ショーン・スミスという真面目なベーシストのこと。

 
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 ショーン・スミスはN.Yを地盤にコツコツという感じでキャリアを重ねる実力派ベーシストだ。自己リーダー作や、ビル・シャーラップ(p)の初期の録音、アニタ・オデイ(vo)のラスト・レコーディングなどに参加。人柄は、喰うか喰われるかのNYシーンでやっているミュージシャンにしては、控えめでガツガツしたところがありません。それが、何度も来日しているのに、日本でも知名度がない一因かも知れない…彼の曲がグラミー賞の候補になった事すら、今回の記事を書くに当たって初めて知りました。
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 ショーン・スミスは1965年生まれ、’87~’90マンハッタン・スクール・オブ・ミュージックでベースを学び、NYを本拠に、今やトップ・ピアニスト、ビル・シャーラップや、実力派ドン・フリードマン(p)、巨匠ジェリー・マリガン(bs)達と共演を重ね、’94年から自己カルテットで活動する傍ら、完璧な音程と、安定したビート、アレンジの才能で、ペギー・リー、ローズマリー・クルーニー、ヘレン・メリル等、スター歌手達に重宝されます。1997年に、ショーンのオリジナル曲がマーク・マーフィーのアルバムのタイトル曲になり、グラミー賞にノミネートされました。
 ショーンのプレイは、彼の尊敬するジョージ・ムラーツ、レッド・ミッチェル、マイケル・ムーアのエッセンスをうまくミックスした感じで、ランニングの音使いのうまさには、いつも舌を巻きます。
 <それは一枚の譜面から始まった。>
 寺井尚之とショーンの出会いは、一枚の譜面から始まりました。話は’90年代に遡ります。ジェド・レヴィーというテナーサックス奏者が、NYから大阪の重鎮、西山満(b)氏の招聘で、寺井尚之と一緒にコンサートをしました。
 トミー・フラナガンはジェドのアイドルですが、フラナガンの演奏曲は譜面のないものが殆どで、寺井尚之の譜面帳は、ジェドには宝の山でした。その中あった“Elusive イルーシヴ”を見つけた時のジェドの嬉しそうだったこと!
 “イルーシヴ”はサド・ジョーンズが作った難曲、どれほど難しいかと言うと、数学に例えれば“ポワンカレ予想”に近い。前回ブログで紹介したペッパー・アダムスの『Encounter!』にも収録されています。その当時、脂の乗り切ったトミー・フラナガン3がNYのジャズシーンで、バリバリ演奏をしていました。elusiveとは「雲を掴むような、捉えどころのない」という意味で、その通り、何がなんだか全く判らないけど、滅茶苦茶かっこいいのです。サドの曲名は、悪魔的な茶目っ気に溢れている。例えば、Bitty Ditty(ちょっとした小唄)とかCompulsory(規定演技)とか…これも、サド・ジョーンズらしいネーミングですね。
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 フラナガンのサド・ジョーンズ集、『Let’s』のリリースは、それからまだ3年後のことでした。共演者へのみやげとして、寺井はその譜面を気前良くプレゼントしたのです。
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Jed Levy
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 それから約5年後、丁度ジャズ講座を開講し、寺井尚之がその準備であたふたし始めた頃です。講座が近づくと、寺井尚之は午後は調理場から出てきて、毎日、譜面や原稿書きに夕方まで没頭していました。
 ある日の午後、細身の白人青年が、入り口のレジのところで佇んでいます。道に迷ったのかと思うと、オーナーと話がしたいと言います。
(セールスにしては内気そうな人やなあ…)
 寺井尚之は「あかーん!今忙しいねん。タマちゃん、適当に相手して追い返してくれ。」とにべもない。私が、「今忙しくて手が離せないんです。私が代わって話を聞きます。」と言っても「どうしても直接話したい。」と言って引き下がりません。
(内気そうな割には、押しの強い人やわ…)
 押し問答になり、結局「5分だけ」と言って、10番テーブルに案内しましたが、寺井尚之は最高の仏頂面です。
 青年は、真面目な顔つきで小さな声で話しかけました。
「OverSeasのオーナーですね。私はあなたにお礼を言いにやって来ました。
 僕は、ベースを弾いてるショーン・スミスと言う者です。昨日へレン・メリルと大阪に来ました。トミー・フラナガンとジョージ・ムラーツを尊敬しています。“Elusive”を弾きたいと思っても譜面を持っている者はいないし、あの曲をコピーするのは絶対無理でした。
 ところが、あるバンド仲間を通じて譜面を手に入れたんです。その譜面を書いたのが、日本のピアニストだと聞いていました。おかげで僕たちも、今はこの曲をプレイしています。日本に行くことがあったら、ぜひあなたに会いたいと思っていたんです。やっとOverSeasを探して来ました。ミスター・テライ、どうもありがとう!」
 寺井の仏頂面はどこかに消え、二人は夕方まで楽しく話をしていました。
 それ以来、ショーンは日本に来たらOverSeasに寄って、時間があれば、寺井とセッションをして行きます。未だに、ヒサユキと言わずにミスター・テライと呼ぶ生真面目なミュージシャンです。
別にメル友でもないけれど、彼からライブ告知があれば出来るだけOverSeasの掲示板に載せてます。
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 トミー・フラナガンが亡くなった翌年の初春、アイルランド系の人々のお祭り、セント・パトリック・デイの直後にNYを訪れた時のこと。
 出不精のダイアナが、アイリッシュ・レストランでジャズを演っているところがあるから行こうと言うので、ヴィレッジの南の方にある“Walker’s”に行ったら、バンドスタンドで、こっちを見て目をまん丸にしていたのがショーンだった。とかく不思議な縁のある人です。
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“Walker’s”はNY最古のバーと言われている。ここはミュージック・ルームで静かですが、表はジュークボックスやTVがあって、相当ザワザワしてます。当夜のギタリストはピーター・リーチ、二人はこの夜、ダイアナの為に“エクリプソ”を弾いてくれた。
 
 そんなショーン・スミスと寺井尚之のコンサート、どんな音楽が聴けるのだろう? 演奏の上では、敬称略の、「腹を割った」音楽の会話を聴かせてくれるはず! 真剣勝負の聴き応えある一夜になると思います!
 2月8日(金)演奏時間は通常のライブと同じ7pm-/8pm-/9pm  前売りチケットは¥5,500(座席指定:税込¥5,775)です。チケットはOverSeasでのみ販売中。
席に限りがありますので、どうぞお早めに!詳しくはこちら。 CU
 

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