て下さい!
 最後にGood News! 「問題作講座」が講座本として出版される日を楽しみにする摩周湖の寺井ファン、ジャック・フロスト氏が、「皆さんで召し上がってください。」と、隣町の小清水町で取れた日本一のグリーン・アスパラをチルド便で差し入れしてくださいました。甘くてしっかりしていて、つまみ食いを我慢するのが大変です!土曜日のスペシャル、「蒸し豚」のサイドディッシュにいたしますので、ダイナマイトな風味をお楽しみください!Thank you Jack!
CU

「寺井珠重の対訳ノート(16)/ There Will Never Be Another You」への2件のフィードバック

  1. 珠重さん、こんばんは☆
    There Will Never Be Another Youの対訳や解説ありがとうございました!!
    ミュージカルの曲だったということも初めて知り、書いて下さったミュージカルのお話を読んで、楽しそうなお話だなあと思いました。
    でも歌詞は楽しいというよりとても感動的な詩だなあと思いました!!
    ジョージ・ムラーツさんがトミー・フラナガン大師匠の告別式で演奏されたとの事、歌詞を読むと、お会いした事がなくてもジョージ・ムラーツさんのお気持ち、思いが私なりにわかるような気がしました。
    載せて下さったナットキングコールさんやラッセル・マローンさんの演奏も聴きました!
    ナット・キング・コールさんは普通の会話をしているように話しかけるように歌ってらっしゃってすごいなあと思いました。
    早くこの曲が弾けるようになりたいです!
    頑張ります!!
    珠重さん、いつも詳しく解説や対訳本当にありがとうございます!!
    いろんな事が判るのがとても嬉しいです!!!
    これからもブログいつも楽しみにしています!!!
    珠重さん、明日蒸し豚予約お願いしま〜す☆
    明日、またいろいろお話出来るのをとても楽しみにしています!!

  2. みゆきさん、Another Youの演奏色々聴いてみましたか?もうすぐ、この曲を弾くみゆきさん、参考になればよかったです!
     蒸し豚には、ジャック・フロストさんの贈り物や、そのほかにも色んな野菜と、玉子の入った炒飯をつけます。
     沢山召し上がってください。
    ありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です