速報:第15回寺井尚之ジャズピアノ教室発表会


 昨日、当寺井尚之ジャズピアノ教室の15回目の発表会が無事終了しました。
 うちの発表会は「一味違う!」と、見学に来られるお客様によく言われます。それは、ピアノのタッチの美しさや、演奏曲、演奏レベルだけでなく、緊張度の高さ。会場全体が、これほど一生懸命に聴いてる発表会は他にないらしい…プロのピアニストでも、緊張で手が震えると告白する人が多い。
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  というのも、師匠が全員の演奏を、一音一句全て聴き漏らさずに、厳しくて愛情溢れる講評をしてくれるのが一因です。
 今回はいつも最終セットを飾る人気ベテラン陣が一部不在でしたが、初級から上級生徒まで大健闘!番付が高くなるにしたがって、演奏レベルもUP!生徒達の司会も楽しくて、4時間に渡るコンサートもあっと言う間でした。
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 緊張の後の笑顔はとっても素敵!この司会役は、『努力と最優秀賞の殿堂入り」を果たしたあやめ副会長。
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 宮本在浩(b)菅一平(ds)の二人が、長丁場も心を込めてサポート!後姿は録音、撮影をしてくれるyou-non氏!
sumi.JPGこのベーシストは発表者ではありません!エコーズ・ファンクラブ、コダマ会長のサックス演奏を応援のため、正装で演奏する鷲見和広さんです。
 「オリンピックじゃないんだから、本番で失敗しても、皆の実力はわしが一番よく知っている!」というのが、寺井尚之の口ぐせ。
  発表会の後は、各賞の発表に続き、「最近、入門しても、フラナガンも聴かんし、ライブや講座に来ん生徒が多すぎる!」と寺井尚之。しかし、なぜかボヤキ系スピーチを聴いて、見学に来た方が即入門するというハプニングも!
 記念写真と鷲見和広さんのショット以外は、当日のお客様にいただいた写真です。
 発表会公式カメラマン、You-non氏の演奏写真が冴える発表会レポートは、OverSeasのホームページに近日UP予定。

各賞受賞者(ニックネーム、敬称略)
新人賞:あい、マチルダ、アレグロ、スズコ
努力賞:コダマ *「殿堂入り」あやめ対象外
パフォーマンス賞:あい(名司会に)
構成賞:あやめ
Ad-lib賞:あやめ
タッチ賞:あやめ
スイング賞:あやめ
最優秀賞:アクビ *今回より「殿堂入り」あやめ対象外

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My Ship:フロイト的「女心の歌」 

寺井珠重の対訳ノート(13)
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  先週のメインステムのライブは楽しかったですね! フィンガー・シンバルや、オーラ・チャイムという棒状のパーカッションがツボにはまり、OverSeasにミントの香りが溢れ、涼しくなりました。MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)を聴いて寺井がヒントを得たらしいけど、両方ともチベット由来のもので、あの涼しいサウンドで悪いオーラが一掃されるらしい!
 因みに、あの可愛いフィンガー・シンバルは、ヨガ教師である宮本在浩(b)夫人の愛用の品です。
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 ケニー・ド-ハム(tp)の“Lotus Blossom”(睡蓮)や、ホレス・シルヴァー(p)の“Summer in Central Park”など、この季節ならではの筋の通ったハードバップもよかったけれど、私の大好きな唄、“My Ship”が聴けました。
『私のお船』
  寺井尚之のアルバム『Yours truly,』のヴァージョンも大好きですが、今はもっと肩の力が抜け、大海原を表現するグリスもずっとしなやかです。
 
