ヴォーカルの女王、マリーナ・ショウ 2002年6月25日(火)
左からRicky Woodard(ts)、Crarence Mcdonald(p)、 Jeffrey Chambers(b)、Ron Otis(ds)
そしてそこで、マリーナに2つの大きなチャンスが到来します。カデットレコードの名プロデューサー、リチャード・エヴァンスに見出されレコーディングした彼女は、2枚目に出したキャノンボール・アダレイ楽団のヒット曲『マーシー、マーシー、マーシー』のカヴァーシングルが、'67年に新人としては異例の大ヒットとなり、同年デビューアルバム『アウト・オブ・ディファレント・バッグス』を発表しました。このBagsとは無論、袋のバッグですが、今の日本語なら「引き出し」に近いでしょう。たくさんの引き出しから題材を集め一枚のアルバムに仕上げたという訳です。ジャズやブルース、R&B等様々なジャンルから素材を集めてマリーナ・ショウ的音楽世界を構築するスタイルはこの頃からすでに確立されていました。そして、もう1つのチャンスは、たまたまクラブに来ていたカウント・ベイシー楽団の会計士がマリーナの素晴らしさに驚き、御大ベイシーに彼女を紹介したことでした。その結果、マリーナは72年までベイシー楽団の専属歌手として活動し、人間的にも音楽的にも成長、退団後はジャズの名門レーベルBLUENOTEと女性歌手としては初めて契約を結び、ソウルの名盤と賞賛される『Who Is This Bitch, Anyway?』(訳註:「このスケ、一体何者?」)等5枚のアルバムを発表する傍ら、最高のエンタテイナー、故サミー・デイビスJr.の前歌として世界中をツアーし、'76年に来日しています。この頃のレコーディングは音楽シーンのトレンドに合流しディスコ色が強いものばかりです。しかし'77年に、『Yu ma』(訳註:Your mama、日本語にするのが難しいけど、「あんたのおかあちゃんに言いつけてやる!」という意味の子供の言葉です。)というタイトルの語りを付けた『ゴー・アウェイ・リトル・ボーイ』が全米のR&Bチャートで大ヒットを記録します。『Yu ma』は彼女の実生活の体験を綴ったと言われていますが、自立しているんだけれど男性には滅法弱い女性と、ひ弱なマザコン男をたっぷり皮肉って笑わせてから、名唱で泣かせるというロマンチックコメディは、不肖私も含めて女性達の絶大なる共感を集めたのです。'80年代に入ると名門レーベルVerveよりジャズに回帰したライブ盤『イッツ・ラヴ』を発表し、再び私達ジャズファンを狂喜させました。大ステージではエラ・フィッツジェラルドのトリビュート、ベニー・カーターや先ごろ亡くなったレイ・ブラウンといった巨匠のオールスターズに花を添える紅一点の歌手としても大活躍。エラ、サラ、カーメン亡き後、マリーナ・ショウへのコールは高まる一方で、96年以降はコンコードから『エレメンタル ソウル』『デンジャラス』と2枚のアルバムを発表しており、最近日本盤もリリースされました。70年代よりNYを離れラスヴェガスに居を構え、世界中をツアーする傍ら、全米の中学・高校・大学でコンサートや教育プログラムにパフォーマーとして参加し若者達にブラック・ミュージックの素晴らしさを体験させています。 白人美人歌手を偏重したり、ジャズ以外の引き出しが多いことを減点対象にするような排外的な日本の一部のジャズ評論のせいなのか、マリーナ人気はクラブシーンやR&Bの世界の方が高いようで、昨年7月に初めて当店にお招きする迄は、当店の常連さん達にはなじみ薄の感じでしたが、一旦ライブが始まるや否や、聴衆一人一人にアピールする圧倒的な歌唱力と、バンドスタンドから発散されるカリスマ性に全員がノックアウトされました。加えて昨年は、幕間のメンバー失踪事件など、そのことで逆にマリーナ姉御のカッコ良さを引き立てるエピソード満載だったおかげで、前回のコンサートレポートには、メールや電話でたくさん反響を頂きました。拙い文章にも拘らずお読み頂いた皆さん、どうもありがとうございました!
