OverSeasで毎月第4金曜日に出演 していただいている名クラリネット奏者、滝川雅弘さんは、演奏曲の解説をしてからプレイするステージングに定評があります。
一方、共演ピアニストの寺井尚之は、歌詞が聴こえてくるピアノ・プレイと言われ、師匠トミー・フラナガン同様、歌詞に強いこだわりを持っているので、滝川さんのトークにアドリブで突っ込みを入れるものですから、ライヴが一層盛り上がります。
そんな滝川さんがよく聴かせてくれるのが、この〈I Thought About You〉です。
ご存じない方は、スタンダードの教科書として、多くのプレイヤーが参考にするエラ・フィッツジェラルドのヴァージョンを聴いてみて❣
〈I Thought About You〉は、昔々1939年のヒット曲、作曲 Jimmy Van Heusen(ジミー・ヴァン・ヒューゼン)、作詞はJohnny Mercer(ジョニー・マーサー)です。南部ジョージア州サヴァナの名家に生まれたマーサーは、同時代の大部分のソングライターたちの大都会的なスノビズムとは一線を画した作風で、私が大好きな作詞家です。だから、久しぶりに対訳ノートを書いてみました。
=夜の車窓から=
〈I Thought About You〉は、Johnny Burke(ジョニー・バーク)とのコンビでヒットを量産した作曲家Jimmy Van Heusenとコラボであること、そして、後付けの名作詞家と呼ばれたマーサーが、先に詞を書いて、後から曲が付いたという点でも、マーサーにしては、少し異色の作品だ。
一方、自分の創作スタイルを「聴く人がまだ見ぬ場所を体験できるよう、歌詞を使って絵画を描いてみせる。」としたマーサーの作風が最も色濃く出た名歌のようにも思えます。
諸説あるものの、この歌詞が生まれたのは夜行列車の中だったのは確かのようです。特急の車窓から目に入る光景は、夜空の下、次々と現れては通り過ぎる小さな町、駐車した車、暗がりの中の蛍といった、当時にしては何の変哲もないアメリカの風景に、マーサーは別離の心象風景を重合わせ、85年余り経った現在の私たちにも、深い情感をもたらしてくれます。
滝川雅弘さんのクラリネットは、夜汽車に負けない朗々とした音色で、今年も色々な歌曲が楽しめそうです。
=I Thought About You=
Music by Jimmy Van Heusen,
Lyrics by Johnny Mercer
Verse
Seems that I read
What somebody said.
That out of sight is out of mind.
Maybe that’s so,
But I try to go
And leave you behind,
What did I find?
Refrain
I took a trip on a train
And I thought about you:
I passed a shadowy lane
And I thought about you.
Two or three cars
Parked under the stars,
Winding stream,
Moon shining down
On some little town,
And with each beam,
The same old dream:
At ev’ry stop that we made,
Oh, I thought about you!
And when I pulled down the shade,
Then I really felt blue;
I peeped through the crack
And looked at the track,
Oh, I’m going back to you,
And what did I do?
I thought about you.
ヴァース
いつかどこかで読んだっけ、
誰かの言葉、
「去る者、日々に疎し。」
そうかもしれない。
私もなんとか、
あなたの元から去ろうとしている
でも気がつけば…
リフレイン
汽車で旅に出た、
でも、あなたが心から離れない。
ほの暗い心の旅路に、
あなたを想った。
車が2、3台、
星空の下に停まってる、
人生みたいに曲がりくねった小川、
月光が照らす
小さな町。
それぞれの光が照らす、
ありふれた夢。
駅に停車するたび、
あなたを想った!
耐えきれずブラインドを下ろすと、
何とも言えないみじめな気分。
たまらなくなって、隙間から、
線路を覗き見ると、
あなたを方へ逆戻り。
私が何をしたっていうの?
想うあなたのことばかり。