OverSeasで演るのは実に楽しかった!:ジョージ・ムラーツ

「OverSeasでプレイできて凄く楽しかった!」
 
 さっきジョージ・ムラーツから無事に帰国したよとメールがありました。現在は、晩秋のNYでゆっくり休養しているそうです。
 ジョージ・ムラーツ3のコンサート直後に、ダイアナ・フラナガンが、「どうだった?」と電話をかけてきて、こんなことを言います。
「ヒサユキは凄くニホンジンだけど、トミーとジョージも同じようにニホンジンなの。あなた、私の言う意味が判るでしょう?」
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 勿論、姿かたちの問題ではなく心の話です。トミー・フラナガンもジョージ・ムラーツも、“渋さ”や“粋”という日本語にぴったりの趣がある。プロとしての“一分(いちぶん)”をわきまえ、その誇りはサムライのように高い。私達の父親の世代、第二次大戦以前の日本人みたいに「男は黙って…」みたいなところがあるし、お世辞が下手。決して誰にでも愛想のよい応対は出来ないけど、一旦胸襟を開くと、とことん面倒を見てくれる。苦労は口には出さない。・・・なるほど、ダイアナの言うとおりかも知れないな。
 私達が2003年に表通りから、この路地裏に引っ越して僅か2ヵ月後に、来日したジョージ・ムラーツはすぐに訪ねて来てくれました。「ヒサユキ、良い店じゃないか!どんな小さい店でも構わない、君達が元気で幸せなら、それで俺は嬉しいんだから!」と力づけてくれました。私が、ベースの神様、ジョージ・ムラーツを、ついアニキと呼んでしまうのは、こういうところです。
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’89 ヴィレッジ・ヴァンガードの楽屋にて。
 トミー・フラナガンと連れ添った約15年の間、ムラーツはただの一度も「譜面」と名の付くものを渡された事がなかったそうです。トム・マッキントッシュやサド・ジョーンズ、皆が知らない隠れた名曲を、まるで、ずっと以前に聴き馴染んだメロディのように懐かしく思わせる魔法のデュオは、即興演奏の究極のレベルで実現されていたのだった。だからこそ、フリー・ジャズよりもずっとずっと「自由」な演奏になったのだ。
 トミー・フラナガン・トリオに加入したケニー・ワシントンやルイス・ナッシュ達、若手ドラマーが最初、バンドスタンドで途方にくれた時に、ナビゲーターとして彼らを導いたのも、ムラーツだ。フラナガンはムラーツの資質を最初から見通していたのに違いない。共演者のアドリブの行方を、本人より先読みして、ドンピシャのRight Notesを繰り出すムラーツのテレパシーは、譜面を渡さないフラナガンとの共演で一層培われたのではないだろうか?
 
 先週のコンサートで各セットのアンコールとして、お客様を狂気させた<Denzil’s Best>は、ジャズ史上最高のセールスを記録したと言うトミー・フラナガン3のアルバム、『Eclypso』での有名なナンバーです。私たちには信じられないことですが、この曲もレコーディング当日に、トミーの指示で急に演らされた曲だったそうです。なのに、あれほどこなれた演奏やってのけるというのは、神業としか言い様がありません。でも、先週の<Denzil’s Best>には、極上のシングルモルトのように、天才の中で熟成したえもいわれぬ芳香が味わえました。
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先週のコンサートで。
 先週のコンサートの幕間、ごったがえすなかで私はムラーツにお礼を言いました。「ジョージ、どうもありがとう!最高よ!<Denzil’s Best>に、お客さんたち、すっごく喜んでた!」すると、ムラーツはにっこりして、尋ねました。
「タマエ、次のアンコールも<Denzil’s Best>を演って欲しいかい?」
「Umm…<Denzil’s Best>も大好きだけど、ジョージのファンたちはきっと<Passion Flower>も聴きたいんじゃないかしら・・・」
 ジョージは、してやったりとウィンクします。「タマエ、残念だけど、<Passion Flower>はもうプログラムの中に入ってるんだよ!」まるでいたずらが成功した少年のような顔つきでした。
 テナーの巨匠ジミー・ヒースの奥さん、モナがこう言ったことがあります。「偉大なジャズミュージシャンはね、皆子供の顔を持っているの。」
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<FONT size="-1"’02 ブロードウエィの日本料理店で。
 ジョージ・ムラーツという芸術家が「若手」と呼ばれた時代から、現存するジャズベーシストの最高峰と言われる現在に至るまで、幸運にも、レコードだけでなく、殆ど毎年生の演奏を聴き、その人柄にも触れることが出来ました。30年余りの間に世界もジャズ界も大きく変貌し、ムラーツ自身の社会的立場も、西側で活動する自由芸術家から、チェコの至宝へと、大きく変化を遂げました。その反面、スタン・ゲッツやトミー・フラナガン、サー・ローランド・ハナと言った最良のパートナー達を次々と亡くし、彼と同じレベルの土俵で、立ち会えるミュージシャンも少なくなっています。これからのジョージ・ムラーツは、どのように天才ぶりを発揮して行くのでしょう? 彼がトミー・フラナガンに音楽人生の大きな部分を捧げたように、彼の天才をしっかりと受け止める献身的な天才が、これから現れるのでしょうか?
 偉大な芸術家が熟成していく歳月を、この目で眺めることが出来るとは、何と幸せなことでしょう!
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<FONT size="-1"フィッシャーマン・スタイルのジョージ・ムラーツ&寺井尚之in NY
 コンサート・レポートは近日HPにUP 
なお、お客様からたびたびお問い合わせのある、ジョージとイーヴァ・ビットーヴァの新譜Moravian Gemsの日本購入サイトはこちら!
また、ジョージ・ムラーツのサイトはこちら!
CU

「OverSeasで演るのは実に楽しかった!:ジョージ・ムラーツ」への2件のフィードバック

  1. Tubbyさま
    コメントありがとうございました。いつか、アニキのプレイを、ぜひ生で聴いてみてください。Tubbyさんの、脳にジーンと来ると思います!

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