その内に、マリーナ・ショウとジェフリー・チェンバースがやって来ました。彼女は昨年よりもひと回りスリムになっていますが、輝くオーラは変わることなく、入って来た瞬間、店の中がパッと明るくなります。マリーナは肌の色にぴったりのライトブラウンのラウンドネックのニットとゆったりしたパンツのアンサンブルの上にシャクヤクの花模様が入った干草グリーンのゆったりとしたジャケットをはおり、足元はラメのパンプス、光沢のある落ち着いた色調に、キラキラしたブラウン系のメイクアップがぴったりで、ケバくないけれどとても華やかです。ジェフリー・チェンバースは先着の3人と違ってブルーのワイシャツにエンジのタイでハンサムな出立ち、前回はエレキベースでしたが、今日はヤマハのヴァーティカル・ベース持参です。恐らくジャズミュージシャン、リッキー・ウッダードに対する配慮でしょう。いよいよマリーナがバンドスタンドに向かいます。今回もマイクを持って来ていません。一度来ただけなのに、OverSeas自慢のボロPAで自分の声をモニターしやすい場所を完璧に記憶しているようで、すっとベストポジションに立ちました。歌い始めたのは『バードランドの子守唄』、ああ、歌った瞬間からスイングする温かな声! 色んな風に歌って、母音や子音、破裂音の出具合やヴォリューム等を、1コーラスそこそこで、完璧にチェックしてしまう様子は正に職人芸です。 あいにくの天気ですが、徳島のとりあえず大石さんを始めとして、遠方からも続々お客様がやって来ました。昨年はとにかく女性客が多くて華やかだった会場ですが、今年は幾分男性客が増えて6対4位の比率です。
あっと言う間にカルテットのオープニングが終わり、寺井尚之がいよいよ「ヴォーカルクイーン、マリーナ・ショウ!」とコールしました。16ビートのベースパターンに乗って軽快なステップでバンドスタンドに向かう姿に、小さなOverSeasがスタジアムになったかのような物凄い歓声です。マイクの所まで来たらイントロを待たずに即スキャットを始めてお客さんの気持ちをグっと掴みます。歌は『アウト・オブ・ディス・ワールド』、16ビートと4ビートを交互に入れる、得意のスリリングなアレンジですが、マリーナの歌い方を聴くと、ジョニー・マーサーがビートのコントラストを予定して作詞したのではないかと思えるくらい自然です。コーダの所から、恋人の背中を後ろからそっと抱きしめるようにさり気なく入ってくるリッキー・ウッダードのソロは完璧な正統派、ヴォーカルのバックですからでしゃばらないように音量をセーブする所に、かえって懐の深さを感じてしまいます。マリーナのスキャットがテナーソロを招き入れます。“私を別世界に連れてって!”、元々の古典的な歌詞の美しさを残しながらフェイクして、エンディングに来ると、「look out!(さあ、エンディングよ!)」と歌いながらリードして、バンド全体がグーンとギアチェンジして盛り上がります。マリーナが「あたし、大オーケストラをバックにしたバレリーナみたい」と言うと、マクドナルドはダハハと受けていますが、どうやら全員のサウンドを把握しにくいようです。即ジェフがモニターをチェック、チームワークの良さはレギュラーバンドならではのものです。 コンテンポラリーなアレンジの後は、「カウント・ベイシーの音楽を演ります。フレディ・グリーンが作曲した『コーナー・ポケット』に歌詞を付けた、『アンティル・アイ・メット・ユー』は私には忘れられない歌。ベイシーの伝統を守るため、絶対に心臓の鼓動より速いテンポでは歌いません!でも鼓動がバムバムバムって速くなっちゃうと、どうすんのかしら?」ジェスチュアたっぷりでおどける彼女に客席もバンドも大笑い。「心臓の鼓動より速くなってはいけない」とは、ベイシー楽団時代にマリーナがカウント・ベイシー御大から受けたアドバイスです。楽団の中でマリーナと一番仲良しだったのが、名ギタリストの故フレディ・グリーン、若い時はビリー・ホリディをソデにしたほどのイイ男、彼に捧げてステージで必ずマリーナが歌う曲です。そんなことを知ってても知らなくても、楽しい雰囲気にお客さんが和んだ瞬間、絶妙のタイミングで、ゆったり「One, Two , you know what to do」とマリーナ流のヒップなカウントが提示され、ウッダードがエリントンも『サテンドール』で使うお決まりのリフを吹き始めると、R&B系のファンの皆さんも即座にグルーヴを掴み左右にスイングする背中に私は感嘆!「あなたに出会うまで本当の恋を知らなかった。あなたのキスで、冬から春へと季節も変わる…息をするのも忘れるほど…」、最初は甘く、徐々に迫力を増すマリーナの歌に絡みつくようなテナーのオブリガートに、ビリー・ホリディとレスター・ヤングを思い出します。