2月に94才で天寿を全うされたトランペットの神様、CTことクラーク・テリー、その晩年を描いたドキュメンタリー映画が昨年、様々な映画祭で賞を取り話題になりました。残念なことに日本未公開なのですが、持つべきものは友!米国の友達が「必見!」とDVDを送ってきてくれました。
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Keep On Keepin’ On“(米) 監督:Alan Hicks 出演:クラーク・テリー、ジャスティン・カウフリン、クインシー・ジョーンズ、ビル・コスビー、ハービー・ハンコック、ダイアン・リーヴス 製作: クインシー・ジョーンズ ポーラ・デュプレ・ペズマン
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<あらすじ>
この映画は、テリーの輝かしい名演が随所に配置されているものの、音楽伝記映画じゃない。90才を越え、糖尿病の合併症と闘いながら音楽と共に生きるCT(クラーク・テリー)と、彼の手厚い指導を受けながら、悩み、稽古し、成長していく20代の盲目のピアニスト、ジャスティン・コーフリン(Justin Kauflin)師弟の姿を4年間に渡って捉えたドキュメント。
師匠(mentor)と愛弟子(protégé )が、お互いの苦難に打ち克つエナジーになる、双方向のベクトルを、とても自然に描いていて感動しました。
師弟の周りには、献身的な看護に明け暮れるテリーの妻、遺伝的な疾患で幼い時に全盲に成った息子を思いやるジャスティンの母親、けなげで表情豊かなジャスティンの盲導犬がいて、映画の中程から13才の時にCTに師事し、現在は音楽シーンのドンとなった’Q’ことクインシ―・ジョーンズが大きな役割を受持ちます。 CTの手厚い指導にも関わらず、弟子のジャスティンは、盲目というハンディキャップがあり、経済的にも、日常生活の面でも、NYで生活できなくなって、ヴァージニアに帰郷します。そんな彼に「モンク・コンペの準決勝に来られたし」と連絡が入ります。CTは、練習がうまく進まずナーバスになる彼を、自宅から様々な手段で励まし続けるのですが、現実は甘くない。結局敗退…「CTに一体なんと言えばいいだろう…」と深く悩むものの、師匠は「それも勉強だ。」と一笑に付します。或る日、彼がアーカンソーの自宅にCTを見舞うと、偶然か、或いは生き神様の思し召しか、折しもQことクインシ―・ジョーンズが自分で車を運転し、みかんのいっぱい入ったビニール袋を片手にフラッとやって来た。チャンス到来!すかさずCTはジャスティンに演奏させてQに聴かせる。つまり最初の弟子と現在の弟子がCTの元で出会うのです。 Qはジャスティンの演奏を気に入って自分のツアー・バンドに加入させます。バンドでモントルー・ジャズフェスティバルに出演したジャスティンは、CTに捧げるオリジナルを演奏し、満員の聴衆から大喝采を受ける。”For Clark”とMCするクインシーの言葉は、曲目紹介でもあり、「CTへの義理は果たしたぞ!」、という独白のようにも聞こえるのです。
<弟子が撮影した!>
クラーク・テリーがジャズの生き神様とは知らない人も、ジャズさえ知らない人でも、大変見応えのある映画になっていて、多くの映画祭で賞に輝きました。
意外だったのは、愛弟子のピアニスト、ジャスティンが、どうやら日本人の血を引いているらしいこと。お母さんのインタビュー場面で後ろに日本人形が飾ってあって、調べてみたら彼女は東京生まれ、そのお母さんは広島出身の日系の方のようです。アジアの血を引くミュージシャンが偉大なるCTの愛弟子とは嬉しいですね!
