Sir Roland Hanna サー・ローランド・ハナ piano 1932年生まれ。 トミー・フラナガン同様、デトロイトが生んだジャズの巨人の一人。 ジョージ・ムラーツとの名コンビやサド・メル・オーケストラ、 またソロピアノの名盤でも人気を博す。 卓抜したテクニックと強烈なスイング感、 デトロイト派ならではの気品は、 現在<ジャズ界最高の巨匠>の名にふさわしい。 |
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青森善雄(ベース) |
青森英明(as, ss, cl) |
クリス・ロゼリ(ドラム) |
曲目 第2部 |
賢者の贈り物 共にデトロイトの気品と洗練さを兼ね備えたトップ・ピアニストに成長した2人のキャリアの比較は、今後の<寺井尚之のジャズ講座>に譲るとしますが、生涯自らの演奏に徹頭徹尾精進し、基本的に弟子を取らず、ブラックな音楽美を追求したフラナガンに対し、ハナさんは自らの音楽活動だけでなく、後進の育成にも情熱を持っています。クイーンズ・カレッジなど音大で教鞭を取るだけでなく、キャンパス外で優秀な弟子たちに共演のチャンスを惜しみなく与え、現在は愛弟子の新進ピアニスト、ジェブ・パットンを強力にプッシュしています。それは自分が天から授かった音楽という贈り物を、今度は自らが賢者(The Magi)となり次世代に与える重責を担う姿にも見えます。トミー・フラナガンから大きな遺産をもらった寺井尚之が、自分の生徒達にその財産を分け与えようと骨身を削る姿勢と共通するようにも見えます。 もうひとつのハナさんの特徴は、クラシック音楽とジャズを同じ視点で捉えていることです。6月20日に新譜のジョン・ルイス集『MILANO, PARIS, NEWYORK』(ジョージ・ムラーツ.b、ルイス・ナッシュ.ds)が発売されましたが、ハナさんはクラシック音楽とジャズとの垣根を取り払ったルイスに大きな共感と尊敬を抱いています。 最高の調律師 というわけで、ハナさんのサウンドチェックは数秒で完了。開演まで、珍しくハナさんとゆっくりお話をする時間が持てました。何はさておき、まずトミー・フラナガンの話です。亡くなる1ヶ月前にハナさんが自宅で開いたパーティで、トミーがエレクトリックピアノを弾いてくれた事、また病院で最後にトミーを見舞った時の事などを聞き、私は不覚にも涙がこぼれてしまいました。するとハナさんはきっぱりと、「私はトミーが亡くなってもちっともめそめそしていない。今までもコールマン・ホーキンスを始めとして多くの人の死に立ち会ってきた。私はこれからも頑張るよ」と言われました。私達にとって最高の励ましの言葉でした。 そして、話題はハナさんの新譜『ミラノ、パリ、ニューヨーク』へと移りました。これはジョン・ルイス作品集で、ライナーノートはOverSeasでおなじみの気鋭の評論家後藤誠さんです。多忙な後藤さんがライナー原稿の英訳を私に依頼し、ハナさんに原稿のチェックを大阪でされるよう伝えていたので、ハナさんも心待ちにしていました。レポート用紙に7枚びっしりという長尺の原稿を一語一句仔細にチェックした後、ハナさんは「Good Job! よく書けてる。マコトは熱心な批評家だな。私の言った事を正しく記述している。とても誠実だ!」と、後藤さんに代わってお褒めの言葉を頂戴しました。
ハナさんの新譜 『ミラノ、パリ、ニューヨーク』 (VENUS TKCV-35303) さて開演 「アリガトウゴザイマス!私は日本で演奏するのをとても楽しみにしていますが、とりわけ大阪のここOverSeasは、皆さんの温かさを感じて、演奏に喜びを感じる場所です。なぜなら私の敬愛するトミー・フラナガンにとって第ニの家のような場所であるからです。トミー・フラナガンがここに来はじめた頃、私にこう言ったんです、『この間海外(overseas)で演奏してね…』。で、私が『へえ、海外でね、で、何という名前のクラブで演ったんだい?』と訊くと、『だから"OverSeas"って名前のクラブなんだよ!』というような事で(笑)、私も、まもなくヒサユキと知り合いになり度々演奏に伺うようになりました。 拍手の中、「スペシャルゲスト」と呼んで青森英明君を紹介。ソプラノサックスで、曲はハナさんのオリジナル『Tresures Lost(失われた宝物)』。『A Gift from The Magi(賢者の贈り物)』というソロアルバムに収録されています。トレジャーは宝ですが、人でも物でもかけがえのないものがTresureです。亡くなったジャズの巨人達への追憶の曲なのでしょうか?少しはかなげでクールな音色のソプラノが哀愁のあるスインギーなテーマを取ります。ピアノソロになると、天井知らずにせり上がるハナさん節が何種類か飛び出し、会場全体が喜びで満たされました。
