オリンピックも終わりました…鶴橋や桃谷商店街で買い物しながら、ラジオから流れる星野ジャパンの試合に、街の人達と一喜一憂、二憂三憂…でも楽しかったなあ…
さて、月末には恒例寺井尚之ジャズピアノ教室の発表会があり、OverSeasはヒートアップ!
発表会と同じ日に、いつもご一家で関東からトリビュート・コンサートにきてくださる常連KD氏が、現地スタッフに信望厚い名オーガナイザーとして、北京へ単身赴任されます。発表会には、「生徒の皆さんが「いま(一期一会)を大切にして素晴らしい演奏ができますよう」と熱いエールを頂戴しました。KDさま、再見!
寺井尚之ジャズピアノ教室は、演奏の質もさることながら、寺井尚之が一音も聴き漏らさず、真摯に講評をするのが出色。
これは、かつて寺井自身の演奏を、フラナガンやハナさんが、怖いほど真剣に聴いてくれた経験が下地になっているようです。
今日は「寺井尚之ジャズピアノ教室」のルーツであるトミー・フラナガンの音楽観を覗き見てみよう!
アメリカ人は、概ねリップサービスが上手な人、誉め上手な人が多いですが、フラナガンはそういう意味では、全くアメリカ人らしくなかった。「ええかげん」なことは決して言わない人でした。だからインタビュー嫌いだったのかも知れないし、無口を装うことが多かった。本当は議論好きで、一旦火がつくと、徹底的に相手をやりこめるシーンを何度か目にした事があります。
公の場では「温厚な人」だったフラナガンの厳しさが垣間見えるインタビュー記事は数少なく、ブログで紹介するには長すぎるので、米ダウンビート誌の、「ブラインド・フォールド・テスト」を紹介しようと思います。
「ブラインド・フォールド(目かくし)テスト」は、ゲストに、何の情報もなく、いくつかのレコードを聴いてもらった感想から、ゲストの人となりや音楽観を浮き彫りにするという趣向、レナード・フェザーという評論家の先生が始めた人気企画で、以前、スイングジャーナルでも同様の連載がありましたよね。
フラナガンは、今回紹介する’89年と’96年の2回だけゲストになっています。ちょっと読んでみましょうね。星5つが最高点です。
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ダウンビート誌 1989 3月号より : 聞き手: Fred Bouchard (ジャズ評論家 本業は航空工学など技術系のライターのようです。)
ビバップの温和な巨匠、トミー・フラナガンは、長年の名伴奏、エラ・フィッツジェラルド、ジョン・コルトレーンなどの最高の演奏を引き出してきた。
今回が初のブラインドフォールド・テスト、“カジモド”など彼のトリオでのレガッタバーでのレパートリーに因んだレコードを主体に聴いてもらったが、事前にフラナガンには何の情報も提供されていない。
1. 演奏者:Sonny Clark Memorial Quartet Wayne Horvitz(p), John Zorn(as)…
曲名 “Nicely” ソニー・クラークのオリジナル
アルバム名:Voodoo/ Black Saint
TF:誰の演奏なのかわからない。曲はソニー・ロリンズの“ポールズ・パル”を思い出させる。テーマはいいと思うが、私が気に入ったのはテーマだけだ。演奏はテーマに見合ったレベルではない。彼らのプレイを以前聴いたことがあるようにも思うが、プレイの抑揚が訛っているので、誰なのか判断することが出来ない。ひょっとしたら、ジャッキー・マクリーンかな? テーマには★★★★。
2. 演奏者:ハービー・ハンコック(p)
曲名:”Round Midnight”
アルバム名:The Other Side of Round Midnight/ BlueNote
数ヶ月前にフィニアス・ニューボーンJr.を聴いたのだが、この演奏は、フィニアスがじっくり考えてから演奏したような感じだ。
フレーズや解釈はフィニアスを思い出させて、僕は大好きだね。もしも、本当のフィニアスなら★★★★★。しかし、もしフィニアス以外の誰かなら、5つ星の値打ちはない!
