11/16 第45回 Tribute to Tommy Flanagan コンサートは残席僅かです。

11/16(土)のトミー・フラナガン・トリビュート・コンサート、残席がごくわずかになりました。

 早めにチケットをご購入ください。
 チケットは当店のみで販売しています。TEL 06-6262-3940

 Jazz Club OverSeas

第45回 Tribute to Tommy Flanagan トミー・フラナガン・トリビュート11/16(土)開催

前売りチケットは当店でお早めに

11月恒例のトミー・フラナガン・トリビュートは、フラナガンの命日に開催します。(English below)
前売りチケットは当店のみで販売中です。お早めにお求めください。

演奏:寺井尚之-piano, 宮本在浩-bass

日時:2024年11月16日(土) 7pm-/8:20pm(開場6pm 入替なし)
前売りチケット¥3850(税込 座席指定)
 席数が限られています。お早めにお求めください。

=Annual Concert tribute to Tommy Flanagan in November 2024=
This year of 2024, pianist and owner of Jazz Club OverSeas, Hisayuki Terai with Zaiko Miyamoto on bass will hold his special tribute concert to his mentor, Tommy Flanagan on the anniversary of his passing.

Date and Time:
Saturday, November 16, 2024
7:00 PM / 8:20 PM (Doors open at 6:00 PM, no seat change between shows)

Advance Ticket Price: ¥3,850 (tax included, reserved seating)
Seats are limited, so please purchase your tickets as soon as possible.

第44回トリビュート・コンサート曲目解説

English Edition is here

tommy flanagan
2024 3/16 Tommy Flanaganの誕生日に

演奏:寺井尚之-piano、宮本在浩-bass

1st Set

1. Eclypso (Tommy Flanagan)

Eclypso

エクリプソ:オープニング・ナンバーは、フラナガンのオリジナルの中でも、最も人気のあるカリプソ・ムードの作品。寺井尚之がフラナガンの招きで長期NY滞在した最後の夜、フラナガンは《ヴィレッジ・ヴァンガード》で、「ヒサユキのために」とスピーチして演奏してくれた思い出の曲。

2. Out of the Past (Benny Golson)

 アウト・オブ・ザ・パスト:テナー奏者、ベニー・ゴルソンがフィルム・ノワールのイメージで作った作品で、彼の盟友、アート・ファーマー(tp)はフラナガンと共に『Art』に収録した。その後フラナガンが、自己トリオのレパートリーに加え、ライヴ盤Nights at the Vanguard(写真)などに録音している。フラナガンがアレンジした左手のオブリガードが印象的で、OverSeasで大変人気がある曲。

3. Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)

NYのフラナガンのアパートで。(’89)

 ビヨンド・ザ・ブルーバード:デトロイト時代にサド・ジョーンズ達とハウスバンドで切磋琢磨したジャズクラブ《ブルーバード・イン》へのノスタルジー溢れる名曲で、デトロイトの同胞、ケニー・バレルをゲストに迎えたリーダー作(’90)のタイトル曲とした。
 このアルバムのリリース前から、フラナガンはNYで寺井尚之にこの譜面を写譜させ、演奏することを許した。めまぐるしい転調によって曲に品格と深みを出す典型的なフラナガン・ミュージックだ。


4. Medley: Embraceable You (George Gershwin) – Quasimodo (Charlie Parker) 

Charlie Parker

 メドレー‐エンブレイサブル・ユー~カジモド:生前のフラナガンはライヴで数多くのメドレーを演奏したが、録音が残っているのはごく一部だ。これは、ガーシュインの「抱きしめたいあなた」というバラードと、チャーリー・パーカーが、その進行を基に作曲し、“ノートルダムの背むし男(カジモド)”と名付けたビバップの、例のない組み合わせだ。フラナガンがこの2曲を組み合わることによって「魂の“美しさ”は、表面的な美醜や肌の色とは無関係だ」というチャーリー・パーカーの芸術的真意を伝えた。寺井も、同じ信念で演奏を続けている。
  

5. Dalarna (Tommy Flanagan)

ダーラナ地方

ダーラナ:『OVERSEAS』(1957)に収録されたフラナガン初期のオリジナル。『OVERSEAS』を録音したのは、J.J.ジョンソンとのスウェーデン・ツアーの間だった。そのツアーはスウェーデン文化省の招きで、数か月かけてスウェーデンの津々浦々をまわってコンサートをするというもので、美しい森と湖に囲まれたダーラナ(上写真)でも公演したのだろう。

 フラナガンが心酔したビリー・ストレイホーンの印象派のタッチと、厳しい転調をさりげなく用いることによって洗練された美しさを生み出すフラナガンの個性が感じられる。
 『Overseas』に録音後は、長年演奏しなかったが、寺井尚之のCD『Dalarna』に触発され、寺井のアレンジを使い『Sea Changes』(’96)に再録。演奏する寺井尚之の胸中には、「ダーラナを録音したぞ!」とNYから電話をかけてきたフラナガンの弾んだ声が響いている。

6. Beats Up (Tommy Flanagan)
 ビーツ・アップ:これも1-5.と同じく『OVERSEAS』に収録し、『Sea Changes』に再録した作品で、リズム・チェンジのリフ・チューン。 
 寺井尚之は、宮本在浩とのデュオで、トリオに負けないダイナミックなプレイを聴かせる。

7. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)

 デューク・エリントンがフロリダ半島で聴いたモッキンバードの鳴き声に触発され瞬く間に書き上げたとされ、エリザベス女王に献上するために、自費で1枚だけプレスしたアルバム『女王組曲』に収録。

女王陛下とエリントン

フラナガン67才のバースデイ・コンサートのライヴ・アルバムのタイトル曲。
 コンサートでは、冒頭のピアノの響きが格別で、「ピアノが腹から声を出している。」という宮本在浩(b)の言葉がうなづける。

8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

Chano Pozo & Gillespie

ティン・ティン・デオ:第一部のクロージングは、フラナガン屈指の名演目、ディジー・ガレスピーが牽引したアフロキューバン・ジャズの代表曲だ。 
 読み書きのできない天才的なキューバ人コンガ奏者、チャノ・ポゾが口ずさんだメロディとリズムをガレスピー達が採譜し、ビッグバンド用の曲に仕上げた作品。フラナガンは、曲の持つ土臭さと哀愁を保ちながら、ビッグバンドに負けないダイナミクスに、持ち前の気品を加えたヴァージョンを創造した。
 トリビュートでは、さらに切り詰めたデュオ編成で、寺井尚之と宮本在浩が、フラナガン的ダイナミズムを再現してみせる。
 