力の抜けたテナーソロがまた貫禄で、マリーナも掛け声で煽ります。エンディングはご存知『パリの四月』、一旦終わると見せかけておいて、「やっと皆の音が聴こえるわ、ワンモア・タァイム!」と更に盛り上げるベイシー流で、客席はヒートアップ、口笛、手拍子、大歓声!お決まりのジングルベルで終わった時には、大興奮の渦、まだ2曲目なのにこんなに盛り上がってよいのだろうか?と心配になるほどです。 熱気むんむんの客席で、すでに汗だくのマリーナは「ドアを開けて!窓を壊して風を入れてよ!」と言いながら冷たい水をゴクリと呑み、突然打ち合わせと違う『シークレット・ラブ』を歌い始めました。ピアノは手探りで音を探しています。それでマリーナはスキャットでオブリガートを指定、ピアノは必死で付いて行きますが、16小節歌って「あ、もうわかんない、I don't know」とNG、でもお客様の前でバンドを叱るような無粋なことはしません。「人間って誰でも何か違うな…って感じる時があるじゃない、今の私がそれ…(爆笑)」と、笑い飛ばす器量を見せ、4ビートから一転、ロッキンなベースパターンに乗ってマリーナの最近のオハコである、『ラウンドミッドナイト』に見事に軌道修正します。「日没を見るのが嫌、だって私の彼氏が行っちまったから…」という『セントルイス・ブルース』の有名なヴァースから「グレイハウンドバスに乗り、マイアミビーチからハリウッドに向かう女の一人旅、夜になり故郷NYの町の灯が遥か遠くに見える…」というマリーナ流のヴァースが付け足され、『ラウンド・ミッドナイト』は、夜行バスの過去を追憶する女のロードソングへと見事変貌します。その女は堅気じゃないイイ女、ちょうど寅さん映画に出てくるリリーのような女です。やはり堅気でないムードのテナーソロと、ベースに完璧にハモるオーティスのシンバル、キャイーンとむせび泣くピアノ…グレイハウンドバスのエアコンの臭いや、通り過ぎる車のヘッドライトの眩しさ迄が感じられるような名唱です。帰ってこない男をひたすら待つ女の耳に聞こえる時計の音、マリーナがチックタックと歌うと、即座にボーンボーンと丑三つ時を告げるピアノ。この辺りの語り口、映画的とも言える情景描写は、歌の錬金術と呼ばれるにふさわしいものです。スタイルこそ違っていても寺井尚之と共通していて大変興味深く聴きました。 さて、共に追憶にどっぷり浸る客席を催眠術から覚ますように、マリーナが猫なで声で前のお客さん達に「誰かメイクラブしたいと思っている人はいる?(Anyone feels like makin' love?)」と問い掛けています。ご存知の甘いメロディは、大ヒット、ご存知『フィール・ライク・メイキン・ラブ』。歌い始まるや否や、R&B系のファンの皆さんの凄い盛り上がりで場内大騒然となりました。今年は昨年より大人向けの解釈で、最初から「灯りを暗くして」から始まります。これは相手役のウッダードのテナーがあるからでしょうか? お決まりのレパートリーでも、決して同じに歌わないマリーナは、やはりジャズシンガーです。「公園を歩き、暗がりで恋人達が愛し合うのが目に入る時、レストランのキャンドルの灯、手と手を握り合う、そんな時がメイクラヴしたくなる時…」、うーんいい感じ、上等のワインのように熟成した声は70年代のスリムなセクシーヴォイスよりずっと風格が出ていますが、声のパレットには数え切れない程たくさんの色があります。出だしは耳元で囁くような甘い声、リッキーのテナーが絡むと、その声は獲物を狙う女豹のような鋭さを帯び更に香りを増します。16小節のシンプルなメロディの繰り返しも、ジャズシンガーの音使いで単調にならず、一層エロチックに思え、湿度の高さと相まって息苦しい程です。「ねえ、自然な感情でしょ、灯りを暗くして!メイクラブしたいでしょ…」挑発に応える逞しいテナーソロに続くマリーナはぐっとドスの利いた男性的な歌い振りにアンドロジナス的な魅力が一杯、女性ファンが熱狂するのも納得でした。 次は四つ切りのコードワークから始まる、『ベイビー・ユア・ザ・ワン・フォー・ミー』。最新アルバム『デンジャラス』からの曲です。「私の中に火をつけて、体を火照らせる、ベイビーあなたは私のもの」、男の歌のようにも聴こえますが、姉御っぽいマリーナにはぴったりでポップなシャッフルと4ビートの緊張と緩和が、色合いの変化をつけます。マリーナはビリー・トレイジェッサーの作風が好きなようで、たくさん彼の曲をレコーディングしています。 歌い終わった拍手の中で、水をおいしそうにゴクリと飲むマリーナ、「おいしい!Baby, Baby,Baby」とシャウト!水を飲んでもお客さんの心を掴むあたり、サミー・デイヴィスJr.の芸風を思い出します。 