Crarence Macdonald(piano) クラレンス・マクドナルド(ピアノ) |
Jeffrey Chambers(bass)右 ジェフリー・チェンバース(ベース) Ron Otis(drums)左 ロン・オーティス(ドラムス) |
<演奏曲目> 2部 ベイシー楽団退団後は当時流行のディスコクイーン路線のアルバムを続々と発表、1976年にはサミー・デイヴィスJR.の前座として初来日し、翌年スティーブ・ローレンスのヒット曲『Go Away Little Girl』をカヴァーした『Go
Away Little Boy』が大ヒット、圧倒的な歌唱力でR&Bやポップ色の強い音楽から、ヴォーカリーズ、ストレイトアヘッドなジャズヴォーカルまで自分流に料理して何でもござれの活躍ぶり。3年前にはトミー・フラナガンを含めた豪華メンバーのオールスタージャズバンドと共に“エラ・フィッツジェラルドに捧ぐ”というスペシャルプログラムをひっさげ世界ツアーを行いました。 ところが彼女には純粋な4ビートジャズだけを歌った名盤がない為、OverSeasの常連諸氏には今ひとつ知名度が低かったのも事実でした。管理人さんには彼女のCDを「ジャズには聴こえん!」と言われる始末。そこで私はそんな人達にぜひマリーナ・ショウのライブに来てもらって、彼女がどれほど素晴らしく、どれほどジャズかと言う事をわかってもらいたかったのでした。 ピアノ調律も終わり5時半までに一行がやって来ました。いつもの様にスタッフ一同大拍手で迎えると先にバンドのメンバーが手を振りながら入場。そして寺井尚之にエスコートされて入って来たマリーナ・ショウは思ったとおり大柄でエキゾチックな美しい女性です。シンプルでゆったりした黒のパンツスーツ、ベージュのパンプスにグレイの長い絹のスカーフを身に付け、スカーフと同じグレイのアイシャドウとパープルのリップがキラキラ光っています。そして、それよりもまだ光る真っ白な歯を見せて拍手するスタッフに手を振りました。満面の笑みで"How're you doin'?"と呼びかけた大きな声は、紛れもなくあの声!その瞬間、店中が花びらをまき散らしたような華やかさに包まれて、OverSeasのスタッフ全員が彼女の魅力に参ってしまいました。 バンドが楽器をセッティングする間、奥の11番テーブルで鼻歌を歌っている声の響きを聴くと、マイクなしでも充分歌えそうです。信じられない事ですが彼女は今回マイクを持参せず、膨大な楽譜の袋だけを持ってきました。またまた私の胃が痛くなってきました。前回スコット・ハミルトンに散々ダメを出されたこのPAにマリーナが激怒したらどうしよう・・・うちのPAにはリヴァーブが付いていないし「リヴァーブをかけないと歌えないわよ!」なんて言われたら・・・。エレキ・ベースのジェフリー・チェンバースが「こりゃあ、古いシステムだな」と言いながらマイクスタンドの調整やPA装置のチェックなど全般に気配りしているところを見ると、どうやら彼がバンドリーダーの様です。マリーナは『My Old Flame』を歌いながら「モニターはどこなの?(BOSEのスピーカーを見上げ)あら?こんな上にあるのね」なんて歌いながら言っています。マリーナは装置に一切いやな顔はせず、細かくサウンドを点検しています。うっとりとマリーナの声に聞き惚れる私の横に、名プロモーター西蔭氏がやって来て「ねえねえ、リヴァーブ入れてる?」と尋ねました。痛いところを付かれてドキン!とした私、「いえっ・・・」と言うと「リヴァーブ入れないでよね、彼女リヴァーブ使わないから」。ヤッタゼ!ザマミロ!ハハ、聞いたかスコット・ハミルトン、私は西蔭さんに最高の笑顔で頷いたのでした。 演奏前に海老フライ、チリ風味とミートスパゲティを所望し、おいしそうに食べるマリーナはとっても気さくな人でした。私が「何年もこの日を待っていました。苦しい時はいつもあなたのレコードを聴いて元気をもらい、困難を乗り切れました」なあんて非常に月並みなファンの告白をすると、「タマエ、本当?そう言ってもらえると嬉しいわ、この料理もすごくおいしい、シェフにありがとうと言ってちょうだいね。あなたって本当に人を喜ばせる事を知ってる人ねえ」と真っ白な歯が魅力的です。食べていても話していても大物の風格を漂わせながら、決して偉ぶらないディーヴァです。むなぞう君はこの休憩中にマリーナにこっそり呼ばれて、これをあげるから頑張って勉強しなさいよ、と500円玉を手に握らされ、彼が辞退すると、「あんたがもらってくれなかったら、私泣いちゃうから!」エーン、エーンとマリーナに泣き真似までされ、ありがたく頂いたそうです。裏方のスタッフにここまで優しい人は開店以来初めてです。