3.演奏者:ナット・キング・コール(p)3:
曲名: “Bop Kick”
アルバム名:Instrumental Classics/Capitol
パーソネルは推察どおり。
多分、ナット・キング・コール・トリオだね。ボンゴはジャック・コンスタンツォだろう。ピアノのサウンドも、このオスカー・ムーアのギターも明らかにそうだ。この曲はいいねえ!進行がいいなあ…
だが、ひょっとしたら、ナットの影響を受けた他のピアニストかもしれない。例えば初期のオスカー・ピーターソンとか…でも、ピーターソンはボンゴを使っていないはずだから。
4.演奏者:シーラ・ジョーダン(vo)+ハーヴィー・シュワルツ(b)
曲名:“Tribute”(“Quasimodo”)
アルバム名:Old Time Feeling
パーソネルは推察どおり。
これはかなり確信がある!シーラだよ!となればベースは、ハーヴィー・シュワルツ(b)に決まってる。シーラと僕はデトロイト、ノーザン高校時代の同窓だ。彼女は高校時代から歌詞を書いていた。同じ授業をサボって、街のジュークボックスでチャーリー・パーカーの“Now’s The Time”を聴いていた間柄だもの。あれは、’40年代中ごろだったかなあ。(おっと…年齢をバラしちゃった、シーラ、ごめんよ!)僕が初めて聴いた、歌詞付きのラウンド・ミッドナイトは、シーラの作詞だった。
でも、チャーリー・パーカーの“カジモド”に歌詞を付けていたとはね…彼女はすごく音楽的だ!高得点!!★★★★1/2!
5. 演奏者 デイブ・マッケンナ(p)ソロ
曲名“Moon Country”
アルバム名:A Celebration of Hoagy Carmichael/ Concord
デイブ・マッケンナだ!まるでリズムセクションがいるようなプレイ…これこそデイブのスタイルだ。ハハハ…彼はリズム・セクション内蔵型ピアニストだよ!タイトルは“The Old Country”じゃなかったかな?ホーギー・カーマイケルかウィラード・ロビンソンだったっけ?僕は昔の歌が好きだ。デイブの弾き方も大好きだよ。★★★★1/2!
満点じゃないのは、デイブにが常に、より以上のプレイをする余力を持っているからだ。
6.チャーリー・パーカー(as)
曲名:“Thriving on a Riff:(アルバム記載によれば)
アルバム名:Original Bird/ Savoy”
パーソネル: チャーリー・パーカー(as),マイルス・デイヴィス(tp),ディジー・ガレスピー(p):(アルバム記載よれば)
色々聴かせてくれたけど、初の五つ星だね。ピアニストはサディック・ハキムだ。(フラナガンはピアノソロを滑らかにハミングしながら聴く。)曲は“アンソロポロジー”、僕は、まさにこの曲から、ビバップに親しんだんだ。多分トランペットはディジー・ガレスピー、ドラムはマックス・ローチかケニー・クラークだな。プレイからあふれ出るグルーヴが最高だ!
【聴き終わってパーソネルを知らせると、フラナガンはこう言った。】
アルバム・ジャケットに書いてあるデータなんぞ、気にしなさんな!演奏者名なんて、契約の問題でコロコロ変わるんだから。ディズ(ガレスピー)には、ミュージシャン・ユニオンの組合員証があり、サディック(本名:アーゴン・ソーントン)にはなかった、それだけのことだよ。
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どうですか? 2の寸評は、明らかに誰が演っているのか知っていながら知らんプリで、手厳しいことを言っていますね。6のチャーリー・パーカーには、特に深い知識と愛情を持つフラナガンならではのコメントが聴けました。レコードのクレジットには未だに、史実が反映されないところも、気をつけなければ…
トミーは本当に「音楽的」な人だったから、普段でもよく流れてくる音楽を聴きながら歌ってました。それどころか、フル・オーケストラを聴くと、頭の中に何十ピースものスコアがダウンロード→保存されてしまう天才です。どんな歌の歌詞もよく知っていたし、知識の宝庫。嫌いな音楽を聴くと、大きな苦痛を感じ、それを隠す為に、聴こえないフリをしてた。
また次回続きをご紹介します!今度はハナさんやセロニアス・モンクのアルバムからフラナガンの名コメントが引き出されます。
CU