ソニー・ロリンズのアドリブ哲学

sonny-rollins-001.jpg

 2月9日(土)開催の「新トミー・フラナガンの足跡を辿る」は、巨匠ソニー・ロリンズの名声を決定的にし、トミー・フラナガンを「名盤請負人」と言わしめるきっっかけとなった初期の最高傑作『Saxophone Colossus』から始まります。

 

Saxophone20Colossus.jpg  “Blue Seven”のテーマから一貫するアドリブの素晴らしさが発表当初から絶賛されたアルバム、『サクソフォン・コロッサス』。プレスティッジ・レーベルのセールスポイントだったブロウイング・セッション、つまりアルバム企画より、即興演奏を重視(?)する低予算のジャムセッション形式で、少々ミスがあっても1テイクぽっきり、編集なしのレコーディングで制作されました。とはいえ、ぶっつけ本番のアクシデントが予想外の効果を生んで行くプロセスが鮮やか謎解きしてみせた寺井尚之の解説は、演奏の迫力とともに、手に汗握るスリルと楽しさを味あわせてくれます。

 私の方は、講座の資料として、ソニー・ロリンズの数々のインタビューをチェック中。

 後進のミュージシャンたちのために、どんな質問にも誠実に答えようとするロリンズの言葉は、「現存する最高の即興演奏芸術家」に相応しいものばかりですが、現在のロリンズに、26才で録音した『サクソフォン・コロッサス』を最高傑作であるかのよう言うインタビュアーには、さすがに、辟易した印象が感じられます。

 

  今回、講座で配布するのは、エラ・フィッツジェラルドの伝記作家としても有名なスチュワート・ニコルソンによるソニー・ロリンズ・インタビュー、後進のミュージシャンたちのために、自分のアドリブ哲学について語っています。

 

still_life_with_mandolin.jpg 
 ロリンズの目指すジャズの即興演奏感は「禅」ともいえる精神性重視のものでした。

 ロリンズによれば、アドリブとは絵を描くのと同じで、「潜在意識とのコミュニュケーション」と言います。楽曲のメロディやハーモニーを徹頭徹尾学習した挙句、一旦すべての情報を意識から追い払った無我の境地、トランス状態で、潜在意識から出てくるサウンドに従って表現するというのです。ロリンズが麻薬に耽溺した時代があったのは、他の理由があったにせよ、ドラッグはやはり彼の音楽哲学に影響を与えているように感じました。

  「より高度な即興演奏」を突き詰める姿勢は、明らかに、彼が師と仰ぐチャーリー・パーカーを見習ったものでしょう。

 

 チャーリー・パーカー達が創造したビバップという音楽の形は、絵画でいうなら、ピカソやブラック達が展開したキュビズムと少し似ているように思えます。キュビズムは、描く対象を完璧に理解した上で、一旦解体し、再構築することによって絵画的真実を追求するというものですから、楽曲の骨組みだけ残して、鮮やかに疾走する音楽を作り上げたバッパー達の手法と似ていると常々感じていたのですが、ロリンズのインタビューを読んで、一層納得しました。一方、キュビズムのアーティストたちが、アフリカ芸術や楽器に霊感を得たというもの、偶然なのか、必然なのか、興味がつきません。

 

 音楽は自然界を見習って想像する芸術ではありませんが、芸術家の視点は似ているんだと改めて感じました。キュビズムのさきがけとなったのはセザンヌの不自然な静物画だということになっていますが、ジャズのセザンヌは誰だったのでしょうか? 

 ”St.トーマス”に見られる、ロリンズのルーツであるカリブ海の要素も、ロリンズ自身は、潜在意識に備わっていると信じていたのかもしれません。豪快な演奏の裏には、自分自身を追及する哲学のまなざしがあるんだな・・・インタビューを読むと、ロリンズの真摯な気持ちが伝わってきます。

 

 新足跡講座は2月9日(土)に!ぜひご参加ください!

 

CU

 

 

「ソニー・ロリンズのアドリブ哲学」への2件のフィードバック

  1. ボストンテリアですね。
    初来日の時のNHKの放送はショックでした。
    当時の耳ではラシッド・アリの(tp)を(今の耳で聴く様には)理解できなかったのですが、もう一度聴いてみたいと思っています。
    そして、なによりもベティ・カーターが衝撃的でした。
    これがジャズ・ヴォーカルなのかっ!と思いました。

  2.  ネイスミスさまは、63年の演奏をリアル・タイムでお聞きになったのですね!
     すごいです!ベニー・カーターも当時はどんなだったのでしょう?タイムスリップしてみたいです~ コメントありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です