CTの偉大さを知っていると、病院で主治医に両足切断を勧められ絶望する様子や、朝の4時半までベッドから稽古をつけている姿など、よくもまあここまでプライベートな撮影を許したものだと、半ば呆れ、驚愕するほどでした。映画の後で、付録に付いていた監督のインタビュー(聴き手は往年の二枚目スター、アレック・ボールドウィン)を観て、やっと納得しました。この映画はほとんど初心者の手作り、撮影、監督、制作すべてアラン・ヒックスというオーストラリア人の男の子の作品。なんとこのヒックス青年、ジャスティンの先輩格に当たるCTの愛弟子ドラマーだったんです!オージー・イングリッシュで爆笑連発のこのインタビューによると、ヒックスはジャスティンが入門する数年前からCTに師事し、CTは彼を自分のバンドに加え、世界中のギグで共演していて、ツアーの付き人として身の回りの世話もさせていた人だったんです。だから、CTの家族同然、身内として自宅でしょっちゅう寝泊まりしていたわけで、深夜のレッスンや病室も、自由に撮影するお許しをもらえたわけ。映画ファンではあったけど、作る方は全く素人だったから、「誰でも出来る映画作り」みたいなマニュアル本を読んで、バイトして資金を貯めては撮影し、お金がなくなるとオーストラリアに帰り、CTの弟子という肩書でギグを取り、またお金が貯まると渡米して撮影した。
「照明器具はウォールマートで買いました。」と言うのでまた爆笑!そのうちクインシ―・ジョーンズがCTの自宅に来て撮影を知り、プロデューサー役を買って出ててくれた。おかげで、サウンドトラックの著作権など、もろもろの問題が解決して、公開に至ったというわけ。 それどころか、ロバート・デ・ニーロが協賛するNYトライベッカ映画祭の新人監督賞までゲットした。何もかも、生き神様CTのシナリオだったのかも・・・
元々ジャスティンをCTに内弟子として紹介したのもこのヒックス、理由はもちろん映画を撮るためではありません。
「CTの病状が悪化して失明の危機があると聞いたので、きっと、盲目のジャスティンが一緒に居れば、彼の力になってくれると思ったんです。」
さらに、全サウンドトラックは、全てCTが日常口ずさむ歌の録音ヴァージョンだった。
「CTはいつも歌っていました。音楽はどんな時も彼と共に在ります。苦しい時ほど彼は歌うんです。病気で全身激痛に襲われると、ベッドでいつも”Don’t Worry About Me”(僕のことは心配ないよ)を歌っている。彼自身が「音楽」なんだ。映画の挿入曲は、彼が歌うメロディーを検索してレコードを見つけ、それを使っただけ。」
当初、彼の撮影プランは、CTだけがテーマだった。ところが、撮影時も、そうでなくても、ジャスティンがいつも一緒で稽古を付けてもらっている。それなら二人共、テーマにしちゃえ!ということになり、結局、それが作品として成功する鍵になった。
<金言の宝庫>
テリーは、病床から様々な弟子達に愛情の籠った指導を続けます。それは、アカデミックなレッスンではなく、シンプルな16分音符のフレーズを口移しで伝え、自分と同じようにスキャットさせてから、各々の楽器で演奏させ、そのフレーズを発展させていく、その繰り返しによって、スイングするアクセントや、和声の展開が自然に身についていきます。彼は、夜を徹して行うそれらの個人レッスンに授業料を請求することはただの一度もなかった。それどころか、奥さんの心の籠る夜食付き!
お弟子さん達はラッキーであると同時に、彼の恩義に一生かけて報いる御役目を仰せつかった事になります。この映画が捉えたCTの言葉は、ジャズに関わる人間にとって正に福音書、ジャズの生き神様からの金言だ!この映画のタイトル”Keep On Keepin’ On (しっかりコツコツやり続けなさい)”もそのひとつ。映画通でもない私が、映画を紹介したのは、これが書きたかったから。
・ 「シンプルこそ、最も複雑な形式だ。私はそのことをデューク・エリントンに教わった。デュークは実にビューティフルな人間だった。あれほど誠実な人に出会ったことがない。」
・ 私は老いて醜い。だから、せめて魂だけは美しくありたいと思う。
・ ジャスティンへのメッセージ:人生には挑戦がつきものだ。判っているだろうけど、君の心が大きな力になる。その心を前向きにするのが大事だ。そうすれば、私が学んで来たことを、君自身が学べる。私は君の才能を信じる。君を信じているよ。それだけは覚えておいて欲しい。
*CTは同様のメッセージを、何百という後輩たちに書き送ったと、奥さんが証言していました。
・ 私の夢の大部分は叶えられた。この年になって夢は変わるものだと気がついたんだ。今の夢は、若いミュージシャン達の夢をかなえる手伝いをすることだ。それが至上の喜びであり、野望でもある。
・ 名手と素人の違いはどこにあるのか?と聞かれて:
一つは「向上心」、より上を目指す気持ちのあるなしだ。他の誰よりもうまくなりたいという強い思い、最善を尽くしたい、という心があるかどうか。そんなことに無頓着な連中も多い。そういう人間は稽古をしない。しっかり勉強しない。それと同時に、自分自身を研究しない。そういう連中は自分の欠点に気づかない。
まずは自分を知ることが大切。何よりも自分の欠点を知る事。そうすれば、それを克服するために何をすべきか、どんな努力をするべきかがわかる。そこが名手と素人の分かれ道だ。
このドキュメンタリー映画が日本未公開なのは、製作者の中に『The Cove』(和歌山太地町伝統のイルカ漁をテーマにしたドキュメンタリー)を扱った ポーラ・デュプレが名を連ねていることが、ややこしい原因になっているのかもしれない。
映画の主人公の一人、ジャスティン・コーフリンが日本にゆかりのあるアーティストであるのですから、何とか多くの人に観て欲しい。クラーク・テリーの信者として切に思っています。
tamae さんこんにちは.
これ観たかったんです、やっぱり日本では上映なかったんですかね.
ボクは日本で発売になるまで待つとします.
でも、発売されなかったりして(笑)
motoさま、いつもお世話になっております。
平明なテキストですから、日本語字幕付けられればいいのですが・・・
とてもユニークな映画ですから、発売されればいいですよね。