対訳ノート(27) I’m a Fool to Want You

 4月に似合わない冷たい雨が降っていますが、皆さんお元気ですか?
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 火曜と水曜は、山中湖からトミー・フラナガン愛好会の石井ご夫妻が来て下さって、インターミッションは寺井尚之と久々に話が盛り上がっていました。もう山梨県にお帰りになりましたか?ダイアナ・フラナガンが愛好会の皆様によろしくと言ってましたよ!
 昨日は三週間ぶりに聴く”エコーズ”、そのせいか客席も賑やか!全員が輪になって熱心に寺井尚之+鷲見和広のインタープレイを観戦、じゃなくて鑑賞してくれたので、セットを重ねるごとに演奏も熱くなっていきました。エコーズ初体験で少なからず衝撃を受けた人もいたみたい。エコーズのレパートリーの中でも、特に拍手が多かったのが“I’m a Fool to Want You”。「初めて聴いた」という人も何人かいらっしゃったので、今日はこの歌について書いてみようと思います。
<パパラッチ的「歌のお里」>
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 私には何と言ってもビリー・ホリディの歌唱が極めつけですが、もともとはフランク・シナトラのヒット曲。自分の音楽出版会社の作品の歌詞に手を入れて、’51年と’57年にレコーディングしています。愛唱していたかどうかはよく判りませんが、フランク・シナトラ自身の私生活を想起させる内容がファンの心にアピールしたというのは、ビリー・ホリディの歌づくりと酷似していますよね。
 この歌が作られた時期、シナトラはハリウッド一の美人女優と言われていたエヴァ・ガードナーとの結婚が騒がれていました。当時のシナトラは、大スターとはいえ、40年代の人気に翳りが出て来た頃で、役者として再ブレイクする直前の難しい時代です。既婚者であったシナトラへの風当たりは強く、映画会社は結婚に反対し、マスコミやカトリック教会に批判され、自殺未遂までしたと言われています。シナトラの女性関係や、「子供を作れない」というエヴァと映画会社の契約で結婚生活は7年でピリオドを打ちました。アメリカ芸能界のドン、シナトラにも、こんな苦難の時期があったんですね。
 シナトラが’51年にこの歌を初録音した時は、自分自身と歌の境目が付かないほど落ち込み、録音するや否やスタジオを飛び出してどこかに消えてしまったと言われているらしい。
 後にシナトラが愛した名アレンジャー、ネルソン・リドルはいみじくも「フランク・シナトラにトーチ・ソングの歌い方を本当に教えたのはエヴァ・ガードナーだ。」と述懐していたそうです。
<Lady in Satin>
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 トーチ・ソングは「実らぬ恋」の歌。心に燃える悲しい炎の歌です。ビリー・ホリディ晩年の名盤<Lady in Satin>は、トーチ・ソング芸術の白眉と言ってもいいかも知れない。恋の悲しさ、哀れさ、未練…日本の艶歌に通じるエッセンスを、ビリー・ホリディが見事に自分の中で昇華させて、悲しくなるけど何度も聴きたくなってしまうし、何度聴いても飽きません。
 ビリー・ホリディの伝記「Wishing on the Moon」 には、<Lady in Satin>の編曲、指揮を担当したレイ・エリスのインタビューが載っています。それを読むと、録音当時、亡くなる前年のビリー・ホリディは精神的にも体力的にも衰えが隠せない状態で、アルバム制作のアポイントをすっぽかされたこと20数回、スタジオに入っても曲が覚えられない、音程をはずす・・・40ピースのストリングスが休憩している間に、ハンク・ジョーンズと曲のおさらいをして、ストレートのジンで喉を潤しながら何とか本番をこなし、プレイバックを聴いては、自分の出来に不満で涙を流すという状況だったそうです。ホリディに振り回されたレイ・エリスはうんざりしてしまい、ミキシングにも付き合わず、絶対にレコードを聴かない!と宣言していたそうですが、後で出来上がったアルバムを聴いてみると、何十という音程のミスも気にならない仕上がりになっていたと告白しています。
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 芸術家もスポーツマンも心・技・体が原則ですが、天才はそのバランスがめちゃくちゃになっていても、あんなすごい歌唱を残すことが出来るんですね・・・レイ・エリスの証言とは裏腹に、アルバムを聴いていると、ビリー・ホリディの選曲の意図も、歌詞解釈も、全てが的を得ていて、「コートにスミレを」をトーチ・ソングに仕立た狙いはほんまにすごいと思ってしまいます。
 “I’m a Fool to Want You”には「恋は愚かというけれど」という邦題がついているらしいけど、ちょっとイメージとは違うような…ビリー・ホリディを聴いて連想する歌のヒロインは、私の大好きな映画『アパートの鍵貸します』のシャーリー・マクレーンかな。
ここには抄訳を載せておきますが、対訳は寺井尚之ジャズピアノ教室生徒会のテキストに掲載しています。
昨年9月のスタンダード講座のテキストも出来上がりましたのでご希望の方は当店にお問い合わせください。
<I’m a Fool to Want You>
私の恋焦がれるあなたには他にも女性がいる。
どうしたって本物でない愛を求めるなんて
なんて私は馬鹿なのかしら。
何度別れようとしたことか…
でもやっぱり舞い戻ってしまう。
愚かなことと判っているけど、
あなたを求めずにはいられない。
どうか哀れな女と思って、
もう一度やり直して。
間違いは承知のうえ、
だけど、そんなの関係ない。
あなたなしでは生きられない…

