「トミー・フラナガンの足跡を辿る」は、寺井尚之が、毎月第二土曜日、師匠フラナガンのディスコグラフィーを年代順に聴きながら解説してきました。2003年秋、ケニー・バレル(g)との”Get Happy”(Kenny Burrell Vol.2)から始まった講座も、9月8日(土)、第107回を持って、グラミー賞 最優秀インストルメンタル・ソロイスト賞にノミネートされた”Sunset and the Mockingbird”(ライブ盤 A Great Night in Harlem)、亡くなる約2か月前の録音をもって千秋楽となります。
大学の授業ならいざ知らず、寺井尚之が、315セットのアルバム内容を、徹底的に解析し、定説を覆すびっくりの真実、レパートリーの組み合わせの妙や、アルバムの聴きどころなど、毎月お伝えし続けることができたのは、何と言ってもご出席のお客様、そして、様々な資料を提供してくださったジャズ批評家、後藤誠氏をはじめ、音源その他の資料、映写機器など、ソフト、ハードの両面でご協力いただいた方々のおかげ!心より感謝しています。
<晩年のトミー・フラナガン>
フラナガンは、心臓に大動脈瘤という爆弾を、長い間抱え、亡くなる前の数年間は、今は日本でも流行しているマクロビオティックという食事療法を心がけ、ワンナイターのハードな楽旅は避けていました。飛行機での旅行は禁じられていましたが、仕事柄、そういう訳にもいかず、演奏中にペースメーカーが止まって、大騒ぎになるというようなこともありました。生活のためというよりも、やはり生涯現役として、命を縮めても弾き続けたかったのではないかと思います。
最後の来日は、2000年の春の”ブルーノート”での公演(bass ピーター・ワシントン、drums ケニー・ワシントン)でした。その時OverSeasにやって来たときのことは、HPに寺井尚之が書いています。
“ブルーノート”大阪で、すっかり痩せてしまったフラナガンがハードな曲を演奏すると、首の後ろの静脈が浮き上がって見えて、晩年のレスター・ヤングの演奏を観に行ったズート・シムズのように、オイオイ泣きそうになりましたが、演奏自体はじつに美しく、素晴らしいものでした。
後日、電子版の朝日新聞を読むと、アンコールに応えなかったフラナガンを傲慢と批判する記事が掲載されていました。本当は、アンコールしたくともできないほど体調が悪かったのです。
<千秋楽は多彩なアルバムで>
さて、土曜日の講座は、特別ゲスト待遇で、スポット的に参加したアルバム群と、ヤマハの自動演奏ピアノのための音源として収録された素晴らしいソロピアノなど、全6枚の多才なレコーディングで、賑やかにお送りする予定です。
なお、「トミー・フラナガンの足跡を辿る」は、11月から内容をリニューアルして、より充実したジャズ講座として新たに開講予定。
最近、日本文学と日本文化研究の第一人者であるドナルド・キーン先生の自伝で、とても興味深い話を読みました。NYブルックリン生まれの彼は(ジャズには見向きもせず)、日本の文化を追求、コロンビア大、ケンブリッジ、ハーバード大を「編参」し、日本学の第一人者と言われている様々な教授の講義に、感動と失望を繰り返しながら、自分の講義のポリシーを確立した。それは、「(図書館などで調べれば判るような無味乾燥なデータを教えるのでなく)私自身の日本文学に対する情熱を伝えたい。」ということでした。
「日本文学」というのところを、「トミー・フラナガン」に置き換えれば、寺井尚之のジャズ講座と同じです。キーン先生の英訳した「曽根崎心中」に匹敵するような、ジャズ歌詞の対訳を作ることは、この脳みそが100個あっても不可能ですが、私も資料の翻訳をがんばります!
これからも、トミー・フラナガンの楽しさ、ジャズの楽しさを講座で伝えて行けるよう、寺井尚之とJazz Club OverSeasを応援していただけますよう、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
「トミー・フラナガンの足跡を辿る」<その107>
9月8日(土)6:30pm-
受講料 2,625yen
おすすめ料理は「黒毛和牛の赤ワイン煮込」にします。
CU!