 作詞はアイラ・ガーシュイン、作曲はドイツ生まれのクルト・ワイル、アイラが、弟のジョージ・ガーシュインの死後、2年のブランク後、ブロードウェイにカムバックした最初の大ヒットです。
 歌詞は確かに、幼い女の子のファンタジーのようでありながら、曲想は洗練された大人、まるでベビー・フェイスのグラマー女優みたいに不思議な魅力をかもしだしている。
 だから、歌い手は小娘じゃダメ! サラ・ヴォーンや、アニタ・オデイといった「大人」の歌手がサマになる。アニタ・オデイは、ステージで歌っているのも聴いた事があるし、何度もレコーディングして愛唱している。
何でなんやろう?
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『歌のお里』
 そこで、歌のお里を辿ることにしました。ジャズ・ミュージシャンが演奏するスタンダードのお里は、映画やブロードウェイが多く、街で流行っているものを、どんどん料理してジャズにしたので、お里を辿ると、「えーっ!こんな陳腐な唄だったの!?」とがっかりすることもあります。
  さて、マイ・シップが船出した港を調べたら、1940年、ブロードウェイのアルヴィン劇場で大ヒットした“Lady in the Dark”というミュージカルでした。原作は”ブロードウェイのプリンス”と呼ばれた当代一の劇作家モス・ハート、主演は英国出身の名コメディー女優ガートルード・ローレンス、まだ無名だったダニー・ケイがゲイのフォトグラファー役でブレイクしました。3年後に、ジンジャー・ロジャーズ主演で映画化された。
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『Lady in the Dark』
 ストーリーは、ファッションの世界や、キャリア・ウーマンに、サイコセラピーが絡む都会派トレンディ・ドラマ。
   主人公リサは、一流モード雑誌の美人編集長で、妻のいる雑誌社の社長と同棲中。仕事は出来るし、崇拝者も多い。恋人の社長は、妻と離婚の段取りをして、ポロポーズしてくれたのに、何故かリサはうつ状態になる。
   そこで彼女は、精神分析医にカウンセリングを受ける。医者は、彼女の深層心理を探るべく、子供の時によく歌った童謡をもう一度歌わせようとするのですが、どうしても途中までしか思い出せない歌がある。実は、リサのノイローゼの原因はそこにあった。「思い出せない歌」の中に彼女の心の秘密が隠されていたのだ…
   そうなんです!その歌こそ「マイ・シップ」! サブテーマとして、劇中、何度も断片的に登場します。それはリサが、潜在意識の元で思い出すのをためらっている夢、抑圧されたリサの恋心の象徴だったというのがオチ。
   結局、リサは、自分が本当に愛する男性は、社長ではなく、いつもケンカしていた社内のPRディレクターだったことに気がついたとき、その歌は心の中に完全に蘇って、リザが大らかに歌う「マイ・シップ」がフィナーレとなります。
Gertrude_Lawrence_mw70797.jpg  ブロードウェイで主演したガートルード・ローレンスは英国出身の名女優で、映画、演劇を通じて大スターだった。ミュージカル「王様と私」が亡くなる直前の最後の主演作で、当時全く無名だったユル・ブリナーを主役に推したのも彼女だったんです。
○ ○ ○ ○ ○ ○
なるほどね!どうりで、イノセントな詞に、洗練された品格のあるメロディがついていたのだ! 
  「マイ・シップ」の海は、海深層心理の象徴で、船は「本当の自分」だったのですね。
 心待ちにする「私のお船」、宝船の財宝も、「唯一人の恋人」が一緒に船で来なければ、船なんていらないという歌詞は、劇のストーリーが集約されていて、しかも、ストーリーの俗っぽさは消えている。これこそ、アイラ・ガーシュイン!改めてアイラならではの作詞の力を思い知りました。

マイ・シップ
私のお船は絹の帆で、
デッキは金の縁飾り、
船倉は
ジャムにスパイス、パラダイス。

私のお船はたくさんの、
真珠でキラキラ光ってる、
宝の箱には、
ルビーがぎっしり詰まってる。
船が港に入る頃、
サファイヤの空に、
陽は沈む。

何年でも待ちましょう
いつかお船がやって来る
うららかな春の、その日まで
でも、もしも一番大事なものが
お船に積まれていなければ
真珠も何もどうでもいい

私の唄うのその船に
もし本当の恋人が
一緒に乗って来ないなら、
船のことなど心配しない、
そんな夢など要らないの。

私の唄うその船が
私のほんとの恋人を、
一緒に乗せて来なければ。

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My ship has sails that are made of silk-
The decks are trimmed with gold-
And of jam and spice
There’s a paradise
In the hold.
My ships’s aglow with a million pearls,
The rubies fill each bin;
The sun sits high
In a sapphire sky
When my ship comes in.
I can wait the years
Till it appears-
One fine day one Spring.
But the pearls and such,
They won’t mean much
If there’s missing just one thing:
I do not care if that day arrives-
That dream need never be-
If the ship I sing doesn’t also bring
My own true love for me –

If the ship I sing
Doesn’t also bring
My own true love for me.


 歌詞を読んで、ぜひ寺井尚之の演奏するMy Shipを聴いてみてください。ピアノなのに歌詞が聴こえて、無垢な心と、大人の洒落っ気が聴こえます。
 CDでも!OverSeasのライブでも!
CU
 
 

The Mainstemで夕涼み

ms_7_19.-1.JPG ’08 7/19(土) 於OverSeas
 ピアニスト寺井尚之が、長年の英知を総結集して大きく育てる新ユニット、The Mainstemで、爽やかなジャズの夕涼み!
 
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   毎回違う素材を、Mainstemならではのしつらえで、お客様に満足していただくには、寺井尚之(p)だけでなく、宮本在浩(b)、菅一平(ds)の、見えない努力が欠かせない。Mainstemのセカンドライブは、骨太でありながら冴え冴えしたサウンド、ダイナミクスの振幅も大きく、爽やかな後味だった。
kin%3Dmunazou-reunion.JPG “BOYS2MEN” 元寺井尚之ジャズピアノ教室のホープだった金ちゃんが、東京から久々に聴きに来て、むなぞう若頭とリユニオン!二人とも大人になったなあ…

