梅雨です!
寺井尚之の演奏する、ビリー・ストレイホーンの軽快な<Raincheck>や、“しとしと”じゃなく“ピタパタ”と降る雨の<When Sunny Gets Blue>などがお楽しみの季節!でも、湿気で鍵盤が重くなるので、変幻する音色で勝負するピアニストには結構たいへんらしい…
昨夜も雨!
OverSeasの出演は、寺井尚之=鷲見和広のデュオ、“Echoes (エコーズ)”。“Echoes”には“笑点”みたいな習性があって、プレイ中、いつの間にか『今日のお題』というのが出来てしまいます。
この日のお題は童謡、「あめふり」。各曲のテーマでもアドリブでもバッキングでも、手を変え品を変え、キーを変えリズムを変え、“ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン”がピアノから、ベースから出てきて、お客様達は爆笑! 「ネタ合わせ」なしのBOP漫才だ。思い切り笑わせておいてから、ビリー・ホリディのナンバーで、しっかり泣かせてくれるところはかつての松竹新喜劇流。
お客様の強い要望があり、“Echoes”のレパートリーはおおむね一定しているのだけど、演奏の内容は毎回大きく変わる。だから不思議なことに、鮮度が全然落ちないのです。
それに“Echoes”のプレイは、一種の表現音楽で、色んなイメージを見せてくれる。相合傘のポーギー&ベス、ずぶ濡れのトム&ジェリーから、スイングしながら指を鳴らすピンク・パンサーまで多種多様!…山中湖の「森の中の絵本館」で、エコーズのCDをよくかけて頂いているのも当然だ!
エコーズ:寺井尚之&鷲見和広
<ダブル・ミーニングな洒落た歌>
絵本と言えば、この日本の梅雨時に、憂い顔の美少女が目に浮かぶジャズ・スタンダードが<ヒアーズ・ザット・レイニー・デイ Here’s That Rainy Day>なんです。
大昔の高校時代、鉄壁のジャズコーラス“シンガーズ・アンリミテッド”とオスカー・ピーターソン3(ベースはジョージ・ムラーツ!)の最高に気持ちのいいアルバム、『In Tune』で、初めて知った歌だった。
対訳を付けたのは、ずっと後になってからで、昨年の夏、<Ella in Humburg>をジャズ講座で取り上げた時。エラ・フィッツジェラルドも歌詞解釈の根っこは『In Tune』と一緒で、乙女のビタースイートな心象風景が伝わるものだった。フランク・シナトラがエヴァ・ガードナーを追憶する姿より、私には、中原淳一や竹久夢二の描く、大人でも子供でない、微妙な年頃の少女達の姿が心に浮かぶ。
歌詞はジョニー・バークという作詞家のものなんですが、「寂しい」とか「孤独」という常套句を巧みに避けながら、「Rainy Day」ということばのダブル・ミーニングをうまく使って一編の詞にしている。
“rainy”(雨降りの)という単語を引くと、どの英和辞典にも “for a rainy day”(万一の場合に備えて)という熟語が載っているでしょう。えっ?載ってない!? そんな辞書はヤギにあげなはれ。“万が一の雨の日”(a rainy day)は、貯蓄とか保険の話によく登場する色気のない言葉なんです。例えば、いざという時に備えて貯蓄する為の、倹約方法を紹介するサイトのタイトルになったりする。
歌を日本語にすると、こんな感じになりました。
Here’s That Rainy Day/ Johnny Burke-Jimmy Van Heusen
Maybe I should have saved those leftover dreams; Funny, Here’s that rainy day Where is that worn-out wish Funny, how love becomes a cold rainy day | ひょっとしたら 見残した夢は捨てないで、 貯めておいたら良かったね; おかしいな、 まさかの時が来るなんて。 今日みたいな雨のこと、 恋に冷たい雨がつきものなんて、 |
しっとり、しんみり、愛らしい歌でしょう!