今度は早めのボサノヴァで、これも古いスタンダード、『クライ・ミー・ア・リヴァー』。並の歌手がスタンダードをボサで演ると陳腐で野暮になるのがオチですが、これは良かった!彼女が歌うとボサノヴァもスイングします!ピアノのクラレンス・マクドナルドが即座に入れるオカズがツボにはまり最高です。この人はどうやらピアニストというより、伴奏を専門とする職人といった感じです。ピアノソロでもブロックコード主体ですが、唄を引き立てるポイントを心得た人、バンドスタンドから一番離れたキッチン前で聴いていましたがトリオのバランスは大変良く、激しく叩くドラムもマリーナの唄を邪魔する事は全くありません。とにかくこの声量、一番後ろでも彼女の地声が突き刺さってきます。悲しい失恋の唄ですが、未練たらしくない解釈に男性より女性ファンが多いのはこの辺かなと思いました。"CRY ME A RIVER"の繰り返しの多い歌詞ですが、彼女の抑揚は次々と変化し、同じ河は2度とありません。 「次はとっても久しぶりの曲、リクエストされたの、後ろにいるヨシ(西蔭名プロモーターのこと)、これは貴方の為に歌うのよ!」。「イッヒッヒ」とトレードマークのイヒヒ笑いをしている西蔭氏のリクエストとはビリー・ホリデイの名曲、『ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド』です。「神様は自分で稼ぐ子だけを祝福なさる・・・」、ゴスペルにルーツを持つマリーナ・ショウ、ブルースシンガーの特殊技能、ピアノの鍵盤にない音を駆使した節回し、間髪を入れず対応するマクドナルドのピアノ、ジュニア・マンスやジーン・ハリスを思わせるコブシがクルクル廻ります。「お金があったら皆は群がって来るけれど、一度お金がなくなったらお楽しみは終わりだよ、だれも寄って来やしない!皆どっかへ行っちまう・・・」。酸いも甘いも噛み分けた彼女自身の人生の深さを感じる名唱です。最後は「お客さんたちにも神のお恵みを!」と唄って締めくくり、感動した私は西蔭氏の素晴らしいリクエストに心から感謝しました。 一転して力強いノンビブラートのブラジル風スキャットからサンバのリズム、1970年代コロンビア時代の最大のヒットアルバムとなった『SWEET BEGINNINGS』から『LOOK AT ME, LOOK AT YOU』、レコードのディスコ調ヴァージョンよりずっと力強いストレートな歌唱です。「目と目を見交わして、お互いの心に心を伝わらせ、恋に落ち、空を飛び、銀河を旅する私達・・・」聴衆一人一人に"REACHING..."と話し掛けるような歌い方でラブソングというより、むしろ彼女とオーディエンスとのコミュニュケーションを歌っているようです。ドラムのロン・オーティスに“Speak Up (大声で話して!)”と歌いかけるとノリの良いドラムソロ、達者なスキャットを挟んでからサンバになりアウトコーラスに持っていきます。彼女の好きなところはこういうディスコ系のナンバーでもエンディングは絶対フェイドアウトしたり尻すぼみにせずに、パーフェクトなカデンツァで華々しく決めてくれるところです。どうやらピアノが数小節飛ばしてしまったようで、歌詞で「アラ、飛ばしちゃったのね!いいわ、でも今私はどこなのかしら・・?」ガハハと歌ってドラムに廻し、アウトコーラスに戻り大団円。 ドレミファソラシドと発声練習の後、一転スローなロックビートのイントロから始まったのは『ラウンド・ミッドナイト』。