トリビュート・コンサート!

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第26回トミー・フラナガン・トリビュート・コンサート、おかげさまで盛況で開催することができました。

 今年でフラナガン没後14年、客席に生前の勇姿を生で知るお客様は少なくなっていきますが、新旧のお客様に支えられ、26回のコンサートが出来たと思うと感慨もひとしおです。

zaiko_miyamoto_26th.jpg 寺井尚之のレギュラー・トリオも、当初のフラナガニア・トリオ(宗竹正浩-bass、河原達人-drums)から、現在のザ・メインステム (宮本在浩-bass、菅一平-drums )に衣替えして、今回で14回目、トリビュートの過半数のコンサートをメインステムで演ったことになります。稽古が三度のご飯より好きな寺井がこれまで8年の歳月をかけてトリオとしてのサウンドを磨いてきたわけですから、メンバーはさぞ大変だったろうと思いますが、長年の常連様から「いやあ、よくなったねえ。」声をかけられると、疲れも吹っ飛んだのではないでしょうか。

 トリビュート・コンサートのプログラムは、毎回、フラナガンが愛奏した名演目と呼ばれるものから、寺井がセレクトして起承転結のあるひとつのコンサートにまとめていきます。今回は、故郷デトロイト時代からフラナガンが大きな影響を受けたサド・ジョーンズ作品で始まり終わるプログラム。ippei_suga_26thtribute.jpgその間にフラナガンが理想としたデューク・エリントン+ビリー・ストレイホーン作品、バド・パウエル、タッド・ダメロンなどのビバップの名曲、フラナガンが春になると奏でたスプリング・ソングたち、それにフラナガン・ライブの最大の聴きどころだったメドレーを織り交ぜ、このコンサートがひとつのフラナガン音楽史というか、読み応えのある「物語」になったと、初めて感じることが出来ました。

 ピアノの鳴りは息を呑むほど美しかったし、 宮本在浩(b)、菅一平(ds)のふたりも存在感を見せつけてくれました。お客様からもらったコンサートの感想メールを引用させていただきます。

「ザイコーさん、一見控えめに見えて、実はしっかり師匠のピアノに絡みつつ、菅さんとはお互いに支え合って、というのがよく見えました。」

「菅さんのプレーは、師匠から次から次に来る暗黙の要求に穏やかな表情で応えられている姿がカッコ良かったです。」

 「冒頭のLet’sが始まった途端、2000年の大阪ブルーノートのフラナガン・トリオの演奏を思い出して涙が出た。」と言ってくれた人も居ました。

 前回のフラナガン・インタビューにこんな発言があったのを覚えていますか?

「演奏するからには、しっかり準備をして、そこに或る思いを込めたい。」

 そんなフラナガンの心は確かに受け継がれているなあ。そんな風に感じることができました。

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<曲目>

《第Ⅰ部》

1. Let’s /Thad Jones

 作曲者はコルネット奏者としても、バンドリーダーとしても天才的な手腕を発揮したサド・ジョーンズ。ジョーンズの作品は一筋縄ではいかない難曲が多いために、沢山の演奏者に取り上げられるスタンダードは少ない。だがフラナガンは終生彼の作品を掘り下げた。

 「サド・ジョーンズ作品には強力なパワーを内蔵していて、演奏すると、自然にそのパワーが発散する。彼の作品を演奏できるならば、演奏者として順調な道を歩んでいる証だ。」トミー・フラナガン

 

 

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2.Beyond the Blue Bird /Tommy Flanagan

 青年時代のフラナガンがサド・ジョーンズ(cor.tp)と共に、毎夜、デトロイトの黒人居住地で熱い演奏を繰り広げた場所《ブルーバード・イン》を偲んで作ったオリジナル。本曲は若き日へのノスタルジーに溢れている。

 生前のフラナガンは、《ブルーバード・イン》と《OverSeas》の雰囲気は、よく似ていると言ってくれた。

 デトロイトのお家芸である左手の”返し”が印象的、親しみやすいメロディでありながら、、転調が多く弾くのは大変むずかしい。寺井尚之はリリース前に、この曲を写譜して、演奏を許されたことが誇りだ。

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3. Mean What You Say  /Thad Jones

 ゆったりしながら、爽快なスピード感が味わえるサド・ジョーンズ作品、サド・メルOrch.の十八番でもあった。’Mean what you say(ズバっと、相手に伝わるように言え!)’はジョーンズの口癖らしいが、デトロイト・ハードバップのモットーとも言えるだろう。