ピアノとのデュオから始まったバラードは、『マイ・フーリッシュ・ハート』。エヴァンス派のおハコであるこの曲もマリーナが料理すると、熱い血潮たぎる恋の歌となり心に染み入ります。歌詞を大切にして、大事な言葉をはっきりと強調するフレージングは、カーメン・マクレエを思わせるます。「人の心を惑わせる月夜、ときめく愚かなこの心、本当の恋と情事とは別、この人はどちらかと迷いつつ、一度口づけすれば、この人こそ本物と信ずる愚かな心…」情熱と理性の間で迷う美しいメロディと詩を素直に歌い上げます。ええかっこしいのフェイクはありません。歌詞のための誠実なフレージングがカッコいいのです。終盤で「この恋は本物、束の間の魅惑の夜ではない!」とマリーナが歌えば、絶妙のタイミングでマクドナルドがはっきり 「NO! NO!(そのとおり!)」とオブリガートを入れたのには座布団一枚あげたくなりました。「歌は心、歌の持つ『力』を引き出すことを、私はゴスペルを教えてくれた祖母から学んだ」。かつてマリーナは歌に対する信条をこう語りました。シンプルに歌い上げたこのバラードはそんな信条の証明です。歌い終わると物凄い拍手と歓声と一緒に叫び、足踏みして喜ぶマリーナを見て、客席は一層エキサイトします。 ふと我に帰り、「あらごめんなさい!一人で踊っちゃって…」と居ずまいを正し、「one, two, time, eleven,fifty」と一拍三拍でヒップにカウントを取るラストナンバーはサンバで歌う『クライ・ミー・ア・リヴァー』。舞台装置やライティングまで変わったように錯覚するほど雰囲気が変わりました。ロン・オーティスのクリスピーで無駄のないドラムが最高、この人本当にサンバが上手です。昨年のヴァージョンは、自分を捨て他の女に走った男が詫びを入れて戻って来ると、今度はあんたが泣く番よ!となじりながら本当は許してあげるのじゃないかと思わせるような歌いぶりでしたが、今年はもっとタフで、リベンジ色が強く感じられました。1コーラス、スキャットの後、半コーラスのウッダードのソロはへヴィー級バッパーのサンバです。マリーナはエイエイと掛け声を入れ、アウトコーラスへなだれ込みます。エンディングで、色々なパターンを繰り出しテナーとの相性を確かめていたので、ひょっとしたらレコーディングをするのかもしれません。 メンバーの名前をコールする間もアンコールを求めて歓声と口笛がノンストップ、マクドナルドが「ガハハ、YEAH!」とスタンバイ、トリオが水を得た魚のようにオハコのディスコっぽい16ビートのパターンを繰り出すと、「これは私がとーっても昔('74)に録音したとっても古ーい曲-Oooold、Long time ago・・・・」と見事に歌に入っていきます。「あなたを愛する日々は、パーティのようなものだった、毎日がパーティ、失うともう立ち直れない。貴方が私にしたことは犯罪、罪よ、でもいつかきっと立ち直ってみせる!」、マリーナのディスコクーン時代のヒット、『ラヴィング・ユー・ワズ・ライク・ア・パーティ』に、私の隣で立ち見している紳士が若き日を思い出し踊り狂っています。この方の青春もグッドタイムパーティだったに違いありません。どうにも止まらない狂熱のディスコサウンド、そこに突然タイムスリップしたサムライのように、殆ど不動の姿勢で、堂々と間奏を入れるウッダード、元々R&Bの出身だとは信じられない程ストレートアヘッドなプレイです。アウトコーラスは一層姉御っぽいシャウトで泣かせ、エンディングの最後の音をわざと抜いて会場を沸かす憎い仕掛け、子供の頃に見た宮川左近ショーを思い出しシビレました。聴く者の心を最後までそらさない『ツカミ』技に最初から最後まで翻弄された私達、全員が狂喜の涙です! 休憩する間もなく、汗だくのマリーナに群がりサインを求めるファンの皆さんに、ちっとも疲れた顔を見せず応対する彼女には本当に頭が下がります。着替えすることもなしにファンサービスに努め、マダム山口の差し入れたうちわに大喜び。ありがたくも私にはモントルージャズフェスティバルでのライブ盤('74)の中のヴォーカリーズチューン、『トウィステッド』を歌って下さいました。良い楽器と同じで生の声の方がずっと素敵でした!片やリッキーは汗一つかかず涼しい顔、OverSeasのピアノ教室の生徒さん達に優しく声を掛けています。 昨年はクラレンス・マクドナルドとロン・オーティスが休憩中に行方不明になって大騒ぎとなったので(昨年のLIVEレポート参照)、今夜は常連一同警戒モードの中、マクドナルドが外の空気を吸いに、と言って出て行こうとします。すかざず寺井尚之が「どこ行くねん、はよ帰って来いよ!」と釘をさすと、「All Right ダハハ…」とトレードマークのダハハ笑い、本当に明るい人です。おかげで今夜の2部は無事定刻に始めることが出来ました。