拍手の終わった一瞬の静寂の後、ハナさんの好きなモネの絵を思わす神秘的なイントロが流れます。こういう入り方、心の掴み方はトミー・フラナガンや寺井尚之と共通のものです。ワイルドなトーンのアルトが奏でたテーマは、なんとビリー・ストレイホーンの名曲『イスファハン』。ハナさんのデューク・エリントン作品集(ソロ)にも収録されており、同郷デトロイト出身の親友ペッパー・アダムス(bs)が癌で亡くなる直前、ハナさんがこの曲のレコードを見舞いに持っていったという逸話もあります。このうねる様なピアノソロは一部のクライマックスでした。私もこの曲を生で聴くのは初めて。ピアノの凛としてふくよかな音、ダイナミクスは、どんな高級なオーディオでも味わえません。ストレイホーン作品に内在する“華”のイメージが満開となった名演でした。 続いて昨年も演奏された御馴染みのワルツの難曲、『レット・ミー・トライ』。ハナさんが先にメロディを提示し、ソプラノの英明君にバトンタッチ、ソプラノサックスによる完璧な音程の背後で、絵描きが仕上げの筆を入れるように、ハナさんが強烈な陰影を付けて行きます。このダンサブルな演奏を聴くとカルテットの実力が昨年に比べ格段にアップした事を実感しました。ピアノのアドリブになると無伴奏ソロとなり、一転、絢爛としたロマン派の世界が現出します。ラストテーマで再びカルテットに戻り、ピアノのオブリガードが桜吹雪のように舞い散りました。 続いてやはりソプラノで、シンプルで可愛い3拍子の曲『マイ・シークレット・ウイッシュ』が続きます。これもソロアルバム『A Gift from The Magi』に収録された作品です。ピアノソロでの下降するきらびやかな3連符は、寺井尚之もよく使うウルトラCで、親近感を感じました。 このあと1部は、昨年も演奏した『Forget About April(四月のことは忘れろ)』という、『I'll Remember April(四月の思い出)』の進行を元にハナさんが書いたオリジナル曲で終了しました。 次はカルテットとなり、ハナさんが再び青森英明君をスペシャルゲストと紹介します。「なぜスペシャルなのかというと、14歳の時クラリネットを吹いている彼を発見し、私から一緒に演奏しようと誘ったからであります」と最大級の賛辞で英明君を紹介しました。曲は、これも寺井が5月に録音した『ジス・タイム・イッツ・リアル』。曲名を聞いた途端、最前列の児玉さんがまるで自分の出番であるかのように、なんとも言えぬ表情で顔を紅潮させたのが印象的でした。実は、ハナさんはこの曲を寺井尚之が録音した事と、最前列の児玉さんの練習曲だという話を聞きプログラムに入れたのでした。こういう所も寺井尚之と同じです。前回のレポートにも書いたように、恋多き女性フレンチホルン奏者の言葉から作った美しい曲ですが、件のホルン奏者はハナさんがこの作品で自分の恋愛を暴露した事に大変憤慨したそうです。長らく演奏していなかったようで、演奏前に青森さん達も緊張していました。クラリネットの英明君が奏でると、むしろ初々しい乙女の初恋の様でしたが、ハナさんのソロになると、その女性は急に成熟し、甘い香りを放つロマンチックなモチーフが次々に現れ、独壇場となりました。 さて、ここで再びハナさんが話し始めます。 これも初めて聴く曲です。きらびやかな前奏から紡ぎ出される音、ハナさんの息遣い、高揚感に溢れるピアノソロを聴くと胸が一杯になります。寺井尚之はハナさんの後方より伸び上がって必死の姿勢、やれやれ、また肩こりがひどくなりそうです。カルテットになると緊張をほぐすかのようにボサノバで、クラリネットがテーマを取ります。アドリブに入ると、中音から高音域をまたがるクラリネットでは至難のパッセージもなめらかにソロが披露され、ハナさんは、もっと羽ばたけといわんばかりにバックであおりながら飛行速度を設定、変化に富む演奏となりました。
