写真順:
セロニアス・モンク:2枚連続~
アート・ブレイキー2枚連続
~ベティー・カーター(vo)
~ジョン・コルトレーン(ts)
~ニカのミンクを着たチャーリー・ラウズ(ts)とソニー・クラーク(p)
~英国の盲目のピアニスト、エディ・トンプソン(p)
~猫と戯れるトミー・フラナガン
~レックス・ハンフリーズ(ds)
~ジョン・ヘンドリクス(vo, lyricist)
~メアリー・ルー・ウィリアムズ(p)
~デューク&マーサー・エリントン親子
~ロイ・ヘインズ(ds)とチャーリー・ミンガス(b)
~チャーリー・ミンガス(b)
~バド・パウエル(p)
~レイ・ブライアント(p)
~ソニー・ロリンズ2枚連続
~ホレス・シルバー(p)
~エロール・ガーナー(p)
~マイルス・デイヴィス(tp)2枚連続
~ラストは愛猫たちとレコードに囲まれたパノニカ。
皆さん、お元気ですか?先週は「ジャズの歴史」「ジャズ講座」二大イベントで、靴が脱げちゃうほど店の中を走り回ってました。
今回は、パノニカ男爵夫人が遺した「三つの願い」の完結編、本には300人近いジャズメンの「三つの願い」が収められていますが、Interludeの読者の皆さんに身近なごく少数のアーティストが何を願っていたかを紹介したいと思います。
パノニカ夫人が、「三つの願いプロジェクト」を開始したのは’60年代前半、ベトナム戦争が社会に影を落とし、ビートルズが世界を席巻していたジャズの「真冬」であったことを心に止めておく必要があります。フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)の”Money, Money, Money”という答えは決して強欲なものではなく、多くのジャズメンは、当時本当に”食い詰めて”いたんです。
トミー・フラナガンがエラ・フィッツジェラルドの伴奏者になったのも、丁度この頃です。
優れたジャズメンが経済的に不遇であったからこそ、パノニカはこんな問いを投げかけてパトロンとしての自分に出来ることを探っていたのかもしれません。
冒頭には、「三つの願い」に対する、セロニアス・モンクのいかにもモンク的な反応が記されていました。
<ニカの遺稿から:>
私はまず最初に”3つの願い”をモンクに訊くことにした。
「3つの願いが何でも叶えられるとしたら、あなたは何を願う?」
モンクは、黙って部屋の中を歩き回った。やがて彼は窓のところで立ち止まり、しばらくハドソン川の向こうの摩天楼を眺めてから、おもむろに答えた。
① 音楽的に成功すること。
② 幸福な家庭
③ 君みたいにクレージーな友人を持つこと。
私は言った。「あらセロニアス、別に願わなくたって、もうすでに持っているものばかりじゃない!」
すると、彼は静かに微笑み、再び部屋を歩き回った。
<巨匠たちの願い>
先日の勉強会で、皆で聴いたビバップ以前の巨匠達は当時不惑の年齢、音楽さながらに、答えにも各巨匠の「スタイル」を感じます。ルイ・アームストロングがステージで隠す知的な顔を見せているのが、私には特に印象的でした。
ルイ・アームストロング
①一年間演奏を休み、今まで蒐集したテープを聴き直し、それらを整理する。そうしたら、何か新しいものが書けるだろう。充電すると自分の為に成ると思う。
②休養後にカムバックして、もう一度ファンの皆の前で演奏を聴かせたい。
③100歳まで生きたい。自分の音楽を追求しながら、次の世代がどんなことを演っているのか聴くんだ。
ロイ・エルドリッジ(tp)
① ラジオ・TV技師の学校を卒業すること。そうすりゃ、もうペットをブロウしなくてもよくなるから。
(エルドリッジは唇を損傷し、往年のハイノートが吹けなくなっていたんです。)
② 自分のクラブを開店できるくらいの資金。
③ せめて10年間戦争がないように。そうすりゃ僕は60歳だから、それまでに金を貯めて隠居できる。
デューク・エリントン
「私の願いは非常にシンプルだ。常に最高のものしか望まない。」
ビリー・ストレイホーン
「僕の望みは、音楽が今よりも、ずっと美しいものになること、僕はそれらを聴き、自分も永遠に音楽を書き続けたい。」
ジョー・ジョーンズ (ds)
「俺の願いは一つだけ、後10年演奏することだ。」
<ビバップのサムライ達 >