 The MainstemSpecial Selection: 今夜の曲目
(曲目のブルーの字は、先週のジャズ講座に登場したナンバー。)
<1st Set>
1. Crazy Rhythm (Irving Caeser, Joseph Meyer, Roger Wolfe Kahn)
2. One Foot in the Gutter (Clark Terry)
3. Repetition (Neal Hefti)
4.Little Waltz (Ron Carter)
5. Well, You Needn’t (Thelonious Monk)
<2nd Set>
1. Summer Serenade (Benny Carter)~ First Trip (Ron Carter)
2. Moon & Sand (Alec Wilder)
3. Mrs. Miniver (Dexter Gordon)
4. I Cover the Waterfront (Johnny Green)
5. Old Devil Moon (Burton Lane)
<3rd Set>
1. Syeeda’s Song Flute (John Coltrane)
2. Central Park West (John Coltrane)
3. Trane Connections (Jimmy Heath)

4. Star-Crossed Lovers (Billy Strayhorn)
5. Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)
Encore: Caravan (Juan Tizol- Duke Ellington)

 <1st Set>
 オープニングで爽快にスイングした“クレイジー・リズム”は、昨年暮に講座で取り上げてから、寺井の愛奏曲になった。
Terry-1.jpg “ワン・フット・イン・ザ・ガター”は寺井尚之が大好きなトランペッター、クラーク・テリーのオリジナル、天井の高いひんやりした教会のステンドグラスを震わせるようにブルージーなピアノのエンディングに泣けた!『溝にはまった片足』なんて、変てこなタイトルでしょ? 実は「聖者の行進」の昔、テリーが育ったセント・ルイスの街でパレードの花形だったハム・デイビスというトランペッターに捧げた曲なんです。
 ジャズ史の影には無名の巨人が沢山いるのだ!ハムは、行進の時、わざと脇の溝に滑り落ちながら、ハイノートをピリっとも狂わせずにヒットする名手!クラーク・テリー少年のヒーローだった。メロディより遥か2オクターブ上を朗々と吹くペットの音は、町中に響き渡り、10マイル先でも、「あっ、ハムだ!」と判ったというのです。テリーは、もう一曲、“Two Feet in the Gutter”という曲もハム・デイヴィスに捧げている。
    リピティションは、ニール・ヘフティのダンサブルな曲、チャーリー・パーカーの、風が吹き抜けるような名演で知られている。寺井が、宮本在浩(b)+菅一平(ds)のリズムチームの為に書き下ろしたアレンジで、今後、The Mainstemのおハコになるでしょう!

 
  1-4,5,2-1,2はこのアルバムに!
『Sugar Roy』/ロイ・ヘインズ(ds)

“リトル・ワルツ”は、モネの「睡蓮」のように光や風の「ゆらぎ」を感じさせてくれます。宮本在浩(b)のベースラインが、ピアノのサウンドに絡まる様子が素晴らしかった!
ラストのモンク・チューンには、ドラムの菅一平が、強力にパワーアップしていることを改めて思い知らされました。
<2nd Set>
 湿気で鍵盤が重い故、ことさらタッチを研ぎ澄ませているせいか、湿気を含んだせいなのか、ピアノは熟した果実のような芳香を放ちます。夕涼みにぴったりのサマー・セレナーデをプロローグに、ジャズ講座で聴いたロン・カーター(b)が印象的だったファースト・トリップで、宮本在浩さんの茶目っ気溢れる、「変則ビート」が飛び出して、講座に来られていた常連さんはニンマリ!
  
 ムーン&サンドは、アメリカ東海岸の文化の権化みたいな、ユニークで偏屈でロマンチックな作曲家、アレック・ワイルダーの名曲。寺井のプレイで長年聴いてきましたが、今までのベスト・バージョンのひとつ!この夜のハイライトだった。ワイルダーは多分、ニューイングランドの夜の海をイメージして書いたのだろうけど、今夜のThe Mainstemのバージョンはどこの海だったのだろう…私はインド洋の離島、電気のないコテージで過ごした夜を想いました。
 Mrs.ミニヴァーも、『ザ・パンサー/デクスター・ゴードン』でジャズ講座に登場した曲、ゴードンの大きなストライドの吹きっぷりそのままに、ゆったりしたテンポでスイングしてヒップだったね!
 波止場に佇みは、寺井尚之にとって、映画の主題歌ではなく、ビリー・ホリディのおハコです。「恋人の帰りを、荒涼とした波止場で待ち望む切ない曲」ただし、ホリデイの歌う恋人は「きっと帰っては来ない」けど、寺井尚之の解釈には「希望」の光が点る。えっ?イントロのメロディがどっかで聴いた事あるけど思い出せないって? だからね、「男はつらいよ」のテーマ・ソングだったんです。こういうところが寺井イズム! 
 