彼女の手に掛かると、「日暮れはiイヤ、あの人が帰って来ないから・・・」というヴァースが付いて、声は自由自在にベンドします。どうしようもなくブルージーな、別れた恋人への行き場のない想いの唄となりました。ピアノソロも達者です。後で寺井尚之に尋ねたところ、このクラレンス・マクドナルドという人の左手は全くルートを押さえず、サードかセブンスを押さえるビル・エヴァンスタイプ、右手はどちらかというとハーマン・フォスターのようなブルージーでプリミティブな奏法だそうです。つまりバークリー派の左手と、叩き上げ派の右手を持ったアンビバレントなピアニストであるとのことで、R&B系のピアノ奏法の傾向なのか、興味あるところです。 ラストナンバーはお楽しみブルースメドレー、『Goin' To Chicago Blues』、『Every Day I Have The Blues』や『Drink Muddy Water』などなど、おなじみのブルースが次々と出てきます。ここで彼女が駆使するのは、ブルースシンガー独特の、ピアノの鍵盤の間の、音符に書けない音の使い方のうまさ、彼女には、鍵盤の間にある、五線紙に書けないこれらの音が一音ずつ、はっきり頭にプログラムされていて、単に成り行きの経過音だけでなく、その音からでもフレーズが始まります。器楽的なフレーズと、コブシの廻し方、母音の発音の使い分けに、もう惚れ惚れ!さらに私の好きなブルースシンガー、チャールズ・ブラウンの物真似が入ってはタマリません。またピアノのクラレンス・マクドナルドのオカズ(オブリガート)が最高です。ブルース奏者必須のオカズカタログ!ピアノの後方から寺井尚之がじっくりスパイしています。 強烈なアンコールでバンドスタンドに戻ってきたマリーナ・ショウは、名古屋から来てくれていたFM局のDJの女の子をバンドスタンドに招き、「どの番組で私を紹介するのかいいなさい」とプッシュ。翌日の演奏地が偶然名古屋だったので、マリーナは彼女がFMで紹介してくれると知り激励!きっと彼女もラジオでばっちり宣伝してくれるでしょう! アンコールはBlueNote盤のヒットアルバム、『Who Is this Bitch Anyway?』からディスコっぽい『Loving You Is Like A Party』。「愛はパーティの様なもの、無くなったら立ち直れない」。ノリノリのドラムにクラブ系美女達は大喜びで、マリーナはすかさずもう1曲サービス、甘い声で、やはりファンキーな『Rhythm Of Love』。16ビートで"I Love To Tick, I Love To Tack,
I Love to cock oops・・・"。おっと出ましたきわどいジョーク!子供さん同伴の熊本LIVEでは絶対出なかったでしょう・・・。彼女はセクシー!滑らかで伸びの良い彼女の声と手練手管にもう女も男もメロメロ。1時間15分があっという間に経ちました。 2部の開演5分前にマリーナがホテルから戻りました。さきほどの黒とグレーのシックな装いから一転しスポーティブ、トップスは白地に黒の大胆な柄が入ったノースリーブのニット、その上から光沢のあるシルクのシースルージャケット、ボトムは黒のワイドパンツ、足元はオーストリッチのパンプスで、頭には汗止めに白いヘアバンド。着くなりペンを持ってジェフリー・チェンバースと曲決めです。譜面を見ながらテキパキと仕掛けを確認しています。 お客様が殆ど来られて開演時間の9時を5分廻りましたが、あれれ?ピアノのマクドナルドとドラムのオーティスがいません。何か二人で外の空気を吸いに出たということですが、姿が消えてしまいました。何かあったのでしょうか?西蔭プロモーターの顔つきが険しくなり、常連さん達がそわそわし始めました。散歩して迷っているのか?開演時刻を間違えているのか?フラナガニアトリオの宗竹正浩(b)、河原達人(ds)、ジャズ講座のヴィデオ撮りでおなじみのヤン坊、それに常連のドクター梶山に管理人さんまでが、暑い夜の街を四方八方手を尽くして捜してくれましたが見つかりません。マリーナに「BOYSが戻ってきませんよ」というと、彼女は悠然と笑って答えました。