Evergreen物語(2)変るものと変らないもの As Time Goes By

 Evergreen物語、第二話は”As Time Goes By”、「時の過ぎゆくままに」という邦題がついていますが、歌詞を読むと「時は過ぎても」という方がしっくり来るかもしれません。『Evergreen』で、寺井尚之のピアノはまるで歌詞が聴こえてくるようです。
<映画 Casablanca>
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 “As Time Goes By”は、何といっても、映画「カサブランカ」で有名になった曲。とはいえ、若いお方は「カサブランカ」(’43)なんて見たことも聞いたこともないとか・・・。「カサブランカ」は、芸術映画でもないし、史上最高の名作とも思えませんが、常にアメリカ映画ベスト100に入っている人気映画、何度観ても観飽きない。確かに戦意高揚映画であるかも知れないけれど、「スタイル」がある。だからこそ、ウディ・アレンなど、後に色んな映画作家がパロディにしたくなる力があります。人物描写は類型的だし、二人の男性に愛される美しいヒロイン、イングリッド・バーグマンのどっちつかずな態度も勘に触るかもしれませんが、結末が決まっていないまま撮影していたから仕方ない。日本語字幕には納得いかないヴァージョンもありけど、現代もよく使われる名文句が一杯なので英語の勉強にもなる。何よりもボガートの醸し出すダンディズムが最高!
casablanca_movie_image_ingrid_bergman_and_humphrey_bogart.jpg 舞台は、言うまでもなくモロッコのカサブランカ、第二次大戦中にナチを逃れ、アメリカ亡命を目指す人々が集まる酒場の主人リックは過去ある男、酒場ではリックを心から慕う黒人ピアニスト、サムが弾き語りをして人気を博している。ある夜リックの店にレジスタンス運動のリーダー、ラズロとやって来たのは、リックの昔の恋人、イルザだった。ナチはラズロを逮捕し収容所に送ろうとするが…、戦争に翻弄されるさまざまな人間模様が描かれます。酒場の主人といっても、ハンフリー・ボガート扮するリックはトレンチ・コートや白いタキシードが似合う苦みばしったいい男、カサブランカが帽子やトレンチが必要なほど寒いのかどうかはわかりませんが、とにかくカッコイイから気にしない!そして最後は愛するイルザをラズロと飛行機に乗せて自由世界へ逃がすんです。
 “As Time Goes By”はリックとイルザが愛し合ったパリの思い出の曲として、映画全編に流れる。とはいえ、この曲は映画の10年前に、ブロードウェイで余りヒットしなかったお芝居の為にハーマン・ハップフェルドが作詞作曲した既存の曲。ややこしい話ですが、「カサブランカ」の脚本自体が、未公演戯曲のリサイクルで、”As Time Goes By”はその段階で劇中歌に指定されていた曲だったのです。映画演劇の世界でも、リメイクやリサイクルは日常茶飯事なんですね。
Play-it-again-sam-casablanca.jpg 映画音楽を担当したマックス・スタイナーは撮影の途中で、ハップフェルドの作った”As Time Goes By”をカバーするのを止めて自作曲に差し替えようと提案します。でも撮影の事情で、差し替えが実現しなかったため、そのまま”As Time Goes By”をモチーフにして全編に使い、素晴らしい効果を挙げています。戦時映画のためなのか、脚本は戦況に合わせて書き換えられ、監督すら結末を知らずに撮影していたそうですが、出来上がってみれば、愛国心やロマン主義に訴えかける作品として大ヒット!アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞をゲット!製作のワーナー・ブラザーズは、ピアニスト、サム役のドゥーリー・ウィルソンに”As Time Goes By”をレコーディングさせ、更にヒットさせたかったのですが、折りしもアメリカ音楽史上有名なレコーディング・ストライキの時代で、無念の涙を呑んだそうです。
<変われないもの>
 歌の内容は、「世の中がどれほど変ろうとも、絶対に不変のものがある。いつの世も恋する者の思いは一緒!」というロマン派。ですから、戦争や自由主義の弾圧といった映画のシチュエーションにぴったりだったんですね!
 でもよく考えてみれば、これは2011年という時代に、一層相応しい歌に思われて仕方ありません。自国の政治も世界情勢も刻々と変り、気候も変るこの時代だからこそ、「変らないものがある」事を思い出すと励まされます。
 寺井尚之メインステムは、A節の「キッス」や「溜息」を本当に上手に表現していますよ!
巨匠ビリー・テイラーも暮れに亡くなり、美しいタッチのピアニストは絶滅危惧種。でも、大事なことは変らない、と思いたいですね!

<As Time Goes By>
by Herman Hupfeld
原歌詞はこちら(対訳で省略したヴァースも付いています。)
これだけは覚えておこう、
いつの世もキッスはキッス、
愛の溜息も同じこと、
大事なことは変わらない、
時が流れても。

恋人たちの囁きは、
今でもやはり”アイ・ラヴ・ユー”、
必ずそうと決まってる、
これから何が起こっても、
変わらない事はある。

月の光や恋の歌は、
時代遅れにならないし。
情熱に燃える心、
嫉妬や憎悪も同じこと。
女には男、
男には妻がなくてはならぬ、
それを誰も否定できない。

歴史は今も繰り返す、
愛と栄光の闘いを。
行動か死を!と決起する。
でも、世界はいつの日も、
恋人達には優しいもの。
時が流れても。

 デトロイト・ハードバップ・ロマン派、寺井尚之の演奏するロマン派スタンダード・ナンバー!ぜひダウンロードして聴いてみて下さいね!
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CU

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