 もし「あなた」というのが「愛する人」でなく、アルコールやドラッグを意味するのであったとしても、ビリー・ホリディの歌唱は、愛しく哀しい。でも「壮絶」というには品格がありすぎます。エコーズのプレイは可愛くて哀しい。お客様が多いときと少ないときで、「可愛さ」と「哀しさ」の比率が変動するような気がするのは私だけでしょうか…
 明日はスーパー・フレッシュ・トリオ!土曜日の林宏樹(ds)先輩ライブはかなり混んでますので必ずご予約ください!
CU

キム・パーカー(vo):家族の肖像

  夏と真冬を行ったり来たり…ベランダに満開のフリージアも今日はとっても寒そう。冷害で春野菜もなかなか口に入らないし、ひどい風邪も流行ってるみたいだし…体調は大丈夫ですか?
 先週のジャズ講座は、Aurex Jazz Festival ’82のライブ盤が一番人気!クラーク・テリー、デクスター・ゴードン、J&カイなどドリームチームの快演と、実際コンサートの客席にいた寺井尚之の迫真の実況中継で、ジャズ講座ごと会場に行った気分!ほんとに楽しかった!
 このアルバムのインパクトが余りに強烈で見過ごされてしまったのがキム・パーカー(vo)の『Good Girl』。G先生だけは彼女の選曲に大いに意義を見出してくださったものの、歌詞の聞き取りに苦心惨憺した割には実り少なし…まあいいか。
 歌手キム・パーカーの評価は講座の解説に委ねるとして、私が興味を覚えたのは、チャーリー・パーカーとフィル・ウッズという二人の偉大なアルト奏者を父と呼んだ彼女の家庭環境です。ジャズ史上最高の天才チャーリー・パーカーをパパにするってどんな風なのだろう?
<チャン・パーカーという母>
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 キム・パーカーはチャーリー・パーカーの実の娘ではなく、内縁の妻だったチャン・パーカーの連れ子です。チャンはユダヤ系の白人、コーラス・ガールで当時ジャズのメッカだったNY52番街のすぐ近くで生まれ育ったチャキチャキのNY娘、パーカーが愛した女性達の中で唯一、彼を「バード」と呼んだ女と言われ、極めて強い個性が私にダイアナを彷彿とさせます。’50年代ですからNYとはいえ黒人と白人のカップルは音楽の世界を一歩出ると、世間の風当たりはさぞ厳しかったことでしょう。二人の間に出来た娘が病死したのが原因で離婚、その数ヵ月後にバードも他界。彼女の手元には殆ど遺産らしきものはなかったそうです。2年後にパーカーを崇拝するアルト奏者、フィル・ウッズと再婚。’83年に離婚してからはパリ郊外に居住、作詞作曲家としても活動し、1999年にキムと、フィル・ウッズとの間に出来た息子、ガーフィールドに看取られて74歳の生涯を閉じました。
chanparker.jpg 彼女の自伝《My Life in E♭》が出版されていると知ったので一度読んでみたいと思います。またチャーリー・パーカーの生涯を描いた映画《バード》(クリント・イーストウッド監督作品)の脚本は、チャン・パーカーの回想が基になっているので、興味のある方は一度ご覧になればいいかも知れません。
<パパとしてのバード>
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 キム・パーカーがチャーリー・パーカーと共にイースト・ヴィレッジのアパートで暮らしたのは’50-’55の足掛け五年間で、その住居はNY市の史跡として現存し、アパートは家賃$4,500也で住むことも出来るみたい。その史跡のHPにキムのインタビューがありました。チャーリー・パーカーの伝記「Bird Lives」(Ross Russell著)と内容はよく似ていますが覗いてみましょうね。
charlieparker_house.jpg 小学生だったキムは、そのアパートから数ブロック北にある小学校に通っていましたが、学校の始まる時間は家族全員が寝ているので、可愛そうに、幼い彼女が自分で朝ごはんとお弁当を作って独りで学校に通っていたそうです。他の子供達と全く環境が違うのでイジメにあったのかも知れません。摂食障害になり毎朝10:30になると決まって嘔吐するため、学校が自宅に医者の診察を受けさせるよう勧告。お父さんに医者に連れて行ってもらったというのが一番記憶に残っているそうです。
 医者の診断は「体に異常はなく、恐怖感が嘔吐の原因になっているので、自信をつけてあげなさい。」というもので、バードはそのままキムの手を引いて学校まで連れて行ってくれました。いじめっこが一杯の白人小学校に、立派で黒いお父さんと一緒にいることがどれほど自信になったことかとキムは回想しています。
 家庭でのバードは、全く普通の人だったとキムは言っています。日曜日は家でお父さんが作ったト音記号の形の食卓(!)で夕食を取るのが決まりになっていました。家庭でジャズが流れることは全くなくBGMはクラシック音楽、ペギー・リーのスタンダードも好きだったそうです。西部劇が大好きで、西部劇の名脇役、ジョージ・ギャビー・ヘイズを街角で見かけて、サインをもらったと言って得意がり、おもちゃ屋さんで手品の道具やいたずらの小道具を買ってきては、キムを喜ばせてくれたとも語っています。
 両親の間の揉め事や、妹の死、父の麻薬の問題も、小学生のキムには理解を超えていたし、父が「悩み」を抱えているとは到底思えなかった。とにかく父バードはキムにとって「特別な存在」だったし、幸せな思い出だけが残っていると彼女は語っています。子供ならそれも当然かな?
 両親が別居しバードが亡くなるまでも、バードはたびたびキムを訪ねて来て、彼女をびっくりさせようと、一度は馬を借りてカーボーイのように乗馬でやってきたこともありました。そのエピソードは映画《バード》にも少し形を変えて用いられています。
 キムの証言を読むと、ジミー・ヒース(ts)の奥さんモナの名言を再び思い出しました。
「天才ミュージシャンは例外なく子供みたいなところがある。」
 チャーリー・パーカーの死後、キム・パーカーはフィル・ウッズという新しいお父さんに恵まれ、スイスの寄宿制学校からNYのホフストラ大学で演劇を勉強。’恐らく育児のためにしばらく活動を休止した後に’79年から音楽活動を再開し、ジャズだけでなく映画の吹き替えの仕事などでも活動していたようですが、現在はどうしているのでしょうか?
 キム・パーカーの歌唱には、良くも悪くも、ビバップの影響も呪縛も、少なくとも私の耳には一切聴こえてきません。それはチャーリー・パーカーがキムに対して「芸術家」としてでなく、純粋に「家族」として接し、愛情を注いだためだったのかも知れませんね。
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 さて、17日(土)はメインステム!4月のあの曲、この歌でゆっくりお楽しみください。
ベランダで寺井パパが育てている色んな花が寒さにしおれていなかったら、飾っておきます。
おすすめ料理は、寺井尚之お手製「牛肉の赤ワイン煮」です。こちらもお楽しみに!
CU