「大丈夫よ、タマエ、まさかNYに帰ってないと思うから・・・」。しかし2人は一向に戻りません。曲のおさらいをジェフリー・チェンバースとしながら、マリーナは鼻歌ですが「It gatta be troule・・・(ヤバイわあ)」と独り言。私は内心、ここには寺井と河原さんがいるんだから、いざと言う時は大丈夫!それにマリーナが手拍子だけで歌う名品『WHY, OH WHY』だって聴けるかも・・・なんて期待していました。 やがて9時15分になり、それでも2人が戻ってこないので、寺井が時間稼ぎにマリーナが持参した60枚のUK盤のベストCDを購入した人全員にサインをさせようと思い、マイクを持って「このマリーナ・ショウのCD、ただいまレジのところで・・・」と言うや否や、マリーナは間髪入れずに、一番奥の11番テーブルからよく通る声で「私が全部サインしてあげる!」と英語で言いました。言葉も違うのに阿吽の呼吸で気持ちを読むところはあっぱれ、正にバッパーのやる事です。トミー・フラナガンにもジョージ・ムラーツもそういうテレパシーというかカンの良さがあります。この一瞬で寺井尚之はマリーナと同志愛を感じたらしいです。CDを手にしたお客様の長ーい列が出来ました。マリーナは手間を惜しまず一人一人に名前を聞いてにこやかに接してあげるので、皆大喜びです。
そして時計が9時30分を少し廻った時、入り口で拍手が聴こえ、ジェフリー・チェンバースが先頭になり後から行方不明の二人が照れ笑いしながら入ってきました。二人とも“I'm Sorry, I'm Sorry”と平謝り。「散歩して道に迷いタクシーがつかまらず、店に電話しても話し中、ようやく行きずりの車が送り届けてくれた」との事ですが、店から出て車に乗り込んだと証言するお客様も居て真相はわかりません。ひょっとしたら知り合いが外で待っていて車に乗せてどこかに連れて行き、帰るのが遅れたのかも知れません。もしそうだとしたら、そんなのは本当の友達じゃありません。何はともあれ、これ以上お客様を待たすわけには行きません。即座に演奏が始まりました。 次はゆっくりした4ビートで、マリーナが数年間在籍していたカウント・ベイシー楽団のオハコ、4つ切りの人間国宝と言われたギタリスト、マリーナの友人でもあったフレディ・グリーンの『コーナーポケット』に詞をつけた『Until I Met You』。「あなたに出会うまでは、本当の恋も、本当のキスの味も知らなかった・・・」というラブソングになっています。トロンボーンの様なスキャットを堪能させて、エンディングで、一度終ってから、ワンモアタイム!ともう一度繰り返して更に盛り上げる、有名な『Aprol in Paris』のジングルベル付きエンディングで大団円。 続いて“Three、four、one、two、five、nine”とヒップなカウントを取り今度は16ビート、バンドも水を得た魚の如くにロックンロールしながら、これも古いスタンダード『How Deep Is The Ocean』のリニューアルヴァージョン。チョッパーベースがお腹に響きますが途中で音が急に小さくなって、ベースは当惑、宗竹正浩もアンプのトラブルかと心配そう・・・よく見るとコードのプラグが抜けていました。マリーナは「あんたダンスしすぎよ!」と大笑い。「どんなに深い?How Deep? How Deep?」とピアノやベースにソロを取らせて盛り上げます。 次にドラムがブラシに持ち替え、バラードは『My Foolish Heart』。「あなたの唇が私の唇に近づいて・・・」と唄ってから、「エヘン!」そっと咳払い、そのシーンを想像させます。ピアノのバッキングコードはとても厳しいもので、並みの歌手なら音程を外してしまいそうな伴奏ですがマリーナはまったく動じません。“Your lips, Your lips are close to mine...”と歌い上げるその唇は紛れもなく辛子明太子のような情熱的な唇です。拍手の中にあやめちゃんの天使のように幸せそうな顔が見えました。 