<目にも耳にも楽しいコンサートだった!>
NYで地道な活動を続けるベーシスト、ショーン・スミス=寺井尚之の顔合わせは、私にとってすごく楽しみな企画でした。
当夜、遠くから近くから、大勢来て下さったお客様、どうもありがとうございました!
日常、新レパートリーを開拓しつつ、一生モノの愛奏曲を熟成発酵させることに余念のない寺井尚之(p)が迎えるゲスト、ショーン・スミス(b)は、作曲家としてグラミー賞にノミネートされるほど、オリジナル曲を書き貯めるベーシスト。彼の持ち込む新ネタの土俵で、真っ向勝負で四つに組む相撲を取るのか?変則技で逃げを打つのか?音楽を良く知るお客様の前で、一夜のステージをどうしつらえるのか…?
結果は、見た目も絵になる二人のミュージシャンの音楽的な会話が聴く者にちゃんと伝わる、とってもリッチな一夜だった。
<当夜のレパートリー>
1st
1. Bitty Ditty (サド・ジョーンズ)
2. Lawn Ornament(ショーン・スミス)
3. Japanese Maple(ショーン・スミス)
4. Minor Mishap(トミー・フラナガン
2nd
1. Mean What You Say (サド・ジョーンズ)
2. Strasbourg (ショーン・スミス)
3. Lament(J.J.ジョンソン)
4. Scrapple from the Apple(チャーリー・パーカー)
3rd
1. That Tired Routine Called Love(マット・デニス)
2. Smooth As the Wind(タッド・ダメロン)
3. Poise(ショーン・スミス)
4. Hitting Home (ショーン・スミス)
Encore: Elusive (サド・ジョーンズ)
<段取りはプロの証>
上の演奏曲目、青字はショーン・スミスのネタで、茶色は寺井尚之のネタ、因縁のアンコール曲=イルーシブ以外は、事前にメールや郵便でちゃんと譜面を交換していたのです。加えて寺井ネタは、何曲かのオファーの中から、ショーンに選んでもらって決めました。ネットって便利ですね!
かつてトミー・フラナガンにOverSeasで演奏をお願いする時は、午前3時や4時に、何度も国際電話をかけて、回らない頭を英語モードにしてお願いしなくてはならなくて、完全に睡眠不足になってました。
ショーンが送って来た5曲は、全て彼のオリジナル、それも結構難しい。ショーンの譜面は、いまどきのPCソフトで作ったものでなく手書きでした。寺井は、それらを自分できちっと清書し、毎日稽古して備えました。
一方、ショーンにとって、寺井サイドの曲は、どれも、彼が20~30代にトミー・フラナガン3で聴き込んだレパートリーばかり、来日時にもテープやCDで予習している様子だった。
当日1時間足らずのリハーサルを予定していた二人、ショーンは、宮本在浩(b)が快く貸してくれたイタリアの名器、コルシーニをかなり気に入った様子だったけど、弦高をできるだけ高めにしました。以前はもっと低かったのに、いつ替わったんだろう?ザイコウさんがOverSeasの掲示板に書いていたように、いつもより張りのある音色、アンプ臭がなくて非常にアコースティック、おかげで寺井の個性ある潤いのあるピアノ・サウンドが、一層引き立ち、よりカラフルな印象を与える。でも、この弦高でElusiveのテーマをユニゾンするというのは、かなりキツいんじゃないかしら…
★宮本在浩(b)とショーンです。
ジャズが、室内で演奏されるようになり、ウッドベースを使い出したその昔は、ベースアンプなどないし、大きな生音を出す必要から、弦高は高かった。でも、アンプが発達し、無理に音量にこだわらなくてもよくなってからは、ベースの役割がビートだけでなく、メロディへと広がり、弦高は自ずと低くなって行きました。ニールス・ペデルセンやジョージ・ムラーツのような目くるめくような速いパッセージは昔のような高い弦高では難しい。だからといって、弦高を低くしアンプに頼ってばかりいると、ベタベタした頼りない音になってしまうので、ベーシスト達は皆、それぞれ秘密の工夫をしているみたい。寺井尚之と私が、今まで生で観た内で一番弦高の高かったベーシストは、ジョージ・モロウとチャールズ・ミンガス!バキバキとビートが空気を振動させて、男性的な魅力が一杯だったなあ…
寺井尚之とショーン・スミスは、6年ぶりの再会なのに、まるで、毎週会っている友人同士のように挨拶をし、新婚の可愛い奥様を紹介してもらってから、ベースの弦高を調節して、コーヒーを片手に打ち合わせがテキパキ進みます。曲順はどうしよう?各曲のテーマ取りはピアノかベースか?ライブのアウトラインが瞬く間に決まった。この間わずか15分(!)。