 そして、ラストはオールド・デヴィル・ムーン ラテンと4ビートのギアチェンジで、ハッピーエンドに楽しく仕上げました。
 
<3rd Set>
  
 レパートリーの視点から一番惹かれたのはラスト・セット。コルトレーンの2作は、トレーンの作曲家としての偉大さを教えてくれます!ジミー・ヒースがトレーンに捧げたトレーン・コネクションズも、ライブでは滅多に聴けない名作で、聴けて良かった!
 寺井が初めてジャズを聴いたのは、予備校時代、涼みに入った真夏のジャズ喫茶での「至上の愛」だった。ジョン・コルトレーンの命日は7月。トレーンの曲は手強いけれど、バッパーが演ると、冴え冴えして色気が出るという見本だった。
 コルトレーンの世界から、いとも自然に7月の曲、スター・クロスト・ラヴァーズへ!この辺りの組み合わせが『メインステム流』!ロマンティックだけどベタベタしない、最高の七夕のバラード!
 ラストはエリントニアの極めつけ黒と茶の幻想!河原達人さんの数々の名演を見ながら覚えた菅一平のマレットさばきに目を奪わた。
 アンコールのキャラバンは、弾丸スピードのスインガー、F1スポーツカーで飛ばしながら、シフト・チェンジするのは、こんな快感なのだろうか?グルーブが変化しながら快感も加速!
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 次回のThe Mainstemは、今週の金曜日です。曲のウンチクを知らなくたって、初めてジャズを聴く人だって、フィンガー・スナップ・クラックル、きっと楽しいワンダーランド! The Mainstemにお越しやす! 
CU

寺井尚之の旅立ち:初演

 6月28日(土)、寺井尚之の新ユニット、<The Mainstem>が初めてのライブを開催しました。
看板
 ベース:宮本在浩(みやもと ざいこう)、ドラム:菅一平(すが いっぺい):ここ何年も、寺井と腕を磨いてきましたが、この日は特別な夜。唄の文句じゃないけれど、First-Nightingには心踊る魔法があります。二人とも口には出さないけど、今日の為に多くの時間と稽古を費やしたことは、音を聴けばすぐにわかった。
 

今夜の曲目:

1. Bitty Ditty (Thad Jones)
2. Out of the Past (Benny Golson)
3. A.T. (Frank Foster)
4. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
5. Minor Mishap (Tommy Flanagan)

1. Almost Like Being in Love( Frederick Loewe, Alan Jay Lerner)
2. I Can’t Give You Anything But Love (Jimmy McHugh,Dorothy Fields)
3. I Never Knew (Gus Kahn,Ted Fiorito)
4. If I Had You (Ted Shapiro/ Jimmy Cambell/ Reginald Connelly)
5. It’s All Right with Me (Cole Porter)

1. Let’s (Thad Jones)
2. A Blue Time (Tadd Dameron)
3. Mean What You Say (Thad Jones)
4. I Want to Talk About You (Billy Eckstein)
5. Raincheck (Billy Strayhorn)
アンコール: Cherokee (Ray Noble)

 First-Nightingは、じめじめした日本の梅雨だった。こういう日は鍵盤が重く、太鼓のチューニングは下がり、ベースも鳴りが悪くなりますが、新ユニットは雨も湿気もなんのその!プレイヤーの気迫と楽しさが伝わってきて、片隅で聴く私の心も日本晴れ!
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 <The Mainstem>の初セレクションはデトロイト・ハード・バップ!サド・ジョーンズで始まりビリー・ストレイホーンに終わるという、逃げのない王道を突き進みました。
 オープニングの“ビッティ・ディッティ”に入る前のイントロで、寺井が聴かせたのは、朗々としたガーシュイン・ナンバー“フロム・ディス・モーモント・オン”、どうやら即興で入れたらしい。つまり、「このときから、わしはメンステムで演って行く!」というアナウンスの替わりだったんですね!
 演奏に溢れる季節の趣、“Out of the Past”のルバートで、さりげなく聴こえて来た“Here’s That Rainy Day”は「やっぱり雨になってしもたなあ…」という、ピアニストの洒落たモノローグだったのかな?
寺井尚之
 寺井初演の曲<A.T.>は初演? A.T.とは勿論アーサー・テイラー(ds)のこと!ケニー・バレル(g)のアルバム、『All Day Long』の収録曲でフランク・フォスター(ts)のオリジナルです。今夜の為に、寺井が譜面を新しく書き直していました。憧れの巨匠のフィーチュア・ナンバーをプレゼントされた菅一平(ds)は、水を得た魚のように、活きのいいドラムソロを聴かせ、大喝采を浴びました。河原達人さんのMean Streetsのように、これから、この曲が彼のおハコになるのだろうか?
菅一平     宮本在浩
 ジャズ講座でフラナガンのアルバム解説をするうちに、自然にレパートリーに取り込んでしまった名曲も登場!
 エラ・フィッツジェラルドが歌った-2や5は、最近の私的ヒット曲!コール・ポーターの“It’s All Right…”のイントロとして、『モントルー’75』や『カーネギー・ホール』でエラが歌った“ビッグ・ノイズ・フロム・ウィネトカ”がピアノソロに挿入されていてニンマリ! -3,4のスタンダードは、モントルーのJATPオールスターズで、クラーク・テリー(flg,tp)やトミーのソロが印象に残るけど、解説をするだけじゃなくて、自分のプレイの栄養にしているのはさすがです。宮本在浩(b)もそんな寺井に応えて予習十分、良いラインを作って、ハーモニーがヒットします。
 