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4.メドレー: Embraceable You  
/George Geshwin

        Quasimodo /Charlie Parker

 ガーシュインの有名なバラード(抱きしめたくなるほど愛らしい君)、そのコード進行を基にして作ったバップ・チューンに、チャーリー・パーカーは「カジモド」という醜い「ノートルダムのせむし男」の名前を付けた。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたメドレーには、パーカーの真意を読み解いたフラナガンの深い洞察力が見える。 ライブで、フラナガンのメドレーは最高の聴きどころだったが、これは数あるメドレーの内でも白眉だった。残念なことにレコーディングは遺されておらず、トリビュート・コンサートでその素晴らしさを偲ぶしかない。関連ブログ

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5. Sunset & the Mockin’ Bird / Duke Ellington, Billy Strayhorn

  エリントン&ストレイホーン作品、エリントン・ミュージックはフラナガン終生の理想だった。この曲はフラナガン67才のバースデイ・コンサートのライブ盤(右写真)のタイトルになっている。エリントンの自伝『Music
is my mistres』によれば、フロリダ半島をハリー・カーネイ(bs)運転の車で移動中、夕焼けの中で耳にした不思議な鳥の鳴き声に霊感を得て、瞬く間に書き上げた曲とある。後にエリントンは、この曲を含めた「女王組曲」を収録し、たった一枚プレスして英国のエリザベス女王に献上品とした。フラナガンは、FMラジオのジャズ番組のテーマ・ソングとして毎週流れるのを聴き覚え(!)レパートリーに加えたと言う。

 トリビュート・コンサートでは息を呑む寺井尚之のピアノタッチの至芸で。

 

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6.Raincheck  / Bily Strayhorn

 ビリー・ストレイホーンが第二次大戦中、カリフォルニアで作ったと言われている作品。雨雲を吹き飛ばすような颯爽とした雰囲気に溢れている。

  フラナガンは、ジョージ・ムラーツ(b)、ケニー・ワシントン(ds)との黄金トリオで、名盤『Jazz Poet』に収録している。スピード感と品格を併せ持つフラナガン流ヴァージョンで。

 

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7. Dalarna / Tommy Flanagan  

 ”ダラーナ”は、『Overseas』を録音したスウェーデンの風光明媚な地域の名前を冠した初期のオリジナル。転調の奥義や印象派的な曲想に、心酔していたビリー・ストレイホーンの影響が垣間見える。

 『Overseas』以降、フラナガンが演奏することはほとんどなかったが、寺井尚之のアルバム『ダラーナ』(’95)の演奏に触発され、寺井のアレンジを使って『Sea Changes』(’96)に再収録した。

 

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8. Tin Tin Deo / Chano Pozo, Dizzy Gillespie, Gill Fuller

 フラナガンは、ビッグバンドの演目を、コンパクトなピアノ・トリオ編成でダイナミックに料理するのを得意にしていた。この曲は、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したブラック・ミュージックだ。

 ディジー・ガレスピー楽団がこの曲を初録音したのはデトロイトで、フラナガンの親友、ケニー・バレル(g)が参加した。フラナガンにはその当時の特別な思い出があったのかもしれない。

 現在は寺井尚之The Mainstemがそのアレンジをしっかりと受け継いでいる。

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 《第Ⅱ部》

1. Eclypso  /Tommy Flanagan

 フラナガン作品中、最も有名なのがこの曲かも知れない。『Overseas』(’57)や『Eclypso』(’75)を始め、フラナガンは繰り返し録音している。、”Eclypso”は「Eclypse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉の遊びが好きで、そんなウィットがプレイにも反映している。

  フラナガンが寺井尚之をNYに呼び寄せ、別れの夜にヴィレッジ・ヴァンガードで寺井のために演奏してくれた思い出の曲。

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 2. They Say It’s Spring  / Bob Haymes

 フラナガンが”スプリング・ソングス”と呼んで愛奏した季節の演目。

 ’50年代中盤に、ブロッサム・ディアリーのキュートな歌声でヒットした。彼女の夫は、当時J.J.ジョンソンのバンド仲間であったボビー・ジャスパー(ts.fl)であったことから、フラナガンはディアリーのライブで、この曲を聴き覚えレパートリーに加え、フラナガンの演奏を聴いたダグ・ワトキンス(b)も愛奏するようになったという。NYのジャズシーンでは口コミで音楽が広まっていったのだ。