パノニカを魅了した往年のビバッパーたちの多くが、ヨーロッパに新天地を求めてNYを離れていった頃です。バド・パウエルやA.Tの願いは、本当に切ない。
ディジー・ガレスピー(tp)
① 金のために演奏しなくてもよくなること。
② 世界恒久平和
③ パスポート不要の世界。
ケニー・クラーク(ds)
① ブリジッド・バルドー② ブリジッド・バルドー③ ブリジッド・バルドー
(1a) いや、今のは冗談だ。一番目の願いは、ディジー・ガレスピー(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、レイ・ブラウン(b)、ハンク・ジョーンズ(p)で、僕のドリーム・クインテットを結成することだ。
(2a) 次の願い?判らないよ、ニカ、しいて言えば僕の息子をこっち(パリ)に呼んで、音楽をさせることかな…
(3a)三番目の願いは、この土地、パリに学校を作って、若者たちに正しい音楽の道を教えることだな。それが出来れば僕は充分幸せだ。金儲けより、何か意義有ることをするほうがいいな。
タッド・ダメロン(arr.p)
「自分自身でいること」
アーサー・テイラー(ds)
① チャーリー・パーカーが今でも生きていますように。
② バド・パウエルが今もNYで、昔みたいにバリバリ弾いているように。いや、とにかく弾いていればいい。
③ 金
バド・パウエル(p)
① 医者や病院に通わなくてもよくなりますように。
② 日本に行きたい。
③ レコードを作りたい。
バド・パウエルが日本に来てくれたら、バド・パウエルのスタジオ・レコーディングがもっとあれば、どんなに素晴らしいことだったでしょう!’60年代初来日したアート・ブレイキー(ds)とジャズ・メッセンジャーズが、日本人のジャズに対する愛と理解に心底感動したそうで、ジミー・ラッシング(vo)や、ダグ・ワトキンス(b)も「日本」が願いの中に入っていました。彼らが現在の日本に来ても同じように思ったでしょうか?
<うまくなりたい!>
音楽的な成功を願うジャズメンが多いのは当然ですが、テクニックのある人ほど、技術的な向上を願うのは、オズの魔法使いに出てくる、勇気を欲しがる「ライオン」や知性を欲しがる案山子たちを連想しました。
J.J.ジョンソン(tb)
「思いのままに演奏できるようになること。」
ハンク・ジョーンズ(p)
「自分の楽器で、世界一になること。」
オスカー・ピーターソン(p)
① 思いのままにピアノを演奏できるようになること。
② 皆が、どんな芸術形式に対しても、本質的に理解してくれること。
③ 世界中の人に愛が溢れること。
<意外な人の意外な願い…>
最後に、Interludeを愛読してくださる皆さんが、最も身近に感じるミュージシャン達の望みをピックアップしておきます。新しい大統領になった現在でも有色人種をサル扱いする社会(私たちアジア系も決して例外ではありません。)に対する憤怒、公民権運動の時代の香り、クラブ・ギグの悲哀、色々感じられるのではないでしょうか?
サー・ローランド・ハナ(p)
① 第一に、自分の能力が全開できるよう、音楽の勉強が出来るような経済的余裕が欲しかった。
② 二番目は、全ての人間が平等かつ個性を持って生まれてくること。
③ 三番目は… 今でも母が生きていてくれること。
ジミー・ヒース(ts,as,fl)
① 「君は社会に対して責務を果たした。」という一項が、真実になるよう願ってる。つまり、刑務所で服役し出所して、これで終わったという気分になっても実際はそうじゃない。一旦犯罪を犯したものには、前科が付いてまわる。
(信じられないでしょうが、ジミーは麻薬のトラブルで刑務所で服役していたことがあるんです。)
② 世界をもう一度作りなおすなら、人間の肌の色を全員一緒にする。人間は誰でも、その人の実力、個人の長所で判断されるようになるんだ。
③ 3番目の願いをする権利は、僕の妻に譲るよ。
コールマン・ホーキンス(ts)
① 完璧な健康。
② 音楽に於ける大成功。
③ 大金持ちになること。
ジョン・コルトレーン(ts)
① いつまでも、音楽が新鮮であること。今僕はちょっとスランプなんだ。
② 全ての疾病への免疫
③ 現在の3倍の性的パワー、それにもうひとつ、他人へのさりげない愛情、これはほかの二つのどっちかにくっつけといてくれてもいいよ。
トム・マッキントッシュ(tb, comp, arr.)