2nd Set

1.That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)

Matt

 ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ:トミー・フラナガン全盛期の愛奏曲。フランク・シナトラのヒットソングを数多く手がけた作曲者マット・デニス(写真)は、弾き語りの名手でもあり、TV、ラジオでも活躍した。彼はクラブ出演する際、ゲストに一流ジャズメンを招くのを好み、それがきっかけで、彼の作品は

ジャズメンの名演によって、さらに長く伝承された。JJジョンソンも’55年、高級ナイト・クラブ”チ・チ”におけるデニスのショウにゲスト出演し、フラナガンが参加した《First Place》にこの曲を収録。その30年後、フラナガンはリーダー作《Jazz Poet》(’89 写真)に収録、ライヴでも愛奏し、数年後には録音ヴァージョンを凌ぐアレンジが完成した。現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏している。

2. They Say It’s Spring (Bob Haymes)

Bobby Jaspar & Blossom Dearie

 ゼイ・セイ・イッツ・スプリング:フラナガンが“スプリング・ソング”と呼び、春が来ると愛奏した演目の一つ。“スプリング・ソング”には、楽しい曲も寂しい曲もあったが、これは前者で、浮き浮きした春の恋の歌。もともとJ.J.ジョンソン時代のバンド仲間、ボビー・ジャスパーの妻だったブロッサム・ディアリーのヒット曲で、フラナガンは彼女のライヴで聞き覚えたという。’70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に収録。 

3. A Sleepin’ Bee (Harold Arlen)

 スリーピン・ビー:これも楽しいスプリング・ソングで、カリブを舞台にしたファンタジックなミュージカル「A House of Flowers」(トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽)の挿入歌。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にしたラブ・ソングだ。フラナガン・ヴァージョンを基に、すっきりと切り詰めた寺井尚之のアレンジをフラナガンは大いに褒めてくれた。

4. Passion Flower (Billy Strayhorn)

OverSeasでプレイするムラーツ(’84)

パッション・フラワー:作曲者ビリー・ストレイホーン自身も愛奏した作品(’44)で、フラナガン・トリオのベーシスト、ジョージ・ムラーツの十八番。トリビュートでは宮本在浩(b)が磨きのかかった弓の妙技を聴かせる。パッション・フラワーは日本でトケイソウと呼ばれ、一風変わった幾何学的な形は、欧米で磔刑のキリストに例えられる。黒人でありゲイだったストレイホーンは、常にエリントンの影武者に甘んじた苦悩を、この花に例えたのかもしれない。
 ムラーツは、フラナガンの許を去った後もこの曲を愛奏し、リーダー作『My Foolish Heart(’95)』に収録。  

5. Minor Mishap (Tommy Flanagan)

マイナー・ミスハップ:フラナガンが終生愛奏したソリッドなハードバップ・チューン、初リーダー作『Cats』(’57)に収録したオリジナル。”minor mishap”は、「ちょっとしたアクシデント」という意味。名前の由来は『Cats』のレコーディングのほろ苦い顛末に由来する。。
 フラナガンは昔気質のジャズ・ミュージシャンで、演奏するときもたいてい譜面を使わなかったが、初めての共演者では、そうもいかず、譜面が必要になる。そこで、来日時には、寺井の採譜した譜面をコピーして持ち帰っていた。フラナガンのサイン入りのMinor Mishapの譜面は当店の壁に飾られている。(写真)

6. I’ll Keep Loving You (Bud Powell)

 アイル・キープ・ラヴィング・ユー: 静謐な硬派のバラード。
 フラナガンがパウエル作品を演奏すると、曲の持ち味を失うことなく、一層洗練された美しさが醸し出された。トリビュート・コンサートではフラナガンに対する変わらぬ想いをこめて。

7. Our Delight (Tadd Dameron)

 アワー・デライト:ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロン(写真)の作品で、ライヴを盛り上げるラスト・チューンとしてフラナガンが愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。この夜の寺井尚之と宮本在浩は、いつにもまして、この曲は本来ドラムレスで演るのだと思ってしまうほど、ダイナミックなプレイを聴かせた。


Encore:

  1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
Tom McIntosh

 ウィズ・マリス・トワーズ・ノン: フラナガンージョージ・ムラーツのデュオ・アルバム、『Ballads&Blues』に収録されたスピリチュアルな名作。作曲者のトム・マッキントッシュ(tb)はフラナガンの友人で、この作品の創作過程には、フラナガンのアドバイスが大きく取り入れられた。
 「誰にも悪意を向けず」というジャズらしくないタイトルは、多くの犠牲者を出した南北戦争後、エイブラハム・リンカーンが演説で口にした名言だ。
 “ウィズ・マリス…”は、寺井尚之の十八番としても知られ、コンサートでは演奏に涙ぐむお客様もおられた。

2. Like Old Times (Thad Jones)

Thad Jones

 ライク・オールド・タイムズ:サド・ジョーンズとデトロイトの《ブルーバード・イン》で演奏した作品。ジョーンズ名義の『Motor City Scene』(’59 United Artist)に収録され、フラナガン自身、アンコールでよく演奏した。彼がご機嫌なときは、ポケットの中から小さなホイッスルをこっそり取り出し、ここぞのタイミングで、ピューッと吹いて会場を多いに湧かせた。トリビュートでは、やはり寺井も隠し持っていたホイッスルを鳴らし大喝采。トミー・フラナガンが元気だった「昔のように」楽しい空気が満ち溢れた。 フラナガン・トリオの演奏は『Nights at the Vanguard』(Uptown)に収録されている。         

解説:寺井珠重
監修:寺井尚之

*本コンサートのCD3枚組をご希望の方は当店にお申し込みください。
動画は近日Peatixで配信。

3/16トリビュート・コンサートのチケットはお早めに

2024, 3/16(土)、トミー・フラナガンの誕生日に第44回トリビュート・コンサートを開催します。

7pm-/8:20pm(開場6pm 入替なし)
前売りチケット¥3500(税込 座席指定)
今回は、いつもよりチケットが早くなくなりそうですので、お早めにお求めください。

第43回トミー・フラナガン・トリビュート 曲目解説

tommy flanagan
Tommy Flanagan 1930 3/16- 2001 11/16

 寺井尚之の師匠、トミー・フラナガンが2001年に亡くなってからOverSeasで年2回欠かさず続けてきたトリビュート・コンサートは今回で第43回。
フラナガンと同じ71才になった寺井尚之(p)と宮本在浩(b)の演奏で、フラナガンの名演目を楽しみました。