さてマリーナがバンドスタンドに登場、聞きなれた16ビートのイントロは、新譜『エレメンタル・ソウル』に収録されている、『ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン』、寺井が指さす方を見ると、リッキーはプロらしくテナーの譜面でなく、Cメロディの譜面で平然と演奏しています。ドラムがさっきの4ビートとは打って変わって、完璧なアクセントポイントにヒット、マクドナルドが「貴方の愛はどれほど深い」という歌の問いかけに、トリルで応えます。 ハードな16ビートから一転、ルーズなムードのピアノのコードワークで始まったのは、『Who Is This Bitch, Anyway』のクロージングで、アルバム中唯一の正調ハッピーラブソング『ローズマリー』です。「シェリー、手に手を取って、誰も居ない海辺を歩きましょう、空にはかもめが一羽だけ…」と歌うと口笛でカモメの鳴き声が入り爆笑、キャイン、キャインとコブシがよく回るマクドナルドのピアノ、「シェリー、私に話し掛けて、キッスして」と歌えば、ピアノやベースがすかさずシェリーとなって応え、ベイシー流のシンプルなエンディングで決めました。 晴天の海辺の散歩から、急に日が暮れて今度は18歳未満お断りの夜の歌が続きます。「On a road sex!」マリーナの掛け声にベースがフィルイン、「NO、NO、ドアは開けないわよ、私の人生に恋人なんて要らない、誰の奥さんにもなりたくない、仕事に愛は必要ないの!」、中略して、すぐに状況が変わります。「でも急にあなたに惚れたの」(爆笑)。ここで本題、スタンダードナンバーの『ニアネス・オブ・ユー』となります。「ああ、だめだめだめ、あなたの傍にいると、あなたをこの腕に抱くと、ああ、もうだめ、惚れちゃった、電気を消して!」と男っぽく歌うと、ベースがブ〜ンとスイッチを切る音を出してまた爆笑、突然燃え上がった恋の相手役は勿論男の色気いっぱいのテナーです。ジーン・アモンズやコールマン・ホーキンスもこんな生音だったのか?と思わせる太い音でオブリガートを入れ、マリーナが「C'mon Baby」と繰り返し誘うままに吹きます。その掛け合いがとってもユーモラスで、マリーナならではの迫真のラブシーンが展開され、結末は次回に続く…と気を持たせます。ジェフが「今のは危険だよ(Dangerous)」とネタを振ります。「あら、誰が危険なの?私が?あらあなただって危険よ!」と、言って乾杯。そうです、次の曲はご存知、マリーナのテーマソング、『デンジャラス』です。軽めのシャッフルに乗って、「皆は私の名前をご存知、私はアブナイ女!」これを聴いてマリーナを『毒婦』と書いていた批評家の先生がいましたが、とんでもない!一見ナスティでも、本当は心の温かいアブナイ女の歌なのです。目の前で歌うマリーナは私達の輝くシスターであり、聖女のように気高いお方です。続くウッダードのソロが骨太で聴き応え充分、するとマリーナは、即座に「彼はデンジャラスね」とリッキーを賛美、マクドナルドにソロを回して、「彼もデンジャラス、皆さんもデンジャラス」と今度は客席を賞賛し、しっかりコミュニュケート。 歓声の中で喉の渇きを癒してピアノにイントロを弾かせ、「年を取ると、時間をかけることを学ぶもの…何でも昔のように早く出来なくなるの。恋もそう…」と前置きして歌いだしたのは『恋に落ちたら』。先ほどの『マイ・フーリッシュ・ハート』はエヴァンス派のレパートリーですが、マリーナの解釈には温かみが生まれます。「このせわしない世の中じゃ、恋は始まる前に終わってしまう。私が心を捧げるなら、すっかり全部捧げたい。そんな気持ちになった瞬間、あなたも同じ思いだと悟った。貴方と恋に落ちる時…」、これは彼女の歌とステージに対する信条に他なりません。しっとりしたベースソロに回すと、あれれ?いつのまにかさっきの『マイ・フーリッシュ・ハート』になっています。区切りの良いところで、マリーナはYES!とベースに拍手をもらってから“Shudd Upp!”と女親分らしく渇! 誠実なジェフは「I am sorry」と平身低頭、さり気なくマクドナルドにコードを指示して何事もなかったように歌に戻る横綱マリーナ親分の貫禄に感動! 再びジェフリー・チェンバースへのコールに全員が大拍手、マリーナ親分は半分歌いながら「もう最悪 ♪・・ブツわよ、でもいいってことよ-Forget About It!」とコブシを回してまたまた大喝采、困った場面でもポジティブに反応してハッピーエンドにしてしまうマリーナの度量の大きさにホロリ、姉御、勉強させていただきました。 さあ、お待ちかねブルースメドレーです。