大阪も寒くなりました!来週末はいよいよトリビュート・コンサート、日々稽古、寺井尚之の指先はパンパンに弾け、ピアノにも気合が入ってきたのか、音色もさらに研ぎ澄まされてきました。
トリビュート・コンサートの回数を重ねるにつれ、トミー・フラナガンを「生」で聴いたことのないお客様の割合が増えてきて、演奏する寺井尚之The Mainstemの責任も大きくなってます。
トミー・フラナガンってどんな人なんやろう?と興味を持つ皆さんのために、米ジャズ月刊誌、「Jazz Times」のサイトに掲載されているトミー・フラナガン・インタビューを日本語にしてみました。
聴き手はジャズライター、ジャック・ロウ、NYの自宅を訪問して話を聞いています。スター・インタビューみたいに一般的な話題が多くて、質問によっては、えー!?っていう答えをしているのが却って面白い。(たとえば趣味がカメラとか・・・フイルムの入れ方も知らなかったのに・・・)
2001年1~2月掲載、最後にOverSeasを訪問する半年ほど前のインタビューです。どうぞ!
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JazzTimes
January/February 2001
Tommy Flanagan Interview
聴き手Jacques Lowe
トミー・フラナガンとダイアナ夫人は、マンハッタンのアッパー・イーストサイド(本当はアッパー・ウエストサイド)にある、居心地の良いアパートメントに住んでいる。そこは、訪問する者を迎える温かい心づくしと、長年の幸せな結婚生活の香りに満ちた住まいだ。アパートの壁一面にある本棚に本があふれ、棚やテーブルには、世界中の楽旅の思い出の品々といくつかのフラワーアレンジが、そして、居間にはグランドピアノがでんと鎮座している。
70歳で未だにスリムな体型を保つトミーは、自分を吹聴することを好まない控え目な人柄だ。それに対してダイアナ夫人は、夫の寡黙さを、熱っぽくに讃美することを厭わない。エラ・フィッツジェラルドとの長年に渡る忘れ難い名演の数々や、ジャズ・ピアノのパイオニアとしての業績は、過去の膨大な書籍や譜面を含め、語り尽くすことはできない。
私が彼に、コンピューターや最新のオーディオ機器について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「私は昔風の人間でね、シンプルが一番という信念を持っているんだ。いまだにダイヤル式電話機を使っているくらいだから。」
トミーは車も持っていないし、運転すらしない。だがダイアナは運転好きだ。海外にツアーしたときには、レンタカーで地方をドライブすることもあるという。
「私たちは二人ともフランスが大好きで、何度かドライブ旅行したことがある。シャトーに泊まって、ワインのテイスティングをしながら、土地のおいしい料理を楽しんだり、歴史を辿ったりするのが好きでね。ヨーロッパ・ツアーの時は、フランスを旅行できるよう日程を調整するんだ。アイルランドも好きで、楽旅のついでに観光したことがある。」
NYの街をこよなく愛するトミーは、NYという大都市の機能を満喫している。美術館通いをして、芸術を楽しむ。メトロポリタン美術館では古典芸術に、MOMA(NY近代美術館)では、印象派の作品に心奪われる。観劇も大好きで、一番最近観た”For Colored Girls Who Have Considered Suicide/When the Rainbow Is Enuf.”を今も絶賛している。 それに、セントラル・パークの散歩は欠かさない。
“For Colored Girls・・・”(虹にうんざりしたとき/自殺を考えたことのある有色人種の女の子たちの為に/)は、オール黒人キャスト、7人の有色人種の女性たちが21篇の詩の朗誦し音楽やダンスをコラボさせたミュージカルでトニー賞を受賞した。来年、ハル・ベリーやアンジェラ・バセット主演の映画が公開されるらしいから、私も観ようっと!