All God’s Children Got Rhythm!

 暑くなったり、寒くなったり、寒暖のダイナミクスが大きすぎですが、皆様お元気ですか?
 大阪の桜もそろそろエンディング・カデンツァに差し掛かってきました。でも路地裏の私には「お花見」の余裕がないのがPity! 残念・・・
jazz_for_kids.JPG 先週の土曜日の寺井尚之トリオは坂田慶治(b)、菅一平(ds)の初顔合わせ、珍しく食事しに来た鷲見和広(b)さんの飛び入りもあって、大いに盛り上がりました。
sumi_ippei.JPG この夜は、真剣な顔で演奏を聴く子供さんがいっぱい!
 北京に単身赴任される常連K氏がトリビュート・コンサートを聴きに日本に帰って来られて、さいたまのファミリーと共に再び大阪にジャズを聴きに来て下さいました。USJとOverSeasの大阪ツアーが、ピアノやドラムス、トランペットをたしなむお子さん達のプランというのが嬉しいやん!
ippei_and_kids.JPG 左から:菅一平ジュニア(p), お母様にそっくりな真裕ちゃんfrom さいたま(tp)、イッペイ(ds)、志歩ちゃんfrom さいたま(p)
 Kファミリーの真裕子ちゃん、志歩ちゃん姉妹は、二人とも、幼稚園前からOverSeasの常連で、ジョージ・ムラーツやトリビュート・コンサート・・・前の店舗からマナーと聴きっぷりがよくて、私も尊敬してます。
 イッペイさんの子息、心海くんは3つの誕生日からピアノを習っていて現在小学二年生。もう少ししたら、寺井尚之に習うと決めてます。バッパー向きのCall & Responseができる性格なので、ベーシストを目指すザイコウ・ジュニアと共に将来が楽しみ。この夜も、セッションの合間はKファミリーのテーブルに座り込み、深遠なジャズ談義にふけってました。
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 皆、赤ちゃんの時から知ってるから、大きくなっておばちゃんもウレシイな!私たちがいなくなっても、ジャズを愛し続ける大人になってほしいです。
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 「子供」といえば、土曜日のジャズ講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」に登場する歌手、キム・パーカーはチャーリー・パーカーの妻、チャン・パーカーの連れ子、つまりバードの義理の娘さんです。チャーリー・パーカーとチャンは、’50年からパーカーが非業の死を遂げる5ヶ月前まで結婚していて、チャンはその後、チャーリー・パーカーの弟子格のフィル・ウッズと再婚しましたから、キム・パーカーは、ジャズ史上に輝く二人のアルト奏者をお父さんにしたことになります。
goodgirl.jpg アルバム・タイトルも『Good Girl』、タイトル・チューンは、義父フィル・ウッズのオリジナル曲でラブソングにあらず。「いい子にしてた?」といつも聞かれてうんざりする女の子の歌。
 パーカーと暮らしていた時は、彼が学校の送り迎えをしてくれていたそうです。不安定な環境から拒食症に苦しみながらも、お父さんと一緒にいる時はとても安心できたと、キムはインタビューで語っています。チャーリー・パーカーは家庭生活とジャズライフを区別していて、自宅にいるときは、練習はおろかジャズは一切聴かず、クラシック音楽が流れているか、西部劇やエド・サリバン・ショウなどのヴァラエティ番組を観ているかで、一般人とほとんど変わらなかったというから、天才は判りません。
 お母さんがヨーロッパで活動していたフィル・ウッズと結婚してからは、スイスの寄宿学校で行儀作法を学んだということですが、ジャズ歌手としてのキム・パーカーに、それらのバックグラウンドが感じられるかどうかは、ぜひ講座に来てみてください。
 キム・パーカーの対訳を作るため、桜を見る余裕もないほど四苦八苦。とにかく歌詞の聞き取りが難しく、遥かアメリカ南部に帰っちゃった友、ジョーイ氏に泣きつくテータラク、「こない唄ってるんやで~」と、プルーフ・リーディングしてもらって聴きなおしても、「え~・・・ほんまかいな~」という位、聞き取りにくい箇所がいくつかあって号泣しそうになりました。Thanks a Billion, Joey!
 同時に講座で取り上げる『Aurex All Star Jam』のクラーク・テリーが歌う”I Want A Little Girl”も対訳付きです。一世を風靡したトロンボーン・チーム、J&カイ、後に映画スターになったOur Man、デクスター・ゴードン(ts)、ケニー・バレル(g)、ロイ・ヘインズ(ds)、リチャード・デイヴィス(p)など千両役者勢ぞろいで、”Eclypso”、”Minor Mishap”といったトミー・フラナガンのオリジナル曲をブロウして爽快です!
 ジャズ講座は4月10日(土) 6:30pm開講!
 お勧め料理にはアメリカン・ポーク・チャップと、季節野菜のパスタを作ってお待ちしています。
CU
 

