第48回トミー・フラナガン・トリビュート・コンサート:CDと動画ができました。

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 先日開催した第48回Tribute to Timmy Flanaganコンサート、3枚組CDと動画(限定公開)ができました。
 演奏:寺井尚之-piano、宮本在浩-bass
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第48回トミー・フラナガン・トリビュート曲目解説

演奏:寺井尚之‐piano、宮本在浩-bass

=1st Set=

Benny Carter (左)& Tommy Flanagan

1. When Lights Are Low (Benny Carter)
  ホエン・ライツ・ア・ロウ
:第一線で80年以上活躍し、その音楽性と人格から“ザ・キング”と呼ばれたベニー・カーター(as.tp.comp.arr)の作品。デトロイトを本拠に活躍したカーター(1907-2003)は幼いフラナガンのヒーローだった。
 ’80年代、カーネギー・ホールで催されたカーターのスペシャル・コンサートで共演を請われ、意気に感じたフラナガンはこの曲を愛奏、今夜のように〈ボタンとリボン〉を引用して楽しさを盛り上げる趣向だった。

Beyond the bluebird

2. Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
ビヨンド・ザ・ブルーバード
:《ブルーバード》 は、デトロイトの黒人居住区にあった伝説のジャズ・クラブ、フラナガンは1953~54年、ここでサド・ジョーンズ(cor.tp)たちとハウスバンドを組み、ソニー・スティットやマイルスなど、一流ゲスト・プレイヤーと白熱のライヴを繰り広げた。《ブルーバード》の客層は、自動車産業に従事する黒人労働者で、ジャズを愛し、若手ミュージシャンを応援するアット・ホームな店だったと語ってくれたことがある。
 親しみやすいメロディながら転調が多い難曲であることと、”返し”と呼ばれる左手のカウンター・メロディは、デトロイト・バップの特徴。寺井はアルバム(写真)のリリース前、フラナガンから譜面を授かり演奏を許された。

3. Smooth as the Wind (Tadd Dameron)
 スムーズ・アズ・ザ・ウィンド
:フラナガンが愛奏した作曲家、タッド・ダメロン(ピアニスト、作編曲家)の作品。力強く優美な「美バップ」の黄金比率を持ち、次々と美しい花が開花していくようなハーモニーの華麗さに目を見張る。
 この曲は、麻薬刑務所服役中のダメロンがブルー・ミッチェル(tp)のアルバム「Smooth as the Wind」(Riverside, ’61)の為に書き下ろしたもので、アルバムにはフラナガンも参加している。
 一編の詩のような曲の展開、吹き去る風のように余韻を残すエンディングまで、完成度の高いアレンジを寺井が伝え続けている。

4. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
 サンセット・アンド・ザ・モッキンバード:≪ヴィレッジ・ヴァンガード≫で行われたフラナガン67才のバースデイ・コンサートのライヴ・アルバム(Blue Note, 1997年)のタイトル曲。もとはエリントンが自費で1枚だけプレスし、エリザベス女王に献上した『女王組曲』中の作品で、1970年代にNYのラジオ番組のテーマソングとして放送されるのを聴き覚え、レパートリーにしたという。 寺井にとっても宮本にとっても会心の演奏になった。

5. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
マイナー・ミスハップ
:人気盤『The Cats』(Prestige, 1957)で初演されたフラナガンのオリジナル。他のメンバーにとっては初見の難曲、しかもワンテイク録りだった。その演奏内容のせいでMinor Mishap(ささやかなアクシデント)という曲名がついたのかもしれない。以来フラナガンは、初演をリヴェンジするかのように愛奏を続け、デトロイト・ハードバップの芳香を発散させた。寺井尚之の名演目でもある。