 作曲者、ボブ・ヘイムズは人気歌手ディック・ヘイムズの弟、俳優、歌手、TV番組タレントとしても有名だった。

 ’70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に収録されている。
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 3. Rachel’s Rondo  /Tommy Flanagan

 最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げた作品。フラナガンは『Super Session』(’80)に収録したが、ライブでは余り演奏することはなかった。

 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』(’94)に収録している。

 冴え渡るピアノのサウンドがこの曲の気品を遺憾なく発揮する。

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 4. A Sleepin’ Bee  / Harold Arlen
 これも、春にNYでフラナガンがよく演奏したスプリング・ソング。Aペダルの軽快なヴァンプが春の浮き浮きした気分にぴったりだ。ライブで演奏していくうちに、’78『ハロルド・アーレン集』に収録したヴァージョンからどんどんアップデートしていて、トリビュートで演奏するのは進化ヴァージョンだ。

 元々「A House of Flowers」というハイチを舞台にしたブロードウェイ・ミュージカルの劇中歌。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にした可愛らしいラブ・ソング。 

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5.Passion Flower  / Bily Strayhorn

 フラナガンがジョージ・ムラーツ(b)の弓の妙技をフィーチュアして盛んに演奏したビリー・ストレイホーンの名曲。ムラーツはフラナガン・トリオを離れてからも、自分のグループで愛奏し続けている。

 パッション・フラワーはトケイソウのこと。ビリー・ストレイホーンは花を題材にした作品を好んで作っているが、その中でも、この曲を最も愛奏している。

 今夜は、宮本在浩が秀逸な演奏で大きな存在感を示した。

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6. Mean Streets  /Tommy Flanagan

  元々”Verdandi”という曲名で、エルヴィン・ジョーンズのドラムソロをフィーチュアし『Overseas』(’57)に収録、20年後、レギュラー・ドラマーに抜擢したケニー・ワシントン(ds)のフィーチュア・ナンバーとして盛んにライブで演奏し、ケニーのニックネーム、”ミーンストリーツ”と改題し『Jazz Poet』に収録。

 トリビュートでは、菅一平(ds)が細部まで神経の行き届くダイナミックなドラムソロで、大きな成長ぶりを見せつけた。

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 7. I’ll Keep Loving You  /  Bud Powell

   バド・パウエルが歌手の女友達の持ち歌に書き下ろしたとされる作品で、凛とした美しさがみなぎる硬派のバラード。フラナガンは、ビバップのアンソロジー集、『I
Remember Bebop』(’77)に収録。フラナガンを愛し続ける寺井尚之の心が溢れる名演となった。

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 8.Our Delight  / Tadd Dameron

 

 ビバップの立役者の一人、ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロンの代表作。フラナガンはダメロン作品には「オーケストラの要素が内蔵されているので非常に演りやすい。」と言い、ライブを最高に盛り上げるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。

 

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collar.jpg《アンコール》

1. With Malice Towards None  / Tom McIntsh

  フラナガンが、真の「ブラック・ミュージック」として愛奏したトム・マッキントッシュ初期の作品。

 「誰にも悪意を向けずに」という題名は、エイブラハム・リンカーンの名言で、メロディは賛美歌を基にしたスピリチュアルな曲。

 この曲が生まれた頃、マッキントッシュとフラナガンは住まいが近所で親しく行き来しており、フラナガンはこの曲の創作過程に立ち会って、自分のアイデアを盛り込んだ。様々な編成で多くの録音があるものの、フラナガンのスピリチュアルな演奏解釈が傑出している。その中でも最も心を打たれるのは、フランク・モーガン名義のアルバム『You Must Believw in Spring』に収められたソロピアノの演奏だ。

 

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2. Like Old Times  / Thad Jones

 

 フラナガンがアンコールで頻繁に演奏した作品。サド・ジョーンズ名義の『Motor City Scene』(’59)や、ヴィレッジ・ヴァンガードのライブ盤(’87 右写真)に収録されている。「昔のように」は、デトロイトの《ブルーバード》のアフターアワーズの楽しさを指すのかもしれない。

 今夜のコンサートでは、昔のフラナガンのように、寺井が隠し持っていたホイッスルを、絶妙のタイミングで吹き鳴らし大喝采を浴び、文字通り「昔のように」笑いが溢れる楽しい締めくくりとなった。

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