田中裕太(b) 現る!

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Look Who’s Here!
 トリビュート直後の火曜日のライブは、燃え尽き症候群が心配された寺井尚之、宮本在浩のメインステム組デュオでしたが、なんのなんの、ピアノは疲れも見せず最高の鳴り、イッペイ兄さんがSit Inしないのをお見通しの今北有俊(ds)が意気揚々とやって来てドラムをセッティングしていると、黒シャツの青年が現れて、皆の目がまん丸に・・・
silver_ginta_1.JPG ベースの田中裕太君がNYからたった4日間のお里帰り!よんどころない用事があったのでしょうか???
 そんなわけで、突如の元祖SUPER FRESH TRIOリユニオン!銀太くんの実力はかなりUPしていて、寺井尚之もにっこり!
 どっしり貫禄が出てきた宮本在浩(b)とシルバー・タナカのフレッシュなビートが両方聴けて、タッド・ダメロンやジェローム・カーン・・・久々の曲もあり、マダムをはじめとしてお客様は大喜び!
 銀太くんは、NYでも結構ギグに呼んでもらっているらしい。ギグのない夜は寺井尚之の教えを守り、せっせとライブを聴きに行って勉強してるとか。昔と違って、かの地の勉強熱心な若手ミュージシャンも減ってるらしいので、却ってビッグ・チャンスや!最近印象的だったのはモンティ・アレキサンダー(p)のライブだったとか。レゲエ・バンドとジャズのリズム・チームを自分の両脇に置いて、一曲の中でジャズ⇔レゲエと自由自在にバンドを入れ替えながらプレイ!モンティらしいですね。めっちゃ面白かったそうです。
 寺井尚之は銀太くんのNY用芸名を「Silver Tanaka」と名づけたのですが、あっちでは”Sounds like gay (ゲイっぽい)” と余り評判よくないとか・・・
 銀太君はもう今頃帰国の途についていると思います。次の帰国は夏ごろとか・・・
 銀太くん、ジミー・ヒースの新刊書どうもありがとう!元気で修行してきてくださいね!
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左から:寺井尚之、田中裕太(b)、宮本在浩(b)、今北有俊(ds)

トリビュート・コンサートにありがとうございました!

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 土曜日のトリビュート、お忙しい中、沢山駆けつけてくださってどうもありがとうございました。心よりお礼申し上げます。
 2002年より、フラナガン誕生の3月、逝去の11月と、年2回定期的に開催してきましたが、3月でこれほど寒いトリビュート・コンサートは初めて、帰り道は真冬みたいでした。
 寺井尚之はトリビュートの前になると、修行と言ってもいいほど稽古をします。OverSeasのピアノは寺井が稽古すればするほど、調子がよくなって、調律の川端さんが舌を巻くほど。全体のサウンドが整って、しっとり潤いに満ちた音色を出すようになるんです。その端正さはちょっと怖いくらい。楽器は「生き物」に違いない・・・谷崎潤一郎なら一篇の短編小説が書けるかも知れません。
 The Mainstemのピアノ・トリオとしての演奏も、トリビュート・コンサートの回を増すにつれ充実してきました。宮本在浩(b)、菅一平(ds)はアドリブ・ソロも寺井尚之に負けじとたっぷり仕込みがありましたが、このリズム・チームの秀逸さは、個人技を優先することなく、「フォア・ザ・トリオ」で、曲やメドレー全体の起伏を見据えて、強力なダイナミクスを構築してくれるところ!トミー・フラナガンへのリスペクトがすべての演目に感じられる爽快なプレイだった!コンサートのCDRを作りますのでご希望の方は当店までお問い合わせください。
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 今回の演目はメインステムによるトリビュート初登場の”Con Man”で始まり、”Eclypso”などフラナガンのオハコや名メドレーもたっぷり、春のトリビュートのお楽しみ「スプリング・ソングス」として、ロジャーズ・ハートの”Spring Is Here”、”Sleepin’ Bee”が鮮烈な印象を与えました。
 掛け声も最高!最高のお客様の前で、トミー・フラナガンに捧げるコンサートが出来るって、本当に幸せなことです。
<第16回 トリビュート・トゥ・トミー・フラナガン コンサート曲目>
1. The Con Man (Dizzy Reece)
2. Out of the Past (Benny Golson)
3. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)
4. Embraceable You ~Quasimodo
5. Mean Streets(Tommy Flanagan)
6. Some Other Spring (Arthur Herzog Jr./ Irene Kitchings)
7. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
8. Dalarna (Tommy Flanagan)
9. Eclypso (Tommy Flanagan)