スウェーデンのJ.J.ジョンソン5

6. Dalarna (Tommy Flanagan)
 ダーラナ:陰影のある美しいバラード。ダーラナ地方は、森と湖が美しいスウェーデンのリゾート地。J.J.ジョンソン・クインテットの一員としてスウエーデン各地をツアーした際に録音した『Overseas』(Metronome, 1957年)の収録曲。当時フラナガンが心酔した印象派音楽とビリー・ストレイホーンの影響とともに、厳しい転調を繰り返しながら洗練の美を生み出すフラナガン独特の作風が光る。
 録音後は長らく演奏することがなかったものの、寺井尚之の同名CDに触発され寺井のアレンジで『Sea Changes』 (Alfa, 1996年)に再録。録音直後、フラナガンは寺井に「ダーラナを録音したぞ!」と電話をしてきた。その弾んだ声は、寺井の胸に今も響く。

chano pozo, Gillespie
Chano Pozo & Dizzy Gillespie

8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)
ティン・ティン・デオ:キューバ人コンガ奏者、チャノ・ポゾが口ずさむメロディとリズムを基に作られディジー・ガレスピー楽団がヒットさせたアフロ・キューバン・ジャズの代表曲。
 ビッグバンドのマテリアルを、コンパクトなピアノ・トリオ編成で表現するのがフラナガン音楽のもうひとつの特徴で、哀愁に満ちたキューバ音楽と、ビバップのイディオムを見事に融合させたアレンジが素晴らしい。

=2nd Set=

Matt Dennis

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ
: 作曲者マット・デニスは粋な弾き語りの名手で、TV時代になると “マット・デニス・ショウ”で人気を博した。作曲では、フランク・シナトラに、数多くのヒットソングを提供、その斬新なメロディとハーモニーは、ジャズメンにも好まれた。-「恋という名の、うんざりするようなお決まりパターン、なのに君のような人に出会うと、またまた…」というユーモラスな歌詞に沿うメロディは親しみやすいが、実は転調が果てしなく続く難曲だ。フラナガンはJ.J.ジョンソン・クインテット時代に初録音(『First Place』 Columbia, 1957)、その後、自身のリーダー作『Jazz Poet』 (Timeless, 1989)に収録し、録音後もライヴで演奏するにつれ、アレンジがアップグレードしていった。その進化型を受け継ぐのは寺井だけだ。

Bobby Jaspar & Blossom Dearie

2. They Say It’s Spring (Bob Haymes)
 ゼイ・セイ・イッツ・スプリング:
フラナガンが、NYに春が来るとライヴで “スプリング・ソング”と呼んで愛奏した曲の一つ。これは浮き浮きする春の歌。もともとJ.J.ジョンソン時代のバンド仲間、ボビー・ジャスパーの妻だったブロッサム・ディアリーのヒット曲で、フラナガンは彼女のライヴで聴き覚えたという。

Diahann Caroll

3. A Sleepin’ Bee (Harold Arlen)
スリーピン・ビー:
これも楽しいスプリング・ソング、カリブを舞台にしたファンタジックなミュージカル“A House of Flowers” (トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽)の挿入歌。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というヴードゥー教の言い伝えを元にしたラヴソングだ。フラナガンは「ダイアン・キャロルが主演したミュージカルの曲」と紹介をしていたから、きっとキャロルのファンだったのだろう。フラナガン・ヴァージョンを、さらに切り詰めすっきりさせた寺井のアレンジをフラナガンは大いに褒めてくれた。

Mraz and Terai

4. Passion Flower (Billy Strayhorn)
 パッション・フラワー:作曲者ビリー・ストレイホーン自身も愛奏した作品(’44)で、フラナガン・トリオのベーシスト、ジョージ・ムラーツの十八番。今夜は、大手術を受け今月復帰した宮本在浩が、以前にもまして素晴らしい弓の妙技で会場を魅了した。パッション・フラワーの一風変わった幾何学的な形は、磔刑のキリストに例えられる。黒人でゲイだったストレイホーンは、エリントンの陰に甘んじた苦悩を、この花に例えたのかもしれない。

