トミー・フラナガン:思い出の種

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 3月16日は トミー・フラナガンの誕生日で、第22回トリビュート・コンサート開催です。

 昨夜は、「ずっと来たかったでんです。」と、OverSeas初見参のグループが!ハードバップ大好き、トミー・フラナガン大好き!と言う言葉に偽りなし!寺井尚之と宮本在浩のデュオで、”They Say It’s Spring”に”Joy Spring”の一節が挿入されると、大きく頷いてニッコリ!音楽をとてもよくご存知なお客様が楽しんでくださる様子を観るのは最高!生きてて良かった、と思える瞬間です。マナーも紳士的な方々だと思ったら、英国のジェントルメン!「フランスのマルシアックでフラナガンを聴き、原宿のビー・フラットで、ジョージ・ムラーツやサー・ローランド・ハナを聴いた。」とヒュー・グラントみたいなかっこいいクイーンズ・イングリッシュで言われると、良い音楽に国境はないんだ… と改めて感じます。

 1984年に初めて演奏アーティストとしてお迎えした頃、フラナガンは、日本→西海岸→NYに帰ったと思えば、その翌週からヨーロッパ・ツアーと慌しく世界中を駆け回っていました。

 

<温厚紳士>

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 トミー・フラナガンは、”Soft-spoken”=物静かで温厚な紳士という風に評された。確かに、普段の話し声は低くて、”WOW!”なんて言うのは、めったに聞いたことがない。

 NYに行っても、信号無視が普通のマンハッタンの街を、トミーが赤信号で渡ったのを観たことない。私達が大阪流に渡っても、トミーは無表情で、青信号になるまで悠然と待っている。食事に行っても、ウエイターに注文をつけたり、急がせたりすることは絶対になかった。そういうことは、全部、奥さんのダイアナがするのです。

 楽団の元歌手で、ビッグバンド時代が終わると、国語の先生になったダイアナは、’70年代にトミーと再婚し、彼がエラ・フィッツジェラルドの許から独立してからは、トミー・フラナガンのパーソナル・マネージャーになった。トミーが独立後、フリーランスでありながら、あれよあれよという間に名実ともにトップ・ピアニストになれたのは、ダイアナの敏腕のおかげだったかどうかは別として、とにかくフラナガンが表に出さない強い自我の代弁者として、ダイアナを憎まれ役にしていたことは確かです。J.J.ジョンソンが、2度目の結婚の直後、それまでジャズに無縁な保険会社のOLだった新譜をマネージャーにしたのは、元レギュラー・ピアニストで親交厚かったトミーの成功を見倣ったということです。

<寺内貫太郎一家>

 デトロイト・ジャズ史、『Before Motown』には、フラナガンを、数多くのデトロイト・ジャズメンの内でも、コマーシャリズムを徹底的に拒否する、並外れたビバップ原理主義者だったと書いてある。身内だけしかいない時のトミー・フラナガンは、Before Motownに書かれた20代の血気盛んな青年と全く違わない。

 フラナガンは並外れて「情の深い」人だったのだと思います。言葉や文化が違っていても、人生を賭けて慕う寺井尚之を、真正面から受け止めて、自分の手の内を全部見せてくれました。

 寺井尚之に対しては日常とても優しかったけど、私に対しては、時にはとても厳しかった。だいたい、ヒサユキは「息子」と呼びながら、なぜか私は「娘」じゃなくて「シスター」で、「行儀」や「礼儀」、ジャズ界の「掟」を守れるよう、厳しく仕込んでくれました。理由はここで言えないけど、目に染みるくらい電話で怒鳴られたこともあります。その時は悔しかったけど、今では怒ってくれたことを、とても感謝しています。

 日本のバブルが弾けて、景気が落ち込んだ時は、深夜送っていったホテルで、「ヒサユキに手紙を書いたから渡してくれ」と封筒を預かり、持って帰ると、綺麗な文字で、長い励ましの言葉を書き綴った便箋と一緒にお金が入っていたこともあった。

 フラナガンは、何かにつけ、そういう人だった。演奏も、言葉も、行動も、口先だけのものは何一つないリアルな人。

 その反面、大きなジャズクラブに出演した時は、わざと「OverSeasの寺井尚之さ~ん、どこにいらっしゃいますか?フラナガンさんが楽屋でお呼びです。」と、スタッフに大声で言わせてPRをしてくれるようなイタズラなところもありました。

 情が深くて、自我が強くて、それでいて、ピアノにも世間様にもソフトタッチであった巨匠。だから心臓を悪くして早く亡くなったんだと、私は固く思ってます。

 決して器用な生き方ではなかったけれど、真のバッパーは器用なだけではなれないのだ!

 寺井尚之は、そういうところも受け継いでしまったんだなあ・・・そう思うトリビュート前、思い出の種が一杯です。

   

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