ゴールデン・ウィークはケニー・ド-ハムを読もう!(1)

kenny_dorham.jpgKDことケニー・ド-ハム(1924-72)はテキサス男。ビリー・エクスタイン楽団、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、BeBopの名バンドで活躍し、トミー・フラナガンとは名盤『静かなるケニー』を遺した名トランペット奏者、作編曲家。腎臓を患い僅か48歳で死去。
 寺井尚之は、懐石料理の如く、季節に因む旬の曲を聴かすのを得意にしている。先週、フラナガニアトリオはケニー・ド-ハムのハードバップ作品、”Passion Spring”を演った。春野菜には強いアクがあるけれど、それを抜いて上手に料理すると、この季節ならではの力強い味わいになる。”Passion Spring”も丁度そんな曲だった。私はケニー・ド-ハムが大好きなんです。職人というか、昔気質というか、会ったことないけど、非常に親近感を覚える。テナーの聖人、ジミー・ヒースとKDは非常に親しかったらしい。

 『Quiet Kenny』(静かなるケニー)にしても、「この音、このタイムしかない!」と言う位、どこを取っても完璧なのに、ジャズ特有の“カタギじゃない”かっこ良さに溢れていて、窮屈なところがない。だから、毎日聴いても飽きない。
 ケニー・ド-ハムを、ジャズ評論家、ゲイリー・ギディンスは『過小評価の代名詞』と呼んだ。
 ド-ハムは決して世渡りのうまい人でなく、腕の良い大工や板前さんみたいに気難しい名手だったという。大阪弁でいうと、“へんこなおっさん”だったのだ。名盤『Quiet Kenny』が録音された’59年当時、ド-ハムは、NYのマニーズという大きな楽器屋で、音楽インストラクターでなく、トランペット売り場の販売員として働いていた。いわゆるDay Gigで家族を養っていた。その気になればTV局やスタジオ・ミュージシャンの仕事がいくらでもあったろうに、けったいな人です。
 
 ケニー・ド-ハムはトランペットだけでなく、作編曲も一流で、ビッグバンド全盛時代は、ギル・フラーなど色んな編曲家のゴースト・ライターとして働いた。五線紙だけでなく、文才もあった。彼の書いた短い自叙伝は大変面白いので、いずれInterludeに載せたいな。
 さらに’66年には、ダウンビート誌でジャズ評論家としてレコード・レビューを担当している。これがまた、“へんこ”なド-ハムならではの名文です。とにかく、アルバムを真剣に聴いて書いている。ミュージシャンだから、音楽の描写力がダントツに優れていて、愛と厳しさがある。ミュージシャンの視点で、良いものは良い、ダメな物はダメとはっきり言う。
 そんなドーハムがセロニアス・モンク・カルテットのアルバム、『ミステリオーソ』について書いた異色のレコード・レビューを紹介してみましょう。(DownBeatの貴重なバックナンバーはG先生の膨大な蔵書から拝借して、日本語にしてみました。)
 この文章が書かれた’66年のジャズ界の潮流が、コルトレーン、マイルス以降のアヴァンギャルドで、“New Thing”という流行語が使われていた頃であることを心に留めて読むと一層興味深い。
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THELONIOUS MONK / MISTERIOSO(RECORDED ON TOUR)セロニアス・モンク/『ミステリオーソ』 (COLUMBIA)

 評点 ★★★1/2

ダウンビート・マガジン ’66 1/27号より

1. Well, You Needn’t
2. Misterioso
3. Light Blue
4. I’m Gettin’ Sentimental Over You
5. All the Things You Are
6. Honeysuckle Rose
7. Bemsha Swing
8. Evidence
パーソネル: Charlie Rouse(ts) Monk(p) Larry Gales or Butch Warren (b) Ben Riley or Frankie Dunlop (ds)