「我々の創造主である神の望むようにいられること。万事それでよし。」
クラーク・テリー(tp, flg)
① 健康が保障されれば、幸福と長寿が手に入るよね。
② 金のことをあれこれ心配しないでいいくらいの財産。
③ 人種差別をやめるきっかけになるような出来事が皆に起こること。
ディック・カッツ(p)
① どのクラブにもスタインウエイがありますように。
② ドラマー達が、今みたいにうるさく叩きませんように。
③ 3番目の願いを考える時間をください。
ビル・エヴァンス
「子供のときに、同じことを質問された!一番目の望みは、何でも願いを叶えてくれる指輪を手に入れること。そうすりゃ、願いは一つだけですむ!」
バリー・ハリス(p)
① 世界平和
② スタインウエイと、ちゃんとしたレコード・プレイヤー、それさえあれば、バド・パウエルやチャーリー・パーカーのレコードをずっと聴いていられるから。
③ ”ソウル””ファンク””ロックンロール・ジャズ”の滅亡。
トミー・フラナガン(p)
「僕はずっと健康で生きていたい。そして、一人でちょっと楽しめるような秘密の隠れ家が欲しい!」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
今日ダイアナ・フラナガンに電話したとき、パノニカのことを訊いて見ました。ダイアナは勿論ウィーホーケンのお家にも行った事があるそうです。
パノニカには独特のすごいオーラがあって、自分の知る限りでは、皆がちゃんと「パノニカ」と呼んでいた。面と向かって「ニカ」なんて呼べる人はいなかったわ。とっても複雑な女性だから、ひとことで彼女を「どんな人」なんて言えない。
とにかく、ジャズとジャズ・ミュージシャンに対してリスペクトがあったの。そうそう、お家には猫が沢山いてね…猫嫌いなら気持ちが悪かったかも知れないけど、トミーは小さな生き物は何でも大好きだったからねえ。
お金の援助?そうね、具体的に誰がいくらもらったなんて私は知らない。でも、そんなことがあったって、ちっとも不思議じゃないわ。彼女は、いつでも親身になってミュージシャンに接していたもの。
皆さんがパノニカに「3つの願い」を訊かれたら何と答えますか?
ニカの孫娘、ナディーヌの序文の結びには、彼女の最後の願いが書かれてありました。
私が死んだら、遺体は火葬にして骨はハドソン川に蒔いて下さい。真夜中ごろ(Round Midnight ) に…
CU
①1984年のトミー・フラナガン3のライブを見る。(トミー・フラナガン氏に一度お会いしたい)
②御先祖様のような税理士・バッパーになる。
③後30年、このOverSeasにて、寺井尚之3をクビにならずに続ける事。
こんな感じでしょうか。
①以外は、30年で達成可能ですね!
ただし、店があればやけど・・・お互いにガンバロウ!
今北くんへ
①’75年のエラとのコンサートは観んでもええんかい?
②更に上を目指してください。
③その時まで、わしも現役でいてられたらええなあー!
おわり
こんにちは
記事を読ませていただきました!
とても素敵な気持ちがひろがってくるようです!
3つの願い シンプルな問いかけですが
その質問に答えるミュージシャン達の
真髄に触れるようですね!
その著書って↓コレですか?
Three Wishes: An Intimate Look at Jazz Greats
akemin
Akeminさま、いつもお世話になっております。
そうです!“Three Wishes: An Intimate Look at Jazz Greats”
パノニカがポラロイドで撮影した、私に負けない素人写真ばかりの本だけど、被写体が凄すぎます。
本を入手して、皆の三つの願いを楽しんでいらっしゃるお客様も多いみたいです。
ではまた~!