Eclypso

5. Eclypso (Tommy Flanagan)
エクリプソ
:フラナガンのオリジナル中、最も人気のあるカリプソ・ムードの作品。寺井はこの曲の元はバド・パウエル作曲〈So Sorry Please〉だと推測する。フラナガンの招きで長期NY滞在した最後の夜、フラナガンが《ヴィレッジ・ヴァンガード》で「ヒサユキのために」とスピーチして演奏してくれた思い出の曲。

6. Someone to Watch Over Me (George Gershwin)
サムワン・トゥー・ウォッチ・オーヴァー・ミー:トリビュート・コンサートに初登場の曲。1993年、10人のピアニストを集めたコンサート‐100 Gold Fingersでフラナガンが披露した名演が忘れられない。「私を見守ってくれる人」-今は、寺井がフラナガンの音楽を見守り続けている。

7. Our Delight (Tadd Dameron)
 アワー・デライト:ビバップの代表曲で、フラナガンはライヴのラストにトリオで愛奏したものの、レコーディングはハンク・ジョーンズやジャッキー・バイアードとのピアノ・デュオしか残っていない。現在、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井だけだ。寺井と宮本在浩のプレイは、ドラムレスであることを忘れるほどダイナミックで素晴らしい。

Encore

トム・マッキントッシュ
Tom McIntosh

1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
 ウィズ・マリス・トワード・ノン:
 当店の大スタンダード曲。「誰にも悪意を向けず」という曲名は南北戦争後のエイブラハム・リンカーンの名言、メロディは讃美歌「主イエス我を愛す」が元になっていて、まさに今の世界に必要な曲かもしれない。
 トム・マッキントッシュ(tb. comp. arr.)はこの曲の創作過程で、友人フラナガンのアドバイスをたくさん盛り込んだと語っている。マッキントッシュのみならず、多くの録音があるが、フラナガンのヴァージョンが群を抜いて感動的なのは、そのせいかもしれない。

2. Like Old Times (Thad Jones)
 ライク・オールド・タイムズ:フラナガンがアンコールでよく演奏した作品で、作曲者サド・ジョーンズは自己名義の『Motor City Scene』 (United Artist, 1959)に収録。デトロイト時代、 “ブルーバード・イン”で、夜が更けて雰囲気が最高潮になると、サド・ジョーンズたちとプレイしたナンバーだという。フラナガンは、小さなホイッスルをポケットに忍ばせ、この曲の最高のタイミングで、ピューッと一吹きして会場を湧かせた。フラナガンはそういうユーモアのある巨匠だった。寺井もトリビュートで同じ作戦を敢行。
フラナガンと一緒に生きた“昔のように”…

第48回トミー・フラナガン・トリビュート:今夜の曲目

演奏:寺井尚之(p)+宮本在浩(b)デュオ

 寺井尚之とOverSeasが心底愛するピアノの巨匠、トミー・フラナガンの名演目をたくさんのお客様と共に楽しむ最高のコンサートになりました。

 応援くださったお客様に心より感謝申し上げます。
OverSeas

=1st Set=

1. When Lights Are Low (Benny Carter)
2, Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
3. Smooth as the Wind (Tadd Dameron)
4. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
5. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
6. Dalarna (Tommy Flanagan)
7. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

=2nd Set=

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. They Say It’s Spring (Bob Haymes)
3. A Sleepin’ Bee (Harold Arlen)
4. Passion Flower (Billy Strayhorn)
5. Eclypso (Tommy Flanagan)
6. Someone to Watch Over Me (George Gershwin)
7. Our Delight (Tadd Dameron)

Encore
1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
2. Like Old Times (Thad Jones)

1/31 寺井尚之(p)+宮本在浩(b)デュオ“Special Selection”今夜の曲目

Hisayuki Terai-piano, Zaiko Miyamoto-bass

1月を締めくくるSSデュオ、このデュオならではのアレンジが施された王道プログラムとお客様が醸し出す温かい雰囲気に外の寒さを忘れる音楽のひとときになりました。
 ベーシスト、宮本在浩は治療と療養のため2月はお休みです。元気で戻って3月のトミー・フラナガン・トリビュート・コンサートで演奏してくれるのを楽しみにしています!