<1st Set>

  1. 50-21 (Thad Jones) 
     コンサートのオープニングは、コルネット奏者、作編曲家、サド・ジョーンズ(写真左)のオリジナル。デトロイト・ハードバップの聖地、《ブルーバード・イン》に捧げた曲。50-21は、デトロイトの黒人居住区にあったこのジャズ・クラブの番地(5021 Tireman Ave. Detroit)だ。フラナガンとジョーンズは、このクラブのハウスバンドで共演(1953~54年)、そのときに演奏した多くのサド・ジョーンズ作品をフラナガンは終生愛奏することになった。今日のコンサートの客席には、愛車ナンバーが“5021”の常連様が2名もおられたのが喜ばしい。
     フラナガンはアルバム《Comfirmation》 (Enja ’77) 、《Beyond the Blue Bird》 (Timeless, ’90)、寺井尚之は《Fragrant Times》 (Flanagania ’97)に収録。

2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)

Beyond the bluebird

 〈50-21〉は《ブルーバード・イン》にリアルタイムで捧げた曲とすれば、これは、後のフラナガンが、《ブルーバード・イン》へのノスタルジーをこめて書いた作品。自己トリオに、同じく《ブルーバード・イン》の卒業生であるケニー・バレル(g)をゲストに迎えたアルバム(’90)のタイトル曲とした。 
 このアルバムのリリース前、すでにフラナガンはNYで寺井尚之にこの譜面を写譜させていた。めまぐるしい転調もさりげなく、品格と深みを感じさせる典型的なフラナガン・ミュージックだ。

3. Embraceable You (George Gershwin)- Quasimodo (Charlie Parker)

フラナガンのヒーロー、チャーリー・パーカー

 フラナガン・ミュージックは「メドレー」なしに語ることは出来ない。チャーリー・パーカーは、ガーシュインの有名曲〈エンブレイサブル・ユー〉抱きしめたくなるほど愛しい君)のコード進行を基にバップ・チューンを作り、抱きしめたいどころか、ホラー映画の怪物にもなった「ノートルダムのせむし男」の名前-カジモドと名付けた。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたフラナガンのメドレーは、本当の「美」は外見や肌の色ではなく魂の中にある、というパーカーのメッセージを代弁したのだろう。数あるフラナガンのメドレーの内でも、伝説の名演目だが、残念なことに、レギュラー・トリオでのレコーディングは遺されていない。

4. Good Morning Heartache (Irene Higginbotham)

Billie Holiday

青春時代のフラナガンが心をときめかせたアイドルであり、ピアノから歌詞が聞こえるといわれる豊かな歌心のルーツとなった歌手、ビリー・ホリディのヒット曲(’46)、失恋のどん底から這い上がる苦しさと強さが印象的な歌。フラナガンは寺井の顔を見るたび、二言目にはホリディを聴け!と言った。それから30年、フラナガンのビリー・ホリディ愛は、しっかり寺井に継承されている。

5. Minor Mishap (Tommy Flanagan) 

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初リーダー作で、今なお人気のあるアルバム『Cats』 (NEW JAZZ, ’57)に収録したオリジナル。”minor mishap”は、「ちょっとしたアクシデント」という意味。名前の由来は『Cats』のレコーディング時のほろ苦い顛末に隠されている。以来、フラナガンが終生愛奏したソリッドなハードバップ・チューン。

6. Dalarna (Tommy Flanagan) 

OverSeas
当店の名前の由来となったアルバム

 『Overseas』を録音したスウエーデンの美しいリゾート地、ダーラナと名付けた初期の代表作。
 尊敬するビリー・ストレイホーンの影響が感じられると同時に、厳しい転調をさりげなく用いることによって洗練された美しさを生み出すフラナガン独特の作風を持つ。
 『Overseas』に録音後、フラナガンは長年演奏するこ

とがなかったが、寺井尚之のCD『Dalarna』に触発され、寺井のアレンジを用いて『Sea Changes』(’96)に再録。その直後、フラナガンは寺井に「ダーラナを録音したぞ!」と電話で伝えてきた。その弾んだ声は、今も寺井の胸に響いている。

チャノ・ポゾとディジー・ガレスピー

7. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)
1st Setを締めくくるナンバー、〈ティン・ティン・デオ〉は、キューバ人コンガ奏者、チャノ・ポゾが口ずさむメロディとリズムを基にしたディジー・ガレスピー楽団の演目で、戦後、大流行したアフロ・キューバン・ジャズの代表曲。
 ビッグバンドのマテリアルを、コンパクトなピアノ・トリオ編成で表現するのがフラナガン流。哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したアレンジが素晴らしい。

<2nd Set>

マット・デニス

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
 作曲者マット・デニスは弾き語りの名手として、また〈エンジェル・アイズ〉を始めとするフランク・シナトラの数々のヒットソングの作者として有名。デニスはナイト・クラブに出演する際、一流ジャズメンをゲストに招いて共演するのを好み、それにつれて彼の楽曲もジャズメンに愛奏されるようになった。J.J.ジョンソンはフラナガン参加アルバム、《First Place》(Columbia, ’57)にこの曲を収録。その32年後、フラナガンはリーダー作《Jazz Poet》 (Timeless, ’89)に収録し、ライブで愛奏を続け、アレンジを進化させた。現在は寺井が進化型のアレンジを引き継いでいる。
寺井は《Anatommy》 (Hanil ’93)に収録。

フラナガン参加アルバム『Smooth as the Wind』

2. Smooth as the Wind (Tadd Dameron)
 フラナガンが愛奏したもう一人の作曲家、タッド・ダメロン(ピアニスト、作編曲家)の作品。力強く優美な「美バップ」の黄金比率を持ち、次々と美しい花が開花していくようなハーモニーの華麗さに目を見張る。
 この曲は、麻薬刑務所服役中のダメロンがブルー・ミッチェル(tp)のアルバム「Smooth as the Wind」(Riverside, ’61)の為に書き下ろしたもので、アルバムにはフラナガンも参加している。
 一編の詩のような曲の展開、吹き去る風のように余韻を残すエンディングまで、完成度の高いアレンジがレガシーだ。

3. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan) 

フラナガンが長女レイチェルに捧げた、明るい躍動感に溢れたオリジナル。フラナガンの録音はレッド・ミッチェル(b)エルヴィン・ジョーンズ(ds)とのアルバム『Super Session』(Enja ’80)のみだが、OverSeasでとても親しまれているナンバー。

