2週間前、The Mainstemが聴かせてくれたブルース、 “Walkin’ (ウォーキン)”の作曲者について少し書いたのですが、「わけあり」の作曲者についてジャズ講座でおなじみのG先生から「”Walkin'”の原曲はテナーサックス奏者、ジーン・アモンズのオリジナル、”Gravy(グレイヴィー)”というのがジャズ界の通説です。」とメールが来ました。
ところが、G先生が”Gravy(グレイヴィー)”の収録されているアルバムの作曲者クレジットを見ると、そこにはベーシストのレイ・ブラウンの名前があったそうです。G先生の知的好奇心は否応無く刺激され、懇意にするミュージシャンで、米ジャズ界で「物知り博士」と異名を取る某氏に照会した結果、やっぱり彼もアモンズの作品だと断定している旨のメールが・・・。
「著作権」などないミケランジェロやダ・ヴィンチの時代から芸術作品や作者の真贋を調査するのは、探偵ごっこみたいで面白い。そこで、私も”Walkin'”を少し追っかけてみたら諸説紛々。
<Who Is リチャード・カーペンター?>
そもそも”Walkin'” の公式作曲者というなっているリチャード・カーペンターとは何者なのか?
カーペンターズのお兄さんと同じ名前のこの人は、浅黒い肌の元会計士であったそうです。アンタッチャブルなシカゴ出身、腕っ節が太く二重顎の大男で、みかけはヤクザの用心棒。専ら編曲者のエージェントとして仕事を斡旋し、彼らの著作を自分の音楽出版社に帰属させ、作曲者の版権を不当に取得していたらしい。自分の欲しいものは、「相手の胸倉を掴み脅迫して手に入れた」カツ上げ派。 チェット・ベイカー伝記’Deep In a Dream’:James Gavin著より
<ジーン・アモンズの”Gravy”>
“Walkin'”は’54年にプレスティッジから出たマイルス・デイヴィス・セクステットの録音で有名。そこに参加していたのがJ.J.ジョンソン(tb)です。印象的なタグ・ラインとファンキーな曲想で”Walkin'”はマイルスの名演目として繰り返し演奏され、誰もが知るスタンダードとなりました。
マイルスのLPのライナー・ノート(アイラ・ギトラー執筆)には、ジーン・アモンズが’54年に”Gravy”というタイトルでこの曲を同レーベルから録音済みであると明記されています。
LPライナーノートより:「(Walkin’とGravyの)テーマはほぼ同一だが、一音も違わないというわけではない。また(マイルスやJ.J.ジョンソンがイントロとインタールードに使っている)タグ部分は簡略化されている。
私が(アモンズのGravy以降)この曲に遭遇したのは’52年、NYのジャズクラブ”ダウンビート”に出演していたマイルス・デイヴィス&ジャズInc.のライブだった。Gravyが潜在意識下で蘇り、たびたび気になっていたのが、この’54年のマイルスのレコードが出ると、曲名はWalkin’に変更されていた・・・
ネット上でアモンズの演奏する”Gravy”のサンプル音源を聴いてみると、確かにほとんど同一曲。同じページの演奏曲リストを見ると、作曲者は”Brown”とあり、G先生の言うとおり、Ray Brownのことだろう。Garvyのカタギじゃないファンキーさは確かにジーン・アモンズの匂いで一杯ですが、アモンズ作の物証は発見できなかった。
<ジミー・マンデイ作曲説> 色々調べていくうちに、ジャズ・メディアの中には、”Walkin'”の作者をジミー・マンディ(’28-83)に帰属させている人も多いことを発見。 マンディはテナー奏者兼編曲者で’30年代に一時アール・ハインズ楽団に所属、後にベニー・グッドマン、カウント・ベイシー、ディジー・ガレスピーなど様々な人気ビッグバンドのアレンジャーとして活躍した人です。
西海岸のジャズ系FM局のスーパーヴァイザーであるジョー・ムーアなど複数の関係者が、まるで当たり前みたいにこの説を唱えていました。マンディがこのブルースを演奏したデータなどあるのかな?
というわけで、ジャズ・スタンダードとして知られる名作”Walkin'”の作曲者が誰なのか、私はまだ釈然としません。ジャズ系の掲示板には、寺井尚之がふと口にしたタッド・ダメロン説を唱える人もいるし、後の捜査はG先生に委ねたいと思います。
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G先生の友人であるNYの「物知り博士」(実名を出せないのが残念)はラトガーズ大学でリチャード・カーペンターと会ったことがあるそうで、 譜面の読み書きができない「作曲者」カーペンターを”ペテン師”と言い切っています。また「物知り博士」の友人には、カーペンターが不当に取得した著作権を本当の作曲者に返すために活動している人もいるそうです。きっと著作権帰属運動をしている友人なら、とことん調査をしているだろうし、やっぱりアモンズ説が正しいのかも知れませんね。
CU