その後、二人が楽器に向かうリハーサルでは、テンポ、イントロ、エンディング、決めの箇所を、ピンポイント的にチェックして全13曲、あれよあれよと言う間に、格好が付いていく様子を皆様にもお見せしたかったです。万一、言葉の問題があった時の為に、通訳で横に付いていた私もスカっとするリハーサルに、一昨年のジョージ・ムラーツ・トリオのリハを思い出しました。
<聴き合う心が通う本番!>
真っ赤なニットから渋いジャケットに着替えて来たショーン・スミス、ネクタイを締めてキメようと思っていたらしいけど、「わしはこのままやで。」と言う普段着の寺井に合わせ、ノータイ姿です。オープニングの“ビッティ・デッティ”から長年一緒にやって来たデュオ・チームのように、こなれたインタープレイで魅せました。“紅葉”(Japanese Maple)というショーンの作品は、色彩を音色で表すのが得意な寺井好みの曲、自分のレパートリーとしてしまうようです。
セカンド・セットのオリジナル曲、“ストラスブール”は哀愁に溢れる日本人好みのメロディ、寺井門下の“つーちゃん”は、ストラスブールにも3日間滞在したことがあるそうですが、この曲を聴きながら、川面に映し出される夕焼けの心象風景が衝撃的に蘇ったと、印象的なコメントをくれた。 ストラスブールは世界遺産のこんな街。
ショーンのアルバム・タイトルになっている、ラストセットのバラード、“ポイズ”も、一筋縄で行かぬ曲だし、軽快なミディアム・バウンスの“ヒッティング・ホーム”は転調だらけで、指使いに工夫をしないと弾けない難曲だったらしいけど、そんな事を微塵にも感じさせぬプレイでしたね。
アンコールのお楽しみ、例の“イルーシブ”は、ユニゾンのテーマが、朝飯前のように行ったリハーサルに比べれば、6割位の出来で、ショーンの悔しそうな表情と、狸寝入りみたいな寺井のポーカーフェイスが対照的で、却って印象的だった。近い将来、また二人で演奏して欲しいです。
タッド・ダメロンやサド・ジョーンズの難曲でも、ショーンはしっかりしたビートと、自然で洗練されたボトムラインをしっかり受け持ち、ピアノが「ピアノ」として音楽できるようにお膳立てをして行く。ベーシストとしての仕事をきっちりする。寺井はショーンのビートとラインの動きを感じながら、鍵盤のパレットで色んなカラーを作り、ショーンのソロが最もスムーズに流れるように、最高のバッキングで応える。そんな二人のハーモニーがとってもいい感じ。
普段の生活でも、自分の言いたいことだけ言う人がいますよね。相手が話しているときは、合槌も打たず、時には、話している途中に割り込んだり、自分の話すタイミングだけを待っている人とは、その人の話がどんなに有益でも、ちょっとシラけてしまうけど、今夜の二人は正反対。
お互いの話に耳を傾け、うまく相槌を打ちながら、話がどんどん盛り上がる、聞き上手、話し上手、楽しい対談を、傍らでふんふんと聴いているような心地よさに浸りました。
レギュラー・コンビではないけれど、全編、逃げを打たず、ソリッドなレパートリーで、真摯に聴かせたショーン・スミス=寺井尚之デュオ、ショーンはバンドスタンドに行くと男っぷりが数段上がるミュージシャン、ハイポジションを繰り出すと顔が高潮し、一段と男前!ぜひともまた近いうちに聴きたいものですね!
帰り際も、何度も丁寧にお礼を言うショーン、昔と変わらない真面目なベーシストだったけど、それ以上に、自分が何をすべきか知っている極上のベーシストだった!皆様、どうもありがとうございました!
さあ、来月、3月29日(土)はいよいよ、第12回トリビュート・コンサート、このコンサートで調子を上げている寺井尚之と宮本在浩(b)河原達人(ds)の大舞台!
最後になりましたが、このレポートに掲載した写真は、当夜東京から来てくださったジャズ評論家、後藤誠氏の提供です。G先生、二人の音が聴こえてくるような写真をどうもありがとうございました。
CU
自分のベースの違う一面も見れてよかったです。とても物静かでいい人ですが楽器を構えるとキリッと男前になるのはさすがプロです。リハーサルから本番まで見させていただきましたがアクセントのつけ方,音程のとり方等,とても勉強になりました。チャンスがあれば次回はさらに楽しみです。
トミー・フラナガン,ジョージ・ムラーツの偉大さも改めて感じてしまいました。
ザイコウさま、今夜のScrapple from the Appleは、レギュラーらしくユニゾンでプレイしてくださって、すごく良かったです!!
ザイコウさんが、ショーンを楽しみにされているのと同じように、私も毎回、ザイコウを楽しみにしてます!
アラバマの星も、数え切れなくなってきました!!
コメントありがとうございました。