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. They Say It’s Spring (Marty Clark/Bob Haymes)
3. A Sleeping Bee (Truman Capote/ Harold Arlen)
4. Spring Is Here (Richard Rodgers/ Lorenz Hart)
5. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)
6. I’ll Keep Loving You (Bud Powell)
7. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

With Malice Towards None (Tom McIntosh)
Ellingtonia:
A Flower Is Lovesome Thing (Billy Strayhorn)
Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
Passion Flower (Billy Strayhorn)
Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)

 曲説は後日HPにUPいたします。その前にジャズ講座の対訳を作らないといけないのでしばしお時間を。キム・パーカーはヴォーカリーズや、ややこしいオリジナルがあって、ほんまに手ごわいです。ジャズ講座新学期のラインアップもUPしていますので、ご興味があれば覗いてみてください。初受講の方も歓迎です。
CU

Ready to Swing! Tribute to Tommy Flanagan

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 明日のトリビュート・コンサートのために名調律師、川端さんにお願いしてピアノのチューン・アップ。調律だけでなく、サウンドの調整もみっちりやるので、普段は一日仕事になることも・・・でも、トリビュート本番を控えてピアノも気合が入っており、いつもの半分の時間で研ぎ澄まされたサウンドに仕上がりました。たった2時間余り、OverSeas開店以来、記録的最短時間!川端調律師と寺井尚之の満足そうな笑顔と、得意気なピアノのオーラをご覧ください。
 明日は一番気温の低い春のトリビュート・コンサートになりそうですね。桜も思わず満開になるようなプレイが聴けるでしょう。
 明日のおすすめメニューは、寺井尚之特製”黒毛和牛の赤ワイン煮”と、”カリカリ・チキン&菜の花パスタ・サラダ”をお作りしてお待ちしています!
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 どうぞお楽しみに!
CU

35年ぶりのリユニオン!伝説のドラマー林宏樹+寺井尚之

 公園の桜は三分咲きですが、毎日冷たい雨、ダウンコートとは、なかなか決別できませんね。昨日、傘と荷物を手に本町の銀行に行く途中で、ビルの側道のタイルにツルっと滑って、大相撲で言えば「浴びせたおし」、プロレスならラリアットを食ったレスラーみたいにズッコケ、かっこわる~。痛~!
 谷四にあるドクターKajiゆかりの整形医院に行って先生に「立ち仕事なので、動けなかったら困るんですけど・・・」とコボすと、「立ち仕事でよかったやん!仙骨打撲したら座ってるほうが辛いで~。」だってさ。これもまたMinor Mishap・・・
 腰痛は私みたいなドジでなくても、ミュージシャンにはつきもの。特にドラマーは椎間板ヘルニアになる人が多いそうで、今月のジャズ講座に登場した名ドラマー、エド・シグペンも足に痺れがあり、ベースドラムやハイハットのペダルを特注し、超微力で自由自在にコントロールしていたのだそうです。
<伝説的ドラマー 林宏樹>
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 私や寺井尚之ジャズピアノ教室の奈都ちゃんが卒業した、大阪堺市の泉陽高校は与謝野晶子の母校で、伝統が重んじられております。が、地元では「牧場」と呼ばれ、善しにつけ悪しきにつけ、のびのびとしている校風で知られてます。試験の時はシュンとしているけど、文化活動は盛んで、私の在学時にもジャズのビッグバンドがあり、パチンコ屋でなく、ジャズ喫茶で教室にいるべき時間をすごした文化的な生徒も・・・アロージャズOrch.で活躍する宮哲之(ts)さんや、演歌歌手の瀬川瑛子さんと結婚したドラマー、清水武さんなどなど、沢口靖子さんだけでなく、音楽界にも出身生が多いです。
 ずっと昔、私の入学時すでに、林宏樹(ds)さんは卒業されていましたが、「物凄いドラマー!いずれプロで有名になる!」と、その名前は学校中に響き渡っていたものです。
 やがて私が関大軽音楽部に入学した時にも、やはり名ドラマー林宏樹の名前は響き渡っていました。私の入学前、当時関西トップと呼ばれたトランペッター、藤井雅之さんをフロントに据えたカルテットで寺井尚之と共演し、ケニー・ド-ハムの”Lotus Blossom”などをオハコに、ミナミのジャズスポット”Duke”など、関西ジャズシーンでブイブイ言っていたそうです。ペーペーの新入部員にとって、四回生の林さんは、おいそれと口もきけない天上の方でしたが、全然エラそうにしないかっこいい先輩でした。
 卒業後、林さんは愛知県に就職し、当地を本拠にビッグバンドやコンボでジャズを続け、ことあるごとに東京、福岡など日本全国でライブ活動している理想のアマチュア・ジャズ・ミュージシャンになっているという噂は聞いていました。
 そんな伝説的ドラマー、林宏樹が、30余年ぶりに、Jazz Club OverSeasで寺井尚之とピアノ・トリオでリユニオンいたします。ベースは宮本在浩(b)、しっかりビートを支えます。
 「堺のバディ・リッチ」と言われていた伝説のドラマー!そのプレイは写真みたいに渋くなっているのかしら?生で聴けるのが、私も楽しみです! ご予約はお早めにどうぞ!
REUNION SESSION!
寺井尚之3

