トリビュート・コンサートの前に、スプリング・ソングスの話をしよう!

対訳ノート(26):Spring Is Here
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 春の兆しはあるけれど、今週は雪や雨や雷、それに強風!先日、雨宿りにデパートに寄ったら、ホワイトデーのプレゼントを買う為に並ぶ紳士の行列があちこちに…なんとランジェリー売場にも男性が・・・皆さま、いかがお過ごしですか?
 春のトリビュート・コンサートが近づくと、ウィークデーのOverSeasに沢山のスプリング・ソングが響き、外は寒くても、ウキウキ気分になります。でも、今日はふきのとうみたいに、少しほろ苦いスプリング・ソングを。
Spring Is Here>
 ともすればエバンス派のオハコと思いがちな<スプリング・イズ・ヒア>も、デトロイト・ハードバップ・ロマン派の寺井尚之(p)が演奏すると、一味違う。”The Mainstem”が聴かせるヴァージョンは、冒頭の混合ディミニッシュ・コードの響きだけで、美しくも哀しい歌詞の内容が一瞥できる。かつてトミー・フラナガン3がNYのジャズクラブ「スイートベイジル」で、4月にスプリング・ソングとして演奏したヴァージョンを基にしているのだとか。あの有機的なハーモニーは、紛れもなくデューク・エリントン!エリントン的なるものはトミー・フラナガンや寺井尚之ミュージックの至る所に隠れていますね。
<歌のお里>
 <スプリング・イズ・ヒア>のお里は、1938年のブロードウェイ・ミュージカル『I Married an Angel 私は天使と結婚した』、プレイボーイの銀行家が婚約解消の際に「天使としか結婚しない」と宣言したら、ほんとに美人の天使がやって来て結婚したのはいいけれど…というコメディーです。数年後に映画化されていますが、その際に歌われる<スプリング・イズ・ヒア>は曲想も歌詞も春爛漫のハッピーな歌曲に替わっていて、ちょっとがっかり・・・
Rodgers_and_Hart_NYWTS.jpg 作曲:リチャード・ロジャーズ(左)、作詞:ロレンツ・ハート(右):リチャード・ロジャーズがロレンツ・ハートと出合ったのは16歳の時、そのままコンビでソングライターの世界に入り、25年間の永きに渡って共作を続けましたが、やがて戦争が始まり、ハートの洒落た作風は軟弱と見なされ、時流から外れて行きます。ハート自身もアルコールに溺れて仕事に支障をきたすようになり、42年にコンビ解消、ロジャーズはオスカー・ハマーシュタインⅡ世と『オクラホマ』や『サウンド・オブ・ミュージック』など、健全な名作をどんどん創り、新たな局面に邁進。一方ハートは’43年に48歳の若さで失意のうちに亡くなりました。My Funny ValentineThe Lady Is a Tramp, Blue Moon, Bewitched etc…二人が生み出した名曲は数知れず…どれも甘くてほろ苦い味わいの粋な歌曲ばかりです。ポピュラー音楽の中ではこのコンビが、私の一番のお気に入りかも知れません。
 “春が来たのに私の胸は躍らない、それは誰にも愛されないからかも。“ 寂しい心を歌うラインに、一番インパクトの強いせり上がるメロディをつけている辺りが、ロジャーズ+ハートの凄さかな。原歌詞はこちら。

“スプリング・イズ・ヒア”
Richard Rodgers and Lorenz Hart
VERSE
あなたや私がそうだったように
世界中が詩を紡いだ頃、
たしか「春」ってあったよね。
小さなテーブルで差し向かい
二人で春の甘いお酒を飲めば、
男も女も若者は皆高らかに歌ったよね。
4月、5月、6月・・・時が経つにつれ、
寂しい調子に変わる。
人生が、幸せの風船に針をつき刺した。

CHORUS
春が来たよ!
なのに心は躍らないのは何故?
春が来たよ!
ワルツが素敵に思えないのは何故?
欲しいもの、したいこと、
私には何もない。
誰にも必要とされていないせいかな。

春が来たよ!
なのにそよ風が嬉しくないのは何故?
星がまたたき始める、
何故に夜は心を誘わない?
多分誰も愛してくれないせいだよね。

春が来た・・・らしいね!

 アレック・ワイルダーの著書American Popular Songを読むとこんな風に書いてありました。(p.209)「歌詞もハートらしさが出た秀作、特にクロージング・ライン”Spring is here, I hear!( 春が来た・・・らしいね)”は、彼自身の考え方が、皮肉っぽく凝縮されている。」
 <スプリング・イズ・ヒア>はロジャーズ+ハート共作期終盤の作品、ロレンツ・ハートが亡くなる5年前に書かれたものだそうです。戦争が影を落とす世の中に、調子を合わせることが出来ないハートの苦しみが見え隠れして、一層この曲が身近に感じられます。
 第16回トリビュート・コンサートは3月27日(土)、その時分にはもっと春めいているかしら?
 13日(土)のジャズ講座は、リリアン・テリー&トミー・フラナガンの名盤、『A Dream Comes True』登場!ビリー・ストレイホーンの名曲など対訳どっさり作りました。リリアン・テリーはイタリア人だけど、ちゃんと歌詞解釈があるのがエライです!
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 当日はビーフストロガノフを作ってお待ちしています!
CU

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