次の曲もまたハナさんの解説付きです。 続いてちょっとモンク的なブルース、『カメオ』(珠玉の短編)。イントロにハナさんの左手で繰り出されるベースラインは、強烈にスイングしていて、まるで、カルテット全員に乗った船をぐいぐい進める力強い船のこぎ手、同時に優等生に不良の作法を教える番長のようでもあります。青森英明君のクールなアルトの音色は、クリーンなアート・ペッパーのようです。ハナさんは自分のソロになると、物凄く速いオクターブ奏法をくりだし、ガオゥと唸りました。続く善雄さんのベースソロ、くぐもった音色で渋い感じ、もう1コーラス聴きたかった。 「次はヨシオ・アオモリの為に作曲した、『ソング・フォー・ベース』です」とハナさんが紹介し弾き始めたブルージーでファンキーなイントロ、スゴイ!と、思いきや「あ、違った、こりゃ『アフター・アワーズ』だった」とフェイントをかけ仕切りなおし、青森善雄さんの弓の音色が生かされた変則ブルースです。ハナさんのオブリガートが強烈にスイング感を煽ります。ピチカートのソロを取る善雄さんに「Yoshi!」とハナさんがコール、会場は大喝采です。 最後は『アイラブ・ビバップ』、このカルテットのアルバムのタイトル曲です。アルトからバップフレーズが次々と繰り出され、盛り上がったところでハナさんのソロは無伴奏、力強い左手のストライドから、天井知らずにせり上がる、ハナさん独特の魔術フレーズや、テイタムの秘技も飛び出しエンジン全開、ベースからドラムと全員にソロを回し、非常にこなれたプレイで締めくくられました。会場は1年ぶりのカルテットの成長に感激!やんやの声援、総立ちの拍手です。 アンコールは勿論ピアノソロで、『マイ・ハート・ストゥッド・スティル』。フランク・モーガン(ts)が名ピアニスト達と作った名盤『You Must Believe In Spring』にハナさんのピアノソロで収録された、寺井がハナさんで最もお気に入りとするトラックです。普通Fで演るのを、ハナさんはA♭で演ります。A♭がハナさん好みの音の色なのでしょうか? 会場は再び息を呑み、心臓の鼓動を忘れるほどという曲のタイトル通りになりました。寺井尚之は覗き込む後姿に力が入っています。ピアニッシモでも朗々と響くピアノ、次々と繰り出されるウルトラC級の技、左手で表現するゆったりした鼓動が乱れて行き、どんどん速まり遂には激しい動きのアルペッジオに次々と変化し、その心臓の鼓動のもとで、恋と夢を語る右手が、大オーケストラよりも壮大なドラマ世界を作り出します。小柄なヴァーチュオーゾの桁外れに大きなソロ演奏は、充実感と余韻が残り、終わって見ると、魔法が解けたかの様に、今までのドラマは一瞬の炎の様な出来事であったのか、それとも長い夢であったのかも判然とせず、ただただうっとりするばかりでした。 ブラヴォーの歓声の中、ハナさんは、感動に目を潤ませる若きピアニスト達の肩を叩いて激励しながら退場していきました。 終演後のハナさん 今夜、熱心なピアニストが余りにも多かったのに大いに触発されたハナさんは、いつかここで、学生達の為に講演をして、質疑応答をするインターアクティブな機会を持ちたいという強い希望を持っています。その講演は奏法解説ではなく、音楽とは何か?というピアニストだけでなく私達リスナーにとっても聞き逃せない根本的なテーマにしたいということでした。 翌朝、ハナさんは定刻よりずっと早くホテルに迎えに行った我らが送迎部長むなぞうくん(彼もピアニストです)を朝食に誘い、クラシックとジャズを全く区別しないハナさんの音楽観や、むなぞうくんがこれから聴くべき音楽について、出発時間を惜しみながら30分余り色々語ってくださったそうです。むなぞうくんのピアノ人生に於いて最大のパワーブレックファストとなりました。 バンドスタンド上のプレイのみならず、ピアノの椅子を降りても、少しでも音楽の素晴らしさを伝えるため、真心と情熱を持って接してくださるマエストロ、サー・ローランド・ハナ。その努力を無にしないようにOverSeasも全力でハナさんの情熱を受け止める努力をします。 ジャズ界を代表する巨匠ピアニストと、弟子たちのカルテット。そして、ハナさんの講演会もOverSeasは心から楽しみにしています!我等がオジキ、ハナさん、また来て下さい! (左から)寺井珠重、寺井尚之、サー・ローランド・ハナ |