海外ツアー中も、暇を見つけては美術館めぐりをする。なかでもゴッホの名作を多数所蔵するオランダ・アムステルダム国立美術館がお気に入りだという。
さて、本業の音楽では、’50年代のジャズの巨人たちがトミー・フラナガンのヒーローだ。コールマン・ホーキンス(ts)、デューク・エリントン、ディジー・ガレスピー(tp)、アート・テイタム(p)、ベン・ウェブスター(ts)、チャーリー・パーカー(as)、テディ・ウイルソン(p)と言った人たちである。ごく最近、ルイ・アームストロング(tp,vo)の良さがやっと判ってきたと言う。ジャズだけでなく、ショパン、ラヴェル、バッハ、ベートーベンなども好む。
滅多にない休暇は、ニューイングランドのリゾート、ケープ・コッドや、カリフォルニアでは孫たちと過ごす。「やんちゃで、ヘトヘトになる」と言いながら、孫たちをレドンド・ビーチや野球観戦に連れていくことにしている。野球も好きで、贔屓チームはオークランド・アスレチックス。ありとあらゆるスポーツをTV観戦し、しばしば生でも楽しんでいる。「ひょっとしたら、陸上の長距離選手になればいい線行っていたかも知れないが、今はもっぱら長距離散歩だ。」と、彼は言う。(訳注:トミーは、スポーツのことは全然詳しくなかったです。私がアトランティック・シティのバスケチームのキャップをかぶってたら、「どこの野球チームのんや?」と訊いてはりました。)
トミーの生活は多忙だ。もうすぐ日本やミラノのブルーノートでの公演を控えているし、ビリー・ストレイホーン集アルバムを準備中だ。行ってみたい場所はギリシャの古代神殿やキューバ、それに、ローマを再訪して、古代美術への尽きせぬ興味を満たしたいとも思っている。
そんなトミー・フラナガンの思い出の品は、ロレックスのゴールド・オイスターと純金のIDブレスレット、どちらもエラ・フィッツジェラルドからの贈り物だ。(トミーは、いつも左手にロレックス、右手にブレスをはめていました。因みにジョージ・ムラーツはホワイト・ゴールドのオイスターを愛用しています。)
<トミー・フラナガン・パーソナル・ファイル>
Q:服装のポリシーは?
A: ずっと上品なものが好きで、今はツアー中に服を買うことにしている。フランスで上着、イタリアでセーター、といった具合にね。
Q:好きな食べ物?
A: フレンチとイタリアン。
Q:好きな飲み物?
A:ライム入りのウォッカ・ソーダだが、今はフランス・ワイン、赤でも白でも飲んでいる。(訳注:この頃からほとんどお酒は飲まなくなっていました。でも体調が悪いことは話したくなかったのでしょう。)
Q:一番最近読んだ本は?
A: ビリー・ストレイホーンの伝記、「Lush Life」(デヴィッド・ハジュ著)(訳注:伝記を読んでいたのなら、本当にストレイホーン集を録音するつもりだったんでしょうね!「Tokyo Ricital」から20数年ぶりの演奏解釈をレコードにしておいてほしかったのに!)
Q:好きな本?
A:聖書
Q:一番最近観た映画?
A:エリン・ブロコビッチ (2000年 ジュリア・ロバーツ主演、スティーブン・ソダーバーグ監督作品: 実在した社会活動家の痛快映画)
Q: 趣味は?
A: 写真が好きで、ライカのカメラを持っている。
Q: ペットは?
A: 犬が好きだ。昔、アイリッシュ・セッターを飼っていたが、NYでペットを飼うと面倒がいっぱいなのでね。
Q: 都会で暮らすのと、田舎暮らしではどちらが好きですか?
A: このNYと、街にある色々なものが大好きだよ。(訳注:トミーは、「本当は田舎で暮らしたい。植物を育てる天性の才能があるので、庭いじりをして暮らしたい。」と、よく言っていた。でもジャズクラブは田舎にはないし、ダイアナはNY至上主義でした。トミーは引退したら、子どもたちがいるカリフォルニアに住みたかったようです。)
(了)