「雨の日」が来ないと、人間は成長しないのかも知れない。若さに溢れたこの歌の主人公は、青春の輝きに満ちていて、何も失った事がない。だから大人があれこれ言っても、耳なんか貸さなかった。ひょっとしたら、恋人にも、ちょっぴりひとりよがりなところがあったのかも知れない。
初めての失恋は、大変なショック!だけど、泣くだけ泣いた後、「雨」が彼女を、大人にしてくれる。「まさかの雨」は、大事な「恵みの雨」なんだ。若いときに「まさかの雨」に降られないまま、いい年になってしまうと、なにかと大変かもしれない。この主人公も、やがて「雨の日」を、やがて懐かしむ日が来るかも知れない。ひょっとしたら、これからも、「雨の日」はやって来るのだから。
<ジョニー・バーク>
もちろん<Here’s That Rainy Day>はアメリカ生まれ、’53年(昭和28年)のブロードウェイ・ミュージカルの歌らしい…だけどその興行はたった6回の公演で大コケしたそうだから、殆ど観た人はいないはずで、後にスタンダードになったそうです。
この歌を作ったのはジミー・ヴァン・ヒューゼン(曲)とジョニー・バーク(詞)の名コンビ。このチームはブロードウェイよりもハリウッドの映画畑で成功した。ビング・クロスビーとボブ・ホープの「珍道中」シリーズと言って「フーテンの寅」のように長続きしたコメディー映画の為に、わんさか歌を作ったのでした。ですからジョニー・バークの作品のほぼ半分は、「珍道中」シリーズのもので、寺井尚之やトミー・フラナガン・ファンの皆さんが大好きなバラード、<But Beautiful>も、実は<Road to Rio>(日本の題名も最高!『南米珍道中』)の中の曲なんです。
<But Beautiful>もやっぱり、ダブル・ミーニングの言葉遊びが効いている。「(恋は)美しい、素晴らしい」というのと、「(哀しくても、楽しくても、失恋しても)べつにいいじゃん、ええやんか、よか!」という、Beautifulの両義性をうまーく使って、粋な歌詞にしているのだけど、ザッツ・アナザー・ストーリー! また詳しく書きたいと思ってます。
竹久夢二画集の表紙
ご存知のように、昭和の歌謡曲は雨=失恋というのが定型句だけど、室町時代の能楽に遡ると「雨」はとっても心地よい「音楽的」なコンセプトになる。
「雨月」という作品は、「屋根に降り落ちる雨の音を、もっと楽しみたいから軒の屋根を葺こう」と言うおじいさんと、「月光をもっと楽しみたいから、軒は取っ払ってしまいましょう」とおばあさん、老夫婦が古家の茅葺の屋根を巡り、言い争いをするのです。
昔の日本人はHipだったんだ!
CU
毎週、楽しみにしてます。
山中湖森の中の絵本館では午前と午後の最初に最低でも1日2回Echoesがかかります。
館内の音楽はとっても片寄(偏り?)はあります。Echoesはジャズを聴かないお客さまからも特に問い合わせが多いです。
石井館長さま エコーズを毎日2回以上かけていただいているとは、とっても光栄です!
エコーズ応援団、K会長でもそんなに聴いておられないかも・・・
7月はナ生エコーズ、ぜひお楽しみください!!
ビリー・ストレイホーンの作曲であるLush Life
という曲、この場合のLushの意味は
形容詞”豊穣な” or 名詞”酔っ払い” の
どちらの意味合いでつけられたのでしょうか?
よければご教示くださいませんか。
春声さま、はじめまして!
Lush Lifeは、作詞もストレイホーンで、10代の若さで、タイトルは違うのですが、この曲の原型のようなものをすでに作っていたと言われています。
歌詞を読んでいただければ、自ずとお判りになると思いますが、“Lush”は、後者の意味ですね。 “酔いどれ人生”かな・・・
ストレイホーン自身が、「何度聴いても、聴く人によっては、どんな唄か判らない唄だよ。」と、歌詞は謎々が隠されていると、ほのめかしています。
私も仕事が終わって今からラッシュ・ライフです!?
tamae さんこんにちは。
ボクがこの曲を意識したのは、ホンタケのビタースウィートな演奏でした。
これまたずいぶん前のことです。
ボクは毎日が雨降り・・・・・だからこの秘境でジャズの勉強をしています。
少し前の “Out of the afternoon” 、このアルバムボクも好きなんですが、このジャケット見てて思ったことが一つ、フラナガンの帽子の話ってこの先何処かに出てくるのかなぁ。
彼の帽子って、ボクちょっと気になるんですよね(笑)
belle epoqueさま、お加減いかがですか?
こんな奥地までようこそ!本田さんはホンタケさんというのですね!
フラナガンの帽子・・・お洒落な方でしたし、いつもかぶっていらっしゃいましたが、余り意識していませんでした。亡くなったとき、「持って帰りなさい。」といわれましたが、寺井は「そんなもん頂いたらどないして保管するねん。恐れ多いわ!」と言い辞退したことが思い出です。