GWはゆっくり過ごされましたか?OverSeasは今年も楽しくゴールデン・イベント充実の3日間!写真は寺井尚之ジャズピアノ教室生徒会長、あやめさん撮影、きれいな写真ありがとう!
第一日目:5/4 映像講座
給食は海老と貝柱のドリア、デザートは自家製バナナケーキ!
1.Thelonious Monk Solo
初日はビバップの2大ピアニスト、師弟の間柄にあるセロニアス・モンクとバド・パウエルの映像を観ながら、寺井尚之が二人の演奏スタイルや、アドリブを展開の際、頭の中はどのようになっているのかを、面白く深く解説しました。
セロニアス・モンクはフランスのTV局が撮影したソロ映像 http://www.mosaicrecords.com/jazzicons/thelonious_monk.asp を観ました。1969年12月に渡仏した際、現地のピアニスト、アンリ・ルノーの尽力で、時間制限や演出は一切なしという理想的な撮影環境で、スタインウエイと対峙しながら、真摯なソロ・パフォーマンスを繰り広げています。
バド・パウエルは1959年パリ”クラブ・サンジェルマン”、1962年コペンハーゲン”カフェ・モンマルトル”でのライブ映像 http://www.hmv.co.jp/product/detail/1371220 で、パウエルをモデルにデクスター・ゴードンが主演した映画”ラウンド・ミッドナイト”を思わせるモノクロ映像が、モンクのクリアな動画と対照的でもあります。
演奏曲目は、”Monk’s Mood”や”‘Round Midnight”など、寺井尚之のレパートリーが多く、解説もより判りやすかったのでないでしょうか。モンクのプレイは休符に至るまで徹頭徹尾モンク・ミュージック!そしてモンクのプレイと作品、そのどちらも、NYハーレムで生まれたストライド・ピアノの伝統から発展したものであるという寺井尚之の解説を聴きながら、実感することができました。フォームも椅子の高さも、全てが理に叶ったものばかり!風変わりなトリックも深い思考の結果生まれたものということがよく判ります。
最近、ジョン・コルトレーンの生涯について勉強する機会があり、モンクがコルトレーンに対して、非常に誠実にビバップの革新的理論を教えたということを知り、サー・ローランド・ハナと似てるなと思ったのですが、この映像からも、モンクのハナさん的な気質も感じ取ることが出来ました。
モンクは、カメラが脇から寄ってくると、足をワイルドに動かして決してペダルは使いません。ところが、ピアノを挟んでモンクのUPを捉えている間は、頻繁にダンパーが移動していて、ペダルをしっかり使っていることが一目瞭然!ブルーグレーのチャイナ帽とお揃いのスーツのコーディネートも、彼の肌やスタインウエイの輝きにマッチして、演奏と同じく計算されたクールな計算の賜物です。何よりも演奏が素晴らしかった!やはりモンクはレコードよりも映像のアーティストですね!シューティングをお膳立てしてくれたアンリ・ルノーにメルシーと言いたいです。
一方、モンクの弟子格、バド・パウエルの演奏も素晴らしいものでした。この当時のパウエルは脳の病の為に、演奏者と一言も口をきいたことがなかったというのは、アーサー・テイラーやジョージ・デュヴィヴィエ、このヴィデオにも登場するニルス・ペデルセン達が証言しています。ところが演奏は、どれもこれも起承転結があり、各所にアイデアがちりばめられ、大変整然としたものばかり!ヴァーバルなコミュニュケーションは不可能だったけれど、音楽芸術を通してなら出来たということなのでしょうか?
また、演奏フォームも完璧で、超難度のフレージングも、最も身体的に負担のない指使いで行われていることが、寺井尚之のナビゲートで大納得!超絶技巧派ペデルセン、若干15歳のプレイも興味深かった!映像で一番みんなが頷いたのは、パウエルが実際はフラナガン同様、ソフトタッチの名手であったという証明でした。パウエルの演奏しているジャズクラブのピアノのコンディションは決して良くないのに、鍵盤のヒットポイントを寸分はずさず、素晴らしいサウンドを出すというのは、やはりアート・テイタム直系だから、というのが寺井尚之の「お答え」です。
それにしても、モンクが繰り返し”Don’t Blame Me”を演奏したというのは、自分の身代わりになって警官に殴られたパウエルへの悔恨の気持ちからなのだろうか?GW初日は偉大なるピアニスト二本立てにときめいたのでした!
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第二日 5/5 Sarturday(こどもの日) 映像講座
この日の給食は、トマトと極上ベーコンのパスタ!デザートはロールケーキ!