でもこのハードな伴奏に対してなのか、「頭痛がしそう!」と鼻歌でつぶやくマリーナが次に歌ったのは『ウーマン・オブ・ザ・ゲットー』、これは単なる愛のソウルナンバーでなく、れっきとしたプロテストソング、作詞作曲にマリーナの名前も入っています。こんな歌詞だったんですよ。 あたしはゲットー生まれのゲットー育ち 淡々と歌い上げましたが、素晴らしい説得力です。女豹の様な昔の彼女の面影が一番感じられた曲でした。 次はイントロに早すぎるとダメ出しして、仕切りなおしの後、自作の『Dangerous』で豪快にスイング。これは、「私は皆さんご存知の手ごわい女、お金は好きでもあくせくするのは好きじゃない。大変な仕事だってやり遂げて見せるけど、いい男を漁るのも嫌いじゃないの、私はアブナイ女、誰もが私の名前を知っている・・・」。これ、「おひかえなすって・・・」という日本の啖呵と似てますね。『大姉御、日本一!』と掛け声を掛けたくなりました。 さて、「草むらで昼寝する様なゆっくりした感じで演って」とバンドに指示してマリーナの語りが始まりました。いよいよ、これがお楽しみマリーナの18番!『Go Away Little Boy』です。この曲を聴かねばLIVEは終れません。もともとは恋人に別れを告げる男の歌ですがマリーナのヴァージョンは、お色気ジョーク連発で笑いあり、涙あり、彼女の楽しさが堪能できる素晴らしい歌なんです。最初の語りでマリーナはこの唄の状況説明をします。 男で失敗し、ジョニー・ウォーカーでヤケ酒すれば悪酔いし、気晴らしに車を買って乗り廻せばガス欠・・・。ほとほとイヤになって587$也のスペイン、バルセロナへのパック旅行に行った。私が帰国するといつもと同じ男が待ってた・・・(訳注:つまりいつもこの歌に登場する男、空港の新聞売り場の店員のことです)。同じ男、同じスーツ、同じ下着・・・。彼が完璧に好みのタイプに合致した主人公は一目でこのカッコイイ男と恋に落ち、男が主人公の家に転がり込んで同棲すると、ニューススタンドの店員にしては贅沢な趣味の彼は、仕事を辞めてしまいヒモ同然。それでこの唄の主人公はそんなふがいない彼とはきっぱり別れる事を決意して・・・(訳注:テンポが良くて楽しいので昔英語の勉強に散々聴いたお気に入りのエピソードは日本のお客様だったので残念ながら割愛されました)。 それから「可愛い人、もう出て行って」と唄に入ります。この前置きだけでコミックソングと思ったら大きな間違い、ダイナミックでしかもホロっとするマリーナならではの素晴らしい歌唱です。最後にお別れのキッスを・・と歌い上げてから、だんだんそのキスがディープになって、「いやっ、ダメダメ…瞼にキスしないで、ウーン、そこ吸わないで(色々想像させますね)・・・止めて!」。抵抗してみたものの最後には彼の魅力に降参し、結局は「仕事を見つけると約束するんならもうちょっといてもいいわよ」と言って終る唄です。彼女のお色気とユーモアが発揮された最高の1曲で大満足でした。 続いてOne, two, one two, three, fiveとまたまたカッコいいカウントで、“ルイ・アームストロング、ルイルイ”と軽快な2ビート、私もこの曲は初めてでした。ピアニストの譜面を覗くと『Is You or Is You Ain't My Baby?』とタイトルが書いてありました。「いい男をさがそう、(バンドに)あらここに居た、何でもしてくれる男、私をリードしてくれる男・・・」。多分サッチモが歌っていた古い曲でしょう。スキャットを入れて「男は変な生き物さ、あんたは私のベイビー?それとも違うの?」と各ミュージシャンに尋ねてソロを促し、最後はルイ・アームストロングの物真似で最高に楽しく終りました。 続いてはスピリチュアル、「さようなら、私はもう行かなくちゃ、あなたにも あなたにもあなたにもサンキュー、あなた達が人生の支え、どうもありがとう。また会える日まで!」と最後のお別れの曲に会場は大きな手拍子です。それから歌詞は賛美歌になり、「ジーザスが与え給えた小さな光を輝かせ給え、Let it shine...I'll testify while I have a chance..., 神がチャンスを与えてくださったこの試練、この機会に私の信仰を証明しよう・・・」と信仰溢れる言葉が続きますが、「(神よ)あなたがいらっしゃらなかったら・・・」と歌い踊って、大きなお尻で、遅刻ピアニストに爆弾攻撃!(プロレス好きの寺井師匠に聞いたところでは、昔のレスラー、サンダー杉山の得意技で『雷電ドロップ』というそうです)。見事に遅刻マンに天罰が下されました。バンドのメンバーをコールした後、後ろにいた寺井尚之を呼んで熱い抱擁!寺井も嬉しそうです。
