2001年10月30日(火) Jane Monheit ジェーン・モンハイト(vo) Michael Kanan マイケル・ケイナン(p) Joe Martin ジョー・マーティン(b) Rick Montalbano リック・モンタルバーノ(ds) Joel Frahm ジョエル・フラム(ts)
ジェーン・モンハイトは1977生まれのNYっ子。音楽一家に育ち、1998年、数あるジャズのコンクールの内でも現在最も権威あるセロニアス・モンク・コンペティションでヴォーカルコンペが行われた1998年に(毎年種目が変わります。)2位を獲得しました。しかし、彼女を押さえて優勝したのは、その昔ポスト・エラ・フィッツジェラルドと謳われ、当時60歳を越えていた伝説のヴォーカリストで受賞の翌々年に惜しくも他界したベテラン歌手、テリ・ソーントンでしたから、彼女が一番注目すべき新人であったことになります。 ことジャズに関しては流行りもんに全く興味のないOverSeasと寺井尚之です。しかし、名プロモーター西陰氏は「どーしても大阪で演りたい!」と、たっての希望。それでもなかなか首を縦に振らない寺井尚之でしたが、アルバムを試聴すると、「なかなかええわ。声が可愛いし厭な癖がない。呼ぶ事にした」とコロッと態度を軟化させ、1979年開店のOverSeas史に残る、ファッショナブルなピチピチ美人ヴォーカルによるLIVEが初めてここに実現したのでした。 彼女に同行するカルテットで私が知ってる人は、ジミー・スコット(vo)の伴奏者でもあるピアニストのマイケル・ケイナンだけ。でも知ってると言ったって、食事に来て寺井の演奏を聴いていただけで、プレイを聴くのは今回が初めてです。先月ジミー・スコットのツアーで来阪したマイケルに、初めてピアノを聴けるのを楽しみにしてますと言うと「ジェーンはCDよりもずっと生の方が良いから期待してて!」と太鼓判を押してくれたのでした。 昼過ぎに戻って来た送迎部長のむなぞうくんに一行の様子を尋ねると「ベースとドラムがめちゃ男前やった」と嬉しい知らせ!助手のブルーボーイ大垣くんも「あっさり醤油味の男前・・・」と言っています。ますます、本筋からはずれた期待も膨らみます。肝心のジェーンちゃんは?と尋ねると、むなぞうくんが「うーん、どっちか言うと、1枚目のアルバムの写真に近かったです。ジーンズ姿で全然スター気取りしてませんでした」。ナルホド・・・それなら声は良く出るだろう・・・。
スタッフの拍手に迎えられ、ちょっと恥ずかしそうな笑顔で入って来たジェーン・モンハイトはローライズのヘソ出しジーンズで、写真よりずっと赤い毛を無造作に束ね、サングラスをカチューシャ代わりにしています。片手にペーパーバックスを持ち、挨拶がすむと隅の椅子に座りセッティングの間、会場をチェックする事も無くひたすら本を読んでいます。写真よりずっとふっくらしていますが、やはり美人で、スターというよりは女子大生のようです。さっとピアノに座ったマイケルが、名調律師川端氏の仕上げに満足そうな顔をしてひたすら弾き始めたのは、そうです、寺井尚之ピアノ教室の最初の課題曲、『ゼア・ウィル・ネバー・ビー・アナザー・ユー』だったんです。それから循環のバド・パウエルラインで、寺井尚之は「こいつパウエルが好きなんや!」とにんまりしていました。やたらドラムのセッティングに暇が掛かった後、やっと歌のチェックが始まりました。歌い出したのは『チーク・トゥ・チーク』。テナーのジョエルがこまめにモニターや、音量のチェックをし、ジェーンちゃんがお客さんにアピールし易く、伴奏と自分の声をモニターしやすい位置を考えて優しくアドヴァイスしています。若いジェーンちゃんの為に、マイケルとジョエルが色々と気配りしていて、西蔭プロモーターもお父さんの様に優しく見守っています。皆でベストポジションを協議し決議すると、あっさりサウンド・チェックは終了し、その後はコンサート後に出すディナーのチョイスに、メンバー達がサウンドチェックに負けないほど気合を入れテキパキ決めてくれたので、私は本当に助かったのでした。 1曲目はミディアムテンポのスインギ−なガーシュインチューン、『誰にも奪えぬこの思い』。とっても可愛い魅力的な声でスイングし、お客様の心を即座に掴みました。合間のジョエルのソロも役割を心得た出過ぎないもの。アウトコーラスで初期のエラを思い出すダイナミックなフェイクが出て私は大満足。 「初めての日本ツアーでとても楽しんでいます」と簡単に挨拶してから、イントロなしで出たのはサラ・ヴォーンの名唱で知られる古い歌曲、『モア・ザン・ユー・ノウ』。