2025 寺井珠重の対訳ノート「I Thought About You」

The New Yorker magazineより

 OverSeasで毎月第4金曜日に出演 していただいている名クラリネット奏者、滝川雅弘さんは、演奏曲の解説をしてからプレイするステージングに定評があります。

 一方、共演ピアニストの寺井尚之は、歌詞が聴こえてくるピアノ・プレイと言われ、師匠トミー・フラナガン同様、歌詞に強いこだわりを持っているので、滝川さんのトークにアドリブで突っ込みを入れるものですから、ライヴが一層盛り上がります。
 そんな滝川さんがよく聴かせてくれるのが、この〈I Thought About You〉です。
 ご存じない方は、スタンダードの教科書として、多くのプレイヤーが参考にするエラ・フィッツジェラルドのヴァージョンを聴いてみて❣

 〈I Thought About You〉は、昔々1939年のヒット曲、作曲 Jimmy Van Heusen(ジミー・ヴァン・ヒューゼン)、作詞はJohnny Mercer(ジョニー・マーサー)です。南部ジョージア州サヴァナの名家に生まれたマーサーは、同時代の大部分のソングライターたちの大都会的なスノビズムとは一線を画した作風で、私が大好きな作詞家です。だから、久しぶりに対訳ノートを書いてみました。

  〈I Thought About You〉は、Johnny Burke(ジョニー・バーク)とのコンビでヒットを量産した作曲家Jimmy Van Heusenとコラボであること、そして、後付けの名作詞家と呼ばれたマーサーが、先に詞を書いて、後から曲が付いたという点でも、マーサーにしては、少し異色の作品だ。
 一方、自分の創作スタイルを「聴く人がまだ見ぬ場所を体験できるよう、歌詞を使って絵画を描いてみせる。」としたマーサーの作風が最も色濃く出た名歌のようにも思えます。

 諸説あるものの、この歌詞が生まれたのは夜行列車の中だったのは確かのようです。特急の車窓から目に入る光景は、夜空の下、次々と現れては通り過ぎる小さな町、駐車した車、暗がりの中の蛍といった、当時にしては何の変哲もないアメリカの風景に、マーサーは別離の心象風景を重合わせ、85年余り経った現在の私たちにも、深い情感をもたらしてくれます。
 滝川雅弘さんのクラリネットは、夜汽車に負けない朗々とした音色で、今年も色々な歌曲が楽しめそうです。

Refrain

I took a trip on a train
And I thought about you:
I passed a shadowy lane
And I thought about you.

Two or three cars
Parked under the stars,
Winding stream,
Moon shining down
On some little town,
And with each beam,
The same old dream:

At ev’ry stop that we made,
Oh, I thought about you!
And when I pulled down the shade,
Then I really felt blue;

I peeped through the crack
And looked at the track,
Oh, I’m going back to you,
And what did I do?
I thought about you.

リフレイン

汽車で旅に出た、
でも、あなたが心から離れない。
ほの暗い心の旅路に、
あなたを想った。

車が2、3台、
星空の下に停まってる、
人生みたいに曲がりくねった小川、
月光が照らす
小さな町。
それぞれの光が照らす、
ありふれた夢。

駅に停車するたび、
あなたを想った!
耐えきれずブラインドを下ろすと、
何とも言えないみじめな気分。

たまらなくなって、隙間から、
線路を覗き見ると、
あなたを方へ逆戻り。
私が何をしたっていうの?
想うあなたのことばかり。

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