4. Lament (J. J. Johnson) 
 フラナガンが’50年代後半にレギュラーを務め、『Dial J. J5』など多くの共演盤を遺したトロンボーンの神様、J.J.ジョンソンの作品。

J. J. Johnson

〈ラメント〉は「嘆きの歌」という意味、曲の品格がフラナガン好みだったのか、ライブで盛んに演奏したので〈ラメント〉を聴くと、フラナガンがよく出演していたグリニッジ・ヴィレッジの《Bradley’s》を思い出すというファンがいるほどだ。フラナガン名義の録音は『Jazz Poet (Timeless ’89)のみ。だが、録音以降もフラナガンは演奏を続け、どんどん編曲が更新された。
 本コンサートで用いたセカンド・リフは『Jazz Poet』以降の進化型だ。

“Eclypso” 75年発売時にはあらゆるジャズ喫茶でかかっていたアルバム

4. Eclypso (Tommy Flanagan)
 フラナガンのオリジナル中、最も有名な曲。”Eclypso”は「Eclypse(日食、月食)と「Calypso(カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンは、こんな言葉遊びが好きで、そんなウィットは、プレイにも表れる。寺井尚之がフラナガンの招きで長期NY滞在した最後の夜、ヴィレッジ・ヴァンガードで、フラナガンが「寺井のために」とスピーチして演奏してくれた思い出の曲でもある。

ビリー・ホリディ

6. Easy Living (Ralph Rainger)

「恋に溺れれば、生きることが楽になる。私の人生はあなただけ」…これもフラナガンが愛したビリー・ホリディの十八番で、多くのバッパーが演奏した。

 フラナガンが亡くなった夜、寺井尚之が涙で鍵盤を濡らしながら演奏した曲だった。

7. Our Delight (Tadd Dameron) 

 タッド・ダメロンがビバップ全盛期’40年代半ばにディジー・ガレスピー楽

タッド・ダメロン

団の為に書いた作品。ビッグバンド仕様のダイナミズムを、ピアノ・トリオに取り入れるフラナガンの音楽スタイルがここでも顕著に表れる。
  フラナガンにはこの曲を紹介する決まり文句があった。「ビバップはビートルズ以前の音楽、そしてビートルズ以後の音楽である!」賛同の拍手が大きいほど、プレイはすごいものになった。



 <Encore>

NY、アッパーウエストサイド、トミーのアパートで。
『Ballads and Blues』

With Malice Towards None (Tom McIntosh)

 フラナガン+ジョージ・ムラーツのデュオ・アルバム、『バラッズ&ブルース』(Enja)収録の名曲。 “ウィズ・マリス”は、寺井尚之の十八番としても知られる。
 作曲はトロンボーン奏者、トム・マッキントッシュ、フラナガンは、彼の「ブラック(黒人的)な」作風を好み、マッキントッシュの作品を多く演奏した。
  この曲は、讃美歌「主イエス我を愛す」を元にし、「誰にも悪意を向けずに」というタイトルは、エイブラハム・リンカーンが、多くの犠牲者を出した南北戦争後の演説で口にした名言。曲作りにはフラナガンも参加している。
 曲の持つスピリチュアルな美しさと強いメッセージに、生前のフラナガンの素晴らしいステージを思い出す。

デューク・エリントン・メドレー:Ellingtonia:

 フラナガンが初めてOverSeasでコンサートを行ったのは’84年12月、それはフラナガン・トリオの日本初クラブ出演だった。
 そのときに演奏した長尺のデューク・エリントン・メドレー(Ellingtonia)はピアニスト寺井の原点となっている。

デューク・エリントンとストレイホーン
デューク・エリントンとビリー・ストレイホーン

  Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
  エリントンの共作者、ビリー・ストレイホーンの作品。1957年、ストレ

イホーンに心酔していたフラナガンはNYの街で偶然彼に出会った。
 「僕は、もうすぐJ.J.ジョンソンとスウェーデンに行き、そこで、あなたの曲をトリオで録音します。」そう挨拶すると、ストレイホーンは彼を自分の音楽出版社に連れて行き、自作曲の譜面をありったけ与えてくれたという。その中の1曲が〈チェルシー・ブリッジ〉で、初期の名盤『Overseas』に収録された渾身のプレイは、今なお、私たちを楽しませてくれる。

当店でプレイするジョージ・ムラーツ

  Passion Flower (Billy Strayhorn)
 寺井が兄のように慕っていたベーシスト、ジョージ・ムラーツのフラナガン・トリオ時代の名演目。彼の弓の妙技をフィーチャーしてほぼ毎夜演奏された。トリビュートでは宮本在浩(b)のベースが素晴らしい。

 ムラーツはフラナガンの許を独立した後もこの曲を愛奏し、リーダー作『My Foolish Heart』 (Milestone ’95)に収録した。

短編映画Black and Tan Fantasyの一場面

  Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)
  晩年のフラナガンは、自分が子供時代に親しんだ、ビバップ以前の楽曲を精力的に開拓していた。
自分のブラック・ミュージックの道筋を逆に辿ろうとしていたのかもしれない。その意味で、エリントン楽団初期、禁酒法時代(’27)の代表曲〈ブラック&タン・ファンタジー(黒と茶の幻想)〉は非常に重要なナンバーだ。
 フラナガンが最後にOverSeasを訪問したとき、寺井が演奏すると、珍しく絶賛してくれた思い出の曲でもある。

寺井尚之-piano、宮本在浩-bass
寺井尚之/Hisayuki Terai-piano, 宮本在浩 Zaiko Miyamoto-bass

次回のトリビュート・コンサートは2024 3/16(土)、トミー・フラナガンの誕生日に開催予定です。ぜひご参加ください。

第41回トミー・フラナガン・トリビュート曲目解説 11/19,2022

トリビュート・コンサート
演奏:寺井尚之-piano、宮本在浩-bass

  早いものでトミー・フラナガンが亡くなってから21年の歳月が流れました。フラナガンの基本的な演奏フォーマットはトリオ形式ですが、今回のトリビュート・コンサートは、長年のレギュラー・ベーシスト、宮本在浩とデュオで挑みました。吉と出るか凶と出るか… 結果は、強烈なスウィング感と、研ぎ澄まされた美しい楽器の響きにこもる、フラナガンへの敬愛の情が、お客様にもしっかり伝えられたのでは、と感じています。

 メドレーを含め全部で18の演目には、それぞれフラナガン・ミュージックの強い特徴があり、同時に、弟子としての寺井の人生に意味のあるものなので、曲目紹介を書きました。