1st Set

1. Out of This World (Harold Arlen)
2. Slipped Again (Thad Jones)
3. Mean What You Say (Thad Jones)
4. I Love You (Sonny Stitt)
5. For Minors Only (Jimmy Heath)
6. Prisoner of Love (Russ Columbo and Clarence Gaskil)
7. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)

2nd Set

1. Almost Like Being in Love (Frederick Loewe)
2. I Can’t Give You Anything but Love (Jimmy McHugh)
3. 46th & 8th (Waymon Reed)
4. The Voice of the Saxophone (Jimmy Heath)
5. You Turn the Table on Me (Louis Alter)
6. Thinking of You (Harry Ruby)
7. Eclypso (Tommy Flanagan)
Encore: You Better Go Now (Billie Holiday song written by Irvin Graham and Bix Reichner)

第47回トミー・フラナガン・トリビュートCDできました。

第47回トミー・フラナガン追悼コンサートのCDができました。
ぜひお聴きください!
寺井尚之

*お申し込みは当店まで。

演奏:寺井尚之(p)+宮本在浩(b)デュオ

*演奏曲:https://x.gd/6IKUn

*演奏曲解説:https://x.gd/VJ4Ch

2025年11月15日 第47回トミー・フラナガン・トリビュート曲説

47th Tribute to Tommy Flanagan

(Go to English Edition )

演奏:寺井尚之-piano、宮本在浩-bass

<1st Set>

1. Epistrophy (Thelonious Monk) 

〈エピストロフィー〉 コンサートの始まりは、元来、セロニアス・モンクがライヴの終わりにチェッサーとして使ったオリジナル曲。寺井尚之にとって、トミー・フラナガンがOverSeasで演奏してくれた圧巻のヴァージョンが今も記憶に残っている。

2. Beyond the Blue Bird  (Tommy Flanagan)
 〈ビヨンド・ザ・ブルーバード〉 《ブルーバード》はデトロイトの黒人居住地にあったジャズ・クラブ(ブルーバード・イン)のことで、20代のフラナガンが、サド・ジョーンズ率いるハウスバンドの一員として毎夜演奏していた。その時代への郷愁が漂うブルージーな曲。デトロイト・ハードバップは、このクラブで開花し、フラナガンにとって理想のジャズクラブだった。

3. Medley: Embraceable You (George Gershwin)
   ~Quasimodo(Charlie Parker)

メドレー:エンブレイサブル・ユー~カジモド〉 ライヴでトミー・フラナガンが披露するさまざまなメドレーの素晴らしさは定評があったものの、著作権コストの問題から、歴史的に貴重なロング・メドレーは録音がなく、せめてトリビュートで在りし日の雄姿を偲びたい。
 これは、”抱きしめたくなるほど愛らしいあなた”というガーシュイン作の原曲と、それを基にチャーリー・パーカーが作曲し、醜いノートルダムの鐘つき男”カジモド”と名付けたバップ・チューンという異例の組み合わせ。キーの変化につれストーリーが進み、「愛らしさ」と「醜さ」の境界線が変わっていく。パーカーはなぜ「抱きしめたいほど素敵な恋人」に「醜いせむし男」をかぶせたのか?それは単なるジョークではない。本当の美が肌の色や外見でなく、魂に宿るという主張だということを、フラナガンの演奏解釈が明瞭に説明してくれている。

4. Good Morning Heartache (Irene Higginbotham)
〈グッドモーニング・ハートエイク〉 フラナガンのアイドルであり、音楽的にも大きな影響をうけた不世出の歌手ビリー・ホリディ(写真)のヒット曲(’46)。 トミー・フラナガンの歌心の秘密はここにあり、寺井もホリディを聴くよう、口を酸っぱくして言われた。それから数十年、寺井の演奏するホリディにも、ひっそり語り掛けるような恋のエッセンスが宿る。

5. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
 〈マイナー・ミスハップ〉人気盤『The Cats』で初演されたフラナガンのオリジナル。他のメンバーにとっては初見で、たったワンテイク録りだったという。その演奏内容のせいでMinor Mishap(ささやかなアクシデント)という曲名がついたのかもしれない。以来フラナガンは、初演をリヴェンジするかのように長年愛奏し、強烈なデトロイト・ハードバップの魅力を発散させた。 寺井尚之の名演目でもある。

Dalarna, Sweden

6. Dalarna (Tommy Flanagan)
 〈ダーラナ〉J.J.ジョンソン・クインテットのスウエーデン・ツアー中に録音された初期の代表作『Overseas』に収録されたオリジナル。ダーラナ地方は、森と湖が美しいスウェーデン屈指のリゾート地、ピアノの生徒会長からいただいた名産品の木馬が今夜のピアノにちょこんと鎮座していた。
 当時のフラナガンが心酔した印象派音楽とビリー・ストレイホーンの影響が感じられると同時に、厳しい転調をさりげなく用いて洗練された美を生み出すフラナガン独特の作風が光る。
 フラナガン自身は録音後、長年演奏することがなかったが、寺井尚之の同名CDに触発され、寺井のアレンジで『Sea Changes』(’96)に再録。その直後、フラナガンは寺井に「ダーラナを録音したぞ!」と電話で伝えてきた。その弾んだ声は、寺井の胸に今も響く。

chano pozo, Gillespie

7. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller Dizzy Gillespie)
〈ティン・ティン・デオ〉キューバ人コンガ奏者、チャノ・ポゾが口ずさむメロディとリズムを基に作られディジー・ガレスピー楽団がヒットさせたアフロ・キューバン・ジャズの代表曲。
 ビッグバンドのマテリアルを、コンパクトなピアノ・トリオ編成で表現するのがフラナガン音楽の特徴で、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムを見事に融合させたアレンジが素晴らしい。

<2nd>
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)

Matt Dennis

 〈ザット・タイアード・ルーティーン・コールド・ラヴ〉作曲者マット・デニスは弾き語りの名手で〈エンジェル・アイズ〉はじめフランク・シナトラのヒットソングを数多く提供した。デニスならではの斬新なメロディとハーモニーは、ジャズ・ミュージシャンのチャレンジ精神を刺激する。「恋なんて、お決まりのワン・パターン、なのに君のような人に出会うと、またまた恋してしまう・・・」というユーモラスな歌詞に沿うメロディは、思わず口づさみたくなるけれど、実は転調が果てしなく続く難曲だ。フラナガンはJ.J.ジョンソン・クインテット時代に初演、’80年代後半から自己レパートリーに加え『Jazz Poet』 (’89)に収録。録音後もライヴで演奏するにつれ、アレンジがアップデートしていった。その進化型は寺井が引き継ぎ、このトリビュート・コンサートで楽しむことができる。

2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)

〈スムーズ・アズ・ザ・ウィンド〉フラナガンが愛奏したタッド・ダメロン(ピアニスト、作編曲家)の作品。力強く優美な「美バップ」の黄金比率を持ち、美しい花がつぎつぎ開花していくようなハーモニーの華麗さに目を見張る。
 この曲は、麻薬刑務所服役中のダメロンがブルー・ミッチェル(tp)のアルバム「Smooth as the Wind」(Riverside, ’61)の為に書き下ろしたもので、録音にはフラナガンも参加している。
 一編の詩のような曲の展開、吹き去る風のように余韻を残すエンディングまで、完成度の高いアレンジはレガシーとして残したい。

『Super Session』

3. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)
〈レイチェルのロンド〉フラナガンと最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げたオリジナル曲。フラナガンは『Super Session』(’80)に収録したが、ライヴでは余り演奏しなかった。
 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』(’94)に収録。冴え渡るピアノのサウンドを活かした品格のあるナンバーとして人気がある。

 
4. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)