 featuring
林宏樹(ds)
and 宮本在浩(b)
日時:4月24日(土) 
7pm-/8pm-/9pm- (入替なし)
Live Charge :2,625yen

エミル・ヴィクリッキー氏訪日祝賀会開催のお知らせ

EmilViklicky_concert.jpg Photo: Martin Zeman
 巷は三連休でいいですね。バッパーに休日はない!私の横では寺井尚之(p)、宮本在浩(b)、菅一平(ds) The Mainstemがトリビュート・コンサートのリハーサル中!ピアノの鳴りもトリビュート・コンサート前は物凄いものがあります。いい仕上がりで27日(土)の本番に臨めそう!
 さて、この間紹介したチェコの至宝ピアニスト、エミル・ヴィクリツキーさんのJazz Club OverSeas訪問が正式に決まりました。
 日時:5月15日(土)
第一部 7pm- (開場6pm)
第二部 8:45pm-(開場8:15pm)
参会費: 前売 チケット:4,000 yen 当日 5,000yen (入替制)

 演奏は各セット共にソロおよびトリオでの演奏になります。トリオでお付き合いさせていただくのはOverSeasで皆様に愛されるThe Mainstemのリズム・チーム宮本在浩(b)、菅一平(ds)!チェコのエミル・ヴィクリツキーさんにトリビュート・コンサートのCDを送ったら、「この二人となら一緒に演りたい。」と二つ返事、チェコのトップ・ピアニストと初お手合わせするザイコウ=イッペイ・チーム、ノー・カウントならぬノー・テライのプレイも絶対にチェックしておきたいですね。
 ヨーロッパ・ジャズを愛好される方なら、Emil Viklickyさんの名前はすでにおなじみと思いますが、まだご存知ない方は、以前のエントリーをご覧ください。
 なお、今回のイベントは、チェコ外務省の外郭団体である「チェコセンター 東京」のご協賛により実現しました。チェコセンターの皆様に心よりお礼申し上げます。当日は、日本文化のエクスパートとして有名なチェコセンター所長のペトル・ホリー氏が同行される予定。歌舞伎や永井荷風の研究者として有名な方なので、お目にかかれるのが楽しみ!大阪にもチェコセンター作ってくれたらチェコ語講座に参加するのに・・・。
 寺井尚之は同じピアニストとして、Emil Viklickyさんを非常に高く評価しています。サー・ローランド・ハナの鮮やかでクリスタルなサウンドや、スタンリー・カウエルの新主流派スタイルを連想させるんだって!
 前売りチケットはトリビュート・コンサートまでに作っておきますので、お早めにお買い求めください。
 HPのコンサート・ページもご覧ください。
CU

あなたの中のビリー・ホリディ(1)