<1st Set>
トミー・フラナガン『Let's』
  1. Let’s (Thad Jones) 
     トミー・フラナガンは自動車産業で繁栄するデトロイトで生まれ、兵役を挟み26才まで地元で活動した。この作品は、フラナガンが作曲者の天才コルネット奏者、サド・ジョーンズとともに19才のころから演奏していた作品。通常のAABA形式に、ファンファーレのようなインタールード(16小節)がついた、スリリングなデトロイト・ハードバップ作品。NY進出後、ジョーンズのアルバム『The Magnificent Thad Jones Vol.3』(1957, Blue Note)で初録音。その後1993年、デンマークの“ジャズパー賞”を受賞した際、その賞金でサド・ジョーンズ曲集を自費録音し、この〈Let’s〉をタイトル曲とした。
『Beyond the Blue Bird』

2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)
フラナガンとサド・ジョーンズが3年間、ほぼ毎晩一緒に演奏した場所は、デトロイトの黒人居住地にあった《ブルーバード・イン》というクラブだった。この〈Beyond the Blue Bird(ブルーバードの彼方に)〉は’89年作品、毎夜火花の散るようなプレイで切磋琢磨した青春時代への郷愁がこもる。デトロイト・ハードバップのお家芸である左手の“返し”が印象的、親しみやすいメロディと裏腹に、目まぐるしい転調を忍ばせるところは、ジョーンズの影響だ。寺井尚之はこの作品発表前に、フラナガンの譜面を写し、演奏することを許されたことを誇りにしている。

3. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan)
 レイチェルは、最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女。彼女に捧げたオリジナルは、冴えたピアノのサウンドが印象的。 
 フラナガンは、『Super Session』(’80 )(右写真)に収録したものの、ライブでは余り演奏しなかった。
 一方、寺井はこの曲を長年大切に愛奏し、『Flanagania』(’94)に収録。気品溢れる名曲である。

フラナガンのヒーロー、チャーリー・パーカー

4. Embraceable You (George Gershwin)- Quasimodo (Charlie Parker)
  フラナガンがライブで演奏するメドレーには定評があり、これは数あるメドレーの内でも、伝説の名演目。チャーリー・パーカーは、ガーシュイン作の有名曲〈エンブレイサブル・ユー〉抱きしめたくなるほど愛しい君)のコード進行を基にバップ・チューンを作り、抱きしめたいどころか、ホラー映画に登場するほど醜い「ノートルダムのせむし男」の名前、カジモドと名付けた。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたメドレーは、本当の「美」は外見ではなく魂の中にある!というパーカーのメタファーの表現だ。残念なことに、レギュラー・トリオでのレコーディングは遺されていない。

フラナガンが引用したサラ・ヴォーンのアルバム

5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
ビバップの創始者の一人、タッド・ダメロンもフラナガン好みの作曲家だ。本作は、売り出し中の新人歌手だったサラ・ヴォーンのために書き下ろしたバラード。 フラナガンは、’46年のオリジナル・レコーディングよりも、’81年にサラ・ヴォーンがカウント・ベイシー楽団とのリメイク・ヴァージョンにインスパイアされ、同じセカンド・リフを用いている。寺井が悔やむのは、師匠よりさきに『Flanagania』に収録してしまったために、フラナガン自身はレコーディングをしなかったことだ。

当店の名前の由来でもある『オーバーシーズ』

6. Beats Up (Tommy Flanagan) 
フラナガン初期の名盤『OVERSEAS』(1957)に収められたリズム・チェンジのリフ・チューンで、アルバムでは、冒頭のピアノ⇔ベース、ピアノ⇔ドラムスの2小節交換に心がときめく。それから40年後、フラナガンは『Sea Changes』に再録音した。今回のトリビュートはピアノ‐ベースのデュオで、曲本来のダイナミズムを見事に出し、喝采を得た。

円熟期の名盤『Sea Changes』

7. Dalarna (Tommy Flanagan) 
 1-6とともに『OVERSEAS』に収録された美しいバラード。印象派的な曲想にビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。“ダーラナ”は、『OVERSEAS』を録音したスウェーデンの観光地の名前だ。
 『OVERSEAS』以後、フラナガンは、めったに演奏しなかったが、寺井尚之のアルバム『Dalarna』(’95)に触発され、寺井のアレンジを使って『Sea Changes』(’96)に再録した。

チャノ・ポゾとディジー・ガレスピー

8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)
1st Setを締めくくるナンバー、〈ティン・ティン・デオ〉は、キューバ人コンガ奏者、チャノ・ポゾが口ずさむメロディとリズムを基にしたディジー・ガレスピー楽団の演目で、戦後、大流行したアフロ・キューバン・ジャズの代表曲。
 ビッグバンドのマテリアルを、コンパクトなピアノ・トリオ編成で表現するのがフラナガン流。哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したアレンジが素晴らしい。

<2nd Set>
マット・デニス

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
 親しみやすいメロディだが、転調を繰り返す難曲。作曲者マット・デニスは、フランク・シナトラのヒットソングを数多く手がけたが、自身も弾き語りの名手だった。彼がクラブ出演するときには、一流ジャズメンを好んでゲストに招き、ジャズメンもまた彼の作品に挑戦するのを好んだ。トロンボーンの神様、J.J,ジョンソンもその一人で、フラナガンが参加したアルバム『First Place』(’57)に収録。それから約30年後、フラナガンは自己の名盤『Jazz Poet』(’89)に収録後、演奏を重ねるにつれ、録音ヴァージョンを越えるアレンジに進化した。現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏し続けている。寺井はデビュー・アルバム《Anatommy》(’93)に収録。

フラナガン参加アルバム『Smooth As the Wind』

2. Smooth as the Wind (Tadd Dameron)
 1-5同様、ビバップの創始者の一人、タッド・ダメロンの作品。ポエティックで、文字通りそよ風のように爽やかな名曲。
 フラナガンはダメロン作品について「オーケストラの要素が内蔵されているので非常に演りやすい。」と言い、盛んに演奏した。この作品は、ダメロンが麻薬刑務所に服役中、ブルー・ミッチェル(tp)のアルバム(右写真)『Smooth As the Wind』(Riverside)の為に書き下ろした作品で、アルバムにはフラナガンも参加している。

3. Out of the Past (Benny Golson)
  テナー奏者、ベニー・ゴルソンがフィルム・ノワールのイメージで作曲したマイナー・ムードの秀作。
 ゴルソンはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズや、自己セクステットで録音。フラナガンはゴルソンの盟友、アート・ファーマー(tp)のリーダー作『Art』、後にリーダー作『Nights at the Vanguard』(写真)他に録音、’80年代には自己トリオで愛奏した。
 フラナガンがアレンジした左手のオブリガードが印象的で、OverSeasで大変人気がある曲。