投稿日 6月5日(水)01時31分 投稿者 管理人 ワールドカップの日本対ベルギー戦もなんのその、超満員のお客さんが集まった今夜のライブ。内容も1年前に初めてこのカルテットを聴いた時よりずっと凄かった。昨年はハナさんの体調不良が気になりましたが、今日はもうとてもお元気で強烈なプレイを連発、本当にうれしかったです。青森善雄さんに再会できたのもうれしかった。 また、終わってから運良くハナさんと初めて2人で長い時間話すこともできました。私の拙い英語力におつきあいさせて申し訳なかったですが、ハナさんが自分のベストだと認める名盤『24のプレリュード』のこと、エディ・ロックさんのこと、コールマン・ホーキンスのことなど、半分くらいしか理解できてませんが、いろいろ貴重な話を聞かせていただきました。そうそう、元ハナさんの生徒である竹田さんの話もしました。 私のカメラを見て、「それデジタルカメラだろう?今日たくさん若い女の子と写真を撮ったけど、ウチにメールで送ってこないでくれ。ワイフに怒られるから」と茶目っけたっぷりに言っていたハナさん、あと20年は毎年OverSeasで演奏してほしいですね。 今日は満員盛況、特に、遠来のファンや、ピアニストの弟子たち、はるばる小遣いをはたいてやって来た学生たち、またいつものOverSeasの常連に再会しハナさんも大喜び、終演後、“本当はもっと音楽についてバンドスタンドで語りたかった。”と言ってはりました。ハナさんも70歳、これから30年も弾き続ける事は多分無理、それならば、この瞬間を楽しみたいと思う気持ちで胸が一杯になった夜でした。ソロの名演、また青森さんたちの進境も著しかった今回のコンサート! ちなみに同じアルバムの3曲目にはこれまたなぜかトミーさんのソロで"With Malice Towards None"が入っており、その名演は寺井師匠をして「これなしでは生きていけない!」と言わしめているほどです。<第1回OverSeasパーティ>のクイズコーナーでも「寺井師匠が日曜日の夜に必ず聴く3曲は?」という問題で出題されていて、上記の2曲プラス、トミーさんのジャズパー賞受賞記念アルバム『The Jazzpar Windtet』の7曲目に入っている"But Beautiful"、または、ビリー・ホリデイの『Jazz At The Philharmonic』の12曲目に入っている"You Better Go Now"が正解です。 ↓↓↓持ってない人はワルツ堂カリスマ店に行ってカリスマ三村氏に注文しましょう。 ところで今朝、ハナさん一行を伊丹空港までお送りさせていただいたのですが、その際、とても貴重な経験をすることができました。出発予定時間より早めにホテルのロビーに着くと、ちょうどハナさんも荷物をもって出てきたところでした。挨拶を交わすとハナさんは、「今から喫茶室で朝食をとるけれど、君も一緒にどうか」と誘ってくださいました。それから出発までの約30分ほど、ハナさんはそこでいろいろな貴重なお話をしてくださいました。 昔と違いジャズが大学などで教えるべき対象になっている現在のジャズ事情、トミー・フラナガン氏のこと、アート・テイタムやテディ・ウィルソン、ナット・キング・コール、ジョン・ルイスetcからクラシックまで、ハナさんが「誰か一人というのではなく、たくさんのたくさんの音楽家」から影響を受けていること・・・など。なかでも印象に残ったのは、「世界中にはピアノを演奏する人はたくさんいて、優れたピアニストも多い。その中で長年ピアニストとしてやっていくのは、私にとって簡単なことではない。でも、フラナガン氏にとってそれはたやすいことのように私には思えた。・・・彼は高校生のときにすでに、アート・テイタムと同じように弾くことができた。」 英語にしても音楽に関しても未熟な私には、ハナさんの言ったことすべてを理解することはできなく、私よりももっと理解力のある方々に聞いてもらいたかったという気持ちで一杯です。私がホテルに着いたほんの数分後にやってきた金ちゃんも後でその話を聞いて悔しがっていました。 過密スケジュールにもかかわらず、疲れも見せず次の演奏地へと旅立っていったハナさん一行。来年もまたOverSeasに来たいとおっしゃってました! 実は前回、コンサートの時には遠い席のせいもあり、疲れてる様子もあり、心配していたのですが、全くそんな感じはなく全身でパワフルで、いつもの奇麗な響きに、指は動く動く、両手同じ位置で上になったり下になったり、鍵盤の上から下まですべて使いまくり、重音は広がりを感じ、Saxとユニゾンを奏でるとSaxの音に優しい厚みが加わり・・・感動です。 1stの5曲目だったかなぁ。ピアノソロでスタートした曲では、いつものHANNAさんワールドが聴けて、超ラッキーな席に感謝です。いつもHANNAさんの音には感動させられます。音が重なるぎりぎりで次の音にバトンタッチされて、そこから厚みあるクリアーな響き、指の動きを見ても私には当然わからない、少々押さえつけるような弾き方に見えるのに・・・なんで弦に響かせる事ができるのか?あ〜ん、もっと聴きたい〜と、2ndまで聴いちゃいました。実はHANNAよりだんごの計画もあったんですけどね。(失礼しました) |