ピアノとのデュオからカルテットへ盛り上がり、マイケルがエロール・ガーナ−ばりのソロを聴かせます。CDに収録されたヴァージョンでは、巨匠ケニー・バロンの超名人技が聴けますが、それに引けを取らぬほど細やかなプレイ、やるな、このニコラス・ケイジ。エンディングではジェーンちゃんが厳しい音程をビシッと決めて大喝采。 次はガラッと雰囲気が変わって、セルジオ・メンデス作のロマンティックなボサノバ、<空には余りに多くの星、どの星を選べばいいの、人生のどの途を選べばいいの?>と夢見る乙女心を歌う『ソー・メニィ・スターズ』。CDヴァージョンで少し感じた彼女の歌詞の発音上の問題点が嘘の様に消えていて、稽古の跡に感服!彼女のフレッシュな魅力が一杯のヴァージョンでした。 今度は「マイケル・ケイナンのアレンジで新しいレパートリーです」と、ジュリー・ロンドン等の美人女性ヴォーカル御用達の歌、『ゲット・アウト・オブ・タウン』。<あなたに心底惚れて手遅れになる前に、早く町から出てってよ>と、ちょっと婀娜(あだ)な大人の女性の色香が出ました。ジェーンちゃんはさり気なくきっちり歌ってますが、このバックのパターン、実力のない歌手なら音程を外してしまうでしょう。最後の“Get out of town”の"t"をchと発音して、ちょっと背伸びした女の可愛さが出ました。 男前のベーシスト、マーティンのイントロから始まったのは、かつてビング・クロスビーがヒットさせた『ヒット・ザ・ロード・トゥ・ドリームランド』。ジェーンの温かな声にぴったりの選曲で、引き続き色っぽい雰囲気です。ベースソロの間に長い赤毛をかき上げ、胸や腰に手を当てる仕草にノックアウトされた1番テーブルの末宗俊郎先生の目がハート型に変形してます。 次は、ピアノだけの伴奏で名曲『遅い春』。エラ・フィッツジェラルドとトミー・フラナガンが不朽の名盤『サンタモニカ・シヴィック』で歴史的名唱を生んだ至難の歌で、なんとこの歌を10歳の時に覚えたと言っていた彼女は、やはり並の可愛い娘ちゃんではありません。寂しい春の想いをヴァースから淡々と歌い上げる彼女の実力はさすが!会場全体がうっとりとしています。 これで一部のプログラムが終わるのかと思うと、ジェーンちゃんは会場の雰囲気に気を良くしたのか、「バンドの皆さん、急いで休憩に行かなくてもいいなら、少しステージの時間を延長してお客様の為にもう1曲歌っても良いかしら?」。マイケルが、「ボクハ、キュウケイシタイヨ…」とふざけて、まるで急いで逃げていくロボットの足音のようにピコピコ弾くとジェーンちゃんが屈託のないとてもキュートな笑顔を見せ、アントニオ・カルロス・ジョビムのプリティな曲“3月の水”を歌い始めました。ジョエルのオブリガートを聴いているとズート・シムスとルネ・グスタフスンのヴァージョンを思い出します。ふとカウンターを見ると、カリスマ三村氏がいつになくデレデレと嬉しそう・・・携帯ストラップを私の方に振るので良く見ると、"SHIGEKO SUZUKI"と書いてありました。あっ、そうか!三村さんが妹の様に可愛がっているヴォーカリスト、鈴木重子さんの持ちネタなんですね。 ラストナンバーはアカペラから『虹の彼方へ』。素直でクセのない唱法で、彼女の丸みがあってよく伸びる声の魅力が最大限に生かされました。 アンコールは、スタンダード『チーク・トゥ・チーク』。アウトコーラスのフェイクの仕方と音の飛ばし方に、やはり初期のエラの影響を感じます。鼻の奥から脳天に突き抜けるような発声の出来る歌手は最近聴いた事がありません。自然なコブシは爽快そのものです。 休憩中はジェーンちゃんに着替えやお化粧直しが必要だろうから、ホテルの部屋に送ると言うと、ジェーンちゃんは「戻ったってすることないもん、アタシここに居る!」と宣言!お客様達がサインや写真を次々ねだりに来ても、疲れた様子も無く、全くイヤな顔一つしません。サウンドチェックで読書に没頭していた文学少女の面影はなく、フレンドリーなプロの顔になっていました。 さて、ハッピーな雰囲気のまま、いよいよ2部が始まりました。オープニングはまたカルテットによる演奏で、AABA形式、サビで転調する、初めて聴く曲でハード・バッパーのオリジナルかと思いましたが、翌日むなぞうくんに調査してもらった結果、R.ロジャーズの曲で"The Gentleman Is A Dope"というタイトルと判りました。ジョエル・フラムの安定したプレイはかなりなものです。 ジェーンが登場しての1曲目は彼女のデビュー作での1曲目にも入っている『プリーズ・ビー・カインド』。