75年発売時にはあらゆるジャズ喫茶でかかっていたアルバム

4. Eclypso (Tommy Flanagan)
 フラナガンのオリジナル中、最も有名な曲。『OVERSEAS』(’57)や『Eclypso(写真)(’75)を始め、繰り返し録音している。”Eclypso”は「Eclipse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉遊びが好きで、ハードなプレイの中にもウィットが感じられる。
 寺井尚之がフラナガンに招かれ、初めてのNYで様々なことを学んだ最後の夜《ヴィレッジ・ヴァンガード》で寺井をコールして演奏してくれた思い出の曲でもある。

5. Lament (J. J. Johnson)
 フラナガンが’50年代後半にレギュラーを務め、『Dial J. J5』など多くの共演盤を遺したトロンボーンの神様、J.J.ジョンソンの作品。
〈ラメント〉は「嘆きの歌」という意味、品格のある作風がフラナガン好みだったのか、ライブで盛んに演奏したので〈ラメント〉を聴くと、かつてフラナガンがよく出演していたグリニッジ・ヴィレッジの《Bradley’s》を思い出すというファンがいるほどだが、フラナガン名義の録音は『Jazz Poet(写真)(’89)のみ。録音以降もフラナガンは愛奏しつづけたので、演奏ヴァージョンはどんどん進化していった。
 本コンサートで寺井が用いるセカンド・リフはフラナガンが『Jazz Poet』以降の進化型だ。

6. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
  人気盤『The Cats』で初演されたフラナガンのオリジナル。アルバムの人気とは裏腹に、低予算でワンテイク録りの演奏内容は、フラナガンにとって到底満足の行く出来ではなかった。フラナガンがMinor Mishap(ささやかなアクシデント)と名付けたのはそのためだ。以来、フラナガンはリベンジするかのように、長年愛奏し、毎回強烈なデトロイト・ハードバップの魅力を聴かせてくれた。寺井尚之の名演目でもある。

7. But Beautiful (Jimmy Van Heusen)
 「恋は色々、可笑しくも、哀しくもある。秘めた恋、狂おしい恋もある…」短い言葉で様々な恋模様を綴る名バラード。今回、寺井‐ザイコウDUOは、そんな歌詞が聴こえるプレイをオール2コーラスという切り詰めた構成で弾き切り、輝くピアノサウンドと、重厚なベースとのハーモニーが、コンサートのクライマックスになった。
 フラナガンが’90年代愛奏した演目だが、きっかけは寺井だ。ある日、フラナガンが寺井とOverSeasでくつろいでいると、偶然『Moodsville8(右写真上)(Prestige, 1960 フランク・ウエス・カルテット)収録の〈But Beautiful〉が店内に流れ、寺井は「師匠のこのイントロは、ジャズ史上最高のイントロです!」と演説を始めた。フラナガンはふーんと鼻を膨らますだけだったが、その直後、デンマークのジャズパー賞を受賞記念コンサート『Flanagan’s Shenanigans(右写真下)(’93)で〈But Beautiful〉の名演を披露した。

タッド・ダメロン

8. Our Delight (Tadd Dameron)
  これも、ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロンの作品で、ライブを盛り上げるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。ドラムレスであることを感じさせない、気迫のこもった演奏に喝采がやまない。

<Encore>
『Ballads and Blues』

With Malice Towards None (Tom McIntosh)
  “ウィズ・マリス”は「フラナガン流スピリチュアル」と言える名曲であり、当店不動のスタンダード曲。この夜も演奏に涙する方もいるほど、パワーのある作品だ。
 フラナガンージョージ・ムラーツ・デュオによる『バラッズ&ブルース』に収録され、今は寺井尚之の十八番として、遠方から来られるお客様のリクエストが多い曲。メロディは、讃美歌「主イエス我を愛す」を基にし、エイブラハム・リンカーンの名言(誰にも悪意を向けずに)を曲名とした、トロンボーン奏者、トム・マッキントッシュ(tb)の作品だが、曲の創作段階でフラナガンのアイデアがたくさん取り入れられている。

デューク・エリントンとビリー・ストレイホーン

メドレー:Ellingtonia:

 トミー・フラナガンが初めてOverSeasでコンサートを行ったのは’84年12月。それはフラナガン・トリオとして日本で初めてのクラブ出演でもあった。
 そのときに演奏した長尺のデューク・エリントン・メドレー(Ellingtonia)はピアニスト寺井の原点となっている。


 

84年のOverSeasの雄姿

  Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
 デューク・エリントンの共作者、ビリー・ストレイホーンの作品。1957年、ストレイホーンに心酔していたフラナガンはNYの街で偶然彼に出会った。「もうすぐJ.J.ジョンソンとスウェーデンにツアーして、トリオで、あなたの曲を録音する予定です。」そう挨拶すると、ストレイホーンは彼を自分の音楽出版社に同行し、自作曲の譜面をありったけ与えてくれたという。〈チェルシー・ブリッジ〉もその中の一曲で、初期の名盤『Overseas』に収録された渾身のプレイは、今も私たちを楽しませてくれている。

当店でプレイするジョージ・ムラーツ

  Passion Flower (Billy Strayhorn)
  ジョージ・ムラーツのフラナガン・トリオ時代の名演目。弓の妙技をフィーチャーしてほとんど毎夜演奏された。トリビュートでは宮本在浩(b)のベースが素晴らしい。ムラーツはフラナガンの許を独立した後もこの曲を愛奏し、リーダー作『My Foolish Heart(’95)』に収録した。寺井にとって兄貴のような存在だったムラーツも昨年9月他界し、今年OverSeasで追悼コンサートを行った。

短編映画Black and Tan Fantasyの一場面

  Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)
 晩年のフラナガンは、自分が子供時代に親しんだBeBop以前の楽曲を精力的に開拓していた。ひょっとしたら、自分のブラック・ミュージックの道筋をさかのぼるつもりだったのかもしれない。その意味で、エリントン楽団初期、禁酒法時代(’27)の代表曲〈ブラック&タン・ファンタジー(黒と茶の幻想)は非常に重要なナンバーだ。
 フラナガンが最後にOverSeasを訪問したとき、寺井が演奏すると、珍しく絶賛してくれた思い出の曲でもある。

終演後、観客にあいさつする寺井と宮本在浩

 フラナガンは71才で他界しましたが、寺井尚之も今年で70才です。親子ほど年下のベーシスト、宮本在浩にしっかり支えられ、これまでのトリビュートの内でも最もインパクトの強いプレイを披露することができたように感じました。
お越しくださったお客様、また様々な形で支援いただいた皆様に心よりお礼申し上げます。

 次回春のトリビュートは3月18日(土)を予定しています。どうぞ宜しくお願い申し上げます。 Text: 寺井珠重

第39回トリビュート・コンサートありがとうございました!