Sara Vaughan with C. Basie Orch

 〈イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ〉1946年、タッド・ダメロンが新進ヴォーカリストだったサラ・ヴォーンのために書き下ろしたバラード。フラナガンはダメロンを愛奏する理由を「オーケストラのサウンドが内蔵されているので弾きやすいから。」と語っている。1981年、カウント・ベイシー楽団とリメイク録音した際、サラが歌ったフレーズをセカンド・リフに用い、オーケストラの醍醐味を表出する。
 フラナガン自身の録音が残っていないのは、寺井が師匠に先駆けて『Flanagania』にこの曲を収録したためで、現在も悔いが残る。

5. Eclypso (Tommy Flanagan)

Eclypso

〈エクリプソ〉 フラナガンのオリジナルの中でも、最も人気のあるカリプソ・ムードの作品。寺井はこの曲の元になっているのはバド・パウエル作曲〈So Sorry Please〉だと看破する。フラナガンの招きで長期NY滞在した最後の夜、《ヴィレッジ・ヴァンガード》が出演するフラナガンが「ヒサユキのために」とスピーチして演奏してくれた思い出の曲。

6. I’ll Keep Loving You (Bud Powell)
〈アイル・キープ・ラヴィング・ユー〉甘さを抑えた静謐な硬派のバラードで、バド・パウエル(写真)が友人の歌手のために作った曲と言われている。
 フラナガンがパウエル作品を演奏すると、曲の持ち味を失うことなく、一層洗練された美しさが醸し出された。トリビュート・コンサートではフラナガンに対する変わらぬ想いをこめて。

7. Our Delight (Tadd Dameron)
これもタッド・ダメロン作品で、フラナガンはライヴのラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズやジャッキー・バイアードとのピアノ・デュオしか残されていない。現在、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井だけだ。寺井と宮本在浩のプレイは、ドラムレスであることを忘れるほどダイナミックで素晴らしい。

Encore:

With Malice Toward None (Tom McIntosh)
〈ウィズ・マリス・トワード・ノン〉フラナガンと寺井に共通の十八番であり、OverSeasで最も人気のある曲。「With Malice Towards None(誰にも悪意を向けず)」という言葉は南北戦争後のエイブラハム・リンカーンの名言、メロディは讃美歌「主イエス我を愛す」が元になっていて、まさに今の世が求める曲といえるかもしれない。
 トム・マッキントッシュ(写真)はこの曲の創作過程で、友人フラナガンのアドバイスをたくさん盛り込んだと語っている。そのせいか、マッキントッシュ自身やミルト・ジャクソンなどが残した録音の中でも、フラナガンのヴァージョンは、品格と感動の両面で点で傑出している。

Ellingtonia(エリントニア)

デューク・エリントンとストレイホーン
Duke Ellington and Billy Strayhorn

Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
〈チェルシーの橋〉デューク・エリントンのパートナー、ビリー・ストレイホーンによる幻想的な名曲であり、フラナガンは『Overseas』(’57)、『Tokyo Ricital』(’75)などに繰り返し録音した。晩年のフラナガンは「ビリー・ストレイホーン集」の録音企画を進めていたが、道半ばで亡くなってしまったことが残念でならない。

 

Zaiko Miyamoto-bass

Passion Flower (Billy Strayhorn)
〈パッション・フラワー〉
日本語にするなら「受難の花」というタイトルはストレイホーン自身のことかもしれない。フラナガン・トリオでは、ベーシスト、ジョージ・ムラーツのフィーチャー・ナンバーとして、ライヴで毎夜演奏された曲。今回のトリビュートでも、宮本在浩が弓の妙技で魅了した。ムラーツはフラナガン・トリオ退団後もこの曲を愛奏、リーダー作『My Foolish Heart(’95)』に収録した。

 