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 例えばもしも、恋人の心変わりに気づいたとき、あなたなら、別れようと言われる前に潔く身を引く事ができるだろうか?夫のワイシャツに口紅がついていても「言い訳しないで」と赦すことができるだろうか?帰って来ない恋人を人気のない夜の港で待ち続けることができるだろうか?
 先週のジャズ講座で聴いたリリアン・テリー(vo)+トミー・フラナガン3の“You’ve Changed”、主役の座をさらうトミー・フラナガンの間奏に、ビリー・ホリディの精髄を感じて、今までなかなか書けなかったレディ・デイのことを少し書いてみたくなりました。
Image-BillieHoliday.jpgBillie Holiday (1915-’59)
 トミー・フラナガンの青春時代のアイドル且つ音楽的ルーツ、それだけでなく器楽奏者であるバッパー達がこぞって崇拝する歌手、ビリー・ホリディ。一般的には、ヘロイン中毒、男性遍歴、レズビアン・・・などスキャンダラスなタグラインか、「奇妙な果実」が象徴する社会派のイメージが強調され、チャーリー・パーカー同様、破滅型の天才ということになっていますよね。でもバッパーを虜にするのは、レディ・デイの音楽表現の素晴らしさ。器楽奏者にこれほど影響を与えた歌い手は、ビリー・ホリディの他にはちょっと思いつきません。彼女が譜面を読めない音楽家であったことを考えると、とても興味深いのですが、それは次のお楽しみとして、今日は、ジャズ講座対訳係りの立場からお話してみます。
<レディ・ディ:虚像と実像の間で>
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 対訳を作る時、歌詞解釈がちゃんと出来ている歌唱は訳も作りやすい。だって何を言いたいのかはっきりしているから、そこを日本語にすればいいのです。この間のリリアン・テリーの対訳もAt Easeでした。“Lover Man”“You’ve Changed”でも32小節ドラマのシナリオと絵コンテをリリアンが作っていて、それを実現できるようにフラナガンが「伴奏」というより、むしろリードしたという印象です。
 ホリデイは完全な女優型歌手、聴き手にとって、歌い手と歌の主人公の区切りが判らなくなるような歌手です。ですからエラ・フィッツジェラルドのように男性の歌、”Lady, Be Good”をそのまま歌うタイプではありません。ホリデイのブレーン達は、ホリデイの私生活スキャンダルと、歌唱の個性をうまく使って、“Good Morning Heartache”“Don’t Explain”など、ホリデイ自身を想起させるシグネーチュア・ソングを次々とヒットさせたんですね。日本の歌手にも、私生活を想起させる歌でヒットを飛ばした歌手は沢山いますが、死後50年以上経っても「私だけに歌いかけてくる」ような錯覚を与えるほどのリアリティはあるのかな?ビリー・ホリディの歌う歌はどれを聴いても、私宛ての親展メッセージのようで、不思議に心を捉えます。寺井尚之は、「そんな状況やったら、わしが何とかしたるやないか!」と一肌脱ぎたくなるらしい。
<レディ・ディ菩薩:赦しの美学>
 そして、ビリー・ホリディの歌唱の稀有なところは、歌を聴いているだけで、自分の過ちが「赦された」ような気持ちになれること。
 例えば、前述の“Don’t Explain”は、夫のワイシャツについた口紅で浮気に気づいた妻の歌、普通ならワイシャツだけでなく、旦那の顔までズタズタになってしまうかも知れないところですが、歌の主人公は「言い訳しなくてもいいの」と言う。極めつけはこのライン〝Right or wrong don’t matter when you’re with me, Sweet〟(善悪なんてどうでもいい、愛するあなたが一緒なら)これは、正義と真実が最優先のアメリカでは、ほとんど反社会的かも知れない。〝Right or wrong don’t matter〟タイガー・ウッズやビル・クリントンでなくても、人はWrongなことをしでかすのもの、レディ・デイは菩薩のように、許しと癒しを与えます。
Hinton_Billie_Holiday.jpgLady In Satinの 録音に参加したベーシスト、ミルト・ヒントンは、プレイバックを聴いて声の衰えを痛感する悲痛な表情をカメラで捉えた。
 先週リリアン・テリーで聴いた“You’ve Changed”はホリディ晩年のLP『Lady in Satin』に収録されています。当時のホリデイには往年の輝く声は失われているけれど、逆に歌詞表現のニュアンスは声を補って余りあるほど甘くて苦い。聴くたびに感動してしまいます。ホリデイの崇拝者、カーメン・マクレエは生前このレコードを絶賛していて「LPが擦り切れるから、予備に何枚も持っている。」と言ってたっけ。彼氏の心変わりを嘆きながら、最後の節でこう歌う。〝あなたは変わった、もう私が知ってた天使じゃない。今更別れようと言う必要なんてない。終わったのよね。〟別れにつきもののゴタゴタもなく、向こうの方から終結宣言してくれる。だからと言って、彼女のところに舞い戻ったとしても、「言い訳なしで」元の鞘に戻れそう。
 きっと”You’ve Changed”の主人公は、別れた後、この後で”落ち葉を焼く煙の臭い”や”船の汽笛”に彼を思い出しながら”These Foolish Things”を歌うんだろうな!
 Right or Wrong doesn’t matter・・・恋に落ちること自体、善悪や理屈とは関係のないものかも知れない・・・
 昨年秋のトリビュート・コンサートで聴けた“Easy Living”も、勿論ホリデイ的「赦し」の歌です。傍目には男に利用されているとしか見えない女性が主人公、彼女は愚かな自分と恋した相手を同時に赦す。「あなたの為に生きることこそ気楽な人生(Easy Living)…惚れた人のために苦労しても構わない。愛する人に尽くすと生きることが楽になるから…」
 どんな過ちを犯しても、観音さまとビリー・ホリディは赦してくれる。レディ・デイの唄を聴いていると、そんな気持ちになります。とはいえ、私生活の彼女は、必ずしもそうではなかったようですが、ザッツ・アナザー・ストーリー。
 トミー・フラナガンがこよなく愛し、大きく影響されたビリー・ホリディ、トリビュート・コンサートでも、ホリデイゆかりのレパートリーが聴けるでしょう。
 トリビュート・コンサートは残席わずかですので、お早めに!
明日は末宗俊郎(g)トリオ!そしてあさって土曜日は久々のSFT。KG&イマキーが寺井尚之と共にフレッシュなプレイをお聴かせいたします。
CU

トリビュート・コンサートの前に、スプリング・ソングスの話をしよう!