「One, two, three, nine」とリッキー先発でキーはGでへヴィースイング、続くマリーナは名手リッキーに敬意を表し、彼の音楽的ルーツであるジーン・アモンズやソニー・スティットのオハコのブルース『レッド・トップ』を、キング・プレジャーのヴォーカリーズで歌います。器楽的なブルースの次は、古典『Drink Muddy Water』。「惚れたおまえは遊び人、正直の言葉の意味も知らない奴さ。こいつと別れて新しい男に乗り換えたって、どうせろくな相手にゃ当たらない、そんなら、マディ・ウオーターを一気呑み、酔いどれて寝ちまおう!」、マリーナならではのドライでハードなブルースの真骨頂です。回したテナーソロはアーネット・コブのように更に重量感を増し最高です。ウェルター級とへヴィー級ボクサーの強烈なパンチを続けて食らった私は椅子から飛ばされそうになります。最後はバイバイブルースでシャウト、スリルの連続であっと言う間に終わってしまいました。 へヴィー級の後はフェザータッチ、聴きなれたノンシャランなイントロ、いよいよマリーナの18番『ユー・マ〜ゴー・アウェイ・リトル・ボーイ』でコンサートも佳境に入って来ます。マリーナ自身のような仕事を持つしっかりした大人の女性と、可愛いけれど生活力のないマザコン・リトルボーイとの出会いと破局を語る『ユー・マ』のトーク部分は、今夜も日本のお客様向けに、超ダイジェスト版でしたが、初期のレコーディングから25年以上経ち『ユー・マ』の主人公もかなり成長しているようです。まずは耳を傾けましょう。「この恋の喜びをどう説明したらいいの?やっと完璧な男性にめぐり会った私。女の喜びを思うままに味あわせてくれる人。ああ、何でもかんでもBlack is Beautifulが口癖だった彼、でももう別れよう。私たち2人の家、手入れの行き届いた芝生、3つのデカいゴミ箱(笑)、この私が料理までしてあげた、だけどもううんざりよ!…でも彼が私のドレスさえ着なければ(爆笑)、今だってうまくいってたかも…」、どこまでしゃべろうかと一瞬間が空くと、マクドナルドがオカズをジャン!と入れます。するとすかさず、「Don't Bother Me!(邪魔せんといて!)」と突っ込むマリーナ。これは紛れもなくかしまし娘のギャグと同じです。そこでたっぷりと笑いを取って、しっとりと歌に入ります。「ぼうや、もう出て行きなさい、あんたの唇は素敵だけど、もう終わり、私は誰か他の相手を探そう。求められると抵抗できないほど情熱的、でも私達の仲は終わったの。わかるでしょ、出て行って!」そこでシーンチェンジズ、別れの場面です。せめて最後のキッスをとせがむ彼に、「最後のキッスだけならいいけど…そんなに近くに寄らないで、そこはだめ、いやん、…あん、瞼にキッスしないで(なんだ瞼か…)、だめだめ吸わないで…」 迫真のシーンはキッスを拒むジェスチャーと共にどんどんエスカレート、でもイヤらし過ぎず明るいんです。そして、彼の熱い攻撃にとうとう「新しい仕事を見つけて、ゴミをちゃんと出してくれるなら、ここに置いてあげるわ…」と一件落着。何度聴いても心底笑える古典落語のような最高のパフォーマンスを今年も堪能できて本当に幸せでした。 大歓声の中、「素晴らしいオーディエンスにもう一丁、Look at Me!!」とラストナンバーは、ブラジル風味の『ルック・アット・ミー、ルック・アット・ユー』、これもマリーナお気に入りのトレイジェッサーの曲、お互いに見詰め合って、心通じるというラブソングもここでは、マリーナと聴衆の間の愛の歌です。スキャットで始まるダイナミックな歌唱をバックアップするロン・オーティスのドラミングと、笑い声と同じで、ダハハハ…とサウンドするマクドナルドのグリスに会場騒然! 汗の光るマリーナ・ショウ、常に引き立て役に徹するジェフ、マクドナルド、オーティスの腹心トリオ、そしてジャズの王道を行く西海岸の勇者リッキーに惜しみないスタンディング・オベイションが贈られて、会場の全員がマリーナと親分子分の契りを交わしたようです。 アンコールはゴスペルメドレー、軽快なゴスペルのリズムに乗り、神様がお与えになった心の中の信仰の灯を輝かせようという「ジス・リトルライト・オブ・マイン(小さな心のともしびを)」から、同じメロディで、ご存知『聖者の行進』へ、そしてマリーナ自身が作った、「キープ・オン・トラスティング(この世界を信じ続けよう)」とサラっと歌うと、リッキーがいかにも日曜礼拝で聴けそうなコテコテソロを繰り出せば、負けじとシャウトするマリーナの歌唱はダイナマイト! OverSeasはにわかにハーレム・バプティスト教会と化し、客席全員の心の灯がピカピカと輝きます。ゴスペルに心洗われた満足感に浸っていると「彼らがいないと、私のリトルライトも輝かせることは出来ません」と、メンバー達が再び紹介されます。マリーナ・ショウが幼い時、一番最初に影響を受けたシンガーはR&Bバンドをバックにエレキギターを弾きながら歌うゴスペル歌手、シスター・ロゼッタ・サープで、彼女のルーツを表す自然な名唱に感動。最後の最後にキメをドラムが半拍はずしたのも予定の行動か?更に大受けとなり全員総立ちのコンサートもやっと終了しました。
