パーカー・チューン”スクラップル・フロム・ジ・アップル”はトミー・フラナガンとジョージ・ムラーツの名コンビによる『Ballads and Blues』や、夜毎のライブでよく聴く私的大スタンダード。皆さんご存知のように、1947年にチャーリー・パーカー・クインテット(マイルズ・デイヴィスtp、デューク・ジョーダンp、トミー・ポッターb、マックス・ローチds)が初録音。以来、様々なミュージシャンが愛奏してきました。
ブリッジ(サビ)の部分を除いては、ファッツ・ウォーラーの”ハニーサックル・ローズ”のコード進行が、この曲の素になっていて、口づさみにくいテーマにも拘らず、ウキウキするような浮揚感に溢れている。
お馴染みのナンバーなのに、私にとってずっと謎だったのがこの曲名、「アップルからのスクラップル」って何?ネットが普及する遥か以前、ウエブスター英語辞書、ブラック・スラング辞典、果てはアメリカンセンターの図書室まで、”Scrapple”という単語を探してみたけど、どこにも見つからなかった。フラナガンや他のバッパー達のライブで演奏されていれば、バックステージで訊いたかもしれないけど、そんなチャンスもなく月日は経ち、漠然と、これはバードの造語で「NYの新聞の切り抜き」みたいな意味なんだろうと思っていただけでした。何十年も…
<CTが教えてくれた>
ところが、ごく最近やっと判りました!個人的大発見!先日米国の友人からDVDと一緒に頂いたクラーク・テリーの伝記に答えが書いてあったのです!
「’50年代始め、私がエリントン楽団に居た時に《バンドボックス》という店に出演していたことがある。
同じ期間にチャーリー”ヤードバード”パーカーもそこに出演していた。彼は速いテンポで演奏するのが好きだった。エリントン楽団でも、ジミー・ハミルトン(cl)、ポール・ゴンザルベス(ts)、それに私も速いのが大好きでね。
バードは専ら、モダンなハーモニーのビバップ・スタイルで演ってるんだが、一度僕達の楽団に飛び入りしたことがあったんだ。そこで私は彼のオリジナル曲”スクラップル・フロム・ジ・アップル”をやろうと提案した。
演奏が終わると、彼は大喜びした。『わあ!皆さん、どうもありがとうございます。僕の拙い曲を気に入ってもらえて嬉しいです。』と言ってた。バードは人間としても素晴らしい奴だったよ…』
こんな場面、一度でいいから観てみたかったですね! そういえば、デューク・エリントン楽団のアルバム『Ellington ’55』収録の”ハニーサックル・ローズ”では、名クラリネット奏者ジミー・ハミルトンをフィーチュアして、彼の朗々たるソロのバックで”スクラップル…”がソリとして入っています。
《Bandbox》という店をThe New Yorkerタウン情報で調べてみると、有名な《Birdland》の隣に1953年にオープンした体育館ほど大きなダンスホールで音楽鑑賞にはいささか不向きというようなことが書いてありました。2月第二週のヘッドライナーはエリントン楽団で対バンがアート・テイタム・トリオ!!行ってみたいですね!短命なクラブだったようですが、ラジオ中継も行われていたようです。
<スクラップルはホルモンだった!>
テリーは続ける。
「”スクラップル・フロム・ジ・アップル”は料理のことなんだ。豚肉の色んな部位で作ったものだよ。耳や鼻や足の先、なにもかも一緒くたにミンチにしてすり潰す。それを四角く成形して、スライスしてから焼くんだ。粉も混ぜてね。朝飯に食べるものだよ。」
改めてネットで調べてみたら、あったあった!色んなレシピも載っていて、起源はドイツやオランダの、いわゆる屑肉で作るホルモン料理。甘いアップル・バターやメープル・シロップをかけて、卵料理などと一緒に、朝食のパンケーキのように戴くものらしい。オランダからペンシルヴァニアに入植した初期のアメリカ開拓移民、いわゆるペンシルヴァニア・ダッチの料理が、黒人のソウルフードとして伝わっていったというような事も料理の解説に書かれていました。
ビバップと呼ばれるバードの音楽は、この”スクラップル”みたいなもの!黒人のブルース・スピリットと卓越したリズミックセンスに、ヨーロッパ伝来のクラシック音楽の和声がごちゃまぜになって、NYの水に洗われて垢抜けたひとつのかたちになった。チャーリー・パーカーは、そんな思いをこの不思議な曲名に込めたに違いない。
私的大発見のおはなしでした。CU
こんばんは
久しぶりにコメントさせていただきます。今回の記事には感激しました。実は、スクラップル・フロム・ジ・アップルは、大好きな曲で、ハミングしたりもするのですが、意味が全くわかりませんでした。まあ、アップルがニューヨークのことだから、その屑みたいなものかなどと考えていた(笑)のですが、氷解しました。ありがとうございました。
曲名(オリジナル曲のタイトル)は記号だからなんでもいいと、ある日本人ピアニストがライブで話しているのを聞いたことがありますが、わかりやすい曲名の方が親しみやすいのにと思ったことがあります。
Azuminoさま、コメントありがとうございました。
チャーリー・パーカーは、底知れず知的な人であったとATやジミー・ヒースが言っていましたから、例えひどいジャンキーであったとしても、オリジナル曲に「記号」をつけただけではないとは思っていましたが、いかんせん、意味がわかりませんでした。
今回、クラーク・テリーの伝記でチャーリー・パーカーのスタンスがなんとなくわかって嬉しかったものの、誰も興味ないことかも・・・と思っていました。
共感してもらって感謝感激、救われました~
tamae さん、今年もよろしくお願いします。
「Scrapple from the Apple」の意味がわかってスッキリしました。高校生のとき京都大学出身で児童文学作家の安藤美紀夫先生が英語の教師をしておりました。放課後、レコードを持ってよく職員室に行ったものです。「Hot House」のスラングは教えていただきましたが、「Apple」のスラングは不明とのことでした。料理とは驚きです。
拙稿で「Scrapple from the Apple」を話題にしましたので、この記事を紹介させていただきました。
Dukeさま、コメントありがとうございました。
Appleが「料理」ではなくて「Scrapple」が料理の名前です。
AppleはNYだったり、「黒目の真ん中」のことだったりしますが、どちらもスラングというわけではないようです。
宜しくお願い申し上げます。