1. A Great Day in Harlem (’95 アカデミー賞 最優秀ドキュメンタリー・ノミネート作品)
1958年”Esquire”誌に掲載されたジャズメンの集合写真、”A Great Day in Harlem”、その37年後、映っているミュージシャンへのインタビューで、当時のジャズのすがたやジャズ史が浮き彫りになる壮大なドキュメンタリー、余談ですが、この写真撮影を企画した責任者は、映画史に残る「クレイマー・クレイマー」でアカデミー賞を受賞した大監督。まだあまりジャズを知らない方々には退屈かも…と危惧していましたが、さすがアカデミー・ノミネート!編集のうまさ、作りの良さで、すごく判りやすかったようです。
モンクが撮影場所に来ていく服を選ぶため1時間以上タクシーを待たせっぱなしにしていたとか、集合したジャズメンのおしゃべりが止まらなくてホトホト困り果てた話、関係者のトリビアから始まって、ソニー・ロリンズにとってコールマン・ホーキンスがどれほど雲の上の人だったか、一緒に並んで写真を撮ってもらうのがどれほど光栄なことか…というようなジャズ界の内側の構造を、本人たちの口から証言として引き出すことが出来たのは、プロデューサー、ジャズ界を下支えしてきたトップ・レディ、ジーン・バックの人徳と感動の念を覚えました。とにかくNYの業界にはドモりがちの人が多いですね!それは欧米では少しも恥ずかしいことじゃなく、むしろ良い事らしい!頭が良すぎて、口が速度に付いて行かないという証拠らしい・・・
名曲を沢山書いたベニー・ゴルソンとホレス・シルバーは、この写真ではまだまだ若造という見かけですが、37年後は二人とも大物、作品同様、人の心をしっかり掴む話しぶりが印象深かった!ディジー・ガレスピーがジーン・バックに”スイートハート!”と呼びかけてから質問に答える様子も可愛かったですね!我らがドラマー、エディ・ロックのトークも楽しめるし、これは繰り返し観たい生涯保存版ドキュメンタリーです!
2. Nat King Cole
後半は寺井尚之の大好きな歌手、ナット・キング・コールの弾き語り時代の映像を沢山楽しみました!”モナ・リサ””フリム・フラム・ソース”などキング・コール永遠のヒットパレード!各曲3分以内の映像がズラリと並びました。
これは、”サウンディーズ”と呼ばれる動画付のジュークボックス用のコンテンツ、つまり元祖ミュージック・ヴィデオというべきもので、第二次大戦が終わるころまで、バーやパブに置いてあってコインを入れると観ることができました。TV時代になると、その映像をそのまま番組と番組の「つなぎ」として使用するようになり、そういうTV用の映像は「テレスクリプション」と呼ばれたそうです。
“モナ・リサ”など一部の映像でキング・コールが気持ち悪いほど白くメークされているのは、おそらく最初からTV用として撮影されたものでしょう。人種差別時代は黒い肌の人たちはTV放映できなかったんですって!
いずれにせよ、キング・コールのスーパー・グリスなどピアニスト垂涎の大技に、ピンポイントで解説があり、ピアニストとしても天才であったことが納得できました。オスカー・ムーア(g)のハーモニーはケニー・バレルとそっくりでびっくり!実は、ケニー・バレルは学生時代にムーアの音使いを徹底コピーし、持ち前の歌唱力で、キング・コールの向こうを張ったトリオを組んでデトロイトで人気を博していました。ピアノは勿論トミー・フラナガンですよ!
ヴォーカルを志す方には、彼の発音の素晴らしさや、唇な口の開け方など、このまま教則本になりそうなものばかり!歌詞も語呂が良くてお風呂で歌いたくなるものばかり!大昔、アホな私は”フリム・フラム・ソース”の意味をキング・コールの権威、フラナガンに訊いたことがあります。そしたら”That’s a Good question!”とトミーは言い、「無意味なところに意味がある」と、桂米朝の落語指南のように、懇切丁寧に教えてくれたのが懐かしい思い出です。
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5/6 Sunday 歴史的秘蔵音源鑑賞講座
Tommy Flanagan 3 Live at OverSeas
GW講座のハイライトがこの最終日でした。トミー・フラナガン・トリオ2度目のOverSeas来演時の極秘音源!給食は心を込めて作った定番、牛スジカレー。
1セット目はEclypsoから始まって、’84年の初ライブで寺井尚之の度肝を抜いたエリントン、モンクのメドレーを前回と全く異なる形で、立て続けに演奏、ラストはTin Tin Deo、アンコールが超速のZecというアンビリーバブルなプログラム!
2セット目は Our Delightから始まって、超絶技巧、サド・ジョーンズのElusiveをピアノ&ベース、ユニゾンで繰り広げます。メインステム・トリオの原点を聴きました!
ビリー・ホリディ、バド・パウエルと立て続けに、まるでトリビュート・コンサートのような物凄いプログラム!
オソロシイことに、前回のコンサートと重複する曲はひとつもなかった!!フラナガンは、前回演った曲をきちんとメモしていたんですねえ・・・
EclypsoもOur Delightも、普通はラスト・チューンに持ってくる「とどめ」の曲!それをオープニングにするということだけでも、OverSeasと寺井尚之に対する思い入れが伝わってきます!このコンサートの夜、フラナガン夫妻は寺井家に泊まりがけで、ピアノのレッスンをしてくれました。そんなこんなの思い出を33周年記念に皆で分かち合うことが出来てよかったです!
最後になりましたが、ご参加くださった皆様、遠くから気にかけてくださった皆様、また連休返上!家族旅行もギグもキャンセルし、DVDを映写してくださった宮本在浩さん、どうもありがとう!心より愛と感謝を!
土曜日は「トミー・フラナガンの足跡を辿る」一挙6枚の名盤名演を紹介します!おすすめ料理はビーフ・ストロガノフ! CU
素晴らしい解説、ありがとうございます。
ますますジャズが面白くなってきますと同時に難しくなってきました。それを平易に解説、レポートされてるご夫妻に感謝。
誤字脱字今直したところに、藤岡先生よりコメントが入っていてお恥ずかしい~ ジャズは演奏者には難しく、聴く者には難易に拘らず、感動して元気をもらえるものでないと生き残れませんよね!その橋渡しを藤岡先生にお願いしたいです♪