メンバー達とディナーを楽しむ間も常に皆に気配りをするマリーナ、再会したメル友の管理人とも友情を温めた模様。寺井尚之には、シンプルなのに強烈にスイングするカウント・ベイシーの偉大さを説いてくださって、またまた勉強させて頂きました。翌日はむなぞうくんに、新大阪でコーラをごちそうしてくださった心優しい姉御、うちの若いもんが世話になりありがとうございました! コンテンポラリーなアレンジでスリル満点のスタンダード、セクシーでハードなR&Bタッチのラブソング、心の琴線に触れるブルースや希望に満ちたゴスペル、粋で破壊力満点のユーモアトーク、どれをとっても、音楽と人生の両方で酸いも甘いも噛み分けたマリーナ・ショウ以外には出来ない芸術。やっぱりマリーナ・ショウはライブが一番! 姉御のようなご立派なお方にとっちゃあ、OverSeasは余りにむさくるしい所で、心苦しい限りで御座居ます。だけど、姉御を慕う皆に免じてどうぞ我慢なすっておくんなさい。来年も再来年も、OverSeasは子分一同心よりお待ち申してしております! 終演後、寺井と談笑するマリーナ |
投稿日 6月26日(水)00時59分 投稿者 あやめ ほんと、楽しかったです〜。昨年と同様、ノリにノッタLive。Cry Me A RiverやWhen I Fall In Loveなどの超スタンダード、あやめが歌うとショボイ感じになっちゃうのに、マリーナが歌うと七色の景色が見えてきます。最高!1Set目私と在浩ちゃんのほうへ近づいてこられたときは、その迫力にビビッちゃいましたが、息遣いからマイク遣いから、ピアノ・ドラム・ベースの方へのお知らせ方法などなど、あっちこっちに目がいって、耳も目も楽しく疲れました〜!生ってほんと良いですよね〜♪♪はぁ、幸せ。 今夜、世界で一番かっこいい女 投稿日 6月26日(水)01時28分 投稿者 管理人 よかった!すごかった! 去年1回聴いたから今年はちょっとインパクト落ちるかなと思ってたけど、全然そんなことなかった。とにかく楽しい!乗りまくる!最高!まちがいなく今夜世界で一番かっこいい女はマリーナ・ショウだった!あの素晴らしい人柄も少しも変わることなく、今年も帰る前に私をHUGしてくれた、「ベイビー!ベイビー!ベイビー!」と言いながら。ありがとう!あなたに会えて幸せです。あなたを聴けて幸せです。来年もまた来てね! ソロチェンジする時は、名前を言って合図をしてくれ、ピアノさんは、常にあいづちをはさみ、おとなしそうなベースさんは、時折スキンヘッドの汗をふきつつ熱演。若いドラムさんは、ニコニコいろんなメロディーやリズムに反応して、と思えば最後はタイミングを・・・とっても可愛い!ステージでも、合間でも、とても好感のもてるトリオですね!曲名はわかりませんが、バラードでのベースソロの時だったかな?思い思いの表情をしながらのしっとりした演奏もとても素敵でした。トリオだけでももうチョット聴きたいナーと思いました。 ほかのメンバーもスキがなく、ココしかないというとこでオイシイことしてくるから思わずにやけてしまいました。メンバーの好感度120%でほんまおなか一杯って感じで来年もぜひ見てみたいライブでした。できることならテナーのお兄さんのカルテットも実現してほしいと思います。 それに、あんなに近くの席に座らせて頂いて、有難うございました。ミュージシャンの足拍子の振動を感じることが出来る席なんて、なかなか座れないですよね。凄い迫力でした。 次回も是非参加させて下さい!それから、あやめちゃん、誘ってくれて有難う。やっぱりジャズって良いなーと再確認出来ました!サンキュ!! それで、くしだんごさん、なかなか一緒に行ってくれる友人がいないとのこと、そんなもん一人で来なさい。常連さんはほとんど一人で来ます。私の近くに座ったら、セットの合間にうっとおしいほど話しかけたげますけど。 寺井珠重様 昨日は、ご丁寧に席まで挨拶に来ていただき、ありがとうございました。 私の、OverSeasの第一印象は、「とにかく、感じがいい!」でした。電話で「チケットがあるかどうか」や「場所」を聞いた時も、また、実際にチケットを受け取りに行った時も、ものごしの柔らか〜い品のある応対で・・・。 