39okokIMG_1123.jpeg 第39回トミー・フラナガン・トリビュート・コンサート!
 たくさんの応援をありがとうございました。
 The Con Man から、Black and Tan Fantasyまで、あっというまの2時間の演奏とお客様の歓声に感動!

 生の音楽は本当に素晴らしいです。

 曲目解説は後日UPします。

 まずは心より御礼まで。

第39回トミー・フラナガン・トリビュートのお知らせ

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     日時:2021年11月20日(土)
  17:00 Open: 1st Set 18:00-19:00/2nd Set 19:30-20:40 21:00閉店
  演奏:寺井尚之(p)トリオ featuring 宮本在浩(b)、岡部潤也(ds)
  
   トミー・フラナガンの逝去月を記念して、寺井尚之が師匠の名演目を演奏する恒例コンサートも今回で39回目になります。
 11月の時短要請がまだわかりませんので、6pm開演とさせていただきます。
 入場人数を制限しますので、前売りチケット(3300円)はお早めにお求めください。

 

第38回トミー・フラナガン・トリビュート曲目紹介

 第38回 トミー・フラナガン・トリビュート・コンサート

演奏:寺井尚之トリオ:寺井尚之-piano, 宮本在浩-bass, 岡部潤也ーdrums

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=第一部=     

1. Let’s
lets.jpg レッツ:作曲者はフラナガンが天才と読んだコルネット奏者、バンドリーダー、サド・ジョーンズ。フラナガンが自主制作したサド・ジョーンズ曲集(左写真)のタイトル曲。
 サド・ジョーンズ作品は難曲が多いために、大多数が演奏するスタンダードは少ない。だがフラナガンは終生彼の作品を掘り下げた。フラナガンはサド・ジョーンズ作品についてこう語っている。- 「サド・ジョーンズ作品の中には、強力なパワーがあり、演奏すると、自然にそのパワーが発散するように作られている。彼の作品を演奏できるなら、演奏者として順調な道を歩んでいる証だ。」 

 

2.Beyond the Blue Bird
600x600.jpg ビヨンド・ザ・ブルーバード: “ブルーバード”は、かつて黒人居住区にあったジャズ・クラブ《ブルーバード・イン》のことで、現在はデトロイトの文化史跡として保存されている。青年時代のフラナガンがサド・ジョーンズ(cor.tp)と共に、毎夜、熱い演奏を繰り広げたフラナガンの音楽の故郷だ。店の聴衆には、若手ミュージシャンを応援する気風があり、フラナガンは《OverSeas》の雰囲気と似ていると言ってくれたことがある。

 親しみやすいメロディーでありながら転調が多い難曲。また、”返し”と呼ばれる左手のカウンター・メロディーは、デトロイト・バップの特徴でもある。同名アルバムのリリース前、フラナガンから譜面を授かり、演奏を許されたことを、寺井は今も誇りにしている。  

 

supersession.jpg3.Rachel’s Rondo
 レイチェルのロンド:最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げた作品。フラナガンは『Super Session』(’80)に収録したが、ライヴでは余り演奏することはなかった。
 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』(’94)に収録。冴え渡るピアノのサウンドを活かす気品溢れる秀作。 

 

4. Embraceable You – Quasimodo
chrlie_parker.jpg メドレー/エンブレイサブル・ユー~カジモド:フラナガン伝説のメドレー。 チャーリー・パーカーは、ガーシュイン作の有名スタンダード・ナンバー〈エンブレイサブル・ユー〉(抱きしめたくなるほど愛らしい君)のコード進行を基に作ったバップ・チューンに、原曲と正反対の醜い「ノートルダムのせむし男」の名前〈カジモド〉を付けた。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたメドレーは、本当の「美」とは何かという問いを投げかけたパーカーに対するフラナガンの答えだ。フラナガンのメドレーはライヴでの最高の聴きどころで、これは数あるメドレーの内でも白眉だった。残念なことに、レギュラー・トリオによるレコーディングは遺されておらず、今はトリビュート・コンサートでその素晴らしさを偲ぶしかない。 

5. Sunset & the Mockingbird
bconcert.jpg サンセット&ザ・モッキンバード:エリントン&ストレイホーンによる作品で、フラナガン67才のバースデイ・コンサートのライヴ盤のタイトルになっている神秘的な美しさを持った曲。エリントン音楽は、フラナガンにとって、”ブラック・ミュージック”の理想形だった。この曲は、エリントンがフロリダ半島をハリー・カーネイ(bs)運転の車で移動中、夕焼けの中で不思議な鳥の鳴き声を聴いて、瞬く間に書き上げたとされている。(エリントン自伝『Music is my mistress』より) 後にエリントンはこの曲を『女王組曲』の中の一曲として自費録音し、一枚だけプレスして英国のエリザベス女王に献上したが、彼の死後リリースされた。その後、NYのFMラジオのジャズ番組のテーマ・ソングとして使われ、フラナガンはそれを聞き覚えてレパートリーに加えた。トリビュート・コンサートでは、フラナガン直伝のピアノタッチの至芸が聴ける。

 6.Eclypso

eclypso.jpg エクリプソ:『Overseas』(’57)や同名アルバム『Eclypso』(’75)などに収録されている、最も有名なフラナガンのオリジナル曲。”Eclypso”は「Eclipse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉の遊びが好きで、そんなウィットがプレイにも反映している。
 寺井尚之にとっては、フラナガンからNYに招かれて、数週間、様々なことを学んだ最後の夜《ヴィレッジ・ヴァンガードで寺井の名前をコールして演奏してくれた思い出の曲でもある。

7. Dalarna
dalarna69563039_5455432361227705_8219593954501328896_o.jpg ダーラナ:『Overseas』に収録された美しいバラードで、印象派的な曲想にビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。”ダーラナ”は、『Overseas』を録音したスウェーデンの風光明媚な観光地の名前だ。

 フラナガンは『Overseas』に録音以来、めったに演奏しなかったが、寺井尚之のアルバム『ダラーナ』(’95)の演奏に触発され、そのままのアレンジで『Sea Changes』(’96)に再収録している。
 この曲をプレイするときは、生徒会長夫妻のスウェーデン土産、ダーラナホースがピアノの上に鎮座している。 

8. Tin Tin Deo
dizzy-gillespie.jpg ティン・ティン・デオ:フラナガンは、ビッグバンドの演目を、コンパクトなピアノ・トリオ編成でダイナミックに演奏するのを得意にしていた。この曲は、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したブラック・ミュージックだ。
 ディジー・ガレスピー楽団がこの曲を初録音したのはデトロイトで、フラナガンの親友、ケニー・バレル(g)が参加した。フラナガンにはその当時の特別な思い出があったのかもしれない。フラナガンの秀逸なアレンジは寺井尚之がしっかりと受け継いでいる。