対訳ノート(26):Spring Is Here
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 春の兆しはあるけれど、今週は雪や雨や雷、それに強風!先日、雨宿りにデパートに寄ったら、ホワイトデーのプレゼントを買う為に並ぶ紳士の行列があちこちに…なんとランジェリー売場にも男性が・・・皆さま、いかがお過ごしですか?
 春のトリビュート・コンサートが近づくと、ウィークデーのOverSeasに沢山のスプリング・ソングが響き、外は寒くても、ウキウキ気分になります。でも、今日はふきのとうみたいに、少しほろ苦いスプリング・ソングを。
Spring Is Here>
 ともすればエバンス派のオハコと思いがちな<スプリング・イズ・ヒア>も、デトロイト・ハードバップ・ロマン派の寺井尚之(p)が演奏すると、一味違う。”The Mainstem”が聴かせるヴァージョンは、冒頭の混合ディミニッシュ・コードの響きだけで、美しくも哀しい歌詞の内容が一瞥できる。かつてトミー・フラナガン3がNYのジャズクラブ「スイートベイジル」で、4月にスプリング・ソングとして演奏したヴァージョンを基にしているのだとか。あの有機的なハーモニーは、紛れもなくデューク・エリントン!エリントン的なるものはトミー・フラナガンや寺井尚之ミュージックの至る所に隠れていますね。
<歌のお里>
 <スプリング・イズ・ヒア>のお里は、1938年のブロードウェイ・ミュージカル『I Married an Angel 私は天使と結婚した』、プレイボーイの銀行家が婚約解消の際に「天使としか結婚しない」と宣言したら、ほんとに美人の天使がやって来て結婚したのはいいけれど…というコメディーです。数年後に映画化されていますが、その際に歌われる<スプリング・イズ・ヒア>は曲想も歌詞も春爛漫のハッピーな歌曲に替わっていて、ちょっとがっかり・・・
Rodgers_and_Hart_NYWTS.jpg 作曲:リチャード・ロジャーズ(左)、作詞:ロレンツ・ハート(右):リチャード・ロジャーズがロレンツ・ハートと出合ったのは16歳の時、そのままコンビでソングライターの世界に入り、25年間の永きに渡って共作を続けましたが、やがて戦争が始まり、ハートの洒落た作風は軟弱と見なされ、時流から外れて行きます。ハート自身もアルコールに溺れて仕事に支障をきたすようになり、42年にコンビ解消、ロジャーズはオスカー・ハマーシュタインⅡ世と『オクラホマ』や『サウンド・オブ・ミュージック』など、健全な名作をどんどん創り、新たな局面に邁進。一方ハートは’43年に48歳の若さで失意のうちに亡くなりました。My Funny ValentineThe Lady Is a Tramp, Blue Moon, Bewitched etc…二人が生み出した名曲は数知れず…どれも甘くてほろ苦い味わいの粋な歌曲ばかりです。ポピュラー音楽の中ではこのコンビが、私の一番のお気に入りかも知れません。
 “春が来たのに私の胸は躍らない、それは誰にも愛されないからかも。“ 寂しい心を歌うラインに、一番インパクトの強いせり上がるメロディをつけている辺りが、ロジャーズ+ハートの凄さかな。原歌詞はこちら。

“スプリング・イズ・ヒア”
Richard Rodgers and Lorenz Hart
VERSE
あなたや私がそうだったように
世界中が詩を紡いだ頃、
たしか「春」ってあったよね。
小さなテーブルで差し向かい
二人で春の甘いお酒を飲めば、
男も女も若者は皆高らかに歌ったよね。
4月、5月、6月・・・時が経つにつれ、
寂しい調子に変わる。
人生が、幸せの風船に針をつき刺した。

CHORUS
春が来たよ!
なのに心は躍らないのは何故?
春が来たよ!
ワルツが素敵に思えないのは何故?
欲しいもの、したいこと、
私には何もない。
誰にも必要とされていないせいかな。

春が来たよ!
なのにそよ風が嬉しくないのは何故?
星がまたたき始める、
何故に夜は心を誘わない?
多分誰も愛してくれないせいだよね。

春が来た・・・らしいね!

 アレック・ワイルダーの著書American Popular Songを読むとこんな風に書いてありました。(p.209)「歌詞もハートらしさが出た秀作、特にクロージング・ライン”Spring is here, I hear!( 春が来た・・・らしいね)”は、彼自身の考え方が、皮肉っぽく凝縮されている。」
 <スプリング・イズ・ヒア>はロジャーズ+ハート共作期終盤の作品、ロレンツ・ハートが亡くなる5年前に書かれたものだそうです。戦争が影を落とす世の中に、調子を合わせることが出来ないハートの苦しみが見え隠れして、一層この曲が身近に感じられます。
 第16回トリビュート・コンサートは3月27日(土)、その時分にはもっと春めいているかしら?
 13日(土)のジャズ講座は、リリアン・テリー&トミー・フラナガンの名盤、『A Dream Comes True』登場!ビリー・ストレイホーンの名曲など対訳どっさり作りました。リリアン・テリーはイタリア人だけど、ちゃんと歌詞解釈があるのがエライです!
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 当日はビーフストロガノフを作ってお待ちしています!
CU