大学時代はサークルで音楽をやっていたので、先輩のライブなどは聴きに行ってたのですが、大学卒業後は音楽とは全く縁のない生活をしていたため、ライブハウスなんて本当に久々に行ったのですが、昨日はとても素敵な時間をいただきました。 ・・・で、「手紙」の件ですが、お恥ずかしいことですが、私です。 「こぶし」については・・・。 ・・・で、その半泣きになった理由が、マリーナの音の「ゆれ」だったのです。たしか、珠重さんのレポートにも書かれてあったと思うのですが、マリーナの歌には、5線譜の上にのっからない微妙な経過音がいっぱいちりばめられていて、また、のばすところでも、1音で伸すのではなく、それはもう色々な「遊び音」を入れながら、最終的に、「はぁ? こんなところで止めるの〜? そんな馬鹿な???」といった、ちょっと凡人の私には考えられないような複雑〜〜な音で締めくくっていたりするもので・・・。本当に泣きそうでした。 ・・・で、思ったのが、「日本の民謡の音の揺れに近いものがあるんじゃないかな」と・・・。で、丁度そう感じ始めた時に、誰かのCDの解説で、そのような節回しのことを「こぶし」と書いてあったので、他にいい表現が思いあたらず、そういう表現を用いたのですが・・・・。 それにしても、久々に昨日は、ミーハーになってしまいました。生の「Feel Like Makin' Love」が聴けただけでもHappyだったのに、ついこの前の日曜日に「次にやる曲」として決まった「Loving You Was Like Party」まで聴けて、本当にHappy で・・・。生はやっぱりいいですねぇ。CDで聴くのとは全然違いました。癖になりそうで怖いです。 というわけで、長くなってしまって申し訳ありません。 わざわざ、メールをありがとうございました。 では、取り急ぎ(にしては長くなってしまいましたが)メールのお礼まで・・・。
それと、今回も超多色の構成、管理人ちゃんお疲れ様です。とても読みやすかったです(^o^) 個人的には「目の前で歌うマリーナは私たちの輝くシスターであり、・・・」というところが好きです。マリーナさんは、またいろんなライブハウスで、豪快な歌声とともにリトルライトを輝かせているんでしょうね。 しっかし…。tamae様。私のせいで、こぶしをマリーナの前で実演(?)するはめに陥られたのですね。そして、それを聴いたマリーナが憮然とされたとか。知らぬこととは言え、ホントに失礼いたしました。でも、tamaeさんのレポートは表現が面白くて、その場の雰囲気が目に浮かぶようで、「こぶし」を回して歌われるtamaeさんを想像して、思わず笑ってしまいましたが…(重ね重ね失礼!)。 衣装については、私もtamaeさんと同じように思いました。「ケバくはないのに華やか!」光り物のアクセサリーの使い方が上手なのでしょね。ボーカルにはやはり「華やかさ」がなければ…ネッd('-^*)。トーク(雰囲気作り?)の巧さとともに、とてもいい勉強になりました。 最後になりましたが、マリーナや演奏陣の詳しい説明等「てんこ盛り」のレポート、本当にありがとうございました。 Hello. I send you the photos soon by airmail to your
address in Las Vegas. http://yuichitakahashi.hoops.jp/marlena_shaw2002/webpage.htm I wonder if your band would like it. Now I can't wait to get your new CD recorded
live in Tokyo. I really really hope to see you again next year. Yours truly, ↓↓↓みなさんにも見せてあげます。 むなぞう、メールを転送したからマリーナ姉御に返事書くように。それから俺のTシャツのサイズはLやて最後に付け加えといてくれ。 中央郵便局まで自転車ですぐなので今からでも取りに行こうかと思ったけど、配達日の翌日以降においでください、と書いてあるので明日までお預けなのだ。 マリーナさん、ありがとう!もう私達はメル友なんかじゃありません。親友といっても過言ではないでしょう。いや、来年のOverSeasでのコンサートの後には養子縁組も・・・。 マリーナ・ショウって誰?という新参者の人は寺井珠重先生のライブレポートを読むように。 ↓↓↓郵便物保管のお知らせ! My best to my friends at "Overseas club" 明日のフラナガニアトリオの時、むなぞうとこのTシャツを着て並んで写真を撮り、マリーナ姐さんに御礼のメールを送るのだ。 ↓↓↓プレイボーイジャズフェスティバルのTシャツ |