38th_tribute_o.jpg左から:寺井尚之-piano, 宮本在浩-bass, 岡部潤也ーdrums

 =第二部=

 1.That Tired Routine Called Love
first_place.jpg ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ:作曲者マット・デニスは弾き語りの名手として、また〈エンジェル・アイズ〉を始めとするフランク・シナトラの数々のヒットソングの作者として有名だ。デニスはナイトクラブに出演する際、一流ジャズメンをゲストに招き共演したが、彼の作品もまたジャズメン好みのものだった。J.J.ジョンソンは’55年、超高級ナイト・クラブ”チ・チ”でデニスのショウにゲスト出演しており、フラナガン参加アルバム《First Place》にこの曲を収録。約30年後、フラナガン自身は名盤《Jazz Poet》(’89)に収録、録音後にもライブで愛奏し、数年後には録音ヴァージョンを遥かに凌ぐアレンジに仕上がっていた、現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏し続けている。寺井は《Anatommy》(’93)に収録。 

 2. They Say It’s Spring
clip_image134.jpg   ゼイ・セイ・イッツ・スプリング: フラナガンが”スプリング・ソングス”と呼び、春に愛奏した演目の一つ。作曲者、ボブ・ヘイムズは人気歌手ディック・ヘイムズの弟で、俳優、歌手、TV番組のホストとして人気を博した。
 この曲がヒットしたのは’50年代中盤で、歌っていたのはカリスマ的人気歌手ブロッサム・ディアリーだ。ディアリーは、J.J.ジョンソンのバンド仲間、ボビー・ジャスパー夫人であったことから、フラナガンはディアリーのライブをよく聴きに行き、この曲を覚えたそうだ。’70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に名演を遺している。 

3. A Sleepin’ Bee
house_of_flowers.jpg スリーピン・ビー:これも、フラナガン的スプリング・ソング。A♭ペダルの軽快なヴァンプが春の浮き浮きした気分にぴったりだ。 カリブの愛らしい娼婦の恋と冒険を描いたブロードウェイ・ミュージカル「A House of Flowers」(トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽)で、主演女優ダイアン・キャロルが歌った。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にしたラブ・ソング。フラナガンのバージョンを基に、すっきりと切り詰めた寺井尚之のアレンジをフラナガンは大いに褒めてくれた。トリビュートではそのアレンジで演奏。

 4.When Lights Are Low
benny_carter.jpg 灯りが暗くなった時:フラナガンが子供の頃から親しんだベニー・カーター(as.tp.tb. comp.arr)のヒット作。’80年代終盤、ジャズの人間国宝的存在となったカーターが、カーネギー・ホールに於ける特別コンサートに指名しピアニストがフラナガンだった。尊敬するカーターに選ばれたことを意気に感じたフラナガンは、自己トリオでこの曲を愛奏し、今夜のように<ボタンとリボン>を引用して楽しさを盛り上げた。 

5.Passion Flower
gallery11.jpg パッション・フラワー: 作者ビリー・ストレイホーン自身も愛奏した作品(’44作)。フラナガン・トリオ時代のジョージ・ムラーツの十八番。トリビュートでは宮本在浩(b)が素晴らしい弓の妙技を聴かせてくれる。パッション・フラワーは日本語でトケイソウと呼ばれ、一風変わった幾何学的な形は、欧米で磔刑のキリストに例えられる。黒人でありゲイであった自分自身を、この花に例えたのかもしれない。
 ムラーツは独立した後もこの曲を愛奏、リーダー作 My Foolish Heart(’95)にも収録している。  

6. Mean Streets
jazzpoetW.jpg ミーンストリーツ:初期のオリジナル。元々『Overseas』(’57)に”Verdandi”という題名で収録された曲。そこではドラムのエルヴィン・ジョーンズをフィーチャーしている。その20年後、レギュラー・ドラマーに抜擢したケニー・ワシントン(ds)のフィーチュア・ナンバーとして、ケニーのニックネームだった”ミーンストリーツ”と改題、ライヴで愛奏し『Jazz Poet』にも収録した。トリビュート・コンサートでは岡部潤也のドラムソロに会場が沸いた。         

  8.I’ll Keep Loving You
bud_powell500wi.jpg アイル・キープ・ラヴィング・ユー:  バド・パウエルが友人の歌手のために書いた曲と言われている静謐な硬派のバラード。
トミー・フラナガンがパウエル作品を演奏すると、曲の持ち味を失うことなく、一層洗練された美しさが醸し出される。トリビュート・コンサートでは、寺井のフラナガンに対する変わらぬ想いが滲み出る。

  9.Our Delight 
Tadd-Dameron-at-the-piano-by-William-Gottlieb-Library-of-Congress.jpg アワ・デライト:ビバップの立役者の一人、ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロンの代表作。フラナガンはダメロン作品には「オーケストラの要素が内蔵されているので非常に演りやすい。」と言い、ライヴを最高に盛り上げるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。

 =アンコール=

1. Like Old Times 
tommy_sweater.jpg ライク・オールド・タイムズ: フラナガンがアンコールで頻繁に演奏した作品。ご機嫌なときはポケットの中から小さなホイッスルをこっそり取り出して、ここぞのタイミングで、ピューッと吹いて会場を多いに湧かせた。サド・ジョーンズ名義の『Motor City Scene』(’59)に収録されている。

 今夜のコンサートでは、やはり寺井も隠し持っていたホイッスルを鳴らし大喝采。トミー・フラナガンが元気だった「昔のように」楽しい空気が満ち溢れた。

 フラナガン・トリオの演奏は『Nights at the Vanguard』(Uptown)に収録されている。         

2 With Malice Towards None
 ウィズ・マリス・トワーズ・ノン: フラナガンが、真の「ブラック・ミュージック」として愛奏したトム・マッキントッシュwithmalice_.jpg(トロンボーン奏者)の作品。
「誰にも悪意を向けずに」という題名は、エイブラハム・リンカーンの名言、メロディーは賛美歌が基になっている。

 かつてマッキントッシュとフラナガンはアップタウンの近所同士で、この曲の創作過程には、フラナガンが立ち合い、自分のアイデアを隅々に盛り込んだとマッキントッシュは証言している。他にも多彩な編成で多くの録音ヴァージョンがあるが、フラナガンのスピリチュアルな演奏解釈は傑出している。

 

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トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:3枚組CDがあります。
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