数年前の春、私はガラにもなく病気で療養していました。私が休むことで沢山の人に迷惑をかけて辛かったけど、あれほどゆっくり読書できた時期はありません。その時出会ったのが、ホイットニー・バリエットというNYのジャズ評論家が書いた “American Musicians Ⅱ”で、”71人のミュージシャンのポートレート集”という副題が付いています。
ホイットニー・バリエットのこなれた文章には、月並みな形容詞や、決まりきったフレーズは皆無、「ジャズ評論家」と呼ぶには余りに詩的で文学的、とはいえ決して感性だけで書くのでなく、NYの街の地の利を生かし、過去の偉人や現在の巨匠本人だけでなく、親戚縁者に至るまでしっかりした取材の裏づけがあり、色んな角度からミュージシャンを眺め、文字通り一枚の肖像画に描き上げる独特なスタイルにすっかり魅了されました。
バリエットの奥さんはナンシー・バリエットという画家で、それがバリエットのスタイルに影響したのかも知れません。バリエット夫妻とフラナガン夫妻は親しい間柄で、フラナガン家には、ナンシーがペンで描いたトミーの肖像が飾ってあります。
バリエットは生粋のニューヨーカー、名門コーネル大出身、学生時代はデキシーランド・ジャズのドラマーとして活動し、’54から’01の長期に渡りThe New Yorkerでジャズや書評のコラムを持っていました。ネット時代以前には、紀伊国屋で立ち読みするThe New Yorkerのタウン情報にWBの署名を見つけると嬉しかったものです。
フラナガンが亡くなってからも、ダイアナはバリエットと仲良しで、一緒に色んなジャズクラブに行っていました。2007年に癌で死去しましたが、その後も日本では紹介されないのがとっても残念です。
トミー・フラナガン・ファンにとって、ホイットニー・バリエットは「珠玉のピアニスト」(’57 The New Yorker サクソフォン・コロッサスのレコード評)や、「ジャズポエット」(’86 The New Yorker トミー・フラナガンについてのコラムのタイトル)の名付け親としても有名ですね!
トミー・フラナガンのポートレート”Poet”は、以前ジャズ講座で配布したので、フラナガン・ファンが先入観を持たずに読めるポートレートをひとつ選んで来週の休日に連載しようと思ってます。
では明日の鉄人デュオでHush-A-Bye を楽しみにしましょう!CU