時間はもう11時近くなっていましたが、お客さんは総立ちです。会場の皆の顔に喜びと元気がみなぎっています。コンサートの前にこんなのはジャズじゃないと言っていた常連さん達は、私の企みどおりに彼女の名人芸に完璧にノックアウトを食った模様です。濡れた黒いダイヤモンドの様に、マリーナ・ショウの顔も首筋もピカピカ光っています。 拍手の鳴り止まない会場にマリーナが『Feel Like Makin' Love ?(メイクラブしたい?)』と呼びかけると沢山のチャーミングな女の子達がYEAH!と大歓声?「あなたが私を暗いところに連れて行き、あなたの腕が私を抱きしめる。そんな時私はあなたとメイクラブしたくなる・・・あなたはどう?」。もう女の子達は大喜びです!甘さの混じった迫力ある声で歌う誘惑の愛の歌で、この最高の歌手の夜は終りました。 終演後食事せずにすぐホテルに帰ると最初は言っていたマリーナでしたが、夜が更けるまでビールとカールトンを手に、新しい同志、寺井尚之といつまでも話しこんでいました。ビッグアーティストのマリーナに、OverSeasのように楽屋もないクラブで最高の演奏をしてくれた礼を寺井尚之が言うと、マリーナは大きな目を丸くしてから再び細め、しばらく考えてからこう言いました。「私はいつもこう思っているの。私、自分の唄には値段を付けられない程、最高の価値があると思っているわ。だからどんな良い演奏場所でも私に満足する支払いをしてくれるところなんてないのよ。だからいいの、そんな事、ここで唄って楽しかったわよ。お客さんもよかったしね!本当にありがとう!」。なんという思慮深い答えでしょうか!そして彼女のユーモアのセンスに話題が移ると、彼女はこう言いました。「母はいつも幼い私にこう言ったわ。人生は悲しい事が多すぎる。難しい顔をしていては生きて行けない。だからどんな時も笑って過ごしなさいって」 スイングしなけりゃ意味がない!今夜のマリーナ・ショウはどんなビートであろうと常にスイング! セクシーでガーリー、頭の中はとびきりクールで心はウオーム、気高い女の中の女、マリーナ・ショウ。翌朝彼女は再びお気に入りのむなぞう君に見送られ、次の公演地へと颯爽と旅立って行きました。 |
今日のライブ 1部終了後、ピアニストのクラレンス・マクドナルドとドラマーのロン・オーティスが散歩に出かけたまま迷子になり、2部の開演時間をとうに過ぎても戻ってこないという大ハプニング・・・。自転車で来ていた私も、北浜や淀屋橋の方まで探し回って汗だくでした(梶山先生まで必死の捜索、お疲れさまでした!)。途中で同じく自転車で探し回っていた宗竹さんと会ったら、「パチンコ屋にはおらんかった!」とのことで、その時は必死でしたが、いま思い出すと笑えて仕方がありません。さすがにパチンコしていたら殴り殺していたでしょう。 写真係の私は、マリーナさんからメールアドレスまで教えてもらいました。この幸せ。明日から私とマリーナさんは<メル友>なのでヨロシク。 ↓↓↓マリーナ&ファンのギャル(オジサン達の目の保養) ↓↓↓マリーナ・ショウのリハーサル風景 photo by Tamae Terai ↓↓↓帰る前、店へのお礼か明日の練習か、ピアノの伴奏でさらに1曲歌ってくれたマリーナ ↓↓↓マリーナと故・黒澤明監督との2ショット(ウソ、寺井師匠のお父さん) ↓↓↓マリーナ・ショウへ感謝の1枚 |
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