1. ライブ・レコーディングで、オープニングの1.では、モンクが<ウェル、ユー・ニードント>のメロディをイントロとして8小節を弾き終わる前に拍手が来る。ファーストテーマの後にラウズが先発ソロ、テーマから一貫性のある良いアドリブだ。その後モンクがソロ。続くベースのゲイルズ(b)もきっちり仕事をする。ライリー(ds)はバーラインを越えたハードなドラムソロだ。
再びアンサンブルに戻り、これぞモンクという決め技で終わる。
2.<ミステリオーソ>は風変わりなブルースだ。カット・タイムで進むが、ラウズのソロになると普通のタイムの普通のブルースになるので、全編これミステリアスということもなし。
3.<ライト・ブルー>には殆どコードがない。これは “NEW THING”のコンセプトか?いや違う。実はモンクの“OLD THING”な古いネタなのであった。だが古いと言えどあなどってはいけない。モンクのプレイする音楽の地平は“NEW THING”の、煙幕を張ったようにぼけたサウンドではない。モンクはどこまでもクリアだ。
4.は古いスタンダードだが、コンセプトは非常に斬新。テーマはモンクのストライド入りのソロで聴かせる。ラウズのリラックスした堂々たるソロは爽やかな風を呼び起こす。全く嬉しくなる(Delightな)演奏だ!
5.モンクの8小節のイントロから、グループ全体でスイングしながら<All the Things You Are>のテーマにどっとなだれ込む。部隊の先頭に立つのはラウズ。その激しさをそのまま読み取ったコード、自己主張するモンク、それをバックにするラウズ。テーマからそのままラウズがアドリブ・ソロを取る。ラウズに続くモンクは、大変に美しく、アヴァンギャルドな(というか、風変わりな)なシングルラインのシンコペーションをを弾いて見せる、秀逸なユーモアだ! モンクのソロの後、再びラウズが戻ってくるが、戻ってきても別に大したことは起こらず、モンク流のクライマックスは降下を始める。
6.モンクは自分流のコード解釈で<ハニーサックル・ローズ>を演奏。市販の譜面からはおよそかけ離れている。しかし、それでこそモンクだ。アドリブ・ソロでは、高音の慌ただしい右手の動きに入り込んでいく。本トラックにラウズは不参加。
7.各4小節で成り立つAABA形式の曲、短いフォーマットでアドリブのしやすい素材。まずラウズのソロから、モンクが続き終わる。
8.B面の<エビデンス>はオリジナリティとドラマ性では極めつけだ。-つまりメロデイとタイトルの関係において、である。
 本作品は、全体的に、’40年代のいわゆる「ハード・ジャズ」、つまり各人のソロ主体のフォーマットだが、ハーモニーとラインのコンセプトは非常に新鮮なものだ。しかし、現在流行中の“アヴァンギャルド” を特急列車に例えるなら、特急の線路上を各駅停車のが走っているような感は否めない。故に、まるで昔のレコードのように聴こえてしまう。列車の内容が余りに多いため、却って活気がなく、ハッスルが十分でない。(KD)
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どうですか?非常に具体的な描写で、このアルバムを聴いたことがなくても、楽器を演奏できなくとも、なんとなくイメージ出来る親切な書き方でしょう?一度聴いてみたくなりますね。だけど、当たり障りのない書き方でなく、あくまで鋭くモンク音楽を見据えている。
 
 ゴールデン・ウィークなので、土曜日も休日だから、土曜にでも、更に激辛と甘口のKDの評論2種を紹介します。
 CU

「ゴールデン・ウィークはケニー・ド-ハムを読もう!(1)」への4件のフィードバック

  1. いつもためになるお話しありがとうございます。
    ぼくもKENNY DORHAMは大好きなプレーヤーです。それに『Quiet Kenny』は大のお気に入り、特にMY IDEALやI HAD THE CRAZIEST DREAMなどフラナガンの美しいピアノ・ソロをフューチャーした曲が大好きです。落ち着いていてトーンのまろやかなドーハムのソロを聞くと生真面目でお人好しなイメージですが「へんこなおっちゃん」(気難しい)なのですか?(大阪弁は知らないのですんません)
    ブルー・ノートの一連のジョー・ヘンダーソンとの共演やパルネ・ウイランとのライブ、ジャッキー・マクリーンとの共演など愛聴盤がいっぱいです。そうそうヴォーカルもやってましたね。
    さすがに自分の作品を批評しないとは思いますが、そんなデータがあったら読んでみたいですね。
    次回も楽しみにしております。

  2. あきじんさま
     こんにちは! 大阪弁丸出しで大変申し訳ございません!
     「へんこなおっさん」というのは、「偏屈オヤジ」の意味です。
     ケニー・ド-ハムのライナーはDB10冊以上あるのですが、勿論自分に対しての批評はありません。
     その代わり、同業トランペッターの作品に対する評を次回掲載しますので、乞うご期待!
     良い連休をお過ごしください!!
     
     
     
     

  3. Kenny Dorham様の名前に思わず手が動いた次第です(艸)
    Kenny Dorham様は、管楽器が苦手人間の私でさえ、敬愛するプレーヤーです。
    おまけに「Quiet Kenny」は初めて出遭った記念すべき1枚!
    「何これ?!トランペットなのになんて柔らかな音なんだろう!」と
    とても驚いたのを覚えています。
    今でも聴きますが、何度聴いても飽きる事が無くて、未だにお気に入りの作品です♪
    あの職人気質な音に、自然と背筋の伸びる様な心地良さを感じます。
    そういう「職人」ところは、トミー・フラナガン様や師匠とも共通するものがあるのかな?と勝手に思っています。
    評論を書かれていた事は、以前、講座へ足を運ばせて頂いていた頃にお聞きして知ってはいましたが、また次回に読む事が出来るという事で、今からとても楽しみです♪

  4. あべるさま:「トランペットなのになんて柔らかな音」トランペットも、ピアノと一緒で、びっくりするハイノートもあれば、ひそやかな囁きもあって、人間の声にとても似ている楽器なのかも…
    「ルイ・アームストロングは天使のラッパ」と、ケニー・ド-ハムは自伝で語っています。
    Quiet Kennyは最高!天上の調べです。どうぞ聴き続けてください。

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