<これが私の初めての情事、だから優しくお手柔らかに、誠実に愛してると言ってね、恐がらなくてもいいと言って・・・>という歌詞。若く清純なジェーンちゃんにこそ許される曲、CDで聴いた彼女のレパートリーの中でも私が一番良かったと思う曲です。再びエラを思い出す脳天に突き抜けるフェイクが聴けて快調なスタートです。 続いて「私の新しいレパートリー、皆さんに気に入ってもらえたら録音しようと思ってます。自分の街の歌だから、私も好きな曲なんです」と『ニューヨークの秋』をしっとりと歌いあげました。伴奏陣のプレイも秀逸で、決して出しゃばらないのがジョエルのソロ。黒鍵グリスをさり気なく入れ、エラ&ルイでのオスカー・ピーターソンを思わせるようなマイケルも素晴らしい。ラストで見せたリック・モンタルバーノの手打ちのドラミングも可愛かった。 続いては、映画『お熱いのがお好き』でマリリン・モンローがセクシーな名唱を聴かせた『アイム・スルー・ウィズ・ラヴ』、長い赤毛も悩ましく、ジェーンちゃんの健康的なお色気が出てモトドラ氏もうっとりです。 次は7月にOverSeasでマリーナ・ショウも熱唱した『マイ・フーリッシュ・ハート』。ジェーンはバラードではなくラテンリズムです。ナルホド、好きな人が間近にいて、愚かにもドキドキときめく心を唄っている歌なのですから、必ずしもバラードにする必要はありませんね。23歳のジェーンちゃんの心のときめきは、情熱一杯でなかなか新鮮でした。 そして、男前ベース奏者ジョー・マーティンのアレンジで、『ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット』。これも彼女の最新のレパートリーのようです。<星降る夜更けに手に手をとってお楽しみ、ちょいとあんた、うまくやったね!どうすればそんな風にうまくいくのか教えてヨ!>。少し三枚目の、思う存分スイング出来る唄です。テナーとピアノが素晴らしいサポートぶりを見せ、やはりエラっぽいフレージングが聴けました。 次も新曲で、かなりリハーモナイズした『ヴァ−モントの月』。アレンジはマイケル・ケイナンです。キビしいコードですが、ジェーンは安定した歌いぶりでした。スタンダード曲を正攻法で処理した後は、コンテンポラリーなアレンジと、うまく考えたプログラム構成は、レギュラーバンドの努力かも知れません。 ジェーンは「さっきアンコールでも歌いましたけれど、もう一度違うヴァージョンで」と再び『チーク・トゥ・チーク』を始めました。マイケルが先ほどのヴァージョンから変化を付ける為、アーマッド・ジャマール的な面白いフレーズを連発し、大きな喝采を獲得しました。 ジェーンちゃんがお客様に丁寧なご挨拶とメンバー紹介をしてから歌ったのは、レナード・バースタイン作のミュージカル『オン・ザ・タウン』からの名曲で、ビル・エヴァンス自身の、またトニー・ベネットとのデュオでの名演でも知られる『サム・アザー・タイム』。ジェーンの高音部をピアニッシモでサステインするテクニックは素晴らしいの一言。この曲の一番のミソである“Oh,Well”という感嘆詞をよく通る清廉なファルセットで囁くように表現しブラヴォ−!今夜のコンサート全体を通しても、最高の歌唱となったと思います。 アンコールは、彼女がモンク・コンペの決勝で歌ったといわれる、『アイ・ウイッシュ・ユー・ラブ』。別れていく恋人の今後の無事を祈りながらも、愛して欲しいの・・・と願う歌ですが、失恋の歌と言うよりも今夜のお客様への別れの唄として、ちょっとふざけた感情たっぷりのカンツォーネ風のルバートから、カラッとスイングするジェーンに、お客様は惜しみない拍手と歓声を贈り今夜もめでたく終了しました! |
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元気いっぱいのジェーンちゃん♪ Over The RainbowやMy Foolish Heartなどの超スタンダードも、ジェーンちゃんが歌うと、とても今風でキュートですぅ。ドラムスの叩く振りして叩かないアレも面白かったデス。 クラクラクラー ジェーンちゃんは歌いながら帰っていきました。 ↓↓↓今夜のジェーンちゃん 超キュート モトドラ赤井氏をさらにクラクラさせるジェーンちゃんの写真その2 お客様もミュージシャンも同じくらい感動した今夜のLIVE! お答え ジェーンちゃんのその後 一変してまじめなジェーン評 |
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