Black & Tan Fantasy (Duke Ellington)
 〈黒と茶の幻想〉晩年のフラナガンは、自分が子供時代に親しんだ、ビバップ以前の楽曲を精力的に開拓していた。禁酒法時代に花開いた“ハーレム・ルネサンス運動”を象徴する場所、コットンクラブで人気を博した初期エリントン楽団の代表曲〈ブラック&タン・ファンタジー(黒と茶の幻想)〉(’27)はフラナガンが標榜したブラック・ミュージックの原点だ。
 フラナガンが生前最後にOverSeasを訪問したとき、寺井がこの曲を演奏したとき、珍しく絶賛してくれた思い出の曲だ。

*47回目を迎えたトミー・フラナガン・トリビュート、今回も様々な場所からたくさんのお客様が駆けつけてくださって、在りし日のフラナガンの雄姿を偲ぶことができました。座席数に限りがあり、やむを得ずお断りした方々にお詫び申し上げます。

 コンサート開催にあたって多くの応援とご支援を賜り心よりお礼申し上げます。また当日はかつてフラナガンも着用した懐かしいユニフォーム姿でお越しいただいたお客様にも感謝の心でいっぱいです。
 寺井尚之+宮本在浩DUOのプレイには、一段とダイナミクスが加わって新しいフェーズに移行したことを実感しました。

 OverSeasのピアノはトリビュート前になるとサウンドの輝きが増し妖気さえ感じるほど鳴りがよくなります。長年調律と調整をいただく川端定嗣氏にも感謝いたします。

 次回はフラナガンの誕生月となる2026年3月にトリビュートを開催する予定です。皆様にまたフラナガンの音楽を楽しんでいただけるよう一同精進いたしますので、変わらぬご愛顧のほど宜しくお願い申し上げます。

Text: 寺井珠重
 

’25 11/15 (土) 第47回トリビュート・コンサートのお願い

47th Tribute to Tommy Flanagan
チケットは完売しました。

 当日は混み合いますので、できれば6:30pmまでにご入場いただけると助かります。

 なお、チケットは完売いたしました。従って当日券はございません。

 どうぞ宜しくお願い申し上げます。

店主敬白

 

トリビュートの前に:トミー・フラナガン・インタビュー(1990 日本語字幕付)

 トリビュート・コンサートに先駆け、フラナガンの肉声が名盤や巨匠たちの思い出を語る貴重なインタビューの字幕版をUPしました。
 元は、コロンビア大学 WKCR-FMで1990年に放送されたラジオ・インタビューをホストのサックス奏者、現在ジュリアード音楽院で教鞭をとるLoren Schoenberg(ローレン・ショーンバーグ)さんが編集し自身のYoutubeチャンネルにアップしたものです。
 フラナガンの早口で独特の話し方は、生成字幕では変換が難しいため、ショーンバーグさんにお願いして字幕版を作成し、Jazz Club OverSeasチャンネルにアップしました。
 動画の共有を許可してくださったショーンバーグさんのご厚意に心より感謝します。
(字幕作成:寺井珠重)
 

第47回Tribute to Tommy Flanagan 11/15(土)に開催

秋のトミー・フラナガン・トリビュートは11月15日(土)に開催します。
🎹第47回Tribute to Tommy Flanagan Concert
日時:11月15日(土) 7pm-/8:20pm(開場6pm 入替なし)
前売りチケット¥3850(税込 座席指定)
 席数が限られています。お早めにお求めください。

=Annual Concert tribute to Tommy Flanagan in November 2025=
This year of 2025, pianist and owner of Jazz Club OverSeas, Hisayuki Terai with Zaiko Miyamoto on bass will hold his special tribute concert to his mentor, Tommy Flanagan on the anniversary of his passing.

Date and Time:
Saturday, November 15, 2025
7:00 PM / 8:20 PM (Doors open at 6:00 PM, no seat change between shows)
Ticket in advance 3850JPY 

第46回Tribute to Tommy FlanaganのCDができました。

先日開催した第46回トミー・フラナガン追悼コンサートのCDができました。

 演奏:寺井尚之(p)+宮本在浩(b)デュオ

CD3枚組は当店までお申し込みください。

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