 ラストセットは、大胆にもサド・ジョーンズの極めつけ、“Let’s” から始まった。あの悪魔的なテーマが一糸乱れぬユニゾンで決まると、在浩、一平の顔に快心の笑みが浮かび、片隅から聴く私の心に爽やかな風が吹きました!えっ?寺井の顔はどうだったかって?隅から聴いていたから、顔は見えないけど、きっと表情は変わってないと思います… とにかくトリオはどんどんスイングして、色んな色合いを見せてくれた。!
 
 6月の名歌は、ビリー・エクスタインのバラード、I Want to Talk About You、この唄が何故6月の唄かというと、爽やかな初夏の夜、好きな人と月明かりに照らされる公園を、散歩しながら、こんな文句で愛を告白する唄なんです。
『6月の夜が素敵だとか、
月光に照らされる神秘的な小道、
そんな話はもうやめて。
僕は君の事が話したいんだ。…』

 そして、プログラムの最後は日本の梅雨のじめじめを払拭してくれる、ビリー・ストレイホーンのRaincheck! Rain Checkというのは、元々野球のゲームが雨で流れた時に配る振替券、『雨切符』のことなんです。ストレイホーンがカリフォルニアで作った曲を言われ、雨の曲なのに、どこまでも明るく軽快なスインガーで締めくくりました。
 アンコールは、想定外の“チェロキー”で客席の度肝を抜きました!ノロシの上がるのを見たインディアン達が雄叫びを上げながら攻めてくる。雄叫びが近づいたり、峠の向こうに遠ざかったり…ダイナミクス溢れるトリオのコンビネーションで、聴く者の心をわし掴みにしたまま、ライブが終わりました。
<The Mainstem>…初の船出は雨だったけど、明るい船出だった!次回は7月19日(土)、CU

FlanaganiaからMainstemへ:寺井尚之の旅立ち

 Jazz Club OverSeasの看板として、15年間の長きに渡り、皆様にご愛顧頂いたフラナガニアトリオが、先日5月30日のライブを区切りに活動休止となりました。最後の演奏曲は奇しくも“Caravan”、長い旅路への乾杯の歌か…粋だね!
kawahara-1.JPG    flanagania-final-4.JPG 横浜フラナガン愛好会から贈られたワインで乾杯!
 このトリオのレギュラー・ドラマーとして絶大な人気を誇った河原達人(ds)さんと寺井尚之の共演歴は33年だから半端ではない。レギュラーとしての活動期間はバリー・ハリス(p)とリロイ・ウィリアムス(ds)もかなわないだろう。
mc-terai.JPG    kawahara-4.JPG  KD-kawahara-1.JPG  KD-kawahara-2.JPG
右側の2枚は、埼玉から駆けつけてくださったKD氏から送って頂いたショットです!ありがとうございました!!

  税理士として多くのクライアントを抱え、山のようなアポイントとデスクワークをこなす傍ら、15年間、毎回、曲目を総入れ替えするフラナガニアのライブに付き合い、年2回のトリビュート・コンサートをこなすのは、並大抵のことではなかったはずです。
 以前は、月2回ペースで行っていたフラナガニアも、ここ半年は月一回のみのお楽しみ。リハーサルすらままならなくなっていました。それでも、あれだけの演奏レベルを保つことが出来たのは、「二人が過ごした歳月」のおかげだったのだろう。
 最後の舞台挨拶:「50歳になってドラムを叩くのは大変なことです。皆さんも50になったら判るでしょう。」は、同い年として深く受け止めました。
 河原達人:スタンダードの歌詞の「美の壺」を、音楽的にも文学的にも正しく理解した稀有なドラマー、寺井尚之のフレーズを先読み出来た理解者。巧みなタムの使い方や、音量のコントロール、「可愛い」という日本語の最良の意味での装飾音の数々に、他のドラマーは驚愕した。テクニックをひけらかす「目立ちたがり屋」でなく、アニタ・オデイ(vo)の最良のパートナー、ジョン・プール(ds)のように、聴く者の心をそっと静かに揺さぶり、コンサートが終わっても、温かく爽やかな余韻が尾を引くプレイだった。
kawahara-2.JPGフラナガン愛好会からワインと共に贈られたユニフォームに手を通す河原達人氏 
 私にとって河原達人は、一緒にお酒を飲んで一番楽しくおもろい人!ガサツではなく繊細な、真の意味での関西人!「教養」というものが、「知ってても知らんでも、実生活に全くカンケーのない素敵なもの」であるならば、河原達人ほど教養のある人を私は知りません。もしも突然に、和田誠と三谷幸喜から「飲みに行こう」と誘われたって、迷わず私は河原達人と飲みに行く!自分の美点を、決してひけらかしたり、威張ったりしないところは、彼のドラミングと同じだ。河原さんが、人知れず、「こいつ嫌いや」と思う人はいるかも知れないけど、河原さんのことを「嫌い」な人なんてこの世にいないはずだ。
young_tatsuto_kawahara.JPG遊びに来たトミー・フラナガンと一緒にセッションした後に。(’93)
 良き父であり夫であり、税理士の先生でありながら、音楽しか頭にない独立独歩の無頼派ピアニストで天衣無縫の変わり者、寺井尚之と、よくぞこれまで付き合っていただいたと拝みたい。これからは、気の向いたときに、OverSeasで気楽なセッションを続けながら、菅一平さん(ds)たち後輩の教科書役、お目付け役でいてほしい!
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 
 今月からは、新ユニット、“The Mainstem”(メインステム)で、スマートで集中力に溢れる斬新な演奏をお聴かせします。
 ベースは、このところ逞しさが付き、大化けしてきた宮本在浩(b)と、折り目正しい性格が、そのままビートに反映する菅一平(ds)
 ”The New Trio” で、ビバップのビッグバンド時代の大ネタ、“ラ・ロンド・スイーツ”(別名 Two Bass Hit)や“マンテカ”、ファッツ・ウォーラーの古典をビバップで疾走する“ジターバグ・ワルツ”など、大胆にスイングするピアノ・トリオの斬新さは、すでに新局面を予感させ、新しいお客さまのハートを掴んでいる。
 “メインステム”という名前は、ジャズの深いリズムとハーモニーを、大河の潮流や、大木の逞しい幹に例えたデューク・エリントンの曲に因んだものです。
 “The Mainstem”、今日、56歳になった寺井尚之のデトロイト・バップ大行進はどんどん続く!
 
 寺井の口癖は、「季節の懐石」のようなプレイ。だけど、どこぞの老舗のように使いまわしはしないよ! だいたい、お客様に食べ残しされるものなんて、絶対に作らない所存。「ご立派なお献立でございました」なんて言われるのはイヤだ!
 「あー、おいしかった!明日も元気モリモリや。」と言っていただけるものをお聴かせします!
 記念すべき初演は6月28日(土)7pm- 勿論Jazz Club OverSeasにて!
 
CU

トリビュート曲目説明できました!

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 先日のトリビュート・コンサートは、凄く沢山のお客様が来て下さって、サービスが行き届かず、失礼しました。開演後に、玄関口で佇む人がいるのを、テーブル席のお客様に教えていただいたり、いつもながらとはいえ、ほんとにすみません!
 そんなわけで、終わってみたら、バタバタと駆け回って、ほとんど写真を撮れなかったことに気づきました…。
 トリビュートが終わった翌日からは、歌詞や、講座の本のための翻訳の仕事が山のように溜まっていましたが、さきほどどうにか、トリビュートの曲目説明をHPにUPしました。
 「曲目説明」は、いつも頭の痛いことです。よくジャズのレコードのライナーを読むと、「○○は、コール・ポーターの作曲、19××年に、ブロードウエイのミュージカル○○の中の歌われたラブソングだ。」とかなんとか、書いてありますが、スタンダードナンバーは、ほとんどがラブソングだし、「それでどないやねん?」と思ってしまうことがある。
 何か、演奏者がその曲を選んだ必然性というか、聴き所のようなものを書きたいのですが、文章にするのはムズカシイ…
 とにかく、今回も軽めの脳みそを絞って一生懸命作りました。
 とはいえ、結局、つまるところは『百文は一聴にしかず』であります。トリビュートの演奏曲をトミー・フラナガンで聴けるアルバムは紹介しておきました。
 また、当夜の演奏を聴きたい方はCDRがありますので、Jazz Club OverSeasにお問い合わせください。
 寺井尚之(p)、宮本在浩(b)、河原達人(ds)のフラナガニアトリオの皆さん、私に曲説を書く力をお与えくださってありがとうございました。
 CU
 
 
 

トリビュート・コンサート速報

昨日は、ありがとうございました!!日本の色んな場所から、沢山お客様が駆けつけてくださって、12回目のトリビュート・コンサートを開催することが出来ました!
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<1st><2nd>
1. Oblivion (Bud Powell)

 ~Bouncing with Bud (Bud Powell)

 オブリヴィオン~ビッティ・デッティ
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)

 ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ
2. Out of the Past  (Benny Golson)

 アウト・オブ・ザ・パスト

2. They Say It’s Spring (Marty Clark/Bob Haymes)

 スムーズ・アズ・ザ・ウィンド
3. Minor Mishap (Tommy Flanagan)

  マイナー・ミスハップ
3. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)

 ビヨンド・ザ・ブルーバード
4. Embraceable You(Ira& George Gershwin)

  ~Quasimodo(Charlie Parker)

 エンブレイサブル・ユー~カジモド
4. Thelonica(Tommy Flanagan)

 ~Mean Streets (Tommy Flanagan)

 セロニカ~ミーン・ストリーツ

 
5. Lament (J.J. Johnson)

  ラメント
5. Good Morning Heartache (Irene Higginbotham)

 グッドモーニング・ハートエイク
6. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)

 レイチェルのロンド
6. Our Delight (Tadd Dameron)

  アワ・デライト
7. I’ll Keep Loving You (Bud Powell)

 アイル・キープ・ラヴィング・ユー
7.Dalarna (Tommy Flanagan)

  ダラーナ
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie)

 ティン・ティン・デオ
8.Eclypso (Tommy Flanagan)

  エクリプソ
<Encore:>
With Malice Towards None (Tom McIntosh)

 ウィズ・マリス・トワード・ノン



Ellingtonia: エリントニア

 Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)

  ~Passion Flower (Billy Strayhorn)

  ~Black & Tan Fantasy (Duke Ellington)

メドレー:

チェルシーの橋~パッション・フラワー~黒と茶の幻想

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 大人たちに混じって、ベイビーだった頃から、ご家族で埼玉からずっと来てくれている可愛いお嬢ちゃんも、小学校高学年になって、一際プレイを楽しんでくれました。なんとお行儀の良いお嬢ちゃんでしょう!演奏を聴くキラキラした瞳、食事のマナーの良さ…私の今までの悪辣な行儀を反省しつつ、も今後見習います。ダイアナにその話をしたら、「まあ、なんて素敵なんでしょう!!将来はミュージシャンかしら…」なーんて喜んでいました。
 フラナガニアトリオの演奏は骨太で、軽やかだったり、重厚だったり、トリビュートならではのサウンドに、レジの前では「感動しました!」と、嬉しい笑顔が見れて、元気を沢山いただき、ありがとうございました。
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ミーティング中のフラナガニアトリオ、宮本在浩(b),河原達人(ds),寺井尚之(p)
 ご来店くださったお客様、激励メッセージを下さった皆様、ほんまにおおきに!ありがとうございます!
これからも、身を引き締めて努力します。
 曲目説明はHPに近日UP!
CU

トリビュート・フィンガーズ

  ’75京都にて、トミー・フラナガン&寺井尚之 

 「白魚のようなピアニストの指…」というのは真っ赤な嘘です。
 明日のトリビュートに向けて、稽古を重ねた寺井尚之の指先は、子供の頃のおやつだった『爆弾あられ』のようにツヤツヤで弾けています。
fingers.JPG 寺井尚之の指先 
 ピアノの方は、川端名調律師が、優しく厳しいチューンナップを5時間ほど施して下さったら、明るい春の音色になって、明日の本番を待ちかねている様子。
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 当夜の演奏はフラナガニアトリオ
ドラムスは、トミー・フラナガン3を何度も生で見て、アーサー・テイラー、ケニー・ワシントン、ルイス・ナッシュたち代々のドラマーのサポートぶりや、演奏曲の隅々まで知っている長年のパートナー、河原達人、ベースは、伸び盛りベーシスト、宮本在浩。スイングしていて意味のあるプレイをしてくれます!
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 トミー・フラナガンを想う沢山のお客様に、「思い出の種」を沢山蒔いて欲しい。
 トミーは子供のときに、植物の世話がうまくて、「良く育つ」緑の指を持った子だと言われたそうです。明日は弾けた指で、トミー・フラナガンの音楽の芽をどんどん育てて欲しいです!
 明日のコンサートが楽しいイベントになるように、私も、スタッフ達もOverSeasの片隅で精一杯働きます。
 開場6pm-、開演は7pm-
 CU
 
 
 
 

トリビュート・コンサートの前にスプリング・ソングスの話をしよう。(2) They Say It’s Spring

 先週お話したビターなスプリング・ソングと違い、<They Say It’s Spring>はパステルカラーの春の歌、ブロッサム・ディアリーという歌手のおハコでした。
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 フラナガンによれば、名盤<Ballads & Blues>を録音した’78当時には、NYのクラブで彼女が歌うのをよく聴いていたらしい。

 ディアリーの歌はこんな感じです。 
 もし英語がよく判らなくても、歌詞に頻繁に出てくる、”L”とか”M”とか”F”の可愛い響きを、ディアリーはとってもうまく表現して、恋する女の可愛らしさに仕立てているのがわかりますよね。英語の歌詞はこちらにありました。

They Say It’s Spring
Marty Clark/Bob Haymes

<ヴァース>
夢見る少女だった頃、
ありそうもない伝説やおとぎ話、
私は想像の世界で暮らしてた。
正直言えば、
大人になった今でも、
現代人が声高に叫ぶ皮肉っぽい意見には、
どうも疑問を感じるの…
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<コーラス>
春だってね、
だから、羽のように
浮き浮きするんだって。
春だってね、
私たちがかかった魔法も
この季節はよくあることなんだって。

五月のせいなんだって、
ヒナゲシみたいに
チリチリ熱く燃えるのは。
五月はね、
世の中をクレイジーにして、
ぼんやりさせるんだって、

今の私は、
空を舞うヒバリや、
チカチカ光って踊る蛍みたいな気分、
だけど、私には、
この気持ちが、
単なる季節の産物とは
決して思えない。

春のせいだってね、
ウエディングベルが聞こえるのは。
そりゃ、今は春でしょうよ、
だけど、コマドリがさえずりを止め
この季節が終わっても、
私はずっとあなたと一緒。
皆は春のせいだって言うけど、
本当は、愛するあなたのおかげなの。…

 どうですか?春らしい可愛い歌詞でしょう!

bobby_jaspar1.jpg トミー・フラナガンが演奏するときには、必ず「ボブ・ヘイムズの曲…ゼイ・セイ・イッツ・スプリングを」>とアナウンスして演奏していました。
 ところで、若い皆さん、ブロッサム・ディアリーって知ってます?
  白人女性ジャズヴォーカルの一人ですが、Interludeを読んで下さっている方には、J.J.ジョンソン5のテナーサックス、フルート奏者、ボビー・ジャスパーの奥さんと言った方が判りやすいかも知れません。旧友の未亡人だから、フラナガンもディアリーの歌を良く聴きに行っていたのかも知れない。
   好き嫌いは別として、一度聴いたら忘れられない声をしてますよね。だから今でもカルト的な人気があるシンガーなんだそうです。

’70年代のNYの香りがプンプンする、ウッディ・アレンの恋愛コメディ『アニー・ホール』という映画を見たことがありますか?

  

  お笑い芸人と歌手、どちらも余り売れてない二人の、私小説的なラブ・ストーリーなんですが、ヒロインの歌手、アニーの歌を、もっと可愛く、うまく、洗練させたら、ブロッサム・ディアリーになるように思いました。アニー・ホールを演じるダイアン・キートン(実はキートンの本名がアニー・ホールなんだけど…)もディアリーがよく出演していたNYのキャバレー、『レノ・スウィーニーズ』に歌手として出演していました。
 

  ディアリーは、歌手に留まらず、この声と演技力で、アニメの声優をしたり、CMソングでヒットを飛ばしたりしました。ジャズというよりは、むしろシャンソン的な味わい深い詞の語り方で、NYではとっても評価が高いシンガーなんです。
 とはいえ、彼女の歌うThey Say It’s Springは、アメリカのケーキみたいにお砂糖を固めたアイシングがべったり付いた感じで、私にはちょっと甘すぎる。一方、フラナガンのプレイには、彼女の歌に滲み出る無邪気さや可愛さはそのままに、甘さを抑え、曲と歌唱解釈のエッセンスだけが抽出されているように感じるのです。「素材の持つ一番良いところを見抜き、最大限に引き出す。」のがトミー・フラナガン流なのだ!(エヘン)

   先週からお話してきたスプリング・ソングス、フラナガンが、その年に演奏した春の歌は、もっと色々あっただろうけど、これらの曲を聴くと、フラナガンと過ごしたNYの春の香りが甦ります。

   心臓に爆弾を抱えたトミーは、「後何回、自分は春を迎えられるだろうか…」と思いながら渾身のプレイを、毎年披露したのだろうか…

 追憶に浸る私とは違い、寺井尚之は、あの春にフラナガンから盗んだものを、20年近く熟成発酵させ、自分自身のものにしている。そして、毎年、春になると上の曲に加えて、<How High the Moon>とか<All the Things You Are>など、寺井的な色々なスプリング・ソングを聴かせてくれます。だって、春に2週間しかライブをしないトミーと違って、寺井尚之は春夏秋冬毎週4日演奏しなければならないんですから、色んな春のレパートリーが出来ました。

 土曜日はトリビュート・コンサート!フラナガンの雄姿を心に思い浮かべながら、「春」を満喫しよう!

 CU

トリビュート・コンサート曲説出来上がりました。

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 トリビュート・コンサート、色々ありがとうございました。
 勤労感謝の日、お休み中に、やっと曲説が出来ました。http://jazzclub-overseas.com/tribute_tommy_flanagan/tunes2007nov.html
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 トミー・フラナガンの生演奏をご存じないお客様や、若いお客様も、沢山来てくださったし、寺井尚之は、“吉本よりおもろい文化漫談”と言われる「ジャズ講座」とは違い、演奏の際は殆どしゃべらないので、やはりどんな曲なのか知りたい方には、説明が必要かと思います。
 フラナガンの生の演目は、レコードと趣を異にするメドレー演奏も多かったし、トリビュートで演奏された演目もレコーディングが遺されていないものが多いのです。
 同時に、トミー・フラナガンという人は、常に進化するジャズ・ミュージシャンでしたから、一旦レコーディングした曲も、その後ライブで演奏をするうちに、どんどんヴァージョンアップしていきました。その頂点にあったアレンジがトリビュートの演奏では披露されていました。
 
 トリビュートのCDをご希望の